ゲノム編集技術を用いたアレルギーフリー食材、バイオ技術を活かした農業技術――。中国・四国地方の大学には、世界的に認められている高度な研究が多くあります。LTSは9月から、こうした研究を基にスタートアップを創出し成長へ導く「経営人材確保支援事業(以下MPM)」をスタートしました。<人と技術が混ざりあい、生まれた色で新たな未来を描く―>そんな願いを込め、絵の具の道具から「PALETTE」と名付けました。PALETTEが描く地域の未来とは?LTSの経営理念「可能性を解き放つ」をどのように体現していくのか? PALETTEを推進するSocial&Public事業部の星山雄史と尾上正幸に聞きました。
※PALETTEサイトページ:https://palette-lts.com/
インフラ系のITエンジニアとして活躍後、高校講師、ITベンチャーでの営業職経て、2011年に(株)ワクトを設立。広島県が主催するニューノーマル時代の課題をデジタル技術を通じて解決するアクセラレーションプログラムの事務局主担当及び「ひろしまサンドボックス」のメンターを務める。(2022年2月時点)
広島出身。マツダ、広島県庁、中小企業庁、ウフルを経て2023年からLTSへ入社。地方創生を目指し、多くの産官学連携の事業を推進。現在は大学発スタートアップ創出事業のPMとして従事。広島大学大学院統合生命科学研究科特命助教、株式会社TEGO専務取締役を兼任。(2024年10月時点)
研究者と経営人材のお見合いの場
―――PALETTEとはどんな事業でしょうか?
星山:
PALETTEはNEDO※1に採択された、「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM、Management Personnel Matching program)」です。
「可能性を解き放つ」というLTSのMISSIONのもと、本事業を担当するSocial&Public事業部では「地域の可能性をイノベーションの力で解き放ち全国に広げることで日本の可能性解放に繋げる」事を目指しています。その中でPALETTEでは、我々が中国・四国地方でスタートアップのハブとなり、大学などで研究されている未来技術を発掘し、経営人材※2とのマッチングを進めます。大学発スタートアップ事業の創出・成長を支援する事でスタートアップ創出の地方モデル構築し、大学ナレッジを活用した「地方の可能性解放」に繋げる活動と位置づけています。
尾上:
連携大学は20ほどあり、バイオマス、農業、物理、工学、IT…研究テーマは多岐にわたります。現在はまず、どこの大学のどんな先生がどのような研究テーマを持っているのか、ヒアリングしているところです。
研究者の中には「研究成果をビジネスにはしたいが、経営は得意ではない」という方もいます。そうした研究者と経営人材を引き合わせていきます。
星山:
研究者の方は学問を探求することが専門なので、研究成果をどうビジネスに活用していくのか?については、ビジネス構築を専門とする経営人材のご協力が求められています。
尾上:
PALETTEは「大学の研究者と経営人材のお見合いの場」ですね。
ひろしまCampsでの実績を活かす
―――なぜ“大学の”スタートアップ創業を目指すのでしょうか?
尾上:
NEDOはイノベーションを起こすにはスタートアップが重要であると考えています。日本は大学発のスタートアップが少なく、NEDOがその要因を調査したところ「人の指向に起因するところがありそう」と推測されたそうです。そこで、「研究者と経営人材を各地でマッチングさせることで、スタートアップ企業が増加するのではないか」との仮説を立て、MPM事業による検証を始めたのです。
星山:
もちろん、国内でもスタートアップの創出支援はありますし、成果としてスタートアップの総数は増えています。しかし、その数は諸外国に比べてまだまだ少なくユニコーン規模の企業(時価総額が10億ドル以上で未上場の企業)はなかなかありません。
とは言え、ユーグレナ※3の様に大学の研究がユニコーン規模のビジネス創生になり得た事例があり、大学の研究が優良な種(シーズ)になる可能性がある事から本事業に注目が集まっています。
―――LTSが中国・四国地域で活動する強みはなんですか?
星山:
広くとらえると2つの要素があります。
一つはLTSが広島県から受託運営しているイノベーション・ハブ・ひろしまCamps (以下Camps)での実績です。地元企業や起業家になりたい人たちのコミュニティが構築されたイノベーション拠点で、MPMにおける経営人材となり得る方との接点を多く持っています。
もう一つは広島大学が主幹する中国・四国地方発の大学発ベンチャー支援組織Peace&Science Innovation(以下PSI)とのつながりです。文科省の支援により設立されたPSIは中国・四国地方の大学でつくられた組織で、研究内容(コンセプト)を起業アイデア(シード)に引き上げるなどの創業支援を行っています。
この二つの要素はMPMの取り組みと一部重なり、効率よいマッチングを行えるという期待もあり、NEDOからの委託を頂戴できた要因でもあると思います。
「Campsの仕事は楽しい」「じゃあ来てくださいよ!」
―――Campsで積み上げてきた支援経験が輝きそうですね。お二人が広島で活動し始めた経緯は?
星山:
僕は広島市出身で、東京でワクトを創業してすぐ東日本大震災があり、長男は戻って来てほしいという両親の想いもあり、広島に住居を移して東京と行き来して仕事をしていました。2019年10月、ワクトをM&Aという形でLTSグループにジョインさせて頂いてから1年もたたずにコロナが流行し始め、上京できない状況が続きました。ビジネスの主戦場としての東京は楽しかったのですが、M&Aが完了してから地元に恩返ししたい思いも強くなり、広島でどう価値を生み出していくか悩んでいました。そんな時に当時、広島県職員だった尾上さんが率いる広島県のイノベーション推進チームからお声かけいただき、広島でD-EGGSプロジェクトという広島県を実証フィールドにしたスタートアップの実証支援事業を始めました。
ここから、県内の企業や団体へ継続的にスタートアップ支援をすることにつながり、現在では広島県だけでなく大学や市役所ともお仕事をさせて頂くようになりました。
尾上:
僕は福山市生まれの広島市育ちです。県職員時代は、星山さんに対してクライアントの立場でしたね。その後、僕はイノベーション担当から異動したことで県庁を退職、民間企業に転職しました。Campsには顔を出していて、2022年の暮れのことです。星山さんに「Campsの仕事は楽しいよね」と言ったら「じゃあ来てくださいよ!」とLTSに入社することになりました。おかげで、広島でのイノベーションの仕事に関われるようになりました。
今回のPALETTEにより、国の案件ともご縁をいただくことができ、やっとここまできました。
星山:
むしろ、LTSに来てくれてありがとうございます!広島でのイノベーション実現のきっかけを作ってくれた尾上さんと、地元広島に恩返しできるように僕も頑張ります。
人口流出解決としてのイノベーション
―――広島県で活動するアドバンテージはありますか?
尾上:
広島県は2011年、湯﨑英彦知事が「イノベーション立県」を目指す、と宣言しています。県がイノベーション創出を重要視している、ということが本当に大きいと思います。(広島県サイトページ:https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/innovation/)
星山:
どこの地方も同じですが、特に広島県は転入転出超過数が全国ワースト1位(資料1)で、人口が最も流出している県です。若者の流出が著しく、流出の半数以上は「やってみたい仕事、給与水準が高い企業がない」という理由でした。一方で、移住希望地ランキング(資料2) では上位にいるという調査結果も出ています。
「広島にいたいけど、仕事がないから出ていく」状況ですから、その状況を改善しないとなりません。スタートアップによるイノベーション創出がその一手となるからこそ、県としても重要視しているのだと思います。
尾上:
そうですね。加えて歴史と、それによる県民性も大きいと思います。広島で工業・鉄鋼業が栄えた背景には、平地が少ないという地理的特性があり農業生産性が低く、農業以外の手段で生活や経済を支える必要があった点が挙げられます。また、国外への移住者は日本一多いとも聞いています。
星山:
日清戦争時代には、明治政府により鉄道も敷かれて軍港都市になっていた歴史もありますね。
尾上:
そうです。被爆とそこからの復興もありましたから、新しいこと取り入れないと生き残れない、新しい時代に適応していく必要が常にあり、チャレンジする気質を広島県の人たちは持っているのだと思います。
中国・四国の可能性を解き放つ
―――PALETTEとLTSの広島チームが目指す未来は?
尾上:
経営人材の育成と研究者の出会いが花開くことで、10年20年後、世の中へ大きなインパクトを与える成果を上げたいです。過疎化が課題視される中国・四国地方がどこまで抗い、どこまで進化できるか…楽しみですね。いまはとにかく種まきを一生懸命する段階です。
星山:
PALETTEをきっかけに中国・四国エリアでユニコーン級の企業が創設されることを目指したいです。 イノベーション創出の実績が磁力となって、県外から産業・人材が移転・集積するきかっけにもなるはずです。LTSとしても、広島での活動が、起業家の育成・コミュニティ形成、そして大学研究シーズのビジネス構築支援にまで広がりました。
目標は、イノベーションを通じて地域の「可能性を解き放つ」こと。広島のスタッフは今5人ですが、LTSブランドを輝かせる部隊として、広島県民270万人の希望になり得る活動を継続したいです。
そして、得た知見を、LTSが拠点を置く静岡を始め全国各地に横展開し日本の可能性解放に繋げていけたらと思っています。
インタビュー
新聞記者、月刊誌編集者を経て2024年1月にLTS入社。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットを修了し、同大でサイエンス・ライティング講師を経験。著書、共著、編著に「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)など。SF好き。お勧めは「星を継ぐもの」「宇宙の戦士」「ハーモニー」など。(2024年1月時点)
ライター
2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)