【関西エアポート変革支援事例(上)関西国際空港 視察レポート】心地よい体験価値をDXが支える 変革し続ける日本初の完全民営化空港のサムネイル
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【関西エアポート変革支援事例(上)関西国際空港 視察レポート】心地よい体験価値をDXが支える 変革し続ける日本初の完全民営化空港

関西国際空港(KIX)など、日本で初の完全民営化空港を運営する関西エアポート株式会社(KAP)とグループ各社は、さらなる空港の成長を目指してDXを進め、空港の利便性と利用者の体験価値、そしてバックオフィスの生産性向上に取り組んでいます。LTSはKAPとともに、変革人材(ビジネスアナリスト)の育成やシェアードサービスセンターの立ち上げに伴走しています。KAPがDXで描く空港の未来とは―。LTSマーケティングチーム菅野奈月が、KIXを視察したレポートをお届けします。
(下)では、KAPの専務執行役員最高管理責任者、片平聡さんへのインタビューをお伝えします。
・プレスリリース: https://lt-s.jp/news/pressrelease/2025-06-25

大規模リニューアルの裏方

国際線出国エリア待合スペース「PLAZA」

力士やメイド、大阪・関西万博イベントキャラクターのミャクミャク…。こうした日本を彷彿させる映像が大きな筒形サイネージに流れるここは、国際線出国エリアの待合スペースで、新しいシンボルでもある「PLAZA」です。苔庭をイメージしたフロアカーペットも張られ、日本らしさを感じさせてくれます。周囲には有名ブランドの路面店や飲食店が並び、ガラス越しには滑走路と大阪湾、遠くの街並みが望めます。これから紹介する国際線出国エリアの各施設は、2023年12月から25年春に完成したリノベーションにより一新されました。顧客体験を向上させるため、目に見えないところで工夫が盛り込まれていました。

移動と時間を効率化 コモンチェックイン

コモンチェックイン端末が並ぶカウンター
コモンチェックイン端末機の画面、各社の手続きが可能

セルフキオスクと呼ばれるこちらのチェックインカウンターに並んでいるのは、セルフサービスの搭乗チェックイン端末です。「多くの空港にあるよ」と思った方、少し違います。一つの端末で複数の航空会社の手続きができることが特徴で、ターミナル1であれば25~26社に対応しており、コモンチェックインと言うそうです。チェックインしようとしたら、指定のカウンターは遠くだった…なんて経験はありませんか?そういった移動の手間や迷いを省いてくれるのです。

また、有人カウンターでのチェックインは搭乗2時間前からの受付が一般的ですが、こちらを利用すれば6時間前から手続き可能です。利用者は早めにチェックインを済ませ、ラウンジでゆっくり休むことができます。「搭乗者に早めにチェックインしてほしい航空会社としても好評です」と片平さん。航空会社も受付対応の人件費を削減できる三方良しの導入となったのです。

「待たない」「待たせない」保安検査レーン

保安検査エリアは、2025年3月に改装を終えたばかりでした。検査レーンが拡張され、その面積は改装前と比較して約1.8倍。それまでは、検査済荷物の受け渡しの際、人が詰まってしまうのが悩みだったそうですが、前の人を追い越すことができる構造に変化させることで、「ほかの人を待たせてしまう、待たなければならない」という利用者の負担が軽減されました。私自身、検査のために靴を脱ぎ履きする際、後ろを待たせてしまった経験が多くあるため、こうした工夫はありがたいですね。

お土産は事前オーダーで素早く

Preorder Pickupのカウンター

保安検査を終えてエスカレーターを降りると、いよいよ免税店が並ぶフロアです。これから出国する日本人はもちろん利用できますが、私は出国しないので残念ながら買い物NGでした…。フロアに入ってすぐ目にとまったのは「Preorder Pickup」(事前注文の引き取り)カウンター。こちらも25年春完成のリノベーションで導入されたばかりです。お菓子といった売れ筋だけどかさ張る商品をインターネットで事前購入し、出国審査後に受け取る仕組みです。商品はバックヤードで包装されており、通常のレジよりも格段にスムーズな商品の支払い・受け取りが可能となっています。
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Preorder PickupはKAPにもメリットが大きいようです。「売れ筋商品は店頭から消えては品出し―という作業が多く、陳列棚の場所も取るため販売効率が悪くなりがち」と片平さんが説明してくれました。Preorder Pickupなら、その手間はありません。片平さんは「お客様の認知度、利用率はまだ低いのでさらにPRしたい」とのこと。ちなみに外国人観光客に人気のお土産は、ダントツで北海道のお菓子だそうです。

ウォークスルー型で隅まで見通せる免税店エリア

免税店エリアにある商品注文用タブレット

写真を見て、他の空港との違いに気づきましたか?免税店エリアの特徴は回遊的構造の「ウォークスルー型」になっていることです。出国審査から搭乗までの移動ルートに店舗が配置されています。売場面積は約2500㎡と日本最大級でありながら、移動しつつ壁際の商品まで「隅々見通せる」(片平さん)構造となっています。

また、売れ筋、かさ張る商品には注文用のタブレットが用意され、カウンターで受け取ることができます。ここでも「待たない」、品出し不要の配慮がなされています。「財布の紐が緩むキケンなエリアだ!」と震えつつ、知らなかった商品との出会いなどワクワク感があって、ショッピングにとても魅力だと感じました。なかなか市場に出ない貴重な酒類も並んでいましたので、お酒好きの方も必見ですね。

取材後記。心地よく楽しい“滞留”をデザイン

ほかにも「世界的に大変珍しい形態ではないか」と片平さんが言う、航空各社共通で用意した「コモンラウンジ」などが用意されています。こうした施策に共通しているのは、「利用者に空港での時間をいかに有意義に楽しく過ごしてもらうか」を追求する姿勢と、そのための手段の一つとしてのDXでした。チェックインや出国審査といった、利用者の“ストレスとなる待ち時間”はできる限り減らし、買い物やラウンジ利用といった“有意義でくつろげる時間”を作りあげるのです。また、空港運営を担う現場の販売員や航空各社従業員の作業削減にも寄与しており、より多くの時間を接客に割き、利用者の満足度をさらに高めるというサイクルが生まれています。

KAPは長年に渡ってDXと顧客・企業価値向上に力を注いでおり、コロナ禍でもその取り組みを止めず、むしろ加速させました。変化し続ける環境にどう適応し、ステークホルダーすべてに良い効果を生み出すには何が必要なのか?
(下)では、KAPのDXや課題、目指す姿について、片平さんにお話を伺いました。


ライター

natsuki(LTS CLOVER編集部員)

2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)