ライター
このコラムの著者、大井悠が執筆する書籍「Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー」を2019年9月27日に発売しました。
本の詳細は「Process Visionary」紹介ページよりご覧いただけます。
ビジネスアナリストのコンピテンシはソフトスキルとテクニカルスキルに分類される
最新版のBABOKによると、ビジネスアナリストのコンピテンシには大きく6つのエリアがあります(下記の図参照)。
これらのうち、分析的思考、問題解決、行動特性、コミュニケーションのスキル、人間関係のスキルは、いずれもソフトスキルに分類できます(図ではピンク色に塗っています)。対して、ビジネス知識、ツールとテクノロジーはテクニカルスキルに分類できます(図では緑色に塗っています)。図で見ると分かりやすいですが、コンピテンシの半分以上がソフトスキルです。ビジネスアナリストに求められるスキルは、ソフトとテクニカルの両方が必要とされ、またソフトスキルの比重の方がやや重いのが特徴です。
ビジネスアナリストの仕事の根幹は、コミュニケーションにあります。その点から、BABOKのスキル体系を見てみると、「行動特性」はコミュニケーションの前提となる、相手からの信頼を得るために必要な素質です。「分析思考と問題解決」は相手の意図を正しく理解し、情報を正しく理解・分析する、そして相手に物事を分かりやすく説得力を持って説明するために活用します。「コミュニケーションのスキル」や「人間関係のスキル」はコミュニケーション上で大切なスキルです。
ちなみに、コンピテンシとは「高い業績を上げている人の行動特性を分析し、その行動特性をモデル化したもの」なので、6エリアの全てを完璧に満たさなければビジネスアナリストになれない、というわけではありません。担当する領域によって重視されるスキルの濃淡は様々ですし、多くの職業がそうであるように、人によって強み弱みは異なります。ただし、ビジネスアナリストとして仕事をする過程で、各エリアに登場するスキル群は必ず必要になります。ビジネスアナリストは、キャリアを積む過程で、多かれ少なかれ徐々にこうしたスキルを身に着けていく必要があります。
ここから先は、このコンピテンシをソフトスキルとテクニカルスキルに分けて、それぞれどのように獲得していけばよいのか、考えてみたいと思います。
ソフトスキル:状況に応じて適切な行動・思考を出来る能力
コンピテンシの半分以上を占めるソフトスキルですが、その内訳は「システム思考」や「創造的思考」など、一見、どうやって習得すればいいのか頭を抱えてしまうものばかりです。ソフトスキルは、一般的にテクニカルスキルと比べて学習が難しいと思われがちです。その理由の1つは、ソフトスキルは目に見えず定量的な測定が難しいためです。そしてもう1つは、その人自身のパーソナリティや生まれつきの才能に起因するもののように思われてしまうためです。特に「コミュニケーション能力」や「思考力」は、パーソナリティと結び付けられる傾向が強いかもしれません。しかし、これらの理由は必ずしも真実ではありません。職業的に求められるソフトスキルは、十分に学習可能です。
ソフトスキルとは、平たく言えば、「ある状況下でどのように行動するとより良い結果を生み出すのか?」「どのような思考の癖をつけると、物事を正しい方向で考えられるのか?」といった状況に応じて適切な行動・思考を出来る能力を指します。この能力は、どれだけ多くの「起こりうる状況」と「適切な行動・思考パターン」を知っているかによって養われます。そうした知見は座学でも多少は学ぶことも出来ますが、基本的には実業務を遂行する中で経験則的に形成されます。逆説的ではありますが、ソフトスキルは業務経験を通して後からついてくるもので、ビジネスアナリストになるために事前に養うには限界があります。
ソフトスキルの習得には、原理や理論を座学で学ぶOff-JTと、現場経験から学ぶOJTのバランスがとても大切になります。最終的にものをいうのは場数で、OJTであらゆる状況や判断のパターンのシャワーを浴びつつ、Off-JTも活用して理論の面からもそれらを理解することを繰り返すことでスキルを習得していきます。また、自分だけでは自身の行動・会話・思考のパターンを客観的に判断することは難しいため、誰かの振る舞いを観察して、適切なフィードバックをしてくれる先輩(スーパーバイザー)やメンターを必要とします。
私自身も、新卒でLTSに入社して以来、ビジネスアナリストとして働いてきましたが、日常生活においては、決してコミュニケーション能力やリーダーシップがあるタイプではありません(むしろ社交全般が苦手です)。それでもこの仕事が務まっているのは、現場で先輩の立ち振る舞いを見て、状況や対応のパターンを学習し、ビジネスアナリストとして求められるソフトスキルを養っていったからだと思います。
テクニカルスキル:業務・方法論・ツールなどの基礎知識
手っ取り早くビジネスアナリストとしてのスキルを伸ばすには、ソフトスキルよりも、まずテクニカルスキルに着目することをお勧めします。BABOKで語られるテクニカルスキルは「ビジネス知識」と「ツールとテクノロジー」の2つです。
「ビジネス知識」は、「ビジネス感覚」「業界の知識」「組織の知識」「ソリューション知識」「方法論の知識」の5つの知識エリアで構成されています。語感からなんとなくイメージは湧くと思いますが、その企業・業界・組織についてどれだけ理解しているか、業務可視化やシステム開発などの方法論・市場知識を理解しているかといった知識を指します。「ツールとテクノロジー」は、たとえば業務フローを記述する際に使うモデリングツールや、WordやExcelなど基本的なOAツールを使用できるか?といった具体的なツールの取り扱いに関するスキルを指します。
業務・方法論・ツールなどの知識は、ビジネスアナリストの仕事の基盤です。前回のコラムで、「ビジネスアナリストの仕事は変革プロジェクトにおいて、要求・要件を関係者間で共有するためのコミュニケーションのハブになること」だと紹介しました。こうしたコミュニケーションを円滑に行うためには、ビジネスアナリスト本人が、その業界・業種・業務を正確に理解できる、業務を可視化する方法論を知っている、モデリングツールを使える、具体的なソリューションを知っているなど、知識を持っていることが欠かせません。
ビジネスアナリストにとって知識は武器である
これからビジネスアナリストのチャンレジする方、また経験値が浅いビジネスアナリストには、テクニカルスキルを積極的に育てていくことをお勧めします。経験の中からじっくり養われるソフトスキルと比べて、テクニカルスキルは努力次第で短期的に一定レベルまで習熟することができます。しかも、間違いなく現場ですぐに役立ちます。例えば、工場で行われている業務をヒアリングする際に、「生産管理」や「製造」といった業務領域では一般的にどんな仕事が行われているのかを知っているか否かで、ヒアリング相手が話す内容への理解度は大きく異なります。そして、この理解度の差はアウトプットの品質に直結します。知識を持っていることは、ビジネスアナリストにとって強力な武器なのです。
幸いにも、この手の知識は書籍やテキストといった形式知として世の中に多く出回っています。ですから、これからビジネスアナリストを目指す人、新米ビジネスアナリストがスキルを養うにはうってつけと言えます。
おすすめの本の紹介
Babok(v3): A Guide to the Business Analysis Body of Knowledge, 2015/4/15
国際的なビジネスアナリシスの啓もう団体であるIIBA刊行のビジネスアナリシスのBOKで、ビジョンを実務に落とし込むためのフレームワークやビジネスアナリストに求められるコンピテンシーなどが掲載されています。経験豊富なビジネスアナリスト達によって編纂された本書はビジネスアナリシスに関わる全ての人の教科書とも言えます。
エディター
自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)