このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2017年10月に掲載されたものを移設したものです。
ライター
はじめに
さて、突然ですが、今このコラムをご覧になっている方の中で、100名を超えるIT部門に所属する方はいませんよね?(その方々は、コラムタイトルをご確認いただき、せっかくですので弊社の別のコラムへ移動してください!)そうです、このコラムは「ITの専任者は自分の部下に3人だけ」「そもそもIT部門なんてない」「会社の急成長にバックオフィスは置いてけぼり」という企業で悩みながら日々奮闘されている、あなたのために書かれたコラムです。比較的小規模なIT部門を持つ売上100~1000億円程度の中堅・準大手企業において、どうしたらシステム導入を成功させITの投資効果を最大化できるのか、それがこのコラムのテーマです。是非皆さんと一緒に考えていければと思います。
本コラムでは、中堅・準大手企業を取り巻くシステム導入の現状や、大手企業やスタートアップ企業にはない中堅・準大手企業だからこそ存在する固有の課題について整理したいと思います。早速ですが、そもそも中堅・準大手企業はIT投資をすることで何を実現したいのか、という視点からそれらの企業を取り巻く現状に迫っていくことにしましょう。
中堅・準大手企業がIT投資で解決したいこと
世界の時価総額ランキング上位10社中7社をIT企業が占め(2017年10月8日現在)、新聞・ビジネス雑誌を見てもAIやIoTという用語が踊り、華々しいデジタル化のストーリーを先進的な経営者自らが語る。時はまさに、デジタルバブルの様相を呈しています。
そのような潮流を物語るように、数年前から「守りのIT」「SoR(System of Record)」に対して「攻めのIT」「SoE(System of Engagement)」「デジタライゼーション」という言葉が経営者の発言の中でも非常に多く取り上げられるようになりました。『これまでの会計情報の収集や事務処理の効率化のための投資は一巡した。これからは、デジタル技術を活用し、ビジネスに付加価値を生み、顧客との関係をさらに深めていく時代』。果たして、中堅・準大手企業の現実はどうでしょうか。
ここに興味深いデータがあります。一般社団法人日本情報システム・ユーザ協会(JUAS)が毎年発表している『企業IT動向調査報告書』の2017年度版には、対象となる企業の売上高別にIT投資で解決したい中長期的な課題は何か、という調査結果が挙げられています。
これを見ると、確かに売上高1兆円を超える企業では「顧客重視の経営」や「ビジネスモデルの変革」が多くの企業で経営課題として認識されていることがわかります。
(話が脇道にそれますが、2016年の回答では「業務プロセスの効率化」を突如、中期的な経営課題に取り上げる企業が増えています。これは、昨今の『働き方改革』『生産性向上』ブームを如実に示している結果でしょう。しかし、これらの取り組みは人財獲得競争がし烈化する今、ある意味で「攻めのIT」ともいえるのかもしれませんね)
一方で、1000億円未満の企業に目を向けてみると「攻めのIT」を課題として挙げる企業は少数で、未だにその中心は「守りのIT」の代名詞である「業務プロセスの効率化」「迅速な業績・情報把握」にあることがわかります。世間は「攻めのIT」の話題一色のようですが、実際の中堅・準大手企業においては、まだまだ基本的な業務の効率化や経営情報の利活用といった取り組みが十分にやり切れていないのが現状のようです。では、なぜこのような状況が今日まで続いているのでしょうか。
IT投資を優先経営課題に振り向けられていないという現実
上の表は、企業がIT投資を経営課題に優先的に振り向けられているか否かを示したグラフです。売上高1兆円以上の規模の企業では半数以上が「振り向けられている」と回答しているのに対し、100億~1000億円未満の企業では3割以下、100億円未満では1.5割に留まっています。「まったく振り向けられていない」という回答も100億円未満の企業では3割以上を占め、十分な投資ができていない現実があります。この背景として考えられることはなんでしょうか。
一つ目は、企業の経営環境が挙げられるでしょう。一般的に大企業に比べて利益率が低くなりがちな中堅・準大手企業にとって、そもそもIT全般に対する予算を十分に割くことができていない状況にある、ということが考えられます。
二つ目として考えられるのは、仮にIT予算は十分にあったとしても、その予算の大半を現行の仕組みを維持するために割かざるを得ず、戦略的なIT投資には回せていない、という可能性です。10数年前に導入した基幹システムを継ぎはぎだらけで拡張し、気が付けばブラックボックス化した仕組みに高い保守コストを払っている、、、そんな姿を目にすることも少なくありません。
三つ目は逆説的ではありますが、ITリーダーを含めた体制面が脆弱であることから、経営のIT投資に対する意識が低く投資が十分に行えない、という状況もあるかもしれません。上述のように、高コスト体質で老朽化した仕組みを維持せざるを得ないのも、大規模な変革プロジェクトを立ち上げられない組織的な原因が潜んでいることも考えられます。
いずれにしても、予算面でも体制面でも十分なリソースが割り当てられていない中堅・準大手企業にとって、限られたリソースで最大限の効果を発揮できるようなIT投資マネジメントは非常に重要なテーマであると言えるでしょう。
中堅・準大手企業に固有のシステム導入時のチャレンジ
『中堅・準大手企業では、限られたリソースでIT投資の効果を最大化することが必要となることはよく理解できた。しかし、企業規模が小さいのだから、大手企業と比べれば個別のシステム導入案件の難易度は低いのでは?』と思いますよね。確かに、システム導入の規模が大きくなるとプロジェクトの成功確率が大きく低下することは様々な調査で明らかです。しかし、中堅・準大手企業のIT導入プロジェクトには大手企業のプロジェクトにはない固有の難しさがあります。
以下に挙げるのは、私自身が複数のクライアント企業のシステム導入を経験して感じたいくつかの例です。
1. ベンダー・ソリューション選定がIT部門のあり方に大きく影響する
自社のIT部門体制が脆弱な中堅・準大手企業では、特定のベンダーに保守から開発まで一括集中で委託をしてきたような企業がほとんどではないでしょうか。その一方で、昨今ではニッチな業務も含めてSaaS型の様々なソリューションが展開されており、経営や事業部門から『新たなベンダー・ソリューションをゼロベースで選定すべき』という声が上がることも増えているようです。
しかし、これまで特定ベンダーに頼ってきた小規模IT部門にとって、複数のベンダーやソリューションを採用するということは大きなチャレンジです。ベンダーやソリューションが複数となることで、システム全体像の策定やプロジェクトの全体管理は自分たちでやりきる必要がありますし、契約関連の事務的なコミュニケーションも増大します。もちろん、新しいソリューションやサービスを目利きして使いこなせる能力も必要になります。自社に最適なベンダー・ソリューションを組み合わせてスピード感のある変革を成し遂げるためには、IT部門のあり方を大きく変える覚悟が必要なのです。
2. 業務の機能分化がなされていない分、属人化の度合いが激しい
大手企業においては、業務が機能分化されており、一つの業務を複数の担当者で実施しているのが通常です。そんな大手企業でも、業務が可視化されておらず属人化していると大きな問題になりますが、中堅・準大手企業ではその度合いがさらに大きくなります。私が経験したプロジェクトでも『この業務を理解しているのは来年定年を迎える担当者のみ』『正社員はローテーションばかりで、業務を知っているのは派遣社員だけ』というような状況をたくさん見てきました。一方で、彼らは日々の業務を遂行するために非常に多忙であり、プロジェクトのために割ける時間は極々わずかです。業務に精通する彼ら/彼女たちから現状業務や業務課題を引き出し、効率的に整理する必要がありますし、最後は、自分たちの業務を変化させることに納得してもらうことになります。ビジネスアナリストとして関係者を巻き込む力が中堅・準大手規模企業のIT部門には強く求められます。
3. 経営とITを統合したマネジメント視点が必要
中堅・準大手企業ではCIOの役割を有する担当が明確に存在しない場合も多々見受けられます。また、IT部門も経理や総務といった管理部門の配下に置かれ、プロジェクトオーナーである役員はITの門外漢ということも少なくありません。経営層にCIOがいない場面ではCIOに代わり、IT投資の価値をビジネスの言葉でしっかりと経営陣に説明し、その必要性を理解してもらうことが求められます。また、そのためにも自社を取り巻く外部環境・内部環境を正確に理解し、企業として数年先を見据えることも重要になってきます。中堅・準大手企業のIT部門担当者は『情報システムのお守役』ではなく『経営を情報システムの力で支える参謀』でなければならないのです。
小規模IT部門でのシステム導入の仕事は魅力いっぱい
以上、JUASの『企業IT動向調査報告書』を用いて中堅・準大手企業を取り巻くシステム導入プロジェクトの現状を振り返りつつ、そのような企業固有のプロジェクトの難しさについて簡単に振り返ってみました。あなたの会社の状況にも当てはまるものがあったでしょうか。
『小規模システム部門では予算も少ない割に、やることは多いし、プロジェクトは地味に難しい。最先端の技術の専門知識が身につくわけでもないし、やりがいがない』と感じているかもしれません。しかし、それは魅力の裏返しでもあります。
『経営視点を持ち、属人化した業務を標準化し、最適なソリューションを目利きして、主体的に選び取る。そうすることによって、自分たちが導入するシステムが、会社の10年後を変える原動力になる』。そのようなやりがいを、私は中堅・準大手企業の方々と共に仕事をする中で強く感じています。特に、昨今ではIT系の雑誌を読むと『アドオンなしの基幹パッケージシステム導入』『積極的なインド人技術者の活用』『ベンダーに頼らず、独自で工場にIoTを導入しコスト3割減』といった、中堅・準大手企業の積極的な取り組みの記事が目を引きます。これらは、中堅・準大手企業だからこそ可能なスピード感、経営の巻き込み、IT部門リーダーの活躍で変革を実現することができる、という証ではないでしょうか。私自身も、そういった想いを持ってプロジェクトを進める皆様にとって、本コラムが少しでもお役にたてば本望です。