電動車椅子事業を持続させるため慣行を打破する 変革は足元から始まる――ヤマハ発動機JWビジネス部 DXのリアル   のサムネイル
プロセス変革・業務改革

電動車椅子事業を持続させるため慣行を打破する 変革は足元から始まる――ヤマハ発動機JWビジネス部 DXのリアル   

ヤマハ発動機のランドモビリティ事業本部 SPV事業部 JWビジネス部は、現場の仕事を止めることなく、着実にDXを進めてきました。鍵となったのは、「仕組みを変える」アプローチ。どのように現場は動き、何が変わったのでしょうか。前JWビジネス部 部長(現・SPV事業部 事業企画部 マネージャー)の髙橋愛さんに、DXの舞台裏と電動車椅子事業の未来を聞きました。変えなければいけない、事業は止められない。その壁をどう乗り越えたのでしょうか。

・プレスリリース:LTS、ヤマハ発動機JWビジネス部のDXプロジェクト支援が完了 電動車椅子受注“脱FAX”を契機に生産性向上推進、事業基盤整備へ

FAXが当たり前だった受注業務

―――“脱FAX”、DXに取り組むことになった背景を教えてください。

髙橋
福祉・介護レンタル業界では、未だFAXが主流となっています。業界的には当たり前でも、社内では「まだFAXなのか」と言われることもあり、部の士気にもかかわる問題でした。FAXで注文を受け、システムに入力し、プリントアウトしてダブルチェックする―。この業務プロセスではミスを防ぎきれず、また属人化してしまいます。しかし、リソースの問題もあり、なかなか改善に着手できず、LTSに支援をお願いしました。

―――現場の反応はいかがでしたか。

髙橋
もちろん「仕事が変わること」への心理的な抵抗はありました。「これまでのやり方が否定されるのではないか」と感じていた人もいたと思います。率直に言えば、誰もが心から歓迎という状態ではありませんでした。

―――どのような方針で進めたのでしょうか。

髙橋氏

髙橋
私たちがまず着手したのは、「仕事を変えずにデジタル化する」ことです。FAX文化を否定して、いきなりFAXをやめるのではなく、FAXという前提を受け止めたうえで、システム側を変えることから始めました

実際にシステムを導入する際には、お得意様の約250社のうち、まずは主要8社に絞ってスタートしました。受注フォーマットもお得意様によって異なります。受注の可視化、お得意様への説明会や対話を重ねました。結果的には、お得意様からも現場からも「やってみたら意外と早い」「案外楽だった」という声が出てきたのは印象的でした。

―――具体的には、どのような改善を行ったのでしょうか。

髙橋
受注プロセスそのものを見直しました。電動車椅子という商品特性上、仕様の選択肢が多く、受注時の仕様確定が複雑な運用でしたが、システム導入の活動の前から段階的に受注・計画生産に切り替え、納期も2か月と明確にしました。

プロジェクトに携わった、ヤマハ発動機JWビジネス部とLTSのメンバー

お得意様には、必須項目が欠けていれば発注ができない仕組みを整えました。これだけで、ミスが大幅に減りました。さらに、請求方法も同時に変えました。SaaSサービスを導入し、請求業務もデジタル化しました。受注と請求を一体で変えたことが効果につながったと感じています。また、ペーパーレス化は環境経営に繋がっているとメンバーも感じています。

福祉業界ならではの葛藤

―――業界特有の難しさもあったのではないですか。

髙橋
電動車椅子事業には30年の歴史があります。『一人ひとりにカスタマイズする』ため、個別最適が積み上がっていました。パーツを含めオプション商品は増え、取引条件も締め日や支払いサイトが12種類もある状態でした。『ヤマハなら対応してくれる』という業界関係者からの期待は高いと感じています。ですから『障がい者や高齢者向けの事業なのに、標準化するのは冷たいのではないか』という意見もありました。このギャップをどう埋めるかは、大きなテーマでした。

―――その壁はどう乗り越えたのでしょうか。

髙橋
すべてを一気に変えようとはしませんでした。象徴的な業務つまり脱FAXから着手し、社員にも「変えられる」実感を持ってもらうことを重視しました。取引条件も30年ぶりに見直し、2024年4月から統一・標準化を進めています。「商品を必要とするお客様がいる中で事業を止めずに変える」。その難しさと常に向き合っていました。

基幹システム改革へ、そして未来へ

―――ヤマハ発動機は全社のDX戦略「Yamaha Motor to the Next Stage プロジェクト」(YNSプロジェクト)に取り組んでいるそうですね。

ヤマハ発動機本社

髙橋
JWビジネス部は、足元の負荷を軽減、組織を高度化することで、YNSプロジェクトに合流し、基幹システム刷新につながっています。受注データと請求データを基幹システムに連携する過程で、標準化やプロセス整理が避けられなかったからです。

現在はYNSプロジェクトとして、全事業・グローバル共通の基幹システムへ統合する計画が進んでおり、JW事業も合流する予定です。少ロット多品種という前提の中で、どこまで標準化できるかが今後の鍵になります。

国内安定から、世界へ

髙橋氏

――今後の事業展開について教えてください。

髙橋
国内を安定させつつ、海外展開を進めます。日本の電動車椅子市場はわずかですが、アメリカや欧州は大きな市場です。欧米ではヤマハブランドの評価は高いと感じています。世界で初めてアシスト技術を開発した企業として、もっと認知を広げていきたいですね。

「もっと図々しく(笑)と思うくらい」

―――最後に、取り組みを振り返って、LTSの存在はいかがでしたか。

髙橋
単なるシステム導入ではなく、「目に見える形で仕事と組織を変える」ところまで一緒にやってもらえたのが大きかったです。伴走型で支援してもらえたからこそ、現場が自走できる状態になりました。正直に言うと、もっと図々しく(笑)、踏み込んでアドバイスをしてもらってもよかったと思うくらいです。また別の領域でも、ぜひ一緒に挑戦したいですね。


ライター

Tetsu(LTS マーケティング&セールス部 マネージャー)

新聞記者、月刊誌編集者を経て2024年1月にLTS入社。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットを修了し、同大でサイエンス・ライティング講師を経験。著書、共著、編著に「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)など。SF好き。お勧めは「星を継ぐもの」「宇宙の戦士」「ハーモニー」など。(2024年1月時点)