足元の“脱FAX”から 小さな業務改革が成長戦略につながる 電動車椅子事業を持続、海外展開を強化へ――ヤマハ発動機JWビジネス部 DXのリアルのサムネイル
プロセス変革・業務改革

足元の“脱FAX”から 小さな業務改革が成長戦略につながる 電動車椅子事業を持続、海外展開を強化へ――ヤマハ発動機JWビジネス部 DXのリアル

二輪車などランドモビリティからロボティクス、金融まで幅広い事業をグローバル展開するヤマハ発動機株式会社(本社:静岡県磐田市、以下、ヤマハ発動機)は、電動車椅子事業も手掛けています。長年の慣行により業務にFAXが使用されるなどDXは遅れていました。今回、LTSは“脱FAX”を起点に、問題分析から未来の業務設計まで手がけました。DXには必ずしも大きな投資が必要なのか。その答えは「NO」です。ヤマハ発動機SPV事業部JWビジネス部によるDXのリアルを、LTSマーケティング&セールス部の田中が紹介します。人手不足、レガシー業務、DX疲れに問題を抱える今、DXを“やり切る”ためのヒントがあります。

・プレスリリース:LTS、ヤマハ発動機JWビジネス部のDXプロジェクト支援が完了 電動車椅子受注“脱FAX”を契機に生産性向上推進、事業基盤整備へ

FAX受注に潜んでいた問題

ヤマハ発動機が世界で初めて電動アシスト自転車「PAS」を発売したのは1993年。その技術を応用して1995年、電動車椅子事業を開始しました。以来約30年、障がい者や高齢者の暮らしをアシストしています。そんな電動車椅子事業を担うのがJWビジネス部です。JW(Joy Wheel)は、「世の為、人の為全力アシスト」をミッションに、移動に困難のある人々のQOL(Quality of Life)向上を目指しています。

東海道新幹線浜松駅下りホームにある、ヤマハ発動機の電動車椅子の広告

ただし、足元には大きな問題がありました。

アクセサリパーツを含めると1日60枚以上、年間15,000枚以上の受注をほぼすべてFAXで受けていました。繁忙期には応援を含め8人がかりで処理していました」。こう語ってくれたのはJWビジネス部アクセシビリティ企画グループマネージャーの的場移さん。同グループの橋爪晴香さんも「受注の溜まる連休明けは午前8時に出社して、みんなでFAXや紙の処理に向き合う光景が見られました。価格など電話やメールの問い合わせも多く、残業が普通になっていました」と振り返ります。

受注は、受信したFAXを手作業でシステムに登録し、帳票を出力して二重確認と力技で行われ、余剰作業や作業ミスが問題になっていました。同グループチーフ佐々木有子さんは「文字を読み間違えたり、発注側の記載内容に誤りがあったりと、どうしてもミスが起こりやすい環境になっており、それが業務を行う上でのストレスやプレッシャーになっていました」とメンバーの士気にも影響していたといいます。また、取引条件や締め日、支払いサイトもお得意様ごとに細かく分かれ、請求・入金業務は手作業で行われていました。

(左から)橋爪さん、佐々木さん、的場さん

とは言え、FAX受注や細分化された請求・入金は、お得意様の事情や現場の慣行、お客様ごとの個別最適化を重ねてきたことによるもので、事業の前提条件でもあります。補装具店や福祉用具のレンタル店には現在もFAXが主流の事業者が少なくありません。「『FAXの時代じゃないよね』という声は当然あり、このままでいいのだろうかとの声はありましたが、なかなか改善に着手できませんでした」(的場さん)。

髙橋愛さん

全社DX「YNS」と、JWビジネス部の危機感

このころヤマハ発動機では、全社の基幹システム刷新などグローバル事業を統合する経営基盤改革・DX戦略「Yamaha Motor to the Next Stage プロジェクト」(YNSプロジェクト)が始まっていました。JWビジネス部は将来的な業務の標準化につなげるためにも、脱FAXや足元の負荷を軽減、組織の高度化を迫られていました。

前JWビジネス部長(現・ランドモビリティ事業本部 SPV事業部 事業企画部 マネージャー)の髙橋愛さんからLTSに相談をいただいたのは、こんなタイミングでした。

髙橋さんは「脱FAXとそれに伴う業務分析、DXを“JWビジネスの事業基盤を整備する”契機として生産性向上を推進したい」と考えていました。LTSに期待したのは、単にソリューションやツールを導入することではなく、現場の負荷軽減と併せて、営業組織全体の問題分析から組織/機能のあるべき姿の検討でした。

こうしてLTSは2024年5月から業務分析、まずシステム化方針検討に入りました。現場の負担が最も大きい象徴的な業務—FAX受注の解消のほか、受注フォーマットの可視化と整理に着手しました。また、システム導入は、約250あるお得意様のうち、まず主要8社を対象にしました。「大規模なお得意様なら対応できますが、100以上のお得意様は家族経営の延長で、システム化は簡単に受け入れにくい」(的場さん)ためです。

システム化では、必須項目が欠けていれば発注ができない仕組みを整えました。これにより発注者による誤発注を防ぐことができるとともに、システムで情報伝達されるため手書き文字の読み違いなどヒューマンエラーを大きく減らすことができました。こうして、お得意様にも受け入れ可能な範囲でシステムを導入し、対応するお得意様を主要8社から広げていきました。的場さんは「システム導入後は、お得意様からの問い合わせ対応までLTSにサポートしていただきました。トラブルが発生した際も、常にフォローしてもらえる体制があり、安心して対応することができました」といいます。

原田さん

全社プロジェクトまで見据え足元のDXを進める

JW営業グループ主務の原田洋幸さんは「やり方を変えることに、お得意様から難色があったのは事実です。LTSにお得意様への説明も支援してもらい、理解を拡げました。結果的にお得意様からも『やってみたら思ったよりも仕事が楽になった』というコメントをもらうことができました。社内でも『文字が読めない』というようなトラブルや二重確認の手間なども削減でき、メンバーにとっても大きな成果を感じられる取り組みになりました。ペーパーレスが環境経営に繋がっていることでも貢献できたと思います」といいます。

桐原さん

また、お得意様それぞれで請求内容や送料が異なり、手作業が前提となっていた請求業務も、脱FAXと合わせて関連業務のDXを進めシンプル化・標準化を図りました。こうしてプロジェクトは、業務可視化、あるべき姿・機能分担検討、システム刷新に伴う新業務フロー検討までの大きな改善につながっていきました。脱FAXという部分最適ではなく、その後の業務標準化も見据えて受注データと請求データを整理し、どう標準化すれば事業が回るのか、現場と対話を重ねながら進められました。

企画グループリーダーの桐原玲子さんは「業務をひとつ変えたことで、ほかも変えていこうという考え方が広がりました。仕事のやり方は変えていいのだ、という意識が広がったと感じます」と部内の雰囲気の変化を感じています。

なぜ“伴走型支援”がDXを定着させたのか

橋爪さんは「いまはお得意様ご担当者自身がウェブで商品カタログを確認できるので問い合わせは激減しました。業務負荷の軽減という成果が出たので、困ったことがあればLTS様に聞けば大丈夫と、チーム内で共有されていました(笑)。LTS様は支援が終わっても困らないようにと、私たちのことを考えてくれていることが伝わったからこそだと思う」との評価をいただきました。

(後列左から)LTSの大田垣慧、南場、ヤマハ発動機の的場さん、LTSの野田翔太、(前列左から)ヤマハ発動機の橋爪さん、原田さん、佐々木さん

長く続いた業務を変えることには、不安や心理的な抵抗があります。プロジェクトでLTSが重視したのは「一緒に考え、一緒に進めること」でした。業務を知り尽くした現場層、事業継続への責任を負う経営・マネジメント層とともに実行可能なDX、業務改善とは何かを追求するのです。Consulting事業本部/BX事業部(関西)部長の南場俊祐は「脱FAXだけではなく、受注と生産の連携、受注の入口となるシステムのインターフェース、注文のしやすさ・画面遷移、お得意様への説明会など、全体最適、JWビジネス部のYNSプロジェクトへの合流を意識しました。結果的にプラスアルファの組織文化が変わるところまで評価いただきありがたい」とプロジェクトを振り返ります。

業務改革は成長戦略になる 次に見据える海外展開

脱FAXを契機に、国内では販路や契約条件の標準化が進み、限られた人員でも事業を継続・拡大する基盤が整いました。佐々木さんは「ほかの事業部で当たり前ですが、次の問題としてパーツや部品在庫をデータに基づいた需要予測により調整して、物流部門を効率化することも解決したい」と語ります。

髙橋さんは「『仕事と組織を目に見える形で変えた』と、社内の理解と応援も広がりつつある」と手ごたえを感じています。脱FAXはDXの入り口ですが、小さな改善が事業基盤を整え、次の成長戦略を支える力になっています。「これから見据えているのが海外展開の強化です。国内の電動車椅子事業を安定させた上で、リソースを海外市場の開拓に振り向けたい。欧米ではヤマハブランドの評価は高いと感じています」と構想を話してくれました。



ライター

Tetsu(LTS マーケティング&セールス部 マネージャー)

新聞記者、月刊誌編集者を経て2024年1月にLTS入社。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットを修了し、同大でサイエンス・ライティング講師を経験。著書、共著、編著に「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)など。SF好き。お勧めは「星を継ぐもの」「宇宙の戦士」「ハーモニー」など。(2024年1月時点)