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プロセス変革・業務改革

よくわかるビジネスアナリスト・番外編 若手BA×マネージャーBAが語るビジネスアナリスト入門資格受験記

プロセス変革のリーダー的存在であるビジネスアナリスト(=BA)の日本での認知度はまだまだ低く、ビジネスアナリストという言葉に初めて触れる人、聞いたことはあるけれど詳しいことは分からない、という方も多くいらっしゃるかもしれません。そんな方は、是非連載中のコラムを読んでみてください。

今回は、コンサルタントでありビジネスアナリストでもある大井はるかさんと佐藤千夏さんに、ビジネスアナリストの資格取得についてインタビューしました。ビジネスアナリストに関する国際団体IIBA(International Institute of Business Analysis)では、ビジネスアナリストを認定するいくつかの資格があります。その資格の解説や、実際に受験された経験談、そして気づきや学びを聞いてみました。
大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

佐藤 千夏(LTS コンサルタント)

基幹システム刷新PMO、ユーザー展開支援、業務システムの要件定義・設計・開発・テストを経験後、2年間産休・育休で休職。復職後は社内のナレッジマネジメントを推進している。復職後にIIBAのECBAを取得。ビジネスアナリストとしてはまだまだ初心者。(2021年8月時点)

日本におけるビジネスアナリストの認知度はまだ低い

大井
ビジネスアナリストという職業を知ったのは2010年頃、ちょうどBABOKの日本語版が出版されて話題になっている頃でした。私が当時所属していた部署は、企業の業務可視化・課題分析・IT導入に向けた要求分析などの支援を行っていて、その専門性を学ぶツールとして参考になるのではないかと上司がBABOKを持ち込んだのが、私とビジネスアナリストの出会いでした。

当時はまだDXのような言葉もなく、業務分析に関わる書籍やナレッジはほとんど流通していなかったので、BABOKの存在は画期的でしたね。ただ、自身のキャリアの自己認識はあくまで「業務コンサルタント」で、ビジネスアナリストなんて聞いたことがない職業だなと思っていました…。

転機は、ラスベガスで開催されたビジネスアナリシスの国際カンファレンスに参加したことです。そこには1000人以上のビジネスアナリストが参加しており、ビジネスアナリストという肩書で仕事をしている人がこんなにも大勢いるんだ!と驚いた記憶があります(笑)。そして、話す人みんなが自分と同じような仕事をしていることにも驚かされ、私もビジネスアナリストだったのだと納得しました。

日本ではビジネスアナリストの仕事を専門的にしている人は少なく、友人にも自分の仕事をうまく説明できなかったり、転職サイトを眺めても自分の仕事がどのカテゴリに当てはまるのか分からなかったり…。今思うと少し孤独だったのかもしれません。カンファレンスでたくさんのビジネスアナリスト(=仲間!)に出会い、とても嬉しく、エンカレッジされました。それからは、名刺で「ビジネスアナリスト」を名乗り、ビジネスアナリストに関する発信活動をするようになりました。

佐藤
私は、コンサルタントの基礎スキルとしてビジネスアナリシスの手法を取り入れているLTSに入社して初めて、ビジネスアナリストというワードを知りました。大井さんが執筆されているコラムを読んだものの、実際の仕事内容はよく理解できていませんでした。今回BABOKを使い勉強することで、ビジネスアナリストという人たちの輪郭が徐々にはっきりしてきました。

ただ、ビジネスアナリストの定義は難しいなと思います。なぜかというと、職種として存在する場合もあるし、肩書はビジネスアナリストではないけれどやっていることはビジネスアナリストという場合もあるので、どんな人をビジネスアナリストと呼ぶのかのという境界線は曖昧なのだろうなと感じます。

プロジェクトマネージャーとビジネスアナリストの違い、エンジニアとビジネスアナリストの違いは、一応BABOK上で説明はあるものの、自分が経験してきたような日本のプロジェクトであれば、プロジェクトマネージャーがビジネスアナリスト的な役割を担うことがあり、「この人がビジネスアナリストである」と明確に役割が決まっているものではありません。ビジネスアナリストの輪郭は見えてきたものの、その役割はっきり言えるかと言われると難しいですね。

大井
その人の専門性と肩書や職種は、必ずしも紐づいているものではないと思いますよ。例えば、社内プロジェクトや、ITの導入ではなくても人事や経理など、いろんな部署でプロジェクトは立ち上がります。そういうプロジェクトでも、プロジェクトを構成する各活動を取り仕切る「プロジェクトマネジメント」は発生します。

そのプロジェクトマネジメントの役割を担う人を、プロジェクトマネージャーと呼びますが、先に挙げたような社内プロジェクトでは、明確に「わたしがプロジェクトマネージャーです」と名乗っている人がいるわけではなく、誰かがその役割を担っているだけであって、その人の職種や専門性はプロジェクトマネージャーではないこともあります。このように、専門スキルとしてやっているプロのプロジェクトマネージャーもいますし、社内プロジェクトの中でプロジェクトマネージャー的役割の人もいます。

このプロジェクトマネージャーの例を踏まえてビジネスアナリストの話に戻ると、ビジネスアナリストという肩書で仕事をする人もいれば、肩書はビジネスアナリストではないけれど専門性としては同じような立ち回りで仕事をする人もいます。「職業」と「専門性」は別物かなと思います。

世界120の国と地域に存在するビジネスアナリスト

大井
IIBA(※1)が出している、サラリーサーベイというリサーチ結果があります。これは、IIBAに所属するメンバーの、お給料や所属部門を調査するためのものです。2017、18年の調査では、「自分はビジネスアナリストとして仕事をしている」と回答した人が世界110~120の国と地域に存在するという結果でした。北米を中心に、アジア・ヨーロッパ・アフリカ・中東など、いろんな国と地域にビジネスアナリストとして仕事をしている人がいるのが実態です。

※1 IIBA(International Institute of Business Analysis):ビジネスアナリストに関する国際団体のこと。

LinkedIn(※2)で「BA」と検索すると、200万件くらいヒットします。大半は北米にいらっしゃるのではないかなと思います。厳密にビジネスアナリストという肩書で仕事をされている方だけではなく、カスタマーサクセスやプロダクトオーナー、という普段の仕事の周辺で、ビジネスアナリストのような役割をしている方もいらっしゃるので、そういう方を含めると総数はもっと多いのかなと思います。

※2 LinkedIn(リンクトイン):世界最大級のビジネス特化型SNSのこと。

私が知っているのはロンドンとアメリカの市場ですが、そこではJob Description(職務記述書)があり、明確に自分の役割が定められているので、ビジネスアナリストとして就職して仕事をする、という人は多いのかなと思います。

新設されたビジネスアナリストの入門資格ECBA

大井
IIBAのCertification(※3)には、その難易度順に下からECBA、CCBA、CBAPがあります。ECBAが入門的な位置づけで、ジュニアの経験者向けにCCBA、その後のシニアの資格としてCBAPがあります。IIBAの資格は実務経験が受験資格となっていて、基本的には経験者に対して専門性を認めていく方向にあります。ECBAの受験資格についてはこのあと触れますが、下から2番目のCCBAを取得するには純粋なビジネスアナリストワークで3年、CBAPでは7~10年くらいの経験が必要になります。

※3 IIBA®の認定制度は2016年9月30日に新しい制度に切り替わりました。新しい制度はBAの能力を4つのレベルで認定し、従来からあるCCBA®(レベル2)・CBAP®(レベル3)に加えて入門資格のECBA®(レベル1)、最上位の資格であるCBATL®(レベル4)が追加されています。現在の認定制度の詳細についてはIIBA本部サイトの下記ページをご覧ください。
https://www.iiba.org/business-analysis-certifications/4-simple-steps-to-business-analysis-certification/
(参考:https://www.iiba-japan.org/cert/information.html

ここ数年、IIBAは資格の整備に力を入れているようで、サイバーセキュリティ、データアナリティクス、プロダクトオーナーなど、次々と新しい資格を出しています。その中で明確にビジネスアナリシスを銘打っている資格がECBA、CCBA、CBAPです。

佐藤
受験のきっかけは、大井さんとの1on1の中で「何か資格を取りたい」という話をした時に、ECBAがいいのではないかとお話を頂いたことです。2 年間産休・育休で休職していたので、自信をつけたいという気持ちもありましたね。フルタイム勤務で子育てをしながらの受験勉強でしたので、なかなかハードでした。

英語で実施される出願~合否判定まで

佐藤
実際の試験は英語でのみの展開でしたので、正直どうしようかなと考えていました(笑)。まずは日本語でBABOKの概要をつかむためにe-learningを受講しました。この勉強時間が35PDUとして、ECBAの受験資格にある「勉強したことを証明するもの(=PDU)」になります。その後は、英語の模擬テストで演習していきました。

大井
千夏さんは、他の受験者の合格体験記(※4)や英語での模試を、ご自分で調べ自律的に受験していましたね。日本の受験者がほとんどいないので、情報がない中で模索しながらだったと思います。情報収集には、非常に苦労されたと思います。

※4 IIBA Japan Chapterより https://www.iiba-japan.org/cert/voice.html

佐藤
おっしゃる通り、唯一IIBAの日本支部のホームページに日本語で合格体験記を載せていらっしゃる方がいて…それで概要を把握することはできました。一方で、細かいところは受験の当日まで分からないことが多かったです。様々な勉強法があるようですが、自分に合った方法としてe-learningやネットにあがっている英語の模擬テストを選びました。受験情報について、日本語で書かれているものがないので、英語を読みながらこの理解であっているのかな…という不安はありました。

トラブルもあった受験エピソード

佐藤
オンライン受験ならではのトラブルは多々ありました。リモートで試験を受けるにあたり、試験環境を準備する必要があり、PSIセキュアブラウザというアプリを使い、そこで常時監視されながら受験しなければなりませんでした。会社貸与のパソコンを使ったので、社内の情報システム担当にアプリのインストールを事前に申請し、試験の前日までにインストールした上で試験に臨みましたが、なんと当日うまく起動せず、慌ててインストールし直しました(笑)。

あとは、試験監督の方が思っていたよりも厳しかったです。試験を受ける30分前にログインしましたが、不正をしていないという証明のために、PCを持って部屋中を見せる必要がありました。結構隅々まで映さなければならず、15分くらいうろうろしていたので、試験が始まる前にちょっと疲れちゃいました(笑)。試験中も少し口元に手を当てると「やらないでね」とチャットがくるので、なかなかテストに集中できなかったです…。

1時間50問で、矢印をクリックすることで画面が次に遷移し、後でもう一度確認したい問題には、フラグを立てることでそれを目印に後から解答を修正できるのですが、それも当日に分かったので…それまではドキドキでした。

大井
受験環境はECBAに限らず、基本すべてオンラインの試験ですね。研修はオフラインで実施していたところもありました。オンライン受験とオフライン受験、今は選択できるようになってきました。

佐藤
過去に受験した方の合格体験記を拝見すると、オンラインでトラブルがあったようでした。「次に遷移するボタン」が機能せず、かなりの時間ロスだったと書いてありました。そういうことも考えると、オンライン受験は少し不安ですが、どこにいても受験できるので便利だと思います。

ECBAはビジネスアナリスト初心者におすすめの資格

大井
ビジネスアナリストの勉強を始めたい方、キャリアに挑戦してみたい方、学びを深めたい方にとっては、いい機会だと思います。資格取得のような機会がなければ、なかなかBABOKを読もうとも思わないかもしれないですね…。BABOKにある考え方や世界観を理解しておくと、ビジネスアナリストという専門職をやっていなかったとしても、業務の役立つことは多くあります。入門編にしては、BABOKは結構分厚いですが…(笑)。

資格の取得にあたっては、BABOKを体系的に学び、多岐にわたる情報の習得が必要になります。そういう意味では、テキストをベースに学び・覚えていくことは、他の資格でも変わらないことだと思います。そうして基本的なことを押さえた上で、実務経験を積むと知識も経験値もさらに上がるのかなと思います。

佐藤
BABOKに書かれている内容は、いわゆる教科書的な内容で、こういうポイントで、こういう順序で…と書かれています。業務変革プロジェクトの「理想的な進め方」という感じです。

でも、実際にそれを実践できるかというと、様々な制約もあり難しいのかなと思います。BABOKに記載の通りプロジェクトを進めることが大事なことは、みんなよくわかっているけれど「できない…」っていうようなことが、実際のプロジェクトではありますよね。BABOKの理想論は正しいのだけれども、現実のプロジェクトにその方法論を落とし込むとなると、何かしらの工夫は必要になるかなと考えています、

大井
ECBAとCBAPの出題内容の違いは、CBAPのほうがより実践的な内容になっていると思います。BABOKを踏まえた上で、実践のプロジェクトの時はどう振る舞うべきか?というところを、結構細かい状況設定がある上で設問が組まれている印象です。まさに「現実のプロジェクトにその方法論を落とし込む」ところです。

学びを発展させるベストプラクティスの収集

佐藤
今後は、資格取得で学んだ内容を活かして、様々な活動を推進していきたいと考えています。

実際のプロジェクトにおいてベストプラクティスを実践していくために、みなさんはどのような考え方・ルール・工夫をされているのかお聞きしたいです。例えば、座談会のような場を設定し、「ステークホルダーとの関係構築」について深堀をする、とか。

よくあるのが、プロジェクトが失敗に終わってしまう原因の一つとして、巻き込む関係者は全員巻き込んだと思っていたが、終盤で新しい人物が登場して、要求に対して新たな意見を言ってきて…というパターンです。みなさんその辺は、どのようにしてあらかじめ関係のあるステークホルダーと特定して要求を調整しているんですかね…。

そんなテーマを決めた座談会をやってみたいです。恐らく、みなさん一人一人経験値として「このケースの時にはこうする」というのがあると思いますが、それらを形式知として広く共有するには、何かきっかけがないと難しいと思います。共有されずに個人の中に閉じられるのはもったいないですよね。そのような個人の経験として持っている暗黙知を、形式知にするために対話する場を作りたいです。参加者の方々が他の方との対話を通じて、新しい気づきや発見を得ることもできると思います。

大井
いいですね!すごく楽しみにしています!そのステークホルダーマネジメントという概念は、学ばなければフレームが分からないし、自分が体験したことをどのようにフレームに基づいて整理していいかもわからないと思うんですよね。まずは、BABOKでフレームの理解を進め、その後、実際の事例やサンプルをたくさん集めることはかなり有用だと思います。そういう座談会の場では、座学的な学びの場を冒頭で入れた上で、参加者の経験談を引き出すのもいいかもしれませんね。

BABOKの内容は、多くの人の経験をベースにナレッジを体系的にまとめたものなので抽象的なことが多く、具体的なことはあまり書かれていません。ビジネスアナリストの仕事自体が、参画するプロジェクトによって、BABOKで学んだ知識を柔軟に適応させていくことが必要になります。もちろん適応させていくこと自体、実務経験がないと難しいので、他の人の体験談を頭の中で体系的にまとめ、適応することができるようたくさんの引き出しを用意できたらいいですね。

佐藤
わたし自身の経験が沢山あるわけではないので、みなさんの経験を多くの人と共有できる場を積極的に作っていきたいです。初めは社内に閉じた活動になると思いますが、その先はLTSのグループ会社や外部のみなさんにも広めていきたいです。コンサルティング業界に閉じずに、いろんな知見を広め、また、集めていけたら面白いなと思っています。


エディター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)