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ビジネスアナリストとスクラムマスターの違いとは〜IIBA認定資格 Agile Analysys Certification(AAC)を資格を取得して気づいたこと〜  

みなさん、こんにちは。LTSの大山あゆみです。先日、Agile Analysys Certification(以下、AAC)を取得しました。これは、IIBA®(International Institute of Business Analysis)が提供するアジャイル環境におけるビジネスアナリシスの専門性を証明する認定資格です。先に取得した「認定スクラムマスター」との違いや、資格取得の過程で学んだことを共有します。
大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

社内システム開発PJに携わりながら、ビジネスアナリシスやアジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist、IIBA ECBA、IIBA AAC保有。(2025年6月時点)

ビジネスアナリストとスクラムマスターの違いは?

きっかけは、とある社外の勉強会でのことでした。勉強会にはさまざまな企業でビジネスアナリストとして活躍されている方が参加されており、日ごろの業務からの学びや気づき、課題の提起などがされていました。

わたしはその勉強会の場で、アジャイルで実施された社内プロジェクトでビジネスアナリストとスクラムマスターを兼務した経験を共有しました。その際、参加者からこんな質問がありました。

「ビジネスアナリストとスクラムマスターの違いってなんだと思いますか?」

すぐに言葉が出ませんでした。
スクラムマスターの資格は取得していたし、業務経験も積んでいたつもりでしたが、ビジネスアナリストとしての体系的な知識にはほとんど触れてこなかったことに気づかされた瞬間でした。経験=知識とは限らない。構造的に理解していないと、似ているように見える役割の本質的な違いには答えられないのだと痛感しました。

そこで、BABOKとBABOKアジャイル拡張版を使用し、ビジネスアナリシスの基礎とアジャイルビジネスアナリシスを学び直しました。

BABOKアジャイル拡張版から見えたこと

AACの学習はビジネスアナリシスのナレッジ集であるBABOK (Business Analysis Body Of Knowledge)のアジャイル拡張版である『BABOKアジャイル拡張版』をベースに進めます。

視点は”チーム”から”組織”へ

これまで、アジャイル開発プロジェクトにおいて、スクラムマスターとしてチームの自己組織化を支え、ビジネスアナリストとしてユーザーストーリーや要件の整理を進める中で、わたしはずっと「このプロジェクトチームにとって価値があること」、つまりプロダクトオーナーを含めたプロジェクト全体として成果を出すことに意識を向けていました。

もちろんそれ自体はとても大切なことですが、アジャイルビジネスアナリシスではさらに一歩引いた視点である「組織全体にとっての価値とは何か?」という問いが中心にあります。しかもそれは単なる定義や理論ではなく、3つのホライズン(視野)―ストラテジーホライズン・イニシアチブホライズン・デリバリーホライズン―を通して、段階的かつ具体的に考える必要がありました。このホライズンの考え方は、私にとって非常に新鮮でした。

それと同時に、今まで自分がフォーカスしていたのは、ホライズンの中では「デリバリー」が中心だったという気づきもありました。ビジネスアナリストは、それぞれのホライズンで異なる視点と役割を持っていますが、どこでも「価値」を意識し続けることが共通しています。これからは自分がいるホライズン以外にも視野を広げて、ビジネスアナリシスに取り組みたいと考えています。

ニーズに応えるソリューションの輪郭をつくる

アジャイル開発の現場で、スクラムマスターとビジネスアナリストが担う役割は異なります。スクラムマスターは、チームの自己組織化や継続的改善を支援し、チームが健全に機能するための土壌を整える存在です。一方、ビジネスアナリストは、ステークホルダーとの対話や探索を通じてニーズを明らかにし、そのニーズに応えるソリューションの輪郭をつくる存在です。

このように立場は異なっても、両者に共通するのは「チームが価値あるものを届けられるようにすること」。つまり、どちらも“価値を追い求めるチームの一員”であるということです。

過去には、スクラムマスターとビジネスアナリストを兼務する中で、自分の立ち位置が曖昧になる瞬間もありました。たとえば「今、私はチームの自己組織化を支援する立場なのか? それともビジネス要件を深掘りする立場なのか?」と迷い、自分の振る舞いに戸惑うことがありました。

そうした経験をこの学習を通して振り返ることで、「役割を明確に切り分ける」ことよりも、「価値に向かって役割を調整し続ける柔軟さ」が必要なのだと腑に落ちた気がします。

変わり続ける「価値」を洗練する

今回の学びを通じて、「価値」という言葉の奥行きを再認識しました。それまでのわたしは「チームがうまく回ること」「プロダクトオーナーの期待に応えること」「納期までに高品質の成果物を作ること」が価値だと捉えていましたが、それは“価値の一部”にすぎませんでした。アジャイル開発でビジネスアナリストが関わる価値のスコープは、もっと広く、ストラテジーやイニシアチブといった上位レベルにも及ぶことを知りました。それぞれのホライズンがつながり、ループのように別のホライズンからのフィードバックを重ねながら、価値を洗練していくイメージは、今の私にとって大きな発見でした。

BABOKで定義されている「価値(Value)」は「ニーズに応える変化(=チェンジ)」を通じて生み出されるものだとされています。そしてその価値は、常に組織/顧客の状況や文脈の中で絶えず変化し続けるのです。

スクラムマスターとして、チームの中に視点を向けることも大切。でも同時に、ビジネスアナリストの視座で「なぜこのプロダクトをつくるのか」「それは誰にとってどんな意味を持つのか」「この”価値”は今も変わらず”価値”なのか」を常に問い続けることもまた、アジャイルチームの一員として欠かせない姿勢なのだと、改めて気づくことができました。

おわりに 知識を超えて視野が広がる

今回のアジャイルビジネスアナリシスの学びは、単なる資格試験のための知識を超えて、わたし自身の視野を大きく拡げてくれました。かつて答えられなかった問い「ビジネスアナリストとスクラムマスターの違いは何か?」に、いまならこう答えるかもしれません。

「スクラムマスターはチームが”価値”を届けられる場所を整える人、ビジネスアナリストはどんな”価値”を届けるかを共に探す人。どちらも変化を起こし支え、価値を洗練するループの中にいる人」

今後も、学んだ知識を実務に活かしつつ、継続的に価値提供ができるビジネスアナリストを目指していきたいと思います。そして、この経験を活かして、今後はより広い視野でプロジェクトやチームに貢献していけたらと思います。
そして何より、この資格取得の機会をくれた上司に、心から感謝しています。