テーマは「一般的な企業活動とスポーツはどのように関わりを持てるのか? また、それがどのように個人のキャリアに関係してくるのか?」。講義の後、戸田さんと流通科学大学の青山将己先生に、キャリアの幅を広げる仕事の方法、企業×スポーツビジネスの可能性などについて話してもらいました。
神戸大学大学院人間発達環境学研究科修了(学術博士)。現在、流通科学大学人間社会学部講師。スポーツビジネス論やスポーツ組織論、スポーツ文化論、健康・スポーツ関連企業分析などを担当。専門はスポーツプロモーション。(2024年1月時点)
製造業×経営管理領域における、ユーザーサイドでのシステム要件定義~展開支援、開発サイドでの設計~テストおよびPMO業務を経験。現在はITサービス企業のシステム刷新支援PJにて、業務分析~改善提案を実施。社内業務では、新卒/中途採用や新卒研修の企画運営を担当。(2024年1月時点)
変化に適応を迫られるスポーツ団体・組織
―――自己紹介をお願いします。
青山:
専門は障害者スポーツ、パラスポーツ関連の組織論で、統括団体や競技団体を研究対象としてきました。授業ではスポーツビジネス論、スポーツ組織論などを担当しています。研究のきっかけは、もともと障害者の方と関わる機会があったということ。加えて、大学2年生だった2013年、東京2020オリンピック・パラリンピック開催が決まり、パラリンピックがオリンピックと一緒に開催されることに興味・関心が湧いたことです。学部の卒業論文も障害者スポーツがテーマでした。現在、スポーツ組織にビジネスや経営戦略といった考え方も浸透してきており、私も視点を広げビジネスやマネジメントも研究しています。特にスポーツを取り巻く環境が変化している中で、その変化にスポーツ組織が効率的に適応するためのマネジメント方法を探索しています。
―――今回、戸田さんが講義をすることになった経緯を教えてください。
青山:
スポーツ組織論の授業は講義形式で、グループワークも組み込んでいますが、現場に触れる機会は多くありません。企業から講師をお招きすることはありますが、直接スポーツに関わっている企業の方ばかりにお願いしていました。そんなところ、大学時代の同期であるLTS松本和也さんから「LTSはスポーツ分野でも色々と活動している」という話を聞きました。そこで「現場のお話をしていただけないか?」と、戸田さんを紹介してもらいました。
戸田:
依頼をいただいた当初「自分たちの活動が大学生への講義につながるのか」と迷いもありました。ですが「学生さんの視野や選択肢を広げるきっかけになるのかもしれない」と引き受けました。また事前に、学生はスポーツに関わる進路としてフィットネス運営などイメージしやすい企業を考えがち、と聞いていました。自分たちがやっている「一般企業に勤めながらでもできる、スポーツに関わる活動」を紹介することには価値があるかもしれない、とも感じました。
やりたい仕事に近づく方法とは
―――講義はどんな内容でしたか?
戸田:
前半は、学生にとって馴染みのあるメーカーや小売り、フィットネス運営以外にもスポーツに関わる会社や仕事があるということ、他社コンサルティング企業がプロスポーツクラブのスポンサー活動と並行しながら推進している事業や活動を事例にしました。
後半では、馴染みの薄い職種や会社であっても、実はスポーツと関わっている部分がある、ということを話しました。LTSがここ3年、社内にスポーツビジネス勉強会を立ち上げ、スポンサーをしているサッカーJ3のY.S.C.C.横浜で実施した冠試合の企画や運営、さらにスポーツ庁や静岡県庁の公募にチャレンジしたことなど、LTSの実績やそれを通じて得た私たちの学びや気付きを話しました。
―――スポーツビジネスを目指す学生は多いのですか?
青山:
本学には社会共創活動という取り組みがあり、プロスポーツですとレッドハリケーンズ大阪(ジャパンラグビー・リーグワン・ディビジョン2)とコラボして、現地で試合の企画運営をしています。スポーツビジネスに直接、関わる場として学生にとってイメージをつかみやすい機会だと思います。
就職に関しても最近、プロスポーツ分野に興味を持つ学生が増えてきています。しかし狭き門であること、またチームに直接就職すると待遇が脆弱だったり、チームを所有する会社に入らないと現場に携われなかったりとの理由で諦める学生は多いです。
戸田:
そうなのですね。実は今回、私が学生に最も伝えたかったのは、スポーツに関わる選択肢の幅広さです。講義の最後には「スポーツという領域に限らず、社会人になってからでもキャリアの幅は広げられる」と伝えました。自身を振り返っても、スポーツに関わり始めたのはLTSに入社してからで、就職活動をしていた時は考えてもいませんでした。学生からすると、最初の就職先、最初にやる仕事を「ゴール」と捉えてしまうことがあると思います。しかし、そんなことはまったくありません。最初にスポーツに関わる仕事をして、その後は別の仕事に移ってもよいし、その逆もありうる。本人の動き次第でキャリアの幅を広げられる、やりたいことに近づける、と思っています。
青山:
そうですね。学生たちが思いつく以外の方向、視点を変えたスポーツへの関り方があることを紹介していただきました。スポーツに関わる仕事に就く、就活をする上で、様々なアプローチ方法があるということは、学生にとって非常に大きな気付きになったと思います。
地域・社会貢献という機能
―――学生の反応はいかがでしたか?
青山:
スポーツとの関わりを直接、表に出していないLTSという企業を知ったことで、刺激を得られたと思います。コンサルティングという馴染みのない業種について知る機会になったことも成果でした。また、プロスポーツは様々なスポンサーやパートナーの存在があって成り立っていることも、具体的な事例で学べたと思います。
講義後にとった学生のアンケートを紹介すると、
- 会社はモノを作ったり売ったりするものと考えていました。それ以外に、スポーツを支える機能があるということを今回知れた
- 就職活動を考える幅が広がった
- スポーツチームを支えるという(企業活動の)面は、今まで考えたことがなかった
といったコメントがありました。
スポーツの世界には「する」「みる」「ささえる」という3つのキーワードがあります。「『ささえる』というとボランティアをイメージしやすく、企業はお金ありきでプロスポーツに関わっていると思っていた。でも、そうではなく、プロスポーツには地域・社会貢献という機能もあり、企業・スポンサーも『ささえる』ことを一緒にやっていると初めて知った」との感想も聞きました。
戸田:
本当に素敵な感想、コメントを頂きました。「人生にとって意義のある90分でした」という感想もあり、そんな学生が一人でもいてくれたのなら、やってよかった、すごく嬉しかったです。
私自身にとっても、準備から講義の過程で得られたこともありました。例えば、初めて対面する学生の目線に立って届きやすい言葉を選ぶということ。「社内認知が得られました」という表現は、学生に伝わらないと考え、「会社を明るくできました」と言い換えました。そんな表現は逆に、仕事では使いませんから、「会社を明るくする活動ができているのかもしれない」という気付きにもなりました。
「LTSと他のコンサルの違いって何ですか?」
―――本業以外に活動するメリットは?
戸田:
先述したよう、前半は他社の事例を、後半は自分たちの経験を中心に説明しました。やはり自分たちの経験を語る方が学生たちに届いていると、学生の顔を見ながら感じていました。自分たちの経験として語ることができる事例を増やすことが大切だと実感しました。
また「LTSと他のコンサルの違いって何ですか?」という質問が印象的でした、就活の面接であれば仕事に寄せた話ができますが、大学で聞かれた時にどう答えるべきか? 「僕みたいな人がいること。本業外の活動を応援してくれる仲間や上司がいること、そんな社風であること」という言葉が自然に出てきました。
青山:
講義を受けたのは2年生ですから、来年からのインターンを検討するのにちょうどいいタイミングでした。「LTSのような会社で働きたい」という感想も多くありました。日本はまだまだトップダウンの会社が多いと感じます。ですから、社員の自由な発想を許容するLTSは魅力的に映ったのでしょう。本学は起業精神を掲げています。スポーツに関するナレッジを活用・最大化することは、キャリア形成の上で有効ではないでしょうか。
戸田:
ありがとうございます。青山さんが仰ってくださったように、従業員の想いや熱に応える会社なので、学生にも魅力的に映ったのだろうと感じました。また、仕事のプロジェクト外でも、そこで得た経験やナレッジは社内外に還元できるということを、学生やLTS社員に気付いてもらえると嬉しいです。そうした還元活動が、一人ひとりのキャリアの幅を広げていくのだと思います。それ以前に、社会人の楽しさも広がるのではないかとも、ふんわり感じています。
青山:
実は戸田さんのネットワーク経由で、新たなプロジェクトが少し動き出しています。大学としても産学官連携というものが求められていますので、是非いろいろなところとコラボしたい、させていただきたいと思っています。LTSともウィンウィンの関係で、新たなものをつくっていければと思っています。
研究者×コンサル会社としての取り組み
――-日本でのスポーツビジネスの可能性は?
青山:
日本の市場規模はやはりヨーロッパ、北米に比べるとまだまだです。大学スポーツですとアメリカにはNCAA(全米体育協会、約1200校加盟)があり、市場規模(約1兆円と言われる)を考えると、日本はもっともっと成長できると思います。
学生には「スポーツは音楽とかと同じで文化だ」とよく言っています。我々の生活と切っても切り離せないものがスポーツだよ、と。スポーツとの関わり方は無限大です。プロスポーツは、先ほども述べたよう、地域・社会課題の解決のための力にもなります。社会がスポーツに様々な形でフォーカスしてくれれば嬉しいです。
―――講義をきっかけに得たものはありますか?
戸田:
松本さんや私たちで社内にスポーツビジネス勉強会を立ち上げた時、「LTSのミッションである“活き活き”を、スポーツの力で実現できたらいいよね」と話していました。
その想いの実現に向け、これまでは既存の枠組みがある冠試合や公募に取り組んできました。
こうした取り組みは継続させつつ、「自分たちや周囲の人たち、これから関わり合う人たちの”活き活き”を実現するために、どんなことが大切なんだっけ?」という視点をもって新しいことにも挑戦したいと感じました。
そのためには、今LTSが繋がれる人やチームと目線を合わせながら協働することが大切になってくると考えています。
青山:
今回、受講したのは2年生です。就職活動や働くということを、まだ考えていない、意識していない学生が多い。講義によって企業人であるとはどういうことなのか、あるいは働くこととはどういうことか、知ることができました。「早めにインターン行きたい」という学生も多くいました。学生の自主性を引き出せたことはあり難く、来年度以降も講義してもらえればと。
大学の存在意義、メリットは、学生と言う人材がいること。また、われわれは研究者ですのでエビデンスを重要視しています。企業と一緒にエビデンスを蓄積し、社会の課題解決策を企画・提案することができると思います。個人的には、LTSのスポーツビジネス勉強会にぜひ参加させて頂きアイデア、想いを共有して形にしていきたいですね。
インタビュアー
SE・テクニカルライターを経て、LTS入社。ERP導入や業務改革におけるユーザー向け広報・教育企画および業務文書改善など組織コミュニケーションに関連するコンサルティングに従事。2017年よりLTSコンサルティング事業のマーケティングを担当。2021年より本サイト「CLOVER Light」の立ち上げ~運営・編集長を務める。(2024年1月時点)