【関西エアポート 変革支援事例(下)業務改善・シェアードサービスセンター立上げに伴走】業務改善とシェアードサービス 変革する組織文化醸成への第一歩 関西エアポート専務執行役員最高管理責任者 片平聡さんに聞きましたのサムネイル
プロセス変革・業務改革

【関西エアポート 変革支援事例(下)業務改善・シェアードサービスセンター立上げに伴走】業務改善とシェアードサービス 変革する組織文化醸成への第一歩 関西エアポート専務執行役員最高管理責任者 片平聡さんに聞きました

関西国際空港(KIX)など、日本で初の完全民営化空港を運営する関西エアポート株式会社(KAP)とグループ各社はDXを加速させ、空港の利便性と利用者の体験価値、そしてバックオフィスの生産性向上に取り組んでいます。変革人材(ビジネスアナリスト)の育成や、グループ企業が個別に行っている間接業務を集約するシェアードサービスセンターの立ち上げにおいて、LTSから村山沙英(Consulting事業本部・ビジネストランスフォーメーション事業部)が伴走しています。進化し続けるKAPが描く空港の未来の姿とは―。KAPの専務執行役員、最高管理責任者の片平聡さんと、グループ統括管理部の潰崎誉さん、LTSの村山沙英に話を聞きました。(敬称略)
・プレスリリース: https://lt-s.jp/news/pressrelease/2025-06-25

片平 聡(関西エアポート株式会社 専務執行役員最高管理責任者)

2020年入社。関西エアポート神戸株式会社 執行役員神戸統括部長を経て2021年4月から現ポジション。前職のオリックス株式会社では常務執行役として、OQL・営業推進本部長やグループCIO等を歴任。(2025年6月時点)

潰崎 誉(関西エアポート株式会社 管理本部 グループ統括管理部 グループコーディネーション グループリーダー)

2018年入社。前職含め主に法務・人事領域に従事し、会社再編やジョブ型人事制度導入などのプロジェクトに参画。2023年11月から現ポジションで経営企画を担当。2024年4月に業務改善プロジェクトを立ち上げ。(2025年6月時点)

村山 沙英(LTS コンサルタント)

業務分析・業務改善プロジェクトに従事しており、BPMの手法を活用し、業務の可視化や課題抽出、改善提案を行ってきた。直近では関西エアポート経営企画に出向し、現場に深く入り込みながら、実行支援と変革人材の育成にも取り組んでいる。現場の目線を大切にし、持続的な変化を生むことを意識している。(2025年6月時点)

ポテンシャルを活かせていなかった

―――1994年のKIX開港以来、初めてとなる大規模リノベーションが2026年夏まで続きます。取り組みの背景には何があるのですか。

関西エアポート専務執行役員 最高管理責任者の片平聡さん(左)
(KAP管理本部グループ統括管理部、上河聡さん撮影)

片平
KAPはオリックス株式会社とフランスの空港運営会社VINCI Airports(ヴァンシ・エアポート)を中核とするコンソーシアムによって設立され、日本初の完全民営化空港としてKIXをはじめとした関西3空港の運営を担っています。空港はインフラ施設であるため、極端に言えば何もしなくても人が自然と集まる施設です。しかし、KAPが運営を引き継いだ当初は時代の変化に適応できていない側面が多々あり、ポテンシャルを活かせていない状態でした。そこで会社の重点方針として、KIXのDXプロジェクト(PJ)に着手することにしました。

村山
LTSとしては、亀本悠(副社長執行役員)と山本政樹(常務執行役員CSO)が、オリックス時代の片平さんとお付き合いを頂いており、そのご縁で伴走支援をスタートすることになりました。2024年4月のことですね。

片平
2020年2月、新型コロナウイルス禍の時期はそれまで推進してきたPJをさらに進める転機になりました。空港は大きく輸送、商業、バックオフィスという3つの機能で成立しています。コロナ禍では輸送機能の大半とバックオフィスの約5割が停止し、商業施設の売上は約9割減という危機に陥りました。

輸送機能飛行機を安全に離着陸させ、お客様や貨物を安全に送り届ける
商業機能免税品やお土産の販売、飲食の場を提供する
バックオフィス機能空港機能と商業機能を支える
空港の三大機能

大ピンチでしたが同時に私はチャンスだと捉えました。大きな変革が求められるタイミングだからこそ、それまでの課題解決へアプローチする絶好の機会だと感じたのです。

情報連携はFAXだった

―――インフラである空港を運営する企業には、一般とは異なる特徴があると思います。KAPの「それまでの課題」とはどういったものでしょうか。

片平
空港機能は税関、消防、航空会社といった多くのステークホルダーによって成り立っており、各機関と適切なタイミングで効率的に協調した情報連携が求められます。しかし以前、例えば情報の伝達手段にFAXを使用しているなど、いささか時代錯誤とも言えるような状態でした。法律やセキュリティでの制約があったわけではありません。官庁が異なるため、そもそも部門や組織を横断した連携をしにくい縦割り構造だったことが主因です。“デジタル化”、“DX”がバズワード化しても、アップデートはされませんでした。

片平
また商業機能で言えば、空港利用者およびお客様の受け入れ体制や設備が整いきっていなかったと言えます。売店で長蛇の列ができたり、売れ筋商品の店頭在庫を切らしてしまったりと、細かな点ではありますが改善の余地が多くありました。
不要な待ち時間やストレスをいかに減らせるか、お客様・航空会社・空港がwin-win-winな関係をどう築いていくのかを念頭にDXと新しい仕組みによる改善、それに適応するための組織改革を推進する必要がありました。

データベースで情報を一元管理

―――リノベーションエリアを見学させて頂き、お客様に関わる面では、実際に“待ち時間”解消のアプローチを多く垣間見ることができました((上)参照)。改革にはどんな思考でアプローチしたのですか。

片平
お客様の空港利用に直接、変化を及ぼすものを挙げると「Airport Operating Database(AODB:空港運用情報の集約と一元化が可能な空港オペレーションのための総合データベース)導入の取り組みが代表的なDXです。各ステークホルダーがAODBに情報を入力することで、搭乗者が空港に来て出発するまでの情報をタイムラグなく確認・連携ができるため、お客様向けに案内する欠航や遅延といった情報のタイムリーな伝達も可能となりました。また、AODBの導入効果は輸送機能だけにとどまらず、バックオフィス機能や商業機能にも及んでいます。情報が整理・集約されれば、航空会社と空港間で発生する駐機料金や施設使用料の管理も簡略化され、請求を一本化して手間を省くこともできるようになります。
まだ構想段階ではありますが、将来的にはこのシステムで蓄積した情報を応用することで、利用者データをプライバシーに触れない範囲で集約し、テナントやステークホルダーとの連携に繋げ、各種オペレーションの改善に活かしていきたいと思っています。

シェアード機能導入の理由

―――システムが変われば業務の変化も求められると思います。今回のPJにおける、バックオフィスなどの業務改善はどういった取り組みを進めたのでしょうか。

片平
コロナ禍のタイミングで行ったリソースの見直しをきっかけに、バックオフィス機能の業務最適化とシェアードサービスセンターの立ち上げに着手しました。ただし、業務の整理やフローの書き方、改善後の効果計測の方法など、この領域には専門知識が求められます。最速で結果を出すためLTSに支援してもらうことにしました。

村山
シェアードサービスセンターの構築は、業務改善の延長で生まれた取り組みでしたね。業務改善に着手する過程で、業務の標準化と品質向上、コスト削減、KAPの展望などを考慮して推進することになりました。

LTSの村山沙英(右)
(KAP管理本部グループ統括管理部、上河聡さん撮影)

片平
コロナ禍が落ち着けばまた空港利用者が増え、人も必要となります。その時、ただ人を増やして組織をリバウンドさせるのは少し違う。前身から課題だったバックオフィス業務を、“適切な人員で”効率的に運用し、変化にも適応できる、コロナ禍前より最適化された状態に組織をシェイプアップさせることが必要でした。
当初は山本政樹さんの『ビジネスプロセスの教科書』を拝読し、座学の知識で「なるほど」となることも多くありつつ、やはり現場での試行錯誤は必要でした。特に1年目は、組織の全体感やミッションをあらためて理解し、業務を見直すというように、書籍で得た知識や手法をPJで実践しようと奮闘しました。

潰崎
まずは、関西エアポートグループ統括管理部(以下、統括管理部)が主導して、現場の状態確認を進めていきました。備品管理業務では点検・管理がしにくい運用状態であったり、反社チェック業務ではリスク判断に用いる資料の確認フローに重複があったりなど、あれよあれよと見直すべき点があらわになりました。経営層が部下へ気軽に依頼したレポート作成をコスト換算すると非常に高くつく成果物になっていた、ということもありましたね。

展望エリアから見たKIXのエプロン

村山
そこで私たちは、業務の成果物やアウトプットが後の工程でどのように使用されているのかを現場ヒアリングで洗い出し、曖昧だったものは見直し候補としてリストアップし、特に変えるべき業務の整理をしていきました。前身から引き継がれたままの要改善なバックオフィス業務は、大小さまざまありましたね。

【見直し候補(一例)】
・人員人件費をバイネーム単位で計算し、レポーティングすること
・許認可の取りまとめ業務における非効率な作業依頼
・社宅の修繕のために都度発生している個別調達手続き
・社員証の写真加工への工数と必要度の見直し

ヒアリングの際は、細かいくらい、現場社員の皆さんに「そこまでする理由ってなんですか?」「それ必要ですか?」といった質問を重ねました。くどいと思われたかもしれません。

潰崎
村山さんのヒアリングを受け、「なぜ○○するのか」という目的意識や、どうしたら現状がより良くなるかを自ら考えていくオーナーシップ的意識が、社員に欠けていたのではないかという気づきがありました。一言で言えば、業務を“ただこなしている”状態です。そういう意味で、「現場社員ひとりひとりの意識をどう変えていくのか」ということもミッションのひとつになりました。

人事制度改定で改善アプローチ

―――現場社員ひとりひとりの意識を変えるために何か行った施策はありましたか。

片平
グループ企業も巻き込んだ人事制度の改定を進めました。「どうしたら今よりも良い状態になるのか?」を各社員が思考できる状態にするには、現場レベルの改善だけではモチベーション面で不足します。以前は年功序列的―端的に言えば居るだけで昇給・昇進していく仕組みでした。それでは、努力や成果が評価されず、マネジメント層が必要以上に力を持つ、頭でっかちな組織となってしまうため、改革も進みません。
そこで改定人事制度では、基本給はそのままに、能力給のボーナス制度を取り入れました。頑張ればその分評価されるという仕組みがなかった分、努力が報われる状態となったため、社員としても「どうよりよくしていくか」を検討していくモチベーションに繋がったと思っています。

空港はインフラ。しかし根幹には人

―――シェアードサービスセンターの本格始動は2025年7月からですね。変革のフェーズ1ということですが、今後の展望を教えてください。

(KAP管理本部グループ統括管理部 上河聡さん撮影)

片平
社員みんなが改善サイクルを回し、現場レベルから業務効率化を検討できる組織文化を醸成します。そうすることで、社員一丸でさらなる顧客価値の創出ができるようになると思います。まだ少し時間が必要ですが、今回の施策は社員育成の始まりです。

潰崎
村山さんにはメンバーの育成やPJ推進に大きく貢献していただきました。共に膝を突き合わせて悩み、伴走いただいたからこそ、私たちの成長にも繋がったと思っています。

村山
ありがとうございます。私自身も学ばせていただくことが非常に多く、貴重な経験でした。LTSのサービス軸の一つである「支援して終わりではなく、アジリティを獲得、自律できる組織に」ということを胸に伴走に取り組ませていただきました。

片平
個人的に「支援して終わりではなく、顧客が自律できる状態にする」というLTSのポリシーを気に入っています。ベンダーによる0円入札なんて時代もあったIT業界で、「顧客の自律を促すというのはビジネスとしては大丈夫なのかな?」と勝手ながら心配もしていました。しかし、顧客とのwin-winの形だからこそ得られる、継続した関係構築をあえて目指すLTSは唯一無二だと思っています。
空港はインフラ施設ですが、「人」が根幹にあります。利用者にとっては旅の思い出の出発点、終着点です。だからこそ私は、空港ビジネスではDXと同じかそれ以上にCX(Customer Experience:顧客体験価値)・EX(Enterprise Transformation:企業が改革により競争力を高めること)観点での施策を大切にしたいし、DXで賄えない領域を変革するのは人間の力だと信じています。
社員が改善サイクルを回して都度業務を効率化していくという「はずみ車」を動力に、さらなる顧客価値を社員一丸となって創出できる組織にしていきたいですね。今回の施策を通じて生まれた社員の意識変化は、私たちの潜在的価値引き出し、さらなる企業成長の第一歩となるでしょう。

視察後の集合写真
左からLTS亀本悠、LTS村山沙英、KAP片平聡さん、LTS山本政樹

インタビューアー・ライター

natsuki(LTS CLOVER編集部員)

2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)