アジャイル開発を学んだ原点
esmには社長の平鍋健児さんをはじめ、 日本のアジャイル開発の普及に尽力してきた方が数多く在籍しています。私自身、初めてアジャイル開発を学んだ書籍は、平鍋さんが書かれた『アジャイル開発とスクラム』でした。今回、私たちの訪問に対応して頂いたのは平鍋さんをはじめ、CTO(Chief Technology Officer)の岡島幸男さん、アジャイルコーチの木下史彦さん、そしてマーケティング担当の川西真紀さんです。
LTS側は社長の樺島弘明、取締役の上野亮祐をはじめ、私を含めて計6人のメンバーです。私と樺島以外のメンバーは全員、今期から発足したデジタル事業本部のリーダー陣で、上野はデジタル事業本部長を務めています。
私を除いて皆、ASの訪問は初めてです。私は5年前、弊社メンバーがアジャイル開発のセミナーで岡島さんに出会ったことがきっかけで、ASを訪問させて頂きました。その時はアジャイル開発やビジネスアジリティの議論で大変盛り上がり、それからは私がesmの主催セミナーに登壇させていただいたり、逆にLTSの社内カンファレンスで岡島さんに講演していただいたりと、交流を続けてきました。
LTSでは今年から、これまでデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進してきたいくつかの部門が一緒になり、「デジタル事業本部」(D本)として運営していく体制となりました。D本では運営方針の一つとして、これまで以上に積極的にアジャイルに取り組んでいきたいと考えています。今回はそんなD本の運営陣がアジャイルへの知見を深めるための訪問です。
福井駅西口にはあの有名な…
福井へは3月に延伸したばかりの北陸新幹線で、東京から3時間ほどです。
esmの訪問は午後からでしたが、私は朝早くの新幹線に乗り、10時半ごろ到着しました。お目当ては福井城址です。広島市、島根県松江市、岡山市、石川県金沢市…と、多くの県庁所在地の城址はJRの駅から少し離れたところにあり、その近くに県庁や繁華街があります。しかし福井は珍しく(?)駅からすぐの場所に城跡があり、お城の本丸跡に県庁がそびえたっています。県庁の敷地には自由に入り 、お城の史跡を見て回ることができます。
桜は咲き始めていましたが、満開にはしばらくかかりそうでした。それでも、お城の石垣に沿って植えられた桜がとてもきれいです。
しばしの〝ブラタモリ〟を終え、他のメンバーと集合するため駅に戻ると、ちょうど到着したメンバーたちを発見。メンバーは駅東口の集合場所とは違う方向に行こうとするので「そっちじゃないよ」と言うと、「福井に来た証拠の写真撮りたくて…」だそうです(笑)。福井駅西口の恐竜広場は撮影スポットとして有名ですものね。
「モニターがでかい!」「このマイクすごい!」
到着後、esmの方々と軽い挨拶と自己紹介をして、さっそくASの見学です。案内をしてくれたのは冒頭に紹介した平鍋さん、岡島さん、川西さんです。
ASに入室するなりD本のメンバーが声をあげたのが「モニターがでかい!」「このマイクすごい!」でした。「そこかい!」と突っ込みたくなりますが、実はこの驚きにはLTSならではの事情もあります。
LTSは2022年10月に本社オフィスを移転しました。とても綺麗なオフィスで、働きやすい環境ではありますが、フリーアドレスのため席取りは早いもの勝ちとなっています。モニターなどの設備は毎回、自席に持ち運ばないといけませんし(必然的に持ち運びやすい小さめのモニターが主流)、チームでコミュニケーションをとりたくても、まとまったスペースを確保しにくいという事情があります。新オフィスはそういった点で、エンジニアが出社して作業しやすい環境とは言えません。
また、引っ越した早々にオフィスは手狭になりつつあり近々、同じビルの別のフロアに増床することになりました。こちらはエンジニアが作業しやすいスペースとする方針で、モニター付きの席や、チームで作業できるスペースも確保する予定です。早速、新しいオフィスの在り方に示唆をもらったわけです。
人とのつながりを意識させる仕掛けの数々
さて、モニターとマイクの件はともかく、本格的にASを見学して回ります。オフィス1階にあるスタジオで目を引いたのは、ボードに貼ってあった〝クラスター図〟です。誰がどのような案件に従事しているか、さらにどのような社内活動に加わっているかが一目で分かるようになっていました。公式な組織図とは別に、メンバーの関係性や活動を可視化しているわけです。訪問メンバーの一人、堂本純輝(デジタル事業副本部長)は「LTSでも組織図に表れない仮想のサービスチームや取り組みがあるが、もっと可視化すべきだと思った。可視化することで他の人が活動を認識するし、声をかけやすくなる」と語っていました。
またボードには、お客様企業の責任者の方の写真が貼ってあります。それも格好いい写真ではなく、カメラに向けて手を合わせて懇願(?)している姿です。なんでも「困っているお客様を身近に感じながら仕事ができるように」、お客様にお願いして撮ってもらったそうです。
さらに、天井からはお客様企業名がロゴと共にぶら下がっていたり、壁にはお客様と共同で行ったワークショップの付箋が貼ってあったりと、ASのオフィスのあらゆるところに〝人(お客様)とのつながり〟を意識させる仕掛けがありました。それらはすべて「自分たちは誰のために、何のために働いているか」を常に意識するための有効だと感じます。
〝プロセスを共にする〟ペアプロの示唆
次は4階 にあるスタジオを見学します。こちらは1階のスタジオだけでは手狭になってしまって、最近増設した場所だそうです。
ここで目を引いたのはペアプロ/モブプロ用のスペースがあることです(プログラミングを2人で行うのがペアプロ、3人以上の場合がモブプロです。ここでは「ペアプロ」に統一します)。
ペアプロは複数人で一つのプログラミングに取り組むので、一見して非効率に見えます。しかし、複数が取り組むことで相互チェックが効き設計品質が向上したり、お互いの良いテクニックを教え合うことができたり、さらには協働作業となることでチームワークや信頼関係が醸成されたりといった効果があるとされています。ASでは、ペアプロの現場にはモニターを複数台置いて、例えば1台にはインプットとなる仕様書、もう1台にはプログラミングしている画面を表示するなどして、より効率的な環境を作っていました。
ペアプロはLTSの社内システム開発でも定期的に行っていますが、専用のスペースで行うという発想はありませんでした。また、D本の訪問メンバーの中にはペアプロをやったことのないメンバーもいて、とても新鮮だったようです。
この訪問した翌週、私はLTSのある部門長と話をする機会があり、このペアプロが話題になりました。
LTSには若手のコンサルタントが多く、忙しい上司はどうしても彼らの作成済み成果物の確認で精いっぱいになりがちです。しかし、コンサルタントとしてのスキルをしっかり育成するのであれば、上司が若手と共にインプット資料を確認し、共に考え、成果物への反映を行うという〝プロセスを共にする〟ことが効果的です。成果物を確認してフィードバックするだけでは、若手の手戻りが多くなりますし、時に若手は修正指示の意図をきちんと理解しきれず、書いては修正指示を受けることを繰り返して疲弊するという悪循環に陥ってしまいます。ASで行っていたペアプロの姿は、まさにこの〝プロセスを共にする〟ことを体現しており、コンサルタント育成にも示唆をもらうことになりました。
なお、4階のオフィス内にはカフェスペースもあり、ここでも人が集まり、つながりの仕事のしやすい環境づくりがされていたのが印象的でした。
エンジニアリング領域の再構築に学び
見学を終えた後は平鍋さんに、岡島さん、川西さん、木下さんを交えて意見交換しました。
さまざまな話題に及びましたが、中でも訪問メンバーが関心をひかれたのは、esmがアジャイルに自社のアイデンティティを集約していったその歴史でした。esmの歴史はLTSよりはるかに長く、設立は1980年です。当然、その頃にはまだ〝アジャイル開発〟の概念はありません。esmにも過去には様々な事業があったわけですが、そこから「選択と集中」を体現し〝アジャイル開発のesm〟というアイデンティティを獲得してきた歴史は、ここ数年でさまざまなグループ会社が合流し、エンジニアリング領域のサービス再構築を目指しているLTSにとっては、とても興味深いものでした。
議論は夜の会食まで続き「協働でハッカソンをやりたい」「一緒に仕事をしてみたい」「今度は現場のメンバー同士で交流してみたい」など、様々な話題で盛り上がりました。多くの実りのあった今回の訪問、単純に今学びを活かすだけでなく、esmとのさらなる協業を進めていきたいと強く感じた場となりました。
東京に戻った後、社長の平鍋健児さん、CTOの岡島幸男さんからこんなメッセージをいただきました。
平鍋さん「LTS さんとは、弊社とのバックグラウンドやマインドの共通点を強く感じました。それは、アジャイルはプロセスやテクニックにあるのではなく、顧客とのチームづくり、そしてその先のユーザを喜ばせることにある、ということを信じていること。一日をかけたディスカッションでそのことを確認できる、よい機会になりました。訪問ありがとうございました」
岡島さん「2018年の Agile Studio の開設以降、ウェビナーにゲスト登壇いただいたり、逆にグループカンファレンスにご招待いただいたりと、交流が年々増えているLTSさんに福井本社を見学いただきました。懇親会を含め沢山お話させていただき実感したのは、LTSさんと当社の経営に対する考え方、組織に対する課題感、社員に対する想いがびっくりするくらい似ているということ。規模や業態は違えども、根っこにある価値観が近いのだと思います。共に世界にアジリティをもたらしていく存在になりたい、そんな熱い気持ちをより強くした一日です。今後もより深くコラボレーションしていきましょう。よろしくお願いします!」
平鍋さん、岡島さん、木下さん、川西さん、そしてesmの社員の皆さん、本当にありがとうございました!