心理的安全性を確保することの重要性 アジャイル宣言の背後にある原則⑬のサムネイル
デジタルテクノロジー

心理的安全性を確保することの重要性 アジャイル宣言の背後にある原則⑬

このシリーズでは、実際のシステム運用プロジェクトの中で、アジャイルアプローチの適用を挑戦したコンサルタントの経験をもとに、アジャイルによる業務のアップデートのやり方をレポートします。

こんにちは、株式会社エル・ティー・エスでITコンサルタントをしている坂口沙織です。「アジャイルアプローチへの挑戦」第13回目の投稿です(やっと最終回です!)。

とあるお客様企業にERPを導入するプロジェクトに関わっていた経験をもとに「アジャイルソフトウェア開発宣言」と「アジャイル宣言の背後にある原則」に沿って、プロジェクトでアジャイルアプローチを可能にしている要素、アジャイルアプローチのメリット、デメリットなど気づいたことを共有していきたいと思います。

「アジャイルソフトウェア開発宣言」「アジャイル宣言の背後にある原則」って何?という方は第1回でご紹介していますのでそちらを参照してください。

「アジャイルソフトウェア開発宣言」と「アジャイル宣言の背後にある原則」とは①

今回はアジャイル宣言の背後にある原則その5「意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します」についてです。

この原則はもはやアジャイルプロジェクトに関わらず全てのプロジェクトにおいて重要な原則だと思うので、今回このシリーズの最後として紹介したいと思います。

心理的安全性を確保することの重要性

多様な専門性を持つチームほど心理的安全性が大事

”環境と支援を与える”とは様々な側面があると思いますが、私が最も重視しているのは「心理的安全性を確保すること」です。その一つの理由としては、「多様性の高いチームほど心理的安全性が脅かされやすい」と思っているからです。

プロジェクトは様々なスキルを持った人たちで構成されるチームであり、必然的に個人レベルで見ると出来ることと出来ないことに大きな差がある凸凹チームになります。こうしたプロジェクトの性質上、悪い方に転ぶとお互いに「なんでこんなことが出来ないんだ」という感情が生まれ心理的安全性が脅かされやすい、というのが私の考えです。だからこそ、意識的に「自分に出来ることで謙虚に貢献し、自分が出来ないことに対して敬意を払う」という共通認識を醸成し、お互いの心理的安全性を確保することが重要だと思っています。

例えば、ビジネスアナリストの立場で仕事をする私にとってエンジニアリングはとても尊い仕事です。ビジネスアナリストの仕事も簡単とは言えませんが、エンジニアリングの仕事はビジネスアナリシスの世界よりも圧倒的に「完全性」が求められる世界です。そうした世界の中で日々仕事をするというのは非常に負荷の高い仕事だと思いますし、単純に自分にはできないことなのですごいなあ、と日々感じています。

一方で、正直なところこちらから見たら「何がどうなってそうなるんだ!」と思ってしまうことも多いのもまた事実です。ですがそれは私がエンジニアが見ている目線、過ごしている環境を理解できていない、という部分も多分にあるのだと思います。

よくよく考えてみると、自分と立場が違う人の理解が得られない、という嘆きはいろんなところで耳にします。「現場は管理職の大変さが分かってない」「管理職は現場の大変さが分かってない」とか、「ビジネス部門はITのことが全然わかってない」「IT部門はビジネスのことが全然わかってない」とか…。そう考えれば、「なんでそうなるのか全然わからない!」「相手は自分たちのことを全然わかってない!」と感じるとき、相手もまた同じことを感じているのかもしれません。

相互理解は「相手を理解する努力」によって作り出す

もしそうなのであれば、心理的安全性を確保していくためにはまずは自分たちのことを理解してもらおうと必死に説明するよりも、まずは相手の置かれている状況、相手の見ている目線を理解することが近道なのかもしれません。たとえば「こっちも大変なんです」と言われれば「そっちも大変かもしれないけどこっちだって大変なんだよ!」と言いたくもなります。逆に「そちらも大変ですね」と言われれば「いやいやこちらも大変だけど、そちらも大変だよね」と返したくなるものです。

置かれている立場が違うのだから見え方・考え方に差があって当然だというスタートラインに立つことで「相互理解は前提ではなく努力によって作り出すものだ」という価値観を共有していければ、おのずと互いにとって心理的に安全な環境を作って行けるのではないかと思っています。

個人対個人の関係性の総和が組織の心理的安全性となる

心理的安全性の確立についてもうひとつ考えていることは、心理的安全性は組織に宿るものではなく個人対個人の関係性に宿るものだ、ということです。「心理的安全性の高い組織」というのは実体としては存在せず、個人対個人の関係性におけるその瞬間の心理的安全性の総和が組織における心理的安全性なのではないかと私は考えています。なぜなら、同じ組織の中でも自分にとって心理的に安全だと思える度合いは人によって異なるからです。また、同じ人に対してですら今この瞬間に感じる安全性と、1週間後に感じる安全性は異なるからです。

ですから私にとって「組織の心理的安全性を高める」ということは組織のメンバーひとりひとりに向き合い、信頼関係を築き、その信頼関係を維持していく、という取り組みの総和です。これはつまり新しいメンバーに対してはゼロから積み上げなければならず、既存のメンバーですら一度築いた安全性に安住することはできないということであり、非常に時間と労力のかかる取り組みではあるのですが、やはり全ての取り組みの出発点はここにあり、特に初期の段階でこの取り組みに意識的にリソースと時間を割くことによって、後々のプロジェクト成果を最大化することにつながっていくのではないかと思っています。


第13回はアジャイル宣言の背後にある原則その5「意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します」について、心理的安全性を確保することの重要性を紹介しました。


おわりに

これにて「アジャイルアプローチへの挑戦」シリーズは完結です!

このコラムは元々LTSの社内SNSに掲載していたものです。今回このメディアにも掲載していますが、当初書き始めてから終えるまでに約1年もかかりました。「12の原則に沿って書きます」なんて言ってしまった過去の自分を呪ったことも一度や二度ではありませんでしたが、「読んでるよ」「楽しみにしてるよ」と声をかけてくださる人達のおかげで 何とか12原則分、書き切ることができました。

まさにアジャイル的に(?)「完璧じゃなくてもひとまず公開!」みたいな完成度で投稿してきたシリーズでしたが、お付き合いいただきありがとうございました!!


ライター

坂口 沙織(LTS コンサルタント)

基幹システム導入PJを中心に、IT導入PJにおけるユーザー側タスクの支援に一貫して携わるビジネスアナリスト。構想策定から導入後の運用安定化支援まで、システム導入のライフサイクル全てに関わる。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)。(2021年6月時点)