DXの“基盤”をつくる航路 「プロセス資産がAI競争力を左右する」 LTS参画の商船三井プロジェクトがビジネスアナリシス賞(奨励賞) 受賞講演レポート のサムネイル
プロセス変革・業務改革

DXの“基盤”をつくる航路 「プロセス資産がAI競争力を左右する」 LTS参画の商船三井プロジェクトがビジネスアナリシス賞(奨励賞) 受賞講演レポート 

「プロセス資産がAI競争力を左右する」―。株式会社商船三井(本社:東京都港区、以下商船三井)の業務改善・DXプロジェクト(PJ)が2026年2月、一般社団法人IIBA日本支部の「ビジネスアナリシス賞(奨励賞)」を受賞しました。PJにはLTSからアドバイザーとしてConsulting事業本部/BX事業部の井上順一ら4人が参画しました。IIBAは「国際的なビジネスプロセスの統合にビジネスアナリシス手法とツールを活用した事例として興味深い」と評価しました。受賞式は東京都内で開かれ、商船三井の渡邊悠喜氏(PJ当時、DX共創ユニットBusiness Process Managementチーム)が受賞講演を行いました。その様子をレポートします。

・プレスリリース:LTSが支援、商船三井の業務改善・DXプロジェクトにビジネスアナリシス賞

老舗グローバル企業ならではの困難

講演する渡邊氏

商船三井は1884年創業。運航船舶は935隻、31カ国44都市に拠点があります。原油や石炭、LNG、穀物、鉄鉱石など海上輸送を中心にフェリー、不動産、風力発電関連事業など幅広いインフラ事業を展開する、日本を代表する総合海運企業です。渡邊氏は「規模が大きく歴史も長いだけに、業務の地域差・属人化が課題となっていました。一昔前は、港との書類のやり取りも横書きではなく、縦書きだったという噂を聞くくらい」といいます。

商船三井は2023年、価値創造や安全業務への更なるシフトに向けてグループ全体として目指す姿「DXビジョン」を示しました。その実現に向けた「DX Action 1.0」に基づいて変革活動を主導するのがDX共創ユニットです。今回ビジネスアナリシス賞を受賞した「運航業務プロセス改善に向けた業務プロセス可視化および標準業務マニュアルの作成」PJにおいて、LTSは「業務プロセス改革のプロフェッショナル」(渡邊氏)として依頼をいただきました

写真はイメージ

このPJでは、DX共創ユニットが商船三井のグループ会社である、各種原燃料、穀物、鉱物資源などのドライバルク船事業を手掛ける商船三井ドライバルク株式会社(以下、MOLDB)とフィリピン・マニラに拠点を置き、ドライバルク船の運航を担うMOL Enterprise(Philippines)Inc.(以下、MOLEP)との協業を実施しました。

目的は、一部運航管理業務をMOLEP(マニラ)へ業務集約する際、MOLDB(東京)とMOLEP(マニラ)で差異がある業務手順を標準化し、高い人材流動性の中で専門的人材を育成し、安全運航を維持向上することにありました。そこでBPM(Business Process Management)ツールを活用したデジタル基盤での一元管理・継続更新体制を構築しつつ、BPMによる業務可視化を行い、SOP(Standard Operating Procedure、標準作業手順書)を含む標準業務プロセスを確立しました。

こうした一連の「業務知識のデジタル資産化によって、新人教育OJTの短縮化、業務品質の向上、さらにデジタル技術を活用した継続的な業務改善の基盤構築を実現しました」(渡邊氏)。

可視化から始め、現場に“読める図”を

PJでは、業務プロセスを標準化された図記号で可視化する表記法であるBPMN(Business Process Model and Notation)を用いました。渡邊氏は「システム都合ではなく業務視点で“誰が何をどう進めるか”を図式化しました。初期は付箋を用いたアナログな業務棚卸しから着手する傍ら、『可視化→施策化→効果』の流れを粘り強く説明し、協力部門を増やしました。すると業務部門の現場にもBPMNが浸透し、業務分岐や例外処理がひと目で把握できるようになり、議論が早くなる副次効果も生まれました」といいます。

たとえ属人的あるいは複雑な業務プロセスであっても、フローチャートや図を用いて描き出すことで、ボトルネックや問題点を掴む共通言語を持つことができます。その上で、あるべき姿への標準化、SOPの整備、トライアル、実装に至る議論に繋がります。付箋から始めたプロジェクトはBPMツールをハブとして使用し、図と手順、参照資料(Excel等)がリンクした、実業務でも使用しやすいデジタルSOPを実現しました。

渡邊氏は「PJの成功は他拠点にも横展開され、さらに運航管理業務のみならず投資判断プロセスなどをSOP化する試みも始まっています」と紹介しました。

“AIの前提資産”としての業務プロセス可視化

同社では現在、生成AI・AIエージェント導入も進行中です。「ここで効くのが、これまで築いたプロセス資産」と渡邊氏は言います。可視化された業務プロセスによって、AIを導入する業務の候補が効果と実現性の観点で特定しやすくなったためです。「どの業務プロセスにRPA、AIを導入するかは、プロセスを分解・定義して初めて議論できます。内在化された業務知の標準化が、AI適用の判断と運用の双方を支えます。AIは魔法ではなく、業務プロセスが整理されていないと進められません」と指摘します。

(左)商船三井のメンバー。(右)商船三井の渡邊氏=中央=とLTSのメンバー

渡邊氏は最後に「LTSさんほか、みんなで知恵を出し合って、成し遂げたPJです。今後も、ビジネスアナリシスの実践を通じて一緒に良い活動ができることを願っています。また、日本でビジネスアナリシスが普及することを願っています」と述べました。

プロジェクトは2024年11月から2025年8月まで、LTSからアドバイザーとしていずれもConsulting事業本部/BX事業部の井上、メンバーとして星野和樹、日高千明、五十嵐理子が参画。LTSは、デジタル活用を前提として業務プロセスを再設計することで標準化を徹底し、業務・組織の最適化および自動化を進め、ビジネスや価値創造への寄与時間創出を目指す「業務プロセス」に関する取り組みを支援しました。

受賞式にはLTSメンバーも参加しました。LTSの井上は今回の受賞について「マニュアル作成に留まらず、デジタルツールを活用した高度なプロセス管理を導入することで、商船三井様が自律的に業務改善を継続できる『強固な基盤』を構築できたと自負しています。皆様とともに創り上げたこの仕組みが、新人教育の効率化やさらなるDX推進に寄与し、今回のビジネスアナリシス賞受賞という形で結実したことを大変光栄に感じています」とコメントしています。

今回のケースが示すのは、「プロセスこそDXの地盤」という普遍的な教訓ではないでしょうか。BPMで業務を可視化し、SOPで標準化、BPMツールで使える形にする―。こうしたサイクルの確かな積み重ねが、業務集約・教育・品質・自動化のすべてを押し上げ、ひいてはAI活用の指針にもなるのです。

DXではまず業務プロセスを描く。
標準化は業務品質の向上のみならず、拡張性への投資。
プロセス資産は将来のAI競争力を左右する。

こうした地に足のついた変革が、企業の航路を切り拓きます。PJは「国際的なビジネスプロセス統合におけるビジネスアナリシス手法とツールの活用は、変革を推進するすべての人々にとって指針となる」と評価されました。


ライター

Tetsu(LTS マーケティング&セールス部 マネージャー)

新聞記者、月刊誌編集者を経て2024年1月にLTS入社。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットを修了し、同大でサイエンス・ライティング講師を経験。著書、共著、編著に「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)など。SF好き。お勧めは「星を継ぐもの」「宇宙の戦士」「ハーモニー」など。(2024年1月時点)