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プロセス変革・業務改革

自社のプロセスを俯瞰するプロセスマップの使い道 ビジネスプロセスの教科書⑨

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を再掲載するものです。

当コラムは、書籍『ビジネスプロセスの教科書(東洋経済新報社(2015年7月24日)』に掲載しきれなかった内容をご紹介しております。

書籍では、ビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。また、著者がこれまでにお客様企業の現場で経験してきたビジネスプロセス変革の事例も多く紹介しています。ユーザー企業側で組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方はもちろんシステム開発やアウトソーシングベンダーの担当者の方も必見です。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。ビジネスプロセスの教科書のこぼれ話第9回です。今回は「プロセスマップ」という手法を紹介したいと思います。昨年(2015年)に行われた日本ビジネスプロセスマネジメント協会主催のBPMフォーラムで講演した内容ですが、昨年のフォーラムで紹介してから、同じ内容の講演依頼や「自社のプロセスマップを作りたい」という依頼が増えました。さて、この「プロセスマップ」とはどのようなものでしょうか。

プロセスマップとは何か

プロセスマップとは社内(ないし特定事業、組織)のプロセスの全体構成と関係性を示した図です。以下はLTSのプロセスマップです。子会社が運営しているアサインナビ事業以外の全てのLTSの業務は以下のマップのどこかに所属しています。

【LTSのプロセスマップ】

プロセスマップ上のプロセスを示すボックスの一つ一つは、社内における業務の管理単位となります。「業務フローを書く単位」というと分かりやすいかもしれません。通常このような業務区分を管理する資料としてはリスト(プロセスリスト)が使われるかと思います。

リストは各プロセスに属する情報、例えば担当組織や支援している情報システム、プロセスのKPIなどを管理するにはうってつけです。しかし、プロセスをリストで管理することには、プロセスの関係性が一目でわかりにくいというデメリットがあります。リストに示されたプロセスは一列に上から並んでいるだけなので、各プロセスの関係性(前後関係を示すのか、並列関係を示すのか、依存関係の有無など)がわかりにくく、頭にうまく入ってこないのです。そこでプロセスマップの出番です。プロセスマップはプロセスの付加情報を管理するには向きませんが、プロセスの関係性を直感的に把握できます。ですから、私は基本的にプロセスを可視化する際は、プロセスマップとプロセスリストの両方を作ることを推奨しています。そうすると、さながら世界地図を見ながら、個々の国の詳細データを参照するように、マップでプロセスの関係性を理解しつつ、リストでプロセスの情報を確認できるのです。

【プロセスマップとプロセスリスト】

ではプロセスマップで自社のプロセスを俯瞰することにどのようなメリットがあるのでしょうか。プロセスマップの代表的な活用方法を紹介していきたいと思います。

1.プロセスマップから取り組みのスコープを検討する

以下はLTSの会計システム刷新の際に、プロセスマップから関連するプロセスを抜き出し、関連情報を補足したものです。このようにマップのプロセス区分を使って関連プロセスを示すことで、取り組み範囲を明確化することが可能になります。LTSのコンサルタントがお客様へのサービスの開始当初にプロセスマップを作成する大きな目的の一つはこの「取り組み範囲の明確化」です。

【LTSの会計システム構築のスコープ図】

2.ビジネスプロセス可視化の基点となる

プロセスマップはそれ自体がビジネスプロセスの構造理解のための文書であると同時に、その先の業務フローを書く単位を示す管理文書にもなります。業務フローを書く際は、まず業務フローを書く単位を決め、フローの範囲を明確にしなければなりません。プロセスマップを見ながら、各フローの境目を明確にし、作業の重複や漏れをなくします。

【プロセス可視化の階層構造】

プロセスマップと業務フローは連携してプロセスの階層構造を大きな俯瞰図から詳細な手順までをつなぐ=同じプロセス可視化の方法ですが、双方の役割は異なります。プロセスマップでは各プロセスの関係性は抽象化されており、厳密な記述ではありません。正確性よりも、全体感を分かりやすく把握することを優先しています。抽象度が高いため大きな業務改革やサービスの変更がない限り文書が変更されることは少なく、プロセスの境界を示す社内の共通言語として利用します。

一方で業務フローは業務の設計書であり、厳密かつ正確な記述を目指します(とはいえ、ある程度はフローの粒度に依存しますが)。特定のプロセスの詳細な流れを示し、プロセスを設計するための文書ですので、日々の業務改善や運用変更にともなって頻繁に見直されます。

3.事業管理とKPI設定の単位となる

事業のPDCAサイクルの実現を目指す上では、重要業績評価指標(KPI)の設定は必須です。これらはバランススコアカード(BSC)を活用して戦略マップから設定されることが多いですが、戦略マップで抽出されたKPIをプロセスマップ上の各プロセスと整合させることで、戦略マップの実効性が担保されます。

【プロセスへのKPIへの設定】

KPIを設定しても、KPIが影響を与えるプロセスに明確に割り当てられていなければ、改善施策を立案できません。またKPIを取得できるプロセスと、KPIを改善できるプロセスが異なることもあります。それらがプロセスの構造と合わせて管理できていなければ、やはり効果的なKPIの改善はできません。

4.組織の役割分担の土台となる

マップのプロセス区分はオーナーとなる組織を割り当てる単位になります。LTSでは業務フロー記述単位であるレベル4に担当組織が割り当てられています 。ここにある思想は、「人に仕事(プロセス)を割り当てる」のではなく「プロセスに組織や人を割り当てる」です。これにより組織間での担当業務の重複や、抜け漏れを防ぎます。

5.社員の職務・スキルを設定する単位になる

プロセスの単位に職務やスキルを定義することで、社員の育成計画を立てたり、採用を効率的に行うことができます。下記の例ではマーケティングプロセスに対して成熟度を0~4に区分けして設定しています。これにより各業務の担当者をどのレベルからどのレベルに育てるのか、どのレベルの人が何人足りないから採用しないといけないのかということをより効果的に議論できます。

社内の業務に関する共通言語がない日本企業

プロセスマップは社内の業務を俯瞰しているだけですから、実はとてもシンプルな文書です。ところが多くの企業は「社内にどのような業務があるか」という単純な問いかけに答えられません(ちなみに現状のLTSでは管理区分単位で130の業務があります)。

会社とは業務を行う場所です。やるべき仕事があって、それをたくさんの人や組織が分担して行っています。ですからビジネスプロセスの構造が先にあって、そこに組織を割り当てるというのは当たり前の話なのですが、なぜか多くの会社で多くの企業でこのようなプロセスの俯瞰図が存在しません。組織が先にあり、組織に仕事が紐づくのです。このような会社では「全社俯瞰図」とは組織図を指します。

多くの場合、組織図をベースにした業務調整は不十分で、組織間で業務の抜け漏れ重複が多数あります。ひどい場合は経営が先に組織図を決めて、各組織に「自部門の業務を定義せよ」と指示が下りることもあります。これは地図もないのに領域の線引きをしているようなものです。

「業務改善活動」「業務ノウハウの整理(ナレッジマネジメント)」「KPIによる事業管理構造構築」「システム開発」「アウトソーシング導入」といったどのような取り組みでもプロセスマップは効果的に進める共通の基盤となります。

「自社の業務の全体像、説明できますか?」この問いかけに答えることがプロセス変革の第一歩です。


ビジネスプロセスの教科書

本書ではビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。あらゆるビジネスパーソンにとって有益な一冊となっていますが、中でもこれから組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方には特に参考になる内容が詰まっています。

著者:山本 政樹
出版社:東洋経済新報社(2015年7月24日)