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デジタルテクノロジー

コンサル×データサイエンスの視点から読み解く AIでビジネス課題を解決する(前編) ビジネスにおけるAI変遷と活躍する人材の育成

この記事は、LTSのコンサルタント兼データサイエンティストの2名による対談記事です。「企業のデータ活用に興味がある」「自社でデータ活用をはじめたいが何から着手すれば良いか分からない」「自社のデータ分析やAI活用を推進していきたい」と考えている方におすすめです。
坂内 匠(LTS マネージャー)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。プロジェクトデリバリと平行して、大学と連携した研究にも従事しており、科学論文を執筆している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

大坪 亮太(LTS マネージャー)

大手自動車部品メーカーの経営企画部門に入社後、中計策定などに携わる。またデータ分析手法を導入し、売上予測・自動車販売予測などを実施。LTS入社後は、データ分析PJに参画。主に、金融・商社向けPJを担当し、PMとしてメンバーを率いる。(2021年7月時点)

デジタルデータや最新テクノロジーの活用により、ビジネスプロセスや働き方などを変革し、競争上の優位性を確立するDX。その一端として、企業にあるデータの活用やAIを使った付加価値の創出を、ビジネスチャンスと捉える動きが加速しています。ビジネスでデータを活用している企業は半数にものぼると、総務省の調査研究(デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究, 2020)※1が示しています。

コンサルティングを含めたプロフェッショナルサービスを主業とするLTSでは、経営のデジタルシフトを実現するために必要となる、顧客事業に合わせたリサーチ・技術検証から、AI・RPAを使ったプロセスオートメーションによる効率化など、顧客企業の事業に適した新たな手段を提供しています。 そのサービスの最前線に立つコンサルタント兼データサイエンティスト※2のお二人に、AIビジネスの現状や、求められる人材像とその育成、実際の企業のデータ活用事例を交えたデータ活用の始め方などを伺いました。

※1 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/r02_05_houkoku.pdf
※2 データサイエンティスト:データから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナルのこと(データサイエンティスト協会より)

盛り上がりを見せるAI市場

2012年ごろ:AI熱がはじまる

坂内
個人的には2012年ごろから、AIは技術的側面で盛り上がりを見せ、2013年ごろには先行的な企業がAIのビジネス活用を始めていたと思います。「こんな面白い成果が出ている」とかなり盛り上がっていましたね。

大坪
おっしゃる通りだと思います。2012~2013年ごろにビックデータというワードが流行したんですよね。そのあたりから、データ活用をどのようにビジネスに取り込んでいくか、といったことを世の企業が検討し始めて、先進的なところはもう取り込み始めていました。

坂内
2017年になり、やっと実体が見えてきて、一般的に広く知られるようになったのかなと思います。そして、同じ時期にPoC※3ブームが出てきました。「ディープラーニング」※4とつくものを、ビジネス目標やその成果に関係なく、まずはやってみようという案件が多かったです。

※3 PoC:Proof of Conceptの略で概念実証のこと。新しい概念や理論、原理、アイデアの実現可能性を検証すること。
※4 ディープラーニング:深層学習のことで、対象の全体像から細部までの各々の粒度の概念を階層構造として関連させて学習する手法のこと。

大坪
そういった先進的な企業がPoCなどにどんどん取り組んでいく少し前、2015~2016年ごろからディープラーニングという言葉が、一般の人にまで知れ渡り始めました。AI活用やデータ分析ということが、広く一般的にビジネスに大事だよねという共通認識を持たれてきました。このあたりから、いろんな企業がPoCに取り組みはじめ、失敗や挫折を経て今に至ると思います。

坂内
我々の案件も、2017年前後はまずPoCで新しい技術であるディープラーニングを試し、どのような挙動をするかをみるものが多かったんです。しかし、PoCだけで終わるだけの案件が乱発してしまい、結構みんな疲れてきてしまったんですね。その後、単にPoCをやるだけではなく、もう少し上流の、業務課題なんだっけ?という業務コンサル的な要素が求められる傾向が強くなってきました。

大坪
企業の想いとしては、得られたデータ分析の結果が新鮮だったので、「こんなことできるんだ」「なんかよさそう」という目新しさで注目度は高かったんですが、それでも得られたものをどう活用するのか、どんな資産が得られるのかというところが、よくわからなかったのかなと思います。なので、データ分析だけではなく、その前後のビジネスプロセスを考えて、データ分析はあくまで一つのソリューションとして、全体をきちんと考えなきゃいけないよね、となったのは2018年ごろかなと思います。

2019年ごろ:組織としてのデータ活用推進が広がる

大坪
2019年ごろから、そうはいってもどのように組織を作って、この先データ活用をやっていくのか?ということを企業が考え始めます。ある企業では、本社機能としてデータ分析チームを置いて、そこから各子会社やグループ会社に対してサービスを提供していこうという形を取ります。そして、そこに対しては外部から人を採用したり、アウトソーシングを使ったりという企業もあれば、逆に内製化のために教育に力を入れていくような企業も出てきました。そのような体制の組み方が、何パターンかに分かれていったのがそのあたりの動きだったかなと思います。

坂内
そうですね。その後2020年手前ぐらいで、ROI※5とかビジネス課題とか、やりたいことなど、地に足がついたものを扱うようになったんです。案件性質が変わるとともに、単に分析してレポートして終わり、ではなく、その内容や基礎的な部分については、お客様の部署の中に教育研修してほしいという、内製化のためのニーズが出てきました。これくらいのタイミングで、多くの企業が一度PoCで失敗し、その中にはデータ分析を止めてしまう企業も出てきます。そうすると、本当に今後もやっていく企業は選別されていきます。そのような企業は、自分たちだけでも取り組みを進めるし、成果の出る取り組みを厳選できると思います。このような進み方が、最近のユーザーサイド側の印象ですね。

※5 ROI:Return on Investmentの略で、投資利益率のこと。投下した資本がどれだけの利益を生んでいるのかを測る際に使われる基本的な指標。

坂内
一方で、ソリューション側の状況は、そんなに変わってないと思います。技術自体は、常々新しいものはでてきていますし、2015年くらいに研究分野で出ていたものが今ソリューション化されている印象なので、ユーザーサイドにおける技術の受け取り方が変わってきたというのがここ最近の変化です。

「研究領域とビジネス領域の橋渡し」ができる人材が求められている

データ分析の先にある業務課題の解決ができる人材

坂内
我々のようなテクノロジーやソリューションを持っている企業と、お客様企業との付き合い方は、個人的にはあまり何も変わってないと思うんですよ。

大坪
最近は、LTSに求められるデータ分析のスキルが、お客様の業務上の課題をどのようにデータ分析と繋げるかというコンサルティングの部分、その橋渡しのところになってきていると思います。エンジニアリングとかコーディングができる人は、大学でも学べるようになったことで増えているんですが、それをビジネス課題にどう繋げるかを考えることができる人が欲しい、とよく言われますね。

坂内
単にディープラーニングを動かしてみるだけであれば、今はツールが便利になっているので、素養のある人だったら2~3か月勉強するとできるようになるんですよね。そういう人材は世の中的には増えていて、足りないのはそのツールから一歩踏み込んで、アルゴリズムそのものを改善できる人、もしくは、そのツールを使いつつも、その前後の業務要件をちゃんと定義したり、そのツールを要所にどう組み込んでいくかというコンサルティングができる人なんですよね。うちに来る話としても、そのような案件が多くなっている気がします。その分、育成とかが大変ですね。

今までだったら、ちょっとエンジニアリングやったことがあったら、このドキュメントを読んで実装して、がすぐ出来ていたんですが、先ほどのアルゴリズム改善やコンサルティング的要素には経験が必要なので、その辺は海外のドキュメント読んですぐにできるとはいかないんですよね。時間がかかってくると思いますね。

最先端技術をビジネスに活用するために必要な人材

坂内
今の研究分野での最先端技術は、領域によりけりで。昔からあるディープラーニングの技術である画像の分類は、最新のものでも画像分類するという点では同じなんですが、その解き方が、どんどんデータを大きくしてネットワークを複雑化して、それによって精度が1%上がった!というのをめちゃめちゃ競ってるんですよね。研究する側の人から見ると、とても面白いんですけど、ビジネス側の人から見ると、同じ画像分析じゃないの…と感じると思うんですよね。ビジネス側におけるその1%の価値というものが何かを伝える通訳みたいな人がいないと、その最先端技術をビジネスに活用するという動きが薄れてしまうのではないかなと思いますね。

大坪
そこをつなぐ人の育成…ですよね。

坂内
そこについては何もアイデアがないので、現時点ではみんなに頑張ってもらうしかありません(笑)。

市場の拡大に追いつかない人材

坂内
AIのソリューションを持っている企業も似たような状況で、Python(パイソン)の入門チュートリアルをやったことがあるくらいのレベルの人材であればいっぱい集まるらしいですが、そこから一歩踏み込んだ話ができる人はなかなか居らず、元々いる凄腕エンジニアの方がそこをやるので、その人が多忙になっちゃったり…、コンサル側にも人がいなかったり。

大坪
市場もちょっとずつ大きくなって、いろんな企業もデータドリブンであるDXに乗り込んでいくと、市場の大きさが拡大していきます。それに対応できる人材もちょっとずつ増えてはいるんでしょうけど、結局同じかそれ以上に市場は拡大していくので、人材不足というのは引き続き解決しないと思います。

坂内
わたしも、今後もそこは変わらない気がしています。研究領域でも「この先どこに向かっていくの?」という議論が挙がりますが、それに対して「今後2つに分かれていく」という見解が多いんです。今まではPoCで使われる技術が、イコール研究分野でもそれなりに先端的技術なので、ビジネス分野の人と研究分野の人と同じ目線で頑張っていたんですが、今の研究分野の最先端ってビジネスにピンポイントで刺さる技術というよりも、個別個別の技術に細分化していっている形になっています。ビジネス分野の人が、その技術をそのまま転用できるというものではなくなってきているんですよね。なので、分かれていく中でも「その2分野(ビジネス分野と研究分野)の橋渡しは誰がやるの?」というのは、引き続き議論として挙がっています。

大坪
まさしく坂内さんのような人が求められているんですよね。

坂内
ははっ(笑)。

2つの領域の専門性が求められる人材育成の難しさ

最新のアルゴリズムや研究分野をどこまでカバーできるか

大坪
データサイエンティストとか、研究側との連携って、個人の頑張りによってしまうんだと思います。最新のアルゴリズムを教育でカバーするのは難しくて、最新の研究分野も個人がどこまで勉強するかによるんですよね。だから難しいですよね。

坂内
通訳をやるためには、2分野のことを両方理解する必要があるので、それってとても勉強が大変で、結局は個人の頑張りによることは現実としてあるんですよね。

その2分野やらなくても、今の日本では1分野できれば十分に生きていけちゃうんですよ。それが課題でもあって仮に「1分野だけだと仕事も無く失業します」という状況だったら、切羽詰まってみんな勉強やると思うんですけど(笑)。でも、実際はやらなくてもいいので、結果個人の興味というのが一番の重要要素になってしまうんですよね。

興味を持って勉強をはじめることができるか

大坪
例えば、ビジネスの課題解決とデータ分析のスキルを身に付けるためにコンサルタントとデータサイエンティストの両方を経験すれば求められる人材になれるのかというと、そうでもないんですよね。もちろん、経験は大事ですよ。

坂内
コンサルティングは、社会人の共通スキルだと思っているんですよね。読む・書く・聞く・話す、というベーシックスキル。その点からみると、他の分野との通訳はやりやすいのかなと思います。コンサルティングでもLTSは業務コンサルティングなので、業務の基礎的な部分も理解できるので、信用性もあると思いますね。何より大事なことは、その2分野の通訳を面白いなと思えるかどうか?なので、そういう人が増えれば万事解決ですが…。

大坪
教育という観点でいくと、面白さで勉強してもらう、興味を持ってもらうのが大事かなと思っています。

坂内
みんな、何に興味持って勉強してるんですかね?

大坪
何なんでしょうね…。改めて聞かれると難しいですね。

坂内
それが分からないのも、結構問題な気がしますね(笑)。

大坪
確かに…(笑)。

…後編「事例から見る、本社がリードするデータ活用組織のつくりかた」へ続く


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)