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プロセス変革・業務改革

オリックス 事業投資本部×LTS 事業成長と人財マネジメントの基盤 「スキルマップ」策定プロジェクトとは

「企業の持続的価値創造には変化への適応と、その源泉である個人(人的資本)が重要」―。こうした考えのもとLTSは、人財の可能性を最大限に引き出す人的資本経営コンサルティングサービスを展開しています。今回は、人財の可能性を最大化させる基盤づくりの支援として、オリックス株式会社事業投資本部様で実施したスキルマップ策定プロジェクトを紹介します。

オリックス株式会社について

オリックス株式会社(ORIX Corporation)
本社:東京都港区浜松町二丁目4番1号 世界貿易センタービル南館
URL:https://www.orix.co.jp/grp/

インタビューイー

左から、LTS島野、オリックス 芳尾美帆様(グループ人事部 人財開発チーム長)、
中島由利様(事業投資本部事業投資業務部 前部長)、三原浩子様(事業投資本部事業投資業務部 課長代理)、LTS萩原
島野 陽介(LTS 執行役員 経営革新・ヒューマノクラシー推進事業部 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2025年2月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

萩原さつき(LTSコンサルタント)

東京大学大学院教育学研究科修了後、新卒でLTS入社。企業や組織の変革を軸に、組織・人財~IT・オペレーションまで幅広い領域でのご支援に、プロジェクトリードメンバーとして従事している。また、SDGsやESD(持続可能な開発のための教育)に関する研究経験から、サステナビリティ領域にも明るい。(2025年4月時点)

専門性・スキルの暗黙知化に課題

―――LTSの人的資本のサービスの特徴を教えてください。「企業の持続的価値創造には変化への適応と、その源泉である個人(人的資本)が重要」―。こうした考えのもとLTSは、人財の可能性を最大限に引き出す人的資本経営コンサルティングサービスを展開しています。今回は、人財の可能性を最大化させる基盤づくりの支援として、オリックス株式会社事業投資本部様で実施したスキルマップ策定プロジェクトを紹介します。

島野:
現代の企業は、変化の激しい環境に対応するための迅速な適応能力「ビジネスアジリティ」を必要としています。アジリティとは、事業構造を外部の環境変化に対して素早く適応させることを可能にする組織能力を指します。その源泉は「人的資本」です。当事業部ではビジネスモデル、プロセス、組織・人財をつなぎ合わせ、真の競争力を発揮できる包括的なアプローチを展開しています。

今回、個人の可能性最大化の基盤づくりとして、オリックス株式会社事業投資本部様にて、スキル・人財要件の可視化(スキルマップ策定等)を支援いたしました。

―――オリックス様における個人の成長・キャリア形成に係る取組みはどのような状況だったのでしょうか?

芳尾:
オリックスでは、当社での活躍の基盤となる基本的なスキル・知識について、OJTや複数の研修を通じて入社後数年で習得します。一方で、事業が多角化しており、各部門で必要なスキル・知識が異なるため、OJT・仕事や部門別研修を通して学ぶ割合が年々大きくなっています。そのため、人事主催研修でも、各社員が必要に応じて学べるよう希望制の研修を複数用意していますが、目指すキャリアに向け、自身に必要なスキル・知識等の把握が難しいことも一因となっているのか、活用状況には個人差がある状態でした。この状況から、すでに各部門の業務内容、必要なスキル・マインド等は社員へ公開していますが、さらに踏み込んで、それらを体系的に整理し、スキルマップ・キャリアパスとして広く案内することができれば、社員のキャリア支援につながるのではないかと考えていました。

オリックス 芳尾様

中島:
事業投資本部では、「本部の業務において必要なスキルがあるが、在籍年数の長いメンバーには当たり前であっても、若手や新しく着任したメンバーには分かりづらいのではないか。本部を設立して10年以上経って、メンバーが増えている中で、本部として必要なスキルや人財要件を整理したスキルマップのようなものが必要ではないか」との話があり、専門性・スキルが暗黙知化していることに課題感がありました。

オリックス中島様

自己研鑽の指針

―――個人の成長を支援するためにも、スキルを体系的に整理・可視化することが役立つとお考えだったのですね?

芳尾:
弊社は社員の「キャリア自律」を目指しており、社員の異動配置などについても、人事部門が一方的に考えるのではなく、社員一人一人が考え、その希望を会社に伝えてほしいと思っています。そのためにも、各部門と連携しながら、事業特性に応じた実用的なスキルマップやキャリアパスを作成し、社員に提示していくことができたらよいだろうと考えていました。スキルマップ・キャリアパスの作成・提示は結果的に、事業に必要な人財の把握にもつながると思います。

―――そのような考え方から、スキルマップ策定の取組みが始まったというわけですね。

芳尾:
はい。グループ人事部としては、事業投資本部と連携して、必要なスキル・知識等を体系的に整理・定義し、将来的にその他の各部門における整理の参考にできればと考えていました。

中島:
事業投資本部としては、人財の能力の底上げが主要課題の一つであったことから、スキル・人財要件を可視化し、自己研鑽やキャリアの指針としたいと考えていました。

自己研鑽に必要な指針を示す

―――LTSのご支援のきっかけは何だったのでしょうか?

萩原:
LTSは過去にご支援させていただいた経験があった事業投資本部様からお声がけいただき、事業部に必要なスキル・専門性を可視化したいというご相談をいただきました。グループ人事部様では「社員のキャリア自律」を目指しており、今回の取組みに関連していることから、活動に加わっていただきました。

―――具体的な取組み内容を教えてください。

萩原:
まずは、マネージャー層・現場層を含めたキーマンへインタビューを実施しました。事業投資本部様において「どのような人財がどのような業務をしているのか」など、現状のスキル・人財を整理するとともに、中長期的に目指す姿から必要なスキル・人財要件や、現状の問題認識を言語化しました。

インタビュー内容を踏まえて、ドラッカーモデル(カッツモデルを基準にマネジメントだけでなく実行層も含めたビジネスモデル)※1をベースとし、事業投資本部で必要となるスキルを整理しました。さらに実行層からトップマネジメントに、求められるスキルを「マネジメントスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」「コンセプチュアルスキル」の4つに分類し、マッピングしました。

例えば、ヒューマンスキルとして「主体性(自律的に動ける力)」、テクニカルスキルとして「財務、税務、法務、会計等の情報・データに基づいた仮説構築」などが挙げられました。

※1 ドラッカーモデル
ピーター・ドラッカーが提唱し、マネジメントだけでなく実行層も含めた全階層に求められるスキルの割合を示したもの。
カッツモデル(ロバート・L・カッツが提唱。組織のマネジメントに求められるスキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類し、その割合を示すもの。)をベースにしている。

スキルマップ上の各スキルについて、構成要素や定義を詳細に言語化したスキル一覧も整理しました。スキルマップとスキル一覧を紐づけることで、求められる役割や業務に必要なスキル、自己研鑽の指針を示すことができます。さらに、上司がメンバーのスキルを把握し、能力向上に向けた指導を行う際の指針としても活用できます。

―――スキルマップ策定ならびにキャリアモデル構築において、LTSならではの考え方や工夫ポイントはありますか?

萩原:
今回の取組みでは「個人のキャリア自律」ならびに「個人の可能性最大化」を軸に、大きく3つの考え方を重視しました。

中長期の目指す姿を基点に必要な人財・スキルを考える
現状の業務や組織の状態を基点にスキルを可視化しても、将来的に業務に変化があった時や組織の方針に変更があると継続的には活用できないものになってしまいます。5年後10年後に本当に必要となる人財・スキルは何かといった視点で検討することで、持続的な個人のキャリア自律に資する基盤づくりにもつながると考えます。

可視化だけで終わらせない、個人が行動を始められる状態にする
必要なスキル・人財要件を可視化しただけで満足してしまうケースもあるかと思いますが、それだけでは個人のキャリア自律を促す指針としては不十分です。「自分のありたい姿を実現するためには何をどう伸ばせばいいのか」が個人にとって明確になることで、具体的な行動まで落とし込むことができ、キャリア自律の実現にもつながります。

個人のキャリア自律の実現に向けて、組織全体で変われる状態を目指す
自律的なキャリア形成には、個人がスキルを獲得することだけでなく、管理職の意識やカルチャーなど組織の状態も重要な要素となります。例えば、個人が学んだ知識やスキルを実務で活かす機会や仕組み、学んだことを活かすためのチャレンジする企業風土がなければ、成長実感を得られず、モチベーション低下や離職リスクにつながりかねません。ですので、将来的には、今回策定したスキルマップを、いわば組織の共通言語として、部下―上司間でのキャリア支援や目標設定などにも活用できることを目指しました。

スキル・マインドの言語化も目指す

―――スキルマップを昨年の夏ごろにリリースされたということですが、社内からの反応や評価はいかがでしたか?

三原:
リリース後、部内では「必要なスキルが可視化されてよかった」「社内インターンシップ制度※2利用者向けの説明に活用したい」等の反応がございました。また、他部署からも複数問合せをいただきました。オリックス全体でも同じ課題感を抱いている部署が複数あることが分かり、作成して良かったと感じています。

オリックス三原様

芳尾:
スキルマップの良い点としては、「キャリアの道筋が明確になり、モチベーション向上」や「上司によるメンバーのキャリア支援時に指標として利用することができ、有効」だと感じました。

※2 社内インターンシップ制度
入社2年目以上の課長層を含む総合職および一般職の社員を対象とした、原則5営業日の間、希望する部署において業務に従事することのできる制度。
他部署の業務に興味・関心のある社員が、より詳細な業務内容などについて理解を深め今後のキャリア形成に役立てることを目的としている。

―――スキルマップを策定し、今後の個人の成長・キャリア支援の方向性も見えてきたかと思います。今後の展望をお聞かせください。

三原:
事業投資本部としては、目指したい組織体制に対する仮説設定を行い、そこから現状とのギャップをもとに課題を設定することによって、人財育成の基盤を整えていきたいと考えています。

芳尾:
グループ人事部としては、各部門と連携し、部門ニーズに応じたスキルマップの作成を目指しています。マネジメントスキル、ヒューマンスキルなど、オリックス共通の内容になる場合は、同じワード(表現)を利用することも検討しています。オリックスが大切にするスキル・マインド等の言語化も目指していきたいです。

―――スキルマップ策定がオリックス様のキャリア自律の第一歩となったことはLTSとしても非常に嬉しいことですね。オリックス様からのお言葉を受けて、LTSとしていかがですか?

萩原:
スキルマップが無事にリリースされ、皆様にご活用いただいているとのこと大変光栄です。今回、「社員のキャリア自律」という観点から組織の中長期的な姿を見据え、必要なスキルや人財の姿を議論したことで、単なるスキルの可視化に留まらない、インパクトのある取組みになったと感じます。特に、自己のスキルの振返り・自己研鑽に使う目的だけでなく、上司側が部下のスキルを把握し、適切なサポートをするためにも活用いただいていることはとても印象的です。組織全体で、キャリア自律の実現に向けた変化の兆しが見られているのであれば、意義深い取組みになったと感じ、とても嬉しく思っています。

LTS 萩原

島野:
人的資本経営でやるべきことは多く、何から始めれば良いのか悩まれる企業も多いのではないかと思います。人財要件の再定義は、組織の創出したい価値と人的資本とを接続できる具体的で始めやすい活動と考えます。この活動が人的資本経営のベースになれば幸いです。ありがとうございました。

LTS 島野

インタビューアー・ライター

古橋果苗(LTSコンサルタント)

学生時代は、企業のダイバーシティ推進に取り組むNPO法人でインターンを経験。LTSに入社後は、ITシステム改修やウェルビーイング向上支援、人財育成など多様なプロジェクトに従事している。(2025年5月時点)