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デジタルテクノロジー

シンガポール宇宙ビジネス国際会議 GSTCE2025  ~イベント参加レポート~

宇宙技術を利用したビジネスやスタートアップ企業の参入により、宇宙産業は急成長を遂げています。
2/26(水)・2/27(木)にシンガポールにて開催された、宇宙産業の最新技術やビジネスアイデアを募る国際会議「GSTCE2025(Global Space Technology Convention & Exhibition 2025)」に参加しましたので、ホットトピックや気づきをご紹介していきます。
GSTCE2025とは
宇宙産業の商業化と異業種との融合をテーマに、最先端技術や新しいビジネス機会を探る国際会議です。15か国60企業以上の出展に、世界各国の宇宙機関・政府・投資家1200名以上が集結し、宇宙技術の未来を議論しました。

■Global Space Technology Convention & Exhibition 2025 https://space.org.sg/gstce/
■開催概要
・場所:Marina Bay Sands, Singapore
・テーマ:「Commercialising Space – New Frontiers in Disruptive Innovation」
坂内 匠(LTS データ分析事業部 部長、ME-Lab Japan代表取締役社長)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。気候変動対応に向けた企業変革支援や人工衛星を用いた災害モニタリング等の気候・環境系の案件や大学と連携した研究にも従事。国際ジャーナルへの論文執筆や学会発表も経験。(2024年6月時点)   ⇒プロフィールの詳細はこちら

4テーマで考える宇宙産業の可能性

会議では宇宙産業における、商業化・衛星技術・環境・投資の観点から議論が行われました。ここからは、主要4テーマごとの議論内容や、出展アイデアをご紹介していきます。

日本・シンガポール・イタリア・インド・南アフリカから、ナショナルパビリオンも出展しました。

宇宙産業の商業化

「宇宙 x 他産業」の融合が加速し、宇宙技術がAI、フィンテック、スマートシティ、気候変動対策など多分野に応用されているようです。

AIと宇宙技術の統合
・AIを活用した自律制御、画像解析、軌道最適化
・宇宙ミッションへの生成AIの活用

宇宙スタートアップの成長と投資
・新興企業と投資家のマッチングイベント
・シード資金からシリーズBまで、宇宙スタートアップへの投資

持続可能な宇宙ビジネス
・低軌道コンステレーション(※1)、スペースデブリ(※2)対策、持続可能なエネルギー利用
・宇宙リソース利用(イン・スペース製造、宇宙資源採掘)

また、企業や政府が宇宙ベースのデータと技術を新規ビジネスに活用する戦略を模索しているシーンも語られました。

※1 地球の低軌道に多数の人工衛星を設置し、一体で機能させる技術で、高速・低遅延・高緯度の交信が可能
※2 故障した人工衛星やミッション遂行中に落とした部品等、軌道上にある不要な人工物体

衛星技術と通信の進化

衛星技術の分野では、低軌道衛星の普及と新しい地球観測技術(SAR衛星)が発表されました。

5G/6G、低軌道衛星(※3)の普及
・Viasat(米衛星通信企業)、SES(多国籍衛星通信企業)、イタリア宇宙庁などが、次世代通信衛星と宇宙からのグローバル接続について発表
・衛星通信の未接続地域(遠隔地、海上、災害時)への利用
・地上インフラと宇宙通信ネットワークの統合


新しい地球観測技術
・SAR衛星(※4)を活用したリアルタイム地球監視
・気候変動データ、農業、森林管理、都市インフラ管理への応用
・ICEYE/Synspective(衛星開発企業)、JAXA などが新しい地球観測ソリューションを紹介

※3 高度2000㎞までの軌道を、約90~120分で地球を1周する衛星で、空間解像度が高い
※4 地表の形状や性質を調べる地球観測衛星

宇宙と環境・持続可能性

「衛星データ×炭素クレジット市場」をはじめ、衛星データを環境保護に活かすアイデアが着目されています。

衛星データを活用した環境モニタリング
・CO₂排出量監視、森林減少の追跡、海洋保護など、宇宙技術の環境政策への貢献
・炭素クレジット市場と衛星技術の連携

持続可能な宇宙利用
・スペースデブリ管理、再利用可能ロケット、宇宙交通管理
・ESA(欧州宇宙機関)、UAE宇宙庁、UK宇宙局 などが国際ルールの策定

宇宙ビジネス・投資

宇宙市場は2035年に1.8兆ドルへの成長が予測されており、投資家からの視点も重視されています。

・投資家向けセッション
 ‣新興企業と大手企業のコラボレーション
 ‣公的資金(政府補助)VS 民間投資(VC、CVC、PE)
 ‣低軌道 VS 静止軌道への投資戦略
・Space financeのあり方

GSTCE2025のメッセージ

上記、主な4つの議論の中で印象的だったメッセージを以下3点にまとめました。

いま宇宙産業の形成に最も必要な能力は「ストーリーテリング」能力

宇宙産業は多くの意思決定者が登場する市場となり、もともと大切にされていたデータやテクノロジー以外に「宇宙が我々に何をもたらすのか」をシンプルに説明できることも必要になりました。

今後さらに宇宙産業を広げるには、多くの人に理解できる課題解決ストーリーや共有できる知識/理解まで落とし込み、意思決定につなげる必要があります。

アジアのエコシステム形成が必要である

宇宙産業の形成には、衛星の製造・運用・オペレーションから産業活用までのエコシステムが必要ですが、そこには、民間と政府、宇宙業界と他業種、大企業とスタートアップなど多様なプレイヤーが存在しています。
欧州(ESAやエアバス)、米国(NASAやSpaceX)はエコシステムができつつあるものの、アジア域はまだエコシステム形成が不十分であることを課題に感じています。

Inter-connectivityを意識したテクノロジーの理解

現在、地球観測衛星とコミュニケーション衛星をはじめとする、様々な種類の衛星が増えており、AIを組み合わせた産業ソリューションの登場が予測されています。

衛星とIoTの例の通り、宇宙産業は様々な業界に染み渡ることで価値を創出するため、単に新たなテクノロジーを理解するだけでなく、それらの要素の内部的な関係も含めて理解することで、新たな価値を創出することが出来ると考えています。

戦略をストーリーテリングする力が重要

GSTCE2025で行われていた議論やビジネスリーダーからのメッセージの紹介は以上です。
最後に、参加した感想を書き添えておきます。

グローバルのリーダーが言う「いま宇宙産業の形成に最も必要な能力はストーリーテリング能力である」という言葉には、大いに共感しました。

LTSも2019年頃から、ビジネスにおける人工衛星データの活用支援を行ってきました。しかし、衛星データがビジネスの現場で「誰の」「どのような課題を」「どのように」解決するのか、さらに、その解決手段として「なぜ、衛星データである必要があるのか」を明確に示す必要があります。

これらの問いに端的に答えるためには、顧客のビジネスや市場の動向を深く理解するとともに、衛星データの可能性と技術的な制約を把握することが求められます。

宇宙・人工衛星市場はまだ黎明期にあり、確立された顧客事例や先行研究が乏しい状況です。そのような環境下でも、積極的にアクションを起こし、価値を生み出していくことが求められる今こそ、戦略をストーリーテリングする力が最も重要だと感じています。