「病気にならない未来」を創る 岡山大学発スタートアップ 始まりはサプライズから PALETTE by LTS事業化2例目「健康科学評価アカデミー」設立のサムネイル
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「病気にならない未来」を創る 岡山大学発スタートアップ 始まりはサプライズから PALETTE by LTS事業化2例目「健康科学評価アカデミー」設立

大学の研究成果を社会実装へとつなぐ「大学発スタートアップ」。立ち上げには、研究力だけでなく、経営や事業化の視点が不可欠です。PALETTE by LTS(※)で1月、事業化2例目となる岡山大学発ベンチャーの株式会社健康科学評価アカデミーが設立されました。未病予防医療のエビデンス構築を目指して起業した濱野裕章さんと、経営人材として参画した池田宇大さんに、出会いから事業化、そして将来像を語ってもらいました。(聞き手は、LTS社会インフラ事業部/ソーシャルイノベーション推進室の福元涼子

※PALETTE by LTS 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により採択され、推進している「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業」で、大学等で研究されている未来技術を発掘し、経営人材とのマッチング、事業化に取り組んでいるプロジェクトです。
・プレスリリース:LTSのMPM事業、事例第2弾「健康科学評価アカデミー」設立~岡山大学発ベンチャー 臨床試験受託、未病予防医療の未来を創る~
株式会社健康科学評価アカデミー

濱野 裕章(健康科学評価アカデミー)

2013年より徳島大学病院薬剤部にて薬剤師として従事。2021年から徳島大学病院・総合臨床研究センター特任助教となり、治験についての知見を深める。2022年より岡山大学病院に移り、薬剤部講師として地域医療への従事を開始。2026年1月、株式会社健康科学評価アカデミーを設立、代表取締役に就任。(2026年1月時点)

池田 宇大(健康科学評価アカデミー)

2008年、岐阜薬科大学薬学部卒業。病院の経営コンサルティングを経験。大学病院や自治体病院、公的病院の経営改善に通算30病院程度従事。実績が総務省の経営改善事例集に掲載。県庁職員向け講師や他研修会講師多数。その後HR業界で採用支援コンサルティングを経験。クロスボーダーの転職・就職支援に従事。その後、医療系スタートアップを共同創業。創業期のスタートアップ・ベンチャーを4社経験し、現在に至る。(2026年1月時点)

なぜ「未病予防」なのか エビデンス不足という課題


―――事業の中核は「未病予防医療」です。意図や社会的意義をお願いします。

濱野
薬剤師には、地域住民の未病を支える役割が求められていますが、現実には治療中心の業務になりがちで、未病予防に十分コミットできていません。また治療領域と比べると、未病予防領域は圧倒的にエビデンスが不足しています。だからこそ、ヘルスメディケーション(WHOが定義する「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」)や未病予防を広げ、かつ事業として持続する仕組みが必要だと考えました。

エビデンスをしっかり作ることが、病気にならない未来を創ることにつながると考えています。


―――健康科学評価アカデミーの特徴は。

濱野
従来の半額程度のコストで臨床研究を実施できる体制を整えています。国立大学との共同研究も可能で、アカデミックな視点をしっかり取り入れた評価が特徴です。単に研究を受託するのではなく、「低コストで高品質なエビデンスを提供できる会社」になることを目指しています。

薬学×経営 マッチングの決め手は「共通言語」


―――最終的なマッチングの決め手は何だったのでしょうか。

濱野:
ともに薬学部出身という点は非常に大きかったです。医療業界に長くいると、どうしても経営的な考え方にギャップを感じます。池田さんとは共通言語が多く、やりたいことやビジョンを話した際も理解が早かった。助成金申請などの実務的なアドバイスも含め、自分に足りなかった情報が次々と補完されていく感覚がありました。

池田
私から見ても、濱野先生の事業構想はイメージしやすかったですね。研究に閉じず、スタートアップとして前に進められる人だと感じました。

地域×大学をつなぐ 松本市との連携で第一歩

―――会社、事業の将来像を教えてください。

濱野
地域の国立大学同士をつなぎ、各地で臨床研究が回る仕組みを作りたいと考えています。我々だけでできることには限界があります。自治体や大学が横断的に連携できる土台を作りたいのです。

池田
登記から数日後に、松本市・松本ヘルス・ラボと提携できたのは象徴的でした。大学発スタートアップが社会と接続する、非常に良いスタートだったと思います。サービスの型が決まるまではパッケージ化は難しいもので、スタートアップの初期は仕方ない部分もありますが、すでに契約につながりそうな企業もいくつか出てきています。

※【株式会社健康科学評価アカデミー×一般財団法人松本ヘルス・ラボ】食品等の臨床研究実施支援に関する連携協定の締結についてhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000175927.html

「起業したいが、何をすればいいか」

―――PALETTE by LTSで印象に残っていることはありますか。

池田:
PALETTE事業では、単なる経営人材紹介ではなく、ワークショップなどを通じて相互理解を深めた上でマッチングが行なわれています。濱野先生とは、薬学部出身という共通点があり、専門用語や研究の前提を説明しなくても会話が進みました。

また、「学生のキャリア課題を解決したい」という先生のビジョンに強く共感したことも大きかったですね。真面目さの中に、スタートアップに必要なスピード感や決断力があり、「この方なら事業として成立させられる」と感じました。

濱野
以前から起業への関心はありましたが、正直なところ、何から手を付ければよいのか分からず、すべてが手探りの状態でした。今後の道筋も描けず、頭の中の解像度はかなり低かったと思います。

そんなときに岡山大学から「経営人材にジョインしてもらった方がいい」という助言を受け、PALETTE事業を紹介されました。そして「この人だ」と感じたのが池田さんでした。そこから一気に“走れる状態”になりました。経営の視点が入ったことで、考えが整理され、行動に移せるようになった。その点で、LTSの支援には本当に感謝しています。

池田:
LTSには、全般的に丁寧にやっていただきました。強調したいのは、大学発スタートアップやアカデミアとビジネスが融合する領域が、今後イノベーションの起きるところだと感じています。LTSが上手い動きができると、社会にすごく貢献できると思います。

初対面のきっかけは「どこかにマイルプラン」

―――ところで、お二人の初対面は、少し変わった形だったそうですね。

池田:
2025年3月ごろPALETTEで濱野先生に紹介していただき、オンラインでコミュニケーションを始めました。その後、行き先がサプライズで決まるJALの特典航空券サービス「どこかにマイルプラン」で、サプライズで岡山に“参る”ことになったのです。「なぜ岡山なのか(笑)。やはり縁なのか」と思いました。そこで、濱野先生と初めて直接、お会いすることになったのです。

教育への波及効果 薬学部生のキャリアを広げる

―――薬学部生のキャリア支援も事業のひとつです。意図はどこにありますか。

濱野:
地域で臨床研究が回るようになれば、学生が研究計画立案からデータ解析まで一貫して経験できるようになります。ポテンシャル採用が主流の日本において、実務経験を持つ薬学部生を輩出できる意義は大きいはずです。治験に関わる業界に進まなくても、視野が広がり、活躍の場は確実に増えるはずです。

池田:
個人的には、次のイノベーションのヒントはアカデミアに埋まっていると考えています。研究とビジネスをつなぐ事業やプラットフォームは、今後ますます重要になるでしょう。研究者や学生の情熱と経営の視点が交わることで、大学発スタートアップは「構想」から「実装」へと動き出します。健康科学評価アカデミーは、その可能性を具体的に示しています。