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プロセス変革・業務改革

データ基盤にまつわるアンチパターンの回避方法 ~プロダクトに惑わされない最短ルート~

クラウド、データレイク、データファブリックにAIエージェント…、目まぐるしいスピードでテクノロジーが進化するデジタル時代において、多くの企業がデジタル活用に本腰を入れ、業務改善や新規事業創出、さらにはAI活用を見据えた動きも本格化しています。しかしその裏側では、ある「静かな混乱」が広がっています。それは、「顧客創出や業務改善に必要なデータが社内にあるのにデータ基盤では使えない」という業務担当者の嘆きであり、「ツールが多すぎて何が自社に最適か判断できない」という情報システム部門担当者の叫びです。データはある。ツールも揃っている。それにも関わらず求めるデータにはたどり着かない。背景には何があり、解決の手立てはどこにあるのでしょうか?

☞LTSでは、本テーマに関連したセミナーを講演する予定です。詳細については、後日【セミナーページ】にてお知らせします。

齋藤 純一郎(LTS EA事業部 部長)

エンジニアとしてキャリアをスタートし、外資系コンサルティングファームを経て2024年にLTSへ入社。現在はEA事業部で部長を担当。コンサルタントとエンジニア両面の経験を強みに、長年に渡りIT戦略やエンタープライズアーキテクチャ策定、全社データ戦略策定の支援を経験している。(2025年6月時点)

ソリューション市場成長の弊害

企業DXの取り組みとしてシステム導入/刷新を検討する一方で、データ活用について頭を抱える企業が増加傾向にあります。「良さそうに見えたが、導入したら他のシステムとうまく連携できなかった」「データ整備が前提となっていたが、その体制が整っていなかった」「ガバナンスまで含めた運用設計が甘かった」といった声を耳にするようになりました。こういった悩みの背景には、デジタルソリューション市場の構造変化があります。

選択肢は増えた、しかしそれは“閉じた”コンポーネント

昨今、AIプラットフォーム、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)、データカタログ、ガバナンスソリューションなど、魅力的なツール群がベンダー各社から次々とリリースされました(以下参照)。しかし、こうしたツールの多くはあくまでデータ基盤のいちコンポーネントを構成するもので、「単品勝負・各領域特化」が前提です。当然ライフサイクルも異なります。そのようなツールを担ぐSIer・ベンダーもソリューション起点の提案となりがちで、データ起点の業務変革や永続的なデータマネジメント体制の構築まで踏み込んだ支援は十分ではない傾向にあります。

出所:https://notion.castordoc.com/modern-data-stack-guide

結果として、それぞれは便利なツールで、企業が取れる選択肢が増えたにも関わらず、企業全体で見た時にデータ基盤の最適化には繋げられず、業務の最前線―業務システム内でデータを活かそうにも、うまくいかない状況があちこちで見られるようになってしまいました。

失われた“全体を見てくれる存在”

さらに業務システムとの連携不足に拍車をかけたのが、大手SIerによる一括支援体制の消失です。かつての日本企業には“お抱えのSIer”が存在し、彼らは企業全体の業務とシステムを丸ごと理解し、長年にわたって基幹システムや周辺システムの導入・運用に伴走していました。彼らはCIO/情報システム部長の頼れる相談役の立場でもありました。

しかし現在、ITの発展を含む様々な理由により、そのようなスタンスを取り続けるSIerは減少しています(この要因・背景については別の機会に論じたいと思います)。一社ですべてをカバーすることが難しくなった結果、「ツールベンダー」と「導入支援会社」が分離され、企業に寄り添う“全体設計の伴走者”が不在となってしまいました。

データ基盤の”あるべき姿”を描けないことのリスク

こうした背景のもと、ソリューションありきの“個別導入”が進み、結果としてデータはサイロ化したまま社内に散在し、いざデータ基盤や他の業務システムに連動させようとしてもそれを実現できない企業が増えました。いわば社内各所のツールが“個別最適”で構築されている状態です。さらに、最近では生成AIやAIエージェント活用の機運が高まっており、「学習データを整えられない」「活用に踏み出せない」など、より悩むこととなりました。各社でDX化が進む昨今、システム導入/刷新の効果をなかなか得られないと感じる企業の多くは、こうしたツール検討の前段である「データ基盤の構築」に課題を抱えています。最近の情報システム部門やCIOの多くが直面している悩みです。

データ管理や連携が杜撰であれば、システム導入による効果を最大限に得ることはできず、むしろトラブルに繋がることすらあります。例えば、サプライチェーン全体の環境負荷を算出することもままならない、AIのトレーニングも難しいといった場面に遭遇するでしょう。「どこにどんなデータがあるのか」「どうデータを整備し、ガバナンスすべきか」が描けないこと、自社にとって“あるべきデータ基盤”の全体像を描けないことは、持続可能な企業を目指す上でもリスクなのです。

“全体最適”を描ける伴走パートナーを取り戻す

こんな現状を根本から打開するには、“全体最適”なデータ基盤構築を前提として、社内のシステム構造を描かなければなりません。ビジネスとテクノロジーを繋ぐ「橋渡し役」こそが、CIOが捉える企業の“漠然とした課題感”を言語化し、ビジネス(業務部門)とエンジニアリング(IT部門/ベンダー)の対話を設計し、企業にとって無理のない、現実的で持続可能な仕組みへと導いていくのです。

実はこうした役割を持つ人材は海外ではメジャーであり、一般的にエンタープライズアーキテクトという専門人材として確立され、よりデータにフォーカスした役割であれば、データアーキテクト(組織が抱えるデータを収集/管理し、活用しやすいように設計する専門家)と呼ばれます。

近年では、日本企業でもこれらの人材や組織を社内で育成する動きが出てきましたが、そのためにはコストやナレッジ、体制といった環境づくりが不可欠です。こうしたリソースを揃えることが難しければ、外部企業の力を借りるのも一つの手でしょう。複雑化/混迷化するデジタル時代の今こそ、まずは“自社事業と整合したデータのあるべき姿”を描ける人材と共に、ビジネスと真に連動したデータ基盤を構築する。これが、企業DX成功の土台となるのではないでしょうか。