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6社経験 ミドル・シニアの転職&仕事術①50歳 未経験で五つ星ホテル総支配人へ

LTSにはコンサルタント、エンジニアだけではなくバックオフィスを支える多彩な人財が集っています。プロフェッショナルな彼、彼女たちの〝キャリア形成と仕事にちょっと活きる〟コラムをお届けします。今回は製造業、アパレル、五つ星ホテル総支配人、そしてLTSと異色のキャリアを歩んできた上席執行役員人事総務部長、千葉幹夫の1回目「50歳 未経験で五つ星ホテル総支配人へ」です。
千葉幹夫(上席執行役員 人事総務部長兼ワクト代表取締役社長)

1962年、埼玉県出身。中央大学バレーボール部卒で、日本代表主将石川祐希さんは部の後輩。1985年、新卒で岩崎通信機に入社。1999年に東京精密、2002年にアパレルブランドのセオリーへ。ファーストリテイリングによるセオリー買収に伴い、2009年に柳井正氏の〝側近〟となる。2012年、ホテル・レストラン、ウェディング事業を行うプラン・ドゥ・シー(Plan・Do・See)に入社、2013年ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル支配人。2021年4月にLTS入社。(2024年6月現在)。

経営学の泰斗、楠木建・一橋大学教授とのゆかり

ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル総支配人がLTSの前職です。縁あってヨコハマGIHの運営を受託したプラン・ドゥ・シー(Plan・Do・See、PDS)からオファーがあってのことです。最初は、LTS入社前のことを綴りたいと思います。

ホテルの仕事は未経験で50歳、そんな男が五つ星ホテルの支配人になったケースは、恐らく前例がないでしょう。どうして、そんなことになったのか。人との縁、それまで勤めたアパレルブランドのセオリー、ファーストリテイリングでの経験があったからでした。

オリエンタルホテル神戸でコック見習い(左端)

PDS創業者の野田豊加さんがヨコハマGIHの運営を受託することになった際、経営学界で著名な楠木建・一橋大学教授に「総支配人をできる人、だれかいないだろうか」と相談したのが始まりだそうです。

楠木さんは私がファストリ在職時代、私が担当するFRMIC(経営者育成塾)で仕事をご一緒させていただいたことでご縁を頂きました。私が1歳年上だったので「兄貴」と呼ばれ、私は「けんけん」と言って親しくさせてもらっていました。

楠木さんは、野田さんと私の共通の友人だったのです。後で聞きましたが、野田さんの人選には条件があって、「ホテルマンではないが、ホテル総支配人をできる人」だったそうです。そこで、楠木さんが私を推薦したそうです。なぜ未経験者が条件なのかということは、後に知ることになります。

2011年8月、リッキーことリンク・セオリー・ジャパン創業者で、ファストリのグループ上席執行役員だった佐々木力さんが亡くなりました。私はリッキーさんを尊敬し男として心底惚れていましたから落ち込みました。ファストリでは楠木さんから「兄貴、最近元気ないよ」と声を掛けられることもしばしば。そんなタイミングでした。

「ユニクロから来た人がなぜ?」とは…

楠木さんの紹介で、野田さんとは2011年12月に、東京・六本木のグランドハイアットホテル東京のステーキハウス「オークドア」で初めて会いました。面接とは考えておらず、世間話をしていたら最後に「ところで、いつから来られます?」と聞かれました。楠木さんは事前に「この人は採った方がいいよ」と伝えていたそうです。私はリッキーさんが亡くなったことで「このままユニクロで一生、勤められるだろうか?」と迷っていました。PDSの施設を見せてもらい、社員も素晴らしい人ばかりでした。ファストリを辞め、PDSに入ることを決断しました。

神戸オリエンタルホテルキッチンにて、私の師匠だった矢野さん(右)と。包丁の使い方から教わりました

後に、楠木さんに「なぜ私を推薦したのですか」と聞きました。楠木さんは一言「なんでもできるから」と言っていました。ファストリ時代、経営の原理原則づくり、暗黙知の形式化、FRコンベンション(半期に一度の全社イベント)の企画運営などに携わった仕事を見てくれていたようで、とてもうれしかったのを覚えています。セオリーやファストリでの経験は、いずれかの機会に書ければと思います。振り返ると、ファストリでの仕事はホテル運営にも、いまのLTSの仕事にも非常に役立っています。

前述したようヨコハマGIHの運営をPDSが受託しており、総支配人になることが前提の入社です。「ユニクロから来た人がなぜ?」「千葉って誰?」と見られることは覚悟していました。でもPDSでは、誰からもそんなことを言われませんでした。逆に「幹夫さんですか、入ってきてくれてありがとうございます!」「応援しています!」とみんなに言われるほどです。涙が出そうでした。そんな社風にはホスピタリティを大事にする野田さんのマネジメント、経営姿勢が反映されていると思います。

(Pexels)

ある民間調査では、PDSは「働きがいのある会社」で常に上位です。特に女性の働き甲斐は非常に高く、常に最上位です。新卒採用は例年、数十人ですが、エントリーする学生は毎年1万人を超え、倍率は500倍を超えます。面接は最低7回は重ね「心から愛情を受けて育ってきたか」「人に奉仕することを自分の喜びと感じるか」「PDSのフィロソフィー(哲学)を体現できるか」といった面を見ます。面接も7回はやらないと、人の定性的なことは分からないものです。

オリエンタルホテル神戸でコック見習い

さて、入社を歓迎してもらったものの、いずれにせよ私にはホテルやレストランの経験はありません。野田さんに「ホテルを勉強させてほしい」と頼んだところ、「コックをやった方が良い」と言われました。そして、PDSが運営しているオリエンタルホテル神戸へ行くことになりました。49歳にしてコック見習修行です。

オリエンタルホテル神戸(wikipedia)

オリエンタルホテル神戸は1870年(明治3年)に開業した、日本最古級の西洋式ホテルです。阪神淡路大震災で解体されてしまいましたが2010年、PDSがプロデュースし再オープンしました。PDSの理念は、心から愛せるホテルをつくり、その街の価値をあげること。歴史に紐づくことを出店基準にしています。チェーン展開はせず、店名・ロゴや制服などもゼロからつくり、オンリーワンの心から愛されるホテルを目指していました。

コック見習いとして、平日は仕込み、週末は婚礼会場に隣接するオープンキッチンで、最初は簡単な調理作業から勉強しました。野田さんは、なぜオリエンタルホテル神戸なのか、なぜコック修行なのか、理由は言いませんでした。しかし半年の修行と、その後に着任したヨコハマ―で、その理由が分かりました。(つづく。次回は7月19日に公開予定です)