技術進化が目覚ましいデジタル時代において、多くの企業がデジタル人材の育成に着手しています。しかし、一概にデジタル人材育成と言っても、対象者や育成アプローチはさまざまです。業務変革やIT導入支援を得意とするLTSでは、企業DXに欠かせない「デジタル人材」の育成支援を多数行ってきました。今回は、これまでの支援経験から得た人材育成の成功事例とそこから考える現状の最適な育成アプローチについて紹介します。
座学や資格取得だけで企業DXは成功しない

人材育成の目的に立ち返る
デジタル知識の教育において、一番手っ取り早いのはEラーニング等の研修や、資格取得だと思います。実際、環境準備といった手間もあまりないため、多くの企業は既にこれらに着手しているでしょう。しかし、それだけで本当に十分でしょうか?
本来デジタル人材の育成は、企業DXを成功させ、企業競争力を強化することが目的であるはずです。もちろん、ITを取り入れた環境に社員が適応するためのアプローチとして、研修等による基礎的なIT知識を身に着けるのは一定有効でしょう。しかし目的に立ち返った時、そもそも企業DXプロジェクトを推進するデジタル人材―企業変革を成功に導く「デジタル変革人材」の存在が非常に重要となります。
「デジタル変革人材」とは
ここで定義する「デジタル変革人材」は、IT/デジタルに関する知識を有するだけでなく、プロジェクトマネジメントスキルやコミュニケーションスキル、プロジェクトへの姿勢等といった、ソフトスキルも兼ね備えた人材であり、これらのスキルは企業変革を遂げるにあたってどれも欠かせません。そして、ソフトスキルは座学だけで養うことはできず、経験がどうしても必要となります。
育成効果が最大化した支援事例

では、結局のところどうすれば「デジタル変革人材」を育成できるのでしょうか?育成の成功例として、メーカー企業への支援事例を紹介します。
この企業の製造部は、従業員の個別スキルに依存した製造方法を取っていたことから、後工程で大きな負荷や手戻りが発生するという課題があり、安定した供給体制の確保や生産性の向上、AI/自動化の整備および生産モデル工程の確立を目指していました。
しかし、目的、課題、そして効果、すべての側面において解像度が粗く、意思決定の材料が不足したために同じ議論が繰り返されていました。そして、具体的な現場の問題が正しく把握できなかったために、投資効果が見合わないと経営層に判断され、改善活動が進まないという状態に陥っていたのです。そこでLTSがプロジェクトへ参画することになりました。支援内容は大きく分けて2ステップ、研修実施と伴走支援です。
ステップ1:研修
研修は座学とワークで構成されます。まずは関係者間での合意形成が必要となる取り組みのゴールや、目的の再設計に必要な検討/成果物について、体系立てた知識をレクチャーしました。その後ワークで、インプットで得た知識をもとに、実際に直面している課題をテーマに成果物を作成し、DX企画の検討を進めてもらいました。
企画では、投資対効果やステークホルダーからの期待値等を踏まえて視野を拡大し、何を活動目的にすべきかを改めて見直します。最終的には以下3つの観点で成果物が作成されました。
① 業務の全体像/構造の整理 | 全体環境を理解する |
② 業務分析 | 課題の根本要因を特定する。ファクトデータがあれば活用する |
③ 業務リスト | 仕事/モノ/データの流れを把握する |
これらが洗い出されることで、「具体的にどこでどんな課題が起き、その要因はどこにあるのか」が明確になります。なお、これらの成果物については、Good/Moreポイント等を個別にフィードバックする時間も設けました。
ステップ2:伴走支援
その後は伴走支援という形で、LTSのコンサルタントを含むプロジェクトチームを組成し、研修を通じて完成した成果物を踏まえ、詳細分析、あるべき姿の設計、パッケージ/ベンダー選定等、実際に改善プロジェクトを推進するステップとなります。また、このプロジェクトではチームメンバーとの月次1on1を行い、成果と成長目標に対するフィードバックも実施しました。
こうして、プロジェクトチームは、施策とあるべき姿の具体化や、投資対効果とロードマップ整理を行い、社内稟議までをやり遂げたのです。その後は稟議も無事に承認され、お客様企業では引き続き改善業務が推進されています。

専門家の伴走が成功の肝
ここまでで、IT/デジタルの知識を持ち、企業変革推進を成功に導く人材を「デジタル変革人材」と表現してきましたが、実はこうした人材は「ビジネスアナリスト」と呼ばれる、一種の専門家として確立されています。今回紹介した事例のサービスも、ビジネスアナリシスの知見を活用して設計されました。
コミュニケーション能力や思考力、プロジェクトへの姿勢等といったソフトスキルは、実践という業務経験を通してはじめて身につくものです。そして、プロジェクトでの行動や会話、思考等の各アプローチが正しかったかを客観的に判断することは難しく、だからこそ手本となり、適切なフィードバックを返してくれる伴走者の存在も欠かせません。ビジネスアナリストとしても、必要スキルの内訳としてソフトスキルは比重が重いとされており、LTSでもOJTのもと育成しています。
知識のインプットと実践経験、このふたつを適切な形でバランスよく取り入れることが、企業DXを成功に導く人材の育成に向けた第一歩となるのです。

ライター

2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)