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RPAを含む改善検討に役立つ業務フローの書き方 業務可視化で効果の高い改善活動へ

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2018年11月に掲載されたものを移設したものです。

最近活発に導入されている「RPA」。業務改善における具体施策として、外せない大きな選択肢の一つとなりつつあります。また、導入をきっかけに業務改善、棚卸、システム刷新の検討に着手されている会社様も多く出てきています。しかし、思ったより効果が出ない、導入が進まない、、、、といった悩みも発生しているようです。
その背景には、以下のような課題感があるようです。

  • RPAありきで進めてしまい根本的な問題が解決されない
  • システムの機能拡張も検討すべきところ、流行に流されRPAを入れたが、うまく動かない
  • 導入したものの、思ったより業務整理・要件定義に時間がかかってしまった
  • 個人や顧客別にフォーマットや業務のやり方が違い、RPA導入の前で止まってしまった
  • 後から追加機能が出てきたり、業務に合わないことがわかりロボが使われていない/作り直し

こういった壁を取り除き、または乗り越え、システム機能追加やルール変更等も含めた適切な施策を選び、スムーズに費用対効果を出したいという場合、どのように進めればよいのでしょうか。
それには、適正施策アセスメントが重要です。RPAのロボ自体はお金と時間をかければ作れます。ポイントはアセスメントとなる「目利き」になります。
本来RPAは、改善手法における施策の一つです(参照:図1)。業務の現状課題の抽出とToBe検討から、長期・中期・短期の視点で適切な施策を選ぶことが重要です。アセスメントにより、RPAと並行して実施すべき事項がないかを洗い出すことで、スムーズなRPA導入と使えるRPA、そしてRPAだけによらない業務改善が可能となります。

図1

ではどうしたら、適正アセスメントができるのでしょうか。
そのベースとなるのが「可視化」です。ところが、いざ現状可視化のために「業務フローを書く」となっても、個人の趣味・志向でバラバラ、見にくいといった状態になり、理解するのに一苦労といったケースも発生します。本来、フローの書き方は目的によって決めるものです。目的を達成するためのフローという認識が抜けてしまい、フローの書き方が目的と合っていないと、以下のような問題が発生します

  • 情報不足で結局書き直し
  • ヒアリングに時間がかかる
  • 要件漏れとなってしまい、作ったロボが使えなかった、使われない

結果として、RPAの導入以前の準備や導入後に時間がかかってしまい効率的なRPA導入が進まない要因になっています。以下では、「せっかく書いたフローが使えない」ケースの原因や陥りやすい失敗を紹介し、さらにRPAを含む改善施策を検討する際の「フロー可視化の考え方」「可視化で重要となるポイント」を紹介します。

(RPA活用検討を前提とした)プロセス可視化の例

「業務の可視化」というと業務フローを書くことによるプロセスの可視化が一般的です。しかし、一般的な業務フローによる可視化では、RPA適性はもちろん本来見出したい課題といった「知りたい情報」が見えにくくなる場合があります。
以下に、二つのプロセス可視化の例を示します。A,Bともに、同じ業務を可視化したフローです。Aのフローが一般的によくある業務フロー、Bのフローは「RPAを含む各種施策を検討する」シーンに適したプロセス可視化の例です。

Bのフローでは、Aでは見えなかった紙運用が多いことや、それに伴う業務のムダが一目でわかります。管理表に何度も記入しており、システムとの二重管理になっている可能性も考えられます。二つは同じ業務を可視化していますが、可視化した業務ステップはほとんど変わらないのに、Bのフローは課題が見えやすい表現になっています。それどころか、Aのフローで可視化の粒度をどんどん細かくしていったとしても、(たとえば、受領を受領・チェック、案件登録を申請内容登録、契約事項確認、承認を課長承認、部長承認等に細分化)、一向に課題が見えてきません。
二つの可視化の例は何が異なるのでしょうか。最も大きな違いは、
Aの可視化が「業務手順の流れを表現したもの」であるのに対し、
Bの可視化は「情報の関連性を表現したもの」であることです。
情報の関連性に着目した可視化とはどのようなものか、詳しくみてみます。

可視化の失敗原因

一般的な「業務手順の流れ」を可視化したものがAのフローですが、この書き方には以下のような課題があります。

1.作業の順序が直線的に書かれ、関係性が表現されていない

最初に資料(情報)を受領し、管理表に記入、案件登録をする手順であることは分かりますが、それぞれの作業の意味合い・関係性がこのフローからは読み取れません(Bのフローを見ると、管理表は作業全体の進捗管理に使われるもので、案件登録やその後の資産登録・承認のタイミングでも記入されるものであることが分かります)。また、最初に受領した情報(Aのフローでは表現されていませんが紙の申請書を受領しています)が、最後の「承認」でも使われているこが、このフローから読み取ることができません。

2.作業に必要となる元情報が何か分からない

案件登録や資産登録で何の情報が何に登録されているか分からないため、元となる情報についての検討が不足する可能性があります。Bで表現されているマスタ更新などはよく見落としやすい作業で、Aのフローを出発にRPA化を検討した場合に、後から追加依頼となってしまったり、結局多くの手作業が残ってしまい効果が出づらい原因となったりします。
このように、Aのフローからは「直線的な手順」以外の情報が読み取れないため、改善余地を見落とす可能性があります。結果、課題抽出のための追加ヒアリングやフローの書き直しなど、想定以上の時間がかかってしまうことがあります。

改善活動で使える「可視化」のポイント~

では、Bのフローはどうでしょうか。ポイントは3点です。

1.手順ではなく情報の関連性を可視化(何を元に何を出しているか)

Bのフローでは、手順をつなげるのではなく「情報の関連性」をつなげています。データや帳票を何に使っているのか?を可視化することで、業務の煩雑さや関連性が見えてきます。多くのインプットを元に、システム入力が行われていることが一目瞭然です。

2.元データ形式を明示(紙/Exce/システム内データ等)

手順で利用される情報(データ)がどんな種類のものか?といった情報は、RPAの導入検討やシステムの改修、各種の改善活動を進めるには必須の観点になります。

3.主語を明示

業務の主体・主管となる主語を明示することで、業務の意味・目的が把握しやすくなります。Bのフローの承認プロセスでは、同一部内承認ではなく別部門の承認であることが分かり、承認プロセス効率化の検討に役立つ情報が見つけやすくなっています。

このように、上記ポイントを踏まえた可視化によって、改善余地や課題が見つけやすくなります。では、なぜこの3点が重要なのでしょうか。

ホワイトカラーの業務「動作」はほとんど6種類。扱うものは「データ」。だから、取り扱う「情報」とその「関連性」の可視化が必要

ホワイトカラーの業務では、ほとんどの業務手順・動作は以下に集約できます。

  • 確認・チェック・照合(情報を見る/収集する)
  • 入力(情報をシステム等に入力/帳票等の紙に記入)
  • 出力(情報を帳票等で出力、集計/特定データの作成、企画書の作成)
  • 受領/送付(情報の受け渡し)
  • 承認(情報の確定)
  • 連絡(情報の共有、調整)

頭の中で、判断や企画・検討、会話による調整等もしますが、いわゆる動作として非常に単純化してしまうと、これらにまとめることができます。共通していることは「PCもしくは紙で何らかの情報を扱う」という点です。製造業などブルーカラーの仕事では、「モノ」を取扱い動作とその製造工程に本質がありますが、ホワイトカラーの仕事で扱うものは「情報」です。業務フローで「動作」を書きならべても、取り扱う「情報」の中身が分からなければ課題・改善ポイントが見えてこないのです。「入力する」といった動作の可視化ではなく「〇〇データ」の可視化をすることで、はじめて改善検討に意味のある可視化がスタートします。さらに、モノの製造工程では、工程の順序によってコスト・品質に大きな違いが出ますが、ホワイトカラーの情報を扱う業務では、加工の工程が重要なのではありません。あくまで初期状態に対する最終状態のデータが重要です。ここでいう手順はそれにたどり着くための既知のステップにすぎません。「動作」にしばられてしまうと、本来把握すべき初期状態と最終状態のデータの関連性が見えなくなってしまうのです。

よいフローは「課題が見える」

また、動作・手順を可視化したフローで見えにくくなってしまうのが、以下のようなケースです。たとえば、同じ「システム入力」という動作であっても、課題は様々です。

A.入力の際に、あちこちの情報を参照する必要がある
B.特定の項目が入力できない・管理できないシステムのため、別途Excelで管理している
C.都度現場で情報の入力はしているが、その情報が社内で使われていない

こういった点こそが見出したい「課題」です。しかし、動作順序の可視化では、見え難いか、かなり細かい粒度まで動作を書かないと見えてきません。

一方で、情報の関連性を表現した可視化の場合、様々な情報(Excel等のデータ、システムデータ、Web等から取得する情報、紙の帳票…etc)の関連性を記載することで、その情報はどこから来たのか、何に使われているのか、別の方法・ルートがあるのか等が検討しやすくなり、課題が浮き彫りになります。結果として、それぞれ以下のような改善施策が見えてきます。

A.⇒インプットとなる情報の整理/集約
B.⇒システム改修の検討(現業に合わせたシステム活用)
C.⇒データ活用のあるべき姿の検討、部門間の連携、コミュニケーションルートの策定

よい業務フローは、フローを書いた時点で「課題が見える、解決策が想起できる」のです。

「情報の関連性が見える可視化」の例

例1のポイント
何と何を照合して、結果、何を作っているのかを明示すること。

例2のポイント
販売見込データは、どこからきて、だれが何に活用しているのか。
・本来活用すべきところで活用できているか?
・本来来るべき情報が集約されているか?

効果的なRPAの活用に向けて

ここまでに説明した「情報の関連性の可視化」をすることで、RPA適性があるかどうかの簡易的なアセスメントを実施することが可能です。それは、以下のようなRPAがもつ特性によります。
RPAの主な適用アクティビティは、以下の3つに分類できます。

  • システムへの情報の入力・登録
  • システムやWebからの情報取得、出力(定型フォーマットへ転記・メール・印刷)
  • システム内画面情報とのチェック・照合(Excelとの連携が前提)

RPA化する対象となる情報のInputとOutputは以下のパターンです。

RPAを活用する対象業務の選定にあたっては、Input/Outputフォーマットが「何であるか」が、またそれが「定型であるか」(ロボが読めるか)が重要です。特に「Inputが紙かどうか」はRPA適用アセスメントにおいて、適用可否を判断する分かりやすい“ふるい”となります。
「情報の関連性の可視化」ができている業務フローを作成しRPA適用アセスメントを進めることで「RPA適用可能プロセス」の発見や、RPA適用に必要な「情報の電子化・定型化等の改善ポイント」などの検討をスムーズに進めることができます。

このように、RPAを含む各種施策による改善を検討する際に、可視化を実施する目的は

  • RPAへの適性が低い箇所を早期に選択肢から外すこと(紙・口頭・手渡し等)
    (⇒デジタル化等、他の施策を早期に検討するため)
  • 課題を明らかにすること
    例)煩雑になっている箇所の発見
    例)システム範囲を明確化し、システムの機能不足・一元管理できていない情報・二重管理/入力等の明示

このために、以下を可視化することがポイントです

  • インプットとアウトプットの洗い出しと各フォーマットを明示
  • データの関連性・流れを可視化
  • 主語を明示

可視化から改善のサイクルへ

RPAが改善施策の大きな選択肢となりつつある中、RPAを含めた各種適切な施策(RPA・システム改修・ルール見直し・組織再編・プロセス変更等)を検討し、改善・効率化により業務変革をする際に必要となる可視化の手法についてご紹介しました。
例えば、主たる目的・課題が、システム改修なのか、属人化業務の標準化なのか等によって可視化方法は異なります。今回は一例ですが、課題が見える業務フローにより、自ら気づき改善に取り組めることで、「課題の発見」「施策の検討」「改善の実行」の改善サイクルを回すことができます。「情報の関連性の可視化」で、より効果の高い改善活動に取り組んでみてください。


ライター

CLOVER編集部()

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