世界的に社会インフラの保守・管理が危機に直面しています。沖電気工業(以下、OKI)とLTSは、衛星と地上IoT、検査記録など3種のデータを「密結合」しAIで解析し、インフラ事業者の意思決定に役立つリスク情報を提供する「次世代インフラモニタリングシステム」を構想。JAXAが公募する宇宙戦略基金に採択(代表機関:OKI、連携機関:LTS)され、トルコ、インドネシアで3年間、技術開発と実証実験を進めます。ハードウェアに強みを持つOKIと、データ解析・AIに強みを持つLTSの連携により、インフラ監視の統合ソリューションのグローバル展開を目指します。本事業においてLTSは、OKIが高精度な地上観測データ、衛星で取得した広範囲データ、事業者が保有する既存の点検・調査データを統合して開発する次世代インフラモニタリングシステムにおいて、衛星データと地上IoTセンサーデータを統合するAIアルゴリズムの研究開発を担当します。あわせて、本システムのグローバル展開に向けたビジネスモデルの構築を推進します。LTS戦略コンサルティング事業本部/Data Lead事業部 部長の坂内匠がその意義を説明します。
インフラの保守・管理は世界的な危機
「多くのインフラ事業者が求めているのは、災害や異常を事前に予測する事前防災。地上センサーは点の情報しか取れませんが、衛星データは対象を面的に把握できます。両者を組み合わせ、過去からの変化を分析することで、将来リスクをより高精度で予測できると考えました。これが今回の取り組みの出発点です」。こう語るのは、OKIコンポーネントプロダクツ事業部事業企画部新事業推進室担当課長の橋爪洋さんです。

こんな課題の背景には、世界的なインフラ危機があります。老朽化と気候変動による自然災害の激甚化、熟練技術者不足…。事故が起きてしまえば人的・経済的損失も大きくなります。そこで事前防災が求められているのです。
インフラの事前防災に向けたデータ・ソリューションには多様なものが存在します。これまでインフラ監視に利用されてきたデータには、衛星やIoT、点検記録といった歴史的データがありますが、それぞれに長短があります。衛星データは対象を広域・面的に把握できますが、観測頻度が数日単位であり、豪雨時などの突発的変化を即時に捉えられません。地上IoTデータはミリ単位の変化をリアルタイムかつ高精度に捉えられますが、局所的な点の情報に限られ、広大なインフラ全体を網羅するにはコストがかかります。歴史的データには過去の知見がありますが、現在の動きと紐づいていません。
事前防災に向けたインフラ監視のデータ・ソリューションの導入が世界的に大きく普及しない原因は、それぞれの施策が一過性の取り組みに終始し、データが連携されていない点にあります。その結果、「データの分断」が課題となっています。
このデータの分断により、インフラのリスク評価は熟練者の経験と勘に頼った属人的なものになってしまいます。また、データ解釈が曖昧なため、過剰なパトロールによるコスト増や、客観的エビデンスの不足による意思決定の遅延といった影響も生じ得ます。
分断したデータを統合、AIが解釈しエビデンスを示す
これら課題を解決するために構想されたのが「次世代インフラモニタリングシステム」です。
OKIとLTSは今回、衛星データ、IoTセンサー、インフラ運用事業者が保有する歴史的データの3種のデータを密結合しAIで解析。熟練者でなくとも意思決定に使える形で提示できるようにします。AIが最終判断を下すのではなく、誰でもどんな現場でも、確信を持って早期判断できる材料を提示することが目的です。熟練技術者の経験と勘に依存していたリスク判断が、非熟練者でも可能になります。

OKIは、通信インフラやネットワーク機器、IoT分野に強みを持ち、官公庁・自治体や企業向けのサービスをグローバル展開。これまでも鉄道・道路・河川などのインフラ向けに地上センサーを提供してきました。国内外で斜面崩壊や落石、地盤の傾きといった異常を検知する技術に実績があります。
今回、OKIは省電力・高精度地上IoTセンサーを開発。電池や太陽光で駆動し、電源・配線工事を不要に、さらにLTE圏外でも通信できるIoT-NTN(非地上系ネットワーク、(※1)への対応を視野に入れています。センサーはクラウドと接続でき、各地のデータを集約するプラットフォームを構築しています。「次世代インフラモニタリングシステム」では、このプラットフォームに衛星データを組み合わせ、より高付加価値なサービスを実現します。
※1 IoT-NTN 衛星など非地上系ネットワークを利用したIoT通信方式
広大な国土、高い災害リスク国で衛星データにメリット
LTSは衛星データ解析の領域で10年以上の実績を重ね、光学、マイクロ波、SAR(※2)といった多様な衛星データの解析技術を蓄積しています。LTSは主に、3種のデータを同一のリスク指標として統合・解析するAI開発を担います。
※2 SAR衛星 マイクロ波の反射を解析して画像化する観測衛星。全天候、24時間運用が可能。災害の把握、地盤変動、森林・海洋監視などに使われている

「次世代インフラモニタリングシステム」では、SAR衛星を用いたInSAR(※3)解析を使用し、地表のわずかな沈下や変位を捉え、地滑りや陥没(シンクホール)の前兆を検出します。また、対象のインフラに応じて無償のオープンデータである欧州のSentinel‑1や、植生が多い地域で有用なJAXAのALOS‑4など日本の衛星データも組み合わせて使い分けます。衛星データはリアルタイム性に欠けますが、過去のデータを遡ることで、「どこが、どの速度で不安定化しているか」というトレンド把握も可能になります。
※3 InSAR SAR衛星を使い地表面の変化を数センチ単位で計測する技術
日本国内はセンサー網や人手による点検が比較的充実しています。一方、国土が広大で災害リスクの高い国では、特に衛星データを使うことのメリットは大きいと考えられます。
日本発の防災DXソリューションをグローバル展開
OKIは、「トルコ共和国/鉄道インフラ防災プラットフォーム実証事業」が2025年度、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択され、トルコ国鉄と1年間、鉄道沿線の異常検知や災害リスク分析の実証実験を行いました。すでに鉄道沿線数百キロにセンサーを設置し、過去約10年分の衛星データと組み合わせた実証を進めてきました。
自然災害の激甚化や都市部での災害リスク、企業のサプライチェーンリスク管理の重視により、グローバル防災予防システム市場は2030年度、45兆円規模になると推定されています。OKIとLTSは「次世代インフラモニタリングシステム」により日本の国際競争力強化、人的・経済的損失を未然に防ぐことで、持続的な経済成長に貢献したいと考えています。

JAXAが公募する宇宙戦略基金は、民間企業・大学等が行う宇宙分野の技術開発や技術実証、商業化を支援することにより、宇宙産業の技術基盤の強化と市場拡大を目的としてJAXAに設置された基金事業です。「市場の拡大」「社会課題解決」「フロンティア開拓」の3つの出口を見据え、民間による自律的な宇宙ビジネスの創出と、日本の宇宙産業の国際競争力強化を目指しています。
「次世代インフラモニタリングシステム」は3年間計画で、地滑り、陥没、洪水を主な対象として、商用化に向けた開発を完了。LTSはAI開発と合わせて、グローバル展開に向けたビジネスモデルの構築も推進します。2030年までを第1フェーズとして、トルコ、インドネシアの鉄道分野で実績を構築。2033年までの第2フェーズで、インド、フィリピンなどAPAC諸国の道路、ダム、鉱山などへ展開を目指します。
気候変動による災害の激甚化とインフラの老朽化が同時に進むなか、インフラ防災はもはや先送りできない喫緊の課題となっています。とりわけグローバルに目を向ければ、監視すべき対象は国土全体に広がり、その範囲はあまりに広大です。地上のセンサーや人手による点検だけでこれを網羅することは現実的でなく、衛星データの活用は選択肢のひとつではなく、必然といえます。
しかし、衛星データもまた万能ではありません。広域を面的に捉える力を持つ一方、現地のIoTデータや、長年現場で積み重ねられてきた知見と組み合わせて初めて、実際の意思決定に使える「ソリューション」となります。空からの視点と地上の現実、その双方が噛み合ったとき、リスクは初めて確かなエビデンスとして可視化されます。
LTSは、現場業務への深い理解と衛星解析の技術という、本来交わりにくい二つの強みを併せ持っています。このユニークな立ち位置を活かし、拡大を続ける世界の防災市場に挑み、人と社会を災害から守る取り組みを前へと進めていきたいと考えています。








