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デジタルテクノロジー

データマネジメントを組織全体で推進するポイント 製造業・工場データマネジメント事例から解説

現代の企業経営において、データは単なる情報の集まりではありません。適切に活用されることで、企業の戦略的意思決定を支える強力なツールとなります。しかし「データマネジメント」の重要性が認識されておらず、多くの企業でデータ活用が進まない現状があります。本記事では、データマネジメントが企業経営や変革にどう寄与するのか、またその課題と成功要因について製造業の事例を交えて、LTSのデータマネジメントサービスチームが解説します。

データとは何か?

データとは情報の表現方法の一種であり、モノの見方を表現するための「名前」や計測単位を表す「ものさし」などが含まれます。見た目は単なる数字や文字ですが、これらのデータには「どのような意味を持たせるか」「どう見たいか」「どう計測したいか」などの、組織や人の意思が含まれています。つまり、同じ現象であっても、見る角度や目的に応じてデータは異なる形で表現されるということです。

企業にとってのデータ

企業は、社内の組織・人を統制し、組織能力を最大化するツールとしてデータを活用しています。言い換えると、データは経営の意思決定を支える重要なツールとして機能します。特に組織が大きくなると、個別最適だけでは企業経営に限界が生じます。組織・プロセス横断でデータを収集・統一して状況を把握しデータを活用することで、全体最適な意思決定が可能になり、企業全体のパフォーマンスを向上させることができます。

データマネジメントとは?

データマネジメントとは、企業が蓄積した“バラバラ”なデータを“統一”して有効に活用できる状態を維持し、さらに進化させていくための継続的な取り組みです。DMBOK2(データマネジメント知識体系ガイド)※1では、データマネジメントの活動領域を以下の11項目の要素に分解して説明しています。

  1. データガバナンス
    データマネジメントを効率的に行うための体制・役割・方針・ルール・啓発計画などを定める
  2. データアーキテクチャ
    事業/機能横断的なデータ活用を効率的に行うデータ構造を全社の視点で設計する
  3. データモデリングとデザイン
    どのようなフォーマットでデータ構造の整理/可視化を進めるか計画する
  4. データストレージとオペレーション
    データベースソフトウェアを管理するとともにデータベースを実装する
  5. データセキュリティ
    データセキュリティポリシーを定め、適切な人がデータにアクセスできる一方、不正や外部攻撃の被害を最小化する
  6. データ統合と相互運用性
    あるべきデータ構造に則りデータの統合や集約を行う
  7. ドキュメントとコンテンツ管理
    文書や画像など、非構造化データの取り扱い方針などを定め実態を管理する
  8. 参照データとマスタデータ
    全社/領域/事業における共通マスタデータを管理するためのルール・体制を定め、品質を維持する
  9. データウェアハウスとBI
    組織/機能を横断したデータを組み合わせて活用するための基盤を整え、新たな知見や気づきを得られるようにする
  10. メタデータ管理
    異なる組織や人の間でデータの意味が異ならないようにする
  11. データ品質
    データ品質を測る指標と目標水準を定義し、目標水準に向けた改善・維持を行う
※1 DMBOK2
DMBOK はData Management Body of Knowledgeの略称。データマネジメントに関する知識を体系立ててまとめた書籍。DMBOK2は、その第2版(https://technicspub.com/dmbok2/)。

データがバラバラな状態とは?

企業内で発生するデータの多くは、バラバラな状態で存在しています。物理的に異なる場所に保存されていたり、フォーマットが異なっていたり、同じデータ項目であっても名称や意味、計算方法が異なることが多いです。このような“バラバラ”なデータでは、全体像を把握することが難しく、意思決定が遅れる原因となります。

データがバラバラだと何が困るのか?

データが“バラバラ”だと、組織全体における意思決定の正確性や迅速性を損ない、組織間での連携ミスや、データ活用コストの増加を引き起こす可能性があります。ここでは、製造業Aの事例を挙げてみます。

■製造業Aの事例
製造業Aでは、能力データ※2を活用して、以下のような生産体制の検討や生産計画の立案、設備・労務検証などを行っています。

  • 生産管理部門が需要予測や在庫情報、能力データから生産計画を立案
  • 製造部門が能力データを用いて自部門・生産ラインの生産計画が実行可能か検証(設備・人員)を行う
  • 同様に能力データを用いて日時計画を策定
※2 能力データ
単位(1日、1時間等)当たりの設備(生産・処理)能力を算出式で表したデータ。

しかし、この能力データが適切にマネジメントされておらず“バラバラ”な状態で管理されており、次のような課題が発生していました。

  1. 能力データが適切にメンテナンスされておらず、生産計画の検証に時間がかかる
  2. 能力データが一元管理されておらず、生産ロス・改善点の分析が困難
  3. 能力データの粒度が工場間・組織間でそろっておらず、能力の比較が困難。そのため、生産応援や設備移動などへの迅速な意思決定が難しい

結果的に、生産キャパシティを最大限活用できていない状況でした。
データ統一の目的は、これらの課題を解消し、全体最適かつ正確・スピーディな意思決定を支えることにあります。

データを統一する5つの取り組み

データの統一(データ統合)の取り組みには5つのレベルがあります。以下のように、レベル1から段階的なアプローチを踏んでいくことが必要です。

  • レベル1:データを格納する箱やアクセス可能な場所を統一する
    • 点在しているデータを物理的または仮想的に一箇所に統合する(一元化)
    • エクセルなどで組織ごとに個別管理されていたデータを1つのデータベースに統合する(データのフォーマットも統一される)
  • レベル2:データ項目の名称と意味を統一する
    • 同じ意味だが、データの名称が異なる【異形同義語】については、統一名称を設定する
    • データの名称が同じだが、異なる意味を持つ【同形異義語】については、それぞれ異なる新名称を設定する
  • レベル3:データ項目の算出式を統一する
    • データがなんらかの計算ではじかれている場合、同一項目における算出式の定義を統一する
    • 同一項目における単位を統一する(逆に、名称が同じでも単位が異なる項目は、別項目として定義する)
  • レベル4:データ入力の意思入れ※3の考え方を統一する
    • 入力値を設定する際の前提となる考え方を統一する
      (例:過去3ヵ月分の実績値の平均値を設定/目標値を設定)
  • レベル5:KPIを統一する
    • 組織の事業成果を測る目標値/評価指標を統一する
      (ビジネスプロセスや前提条件が同一である必要がある)
※レベル設定はLTSが独自に作成したものです。KPIのデータ分析をすることを前提としたデータ統一(データ統合)の取り組みです。
※3 意思入れ
一定のロジックによって算出されたデータに対し、組織的な意思や判断を加え修正すること。

レベル1~3は、データの形式や名称を統一することが主な課題であり、比較的統一が容易です。一方で、レベル4、5は入力値を設定する際の前提となる考え方を統一したり、事業成果の測定に影響が及ぶため、ハードルが高くなっています。

データを統一することのメリットは、組織全体の効率性向上や意思決定のスピードアップにありますが、デメリットとして、現場の工夫を損なう可能性や業務効率が一時的に下がる可能性もあるため、注意が必要です。

なぜデータマネジメントは進まないのか?

データマネジメントが進まない原因として、次の3つの要因が挙げられます。ここからは、先ほどの製造業Aの事例を交えて解説していきます。

1.組織の問題

データマネジメントは組織横断的な取り組みが必要ですが、データマネジメントを推進する専任組織が存在しないことが多く、統制するのが難しい場合があります。特にボトムアップな組織文化を持つ企業では、トップダウンでの推進が難しく、データマネジメントが進まない原因となります。

■製造業Aの場合
製造業Aでは「能力データの一元管理」や「データの統一・メンテナンス」の推進を組織横断的に取り組んでいました。しかし、事業責任を負っていない企画部門が取り組みを推進しており、本来この取り組みについて事業責任を負っているはずの製造部門に対して強制力が働かないことが想定されました。

2.構造の問題

データ整備にかかるコストを負担する部門と、データを活用する部門が異なるため、利益相反が発生しやすいです。このような構造的な問題もデータマネジメントの進行を妨げます。

■製造業Aの場合
製造業Aの製造部門にとっては、能力データをメンテナンスする業務が増えますが、データ活用のメリットを享受するのは生産管理や生産体制を検討する別の部署となるため、データ整備のインセンティブが働きにくいことが想定されました。

3.視点の問題

現場の従業員がデータマネジメントのゴールを意識して業務を進めていることが少ないことや、ITシステムにより作業上の問題が解決してしまうため、データ視点の重要性や意義が現場に伝わりにくいという問題があります。

■製造業Aの場合
製造業Aの製造部門では、自部門内で認識している課題「データの検索や作業時間の削減」などはITシステム導入/改善によって解決します。そのため、その先のデータマネジメントまで意識して仕事をすることが少ない状態でした。結果、データ視点でありたい姿を語ってもその意義が伝わりづらいことが想定されました。

データマネジメント推進の3つの成功要因

このような問題を抱える企業がデータマネジメント推進を成功させるには、以下の3つがポイントとなります。

1.業務の問題解決から始める

現場で直面している業務の問題を抽出し、その中からデータマネジメントによって解決できる課題を特定します。これにより、現場のインセンティブを引き出し、データマネジメントの必要性を認識してもらうことができます。

■製造業Aの場合
能力データに関連する工数がかかる業務に着目し、「業務効率化」という課題を設定しました。製造部門との相談会では、データの一元管理やデータメンテナンス・データ統一に関する問題点が出るように誘導し、出てきた問題点をデータマネジメントの観点から整理しました。製造部門へのフィードバックでは、データマネジメントの用語を使わずに製造の言葉で説明し、業務への影響や効果を全体像やストーリーで示しました。

このように現場業務の問題点に対して解決策を示すことで、現場とのWin-Winな関係を構築しました。

2.仕組みから変える

データの設定やKPI(重要業績評価指標)を変えるのではなく、データ管理の仕組みを組織・プロセス横断で統一することで、現場に利便性を提供することができます。現場の負担を増やさず、データ統一のメリットを享受してもらうことが重要です。

■製造業Aの場合
能力データのメンテナンスに関する問題・困りごとを相談会でヒアリングし、2工場×5ライン×58工程×約250項目について意味定義を行い一つのデータベースに統合することで、データ管理の仕組みを構築し、現場にとっての利便性を提供しました。

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3.ビジネスプロセス視点でビジョンを共有する

事業を構成するビジネスプロセス全体像を見せ、組織全体のビジョンとあるべき姿を共有することで、組織にどのような恩恵があり各部門の役割や業務プロセスがどのように変わるのかを明確にすることで、データマネジメントが組織全体にとってどのように有益であるかを理解してもらえます。

■製造業Aの事例
点で存在している問題を俯瞰して整理することで問題構造や業務影響が明確化し、自分に関わるプロセスが全体としてどのような構造になっているのかを把握してもらいました。あるべき姿を業務視点から製造部門の問題点への解決策として共有することで、能力データマネジメントで目指す「データの一元管理、メンテナンス・統一」が製造部門にとって自分事となりました。

まとめ

企業がデータを活用するためには、データマネジメントの重要性を理解し、組織全体で取り組むことが不可欠です。データが“バラバラ”な状態を“統一”し、全体最適な意思決定を支える仕組みを作ることで、企業の競争力を大きく向上させることができます。しかし、データマネジメントを推進するには、組織文化や構造、現場の理解と協力が必要です。現場に対してビジネスプロセス/業務の視点でデータ統一のメリットやビジョンを示すことが成功要因の1つとなります。


当サービス領域の担当者

髙橋 賢人(LTS マネージャー)

業務変革PJに従事し、プロセス可視化・工数計測、業務分析・課題抽出、KPIフレームワーク設定等を経験。その後、一連のRPA導入支援に携わる。近年、製造業におけるデータマネジメントの構想策定、標準ルール策定、人材育成プログラム構築に取り組んでいる。(2021年6月時点)

北脇 市太郎(LTS シニアコンサルタント)

製造業の生産管理、人事・労務経験を経て中途入社。製造業を中心にデータマネジメントの構想策定、サプライチェーンマネジメント変革に取り組んでいる。(2025年4月時点)

中谷 優香理(LTS コンサルタント)

銀行システムの運用・開発会社を経て、LTSに入社。新規システムの構想策定・業務要件定義などの上流工程や業務改善のプロジェクトを経験。主に製造業におけるIT化に取り組んでいる。(2025年4月時点)

越陸斗(LTS コンサルタント)

医療IT事業やソフトウェア販売事業におけるマクロ環境の調査、国内外競合サービスの探索/競合比較分析に基づいた営業戦略立案プロジェクトや、全社横断的なデータ利活用を目的としたデータベース構想策定などデータマネジメントプロジェクトを担当。(2025年4月時点)