コンサルティングを含めたプロフェッショナルサービスを主業とするLTSは、その拠点を東京都新宿区に置いています(2021年10月時点)。加えて、静岡、京都、大阪にもオフィスを構え、それぞれの地域に合わせた事業や、独自の文化に寄り添ったサービスの提供をしています。
今回、LTS静岡の立ち上げから今日まで、事業づくりや仲間づくりに尽力してきたお二人にお話を聞きました。どのような経緯で静岡にオフィスを構えたのか、その地域で求められている事業やサービスとは何か、そこで働くメンバーたちの想いや多様性、そして静岡での経験を活かした次の展望などをお話しいただきました。
静岡事業は現地採用の社員が中核となって拡大
漆畑:
まずLTSは、最初からコンサルティング企業だったのではなく、2002年の創業後の数年はコンサルティングも含めて、ITや教育に関わる様々なサービスを提供していました。その中に、静岡県内に一大工業都市を築いている、矢崎総業様とのお付き合いがありました。LTSは、その後矢崎総業様のIT機器/システム運用を担うようになり、東京のコンサルティング企業として事業を拡大しつつ、実は静岡に社員と大事なお客様を抱える、システム運用のIT企業という顔もありました。
中島:
だから社歴の長いLTS社員は、静岡での業務経験のある人が多く、静岡が好き、愛着がある人が多いんです。
漆畑:
私は2008年にLTSに入社しました。リーマンショックを超えて、会社が大きくなっていった2010年~2014年、静岡のお客様のシステム運用のニーズも広がったんですよね。それを受けてLTS側も体制を拡大しました。静岡で中途採用を実施し、メンバーが立ち上げ当時の2~3倍近くになりました。
中島:
私は2009年入社で、入社して半年くらいは東京にいましたが、同年12月にこの静岡での立ち上げメンバーとして参画しました。初めはBPO(業務委託)という形で、3~4人のメンバーで始まりましたよね。
漆畑:
はい。その後のメンバーは、静岡で現地採用したんです。システムの運用という業務の性質上、お客様先への常駐がマストだったので、東京のメンバーをアサインするわけにもいかず、LTSにはインフラエンジニアもいなかったので、とにかく現地採用に力を入れていました。
今であればパートナーの方にご協力いただく、とかいろんな方法が頭に浮かぶんですが、当時は本当にそこまで頭が回らなくて。人脈もないし、なんとかしなきゃ…、という想いが強かったです。静岡で採用を進めていると、体制がどんどん大きくなっていきました。
システム運用のプロジェクトは、1回始めると年単位でその後も続くのが基本です。なので、静岡で事業をやりたいということよりも、静岡でエンジニアが働ける場所としてメンバーが集まってくれていたので、そのメンバーを守るのに必死でした。みなさん家庭とかありましたし。当時は、拡大したい、成長したい、というよりも、「雇用を維持したい」という想いが強かったです。
中島:
7~8年前から経営会議の場などで、顧問の方や経営陣に、静岡事業は顧客・サービスのポートフォリオにリスクがあるので、他の事業も拡大したほうがいいと提言を頂いていましたよね。
漆畑:
そうですね。そのような提言を受けて、現状の体制と売り上げをどう維持するか、同時に利益率をどう上げるか、組織作りもどうするか、という数ある課題に対応していくうちに、今のような規模の事業形態になりました。初めからこうしたい、と思って今ここにたどり着いたわけではなく、目の前のやるべきことを進めていって今に至る、という感じですね。今でこそ、中期経営計画を立てられるようになりましたよ。LTS社内では静岡って前から規模も大きかった、と思われがちなんですが、成長期はここ10年くらいです。
中島:
2010年以前って、創世記みたいな時期ですよね。それ以降、安定的に腰を据えてみんなが業務する、メンバーが増える、仲間が増えてくる、となるのは2010年から2016年くらいでした。拡大のスピードも速く、結果的に見るとすごく安定していた時期なのかなと思いますね。2017年にLTS静岡のオフィスを作ると、少し流れが変わりました。
静岡情報産業協会(SIIA)で学んだ「静岡のビジネス事情」
漆畑:
何か新しいことができないかと考えたときに、はじめはシステム運用でできることを増やそうと考えたんですが、人手が足りないし、新規のお客様も作れない。じゃあ、サービスを創ろう!という流れになりました。コンサルティングもできる中島さんもいたので、新しい分野の開拓ということで新しいグループを立ち上げました。
中島:
システム運用だけでなくコンサルティング案件も増やしていこうとなり、私も含めて3人の小さな部門でしたが、事業推進グループを立ち上げました。実績もないので、まずは営業で名刺を配る日々…。
営業活動を通していろんなコミュニティに所属し始め、2017年に静岡情報産業協会(以下、SIIA)という静岡のIT企業が参加する団体に加入しました。当時は新参者でしたが、今では漆畑さんは理事の一人なんですよ!
漆畑:
そうですね。今年から、運営委員長もやっています。光栄ですね。
中島:
加入してもう5年目になりますが、SIIAでは多くのことを勉強させてもらっています。
漆畑:
これは静岡に限定したことかどうかは分かりませんが、ビジネスモデルは首都圏と違うなと感じましたね。具体的には、首都圏においては発注者も受注者も多いので、契約の前にいわゆるコンペという形を取ることが多いです。でも、こちらではコンペって言葉はほとんど聞かないんですよね。
「相見積もり」と言われる、発注の際に複数企業から見積もりを出してもらうような形を取ることが多いです。一度一緒に仕事をすると、その先も長く取引が続きます。なので、同業者同士の横のつながりで、紳士協定のようなものがあるようでした。企業同士の強いつながりは良いなと感じましたね。
中島:
それぞれの企業が、それぞれ長くお付き合いのある会社と仕事をされているのが、我々にとっては印象的でしたね。
漆畑:
そうですね。改めて地域のビジネスを形作っていくときに、LTSがこれまで東京でやってきたモデルから、いろいろ書き変えなければいけないんだなというのは感じましたね。
中島:
協会の中には事業会社や自治体、学校などもあるので、かなりの人脈形成ができたなと思います。
漆畑:
こういう地域のコミュニティに所属して痛感したのは、所属している企業の方々は売り上げをあげたり、顧客を広げたり、という活動のために所属しているわけではないということです。みなさん自社のサービスや教育、採用、などの「企業を成長させる活動のための情報収集」が目的なのだと気が付きました。
中島:
それが協会やコミュニティの本来の目的なんですよね。
漆畑:
首都圏でもコミュニティの根本的な目的自体は変わらないものの、競争やセールスの意識が当たり前にあるのでビジネスを意識したコミュニケーションになりますよね。ここでは各企業のビジネスも、他社との競争意識を持ってやるというよりは、自分のお客様企業とのお付き合いを大事にしている印象ですね。
SIIAなどの地元コミュニティでは、パートナーさんや静岡エリアならではの考え方をインプットするための場としてお世話になっています。
LTSは静岡でどのようなバリューを発揮できるのか?
漆畑:
正直最初は、LTSって珍しい存在だったと思うんです。みなさん長年地元のコミュニティで関係を築いてこられていて、理事会の方々は何十年という付き合いなんですよね。その中で、東京から来たコンサルティングの会社で、年齢もみんな若い、それだけで興味持っていただけるんですよね。
中島:
そうですね。でもそんな中で、“新しい情報を持ってくる人たち”と認識されている感じはありますね。
漆畑:
うんうん。先程もあった通り、地域をベースにしたコミュニティって地元の方々の集まりで、引き合いも人づてで、大事な交流の場なんですよね。
中島:
私たちより年齢を重ねている方が多いんですが、フラットに話をしてくださいます。1~2時間ずっと話していますね、悩みは尽きないので。
例えば、成長するために必要な技術やケイパビリティ、維持している事業の舵の切り方、など。今後成長していきたいけれどやり方が分からない、という課題感はずっとあるそうです。悩みを起点に、いろんな会話が展開されていきます、最先端技術の話とか…。
漆畑:
人を介した情報収集の機会が少ないところが、みなさん課題として持ってらっしゃるのかもしれません。新規性を持つ人との出会いが少なく、刺激を受ける相手がなかなか居ないのかな、と。地域の中小企業は成長戦略を描けない/描いていないと一般的に言われがちですが、みなさんもっとこうしたいとか思ってはいるんですよ。でも、“これまで50人くらいの規模で長くやってきました”という中小企業は現状から先に進むのが難しいんです。やっぱり、具体的に何をしたら成長につながるのかが見えないので。
中島:
自分たちの規模感で、成長するにはどうしたらいいか?を知るための情報収集は、周囲に真似できそうな企業も見つからず、難しいと思います。
漆畑:
外部に情報を取りにいかなければいけないけれど、そこまで余裕がない。都内であれば日々勉強会や交流イベントが開催されていますが、その機会が少ないエリアだとどこに行けば情報があるか分からない、という点もありますね。首都圏とは、感覚ややり方が全く違っています。でも、みなさん人脈がすごいので、きっかけをつかめば最終的に必要なところにつながるんですよね。
中島:
そうですね。そういうきっかけとなる情報を提供できる役割を担っているかもしれないですね、LTSは。
生活スタイルやキャリアに対する考え方は多種多様
中島:
2010年に静岡での採用を初めて、初期に採用した社員は今では中核メンバーになってきましたね。
漆畑:
はい。そしてここ1~2年で、システム運用以外に、ITエンジニア枠の新卒採用も始めました。ただ、人事部は東京にいますし、若干の距離感はあるかもしれないです。これは課題なんですが…、業務と新卒採用活動の両立は難しいなと感じます。採用メッセージやカリキュラムを組んだりするのに、手が足りないという現状があります。
採用における首都圏との違いは、仕事を選ぶ際に重要視しているのが‟生活スタイル”だということです。例えば、東京で転職している人は、就きたい職種やこの先のキャリアを考えた転職を進め、今住んでいるところから通勤先が遠ければ引っ越しすると思うんです。でも、こっちではこのあたりに実家がある、とか、県内でもあるエリア限定でしか働けないということが、往々にしてあるんです。採用する側としても、その人の生活圏や家庭環境への配慮が必要になります。いい条件があっても、通勤が難しければ難色を示されることがあります。
中島:
コロナを理由に、静岡に移住したい人も多いみたいですね。
漆畑:
一般的には、コロナによる首都圏離れで、近隣に人口が流れ始めていると言われていますが、採用エージェントの方はそのような感覚がないそうです。そういう理由で応募してくる人は去年からいるものの、コロナの影響でどの会社に就職しても先行きが不安、ということで転職する人の総数も減っているようです。
中島:
静岡ってサッカーがアツいんですけど、息子にサッカーをさせてあげるために静岡に移住したいという方もいらっしゃるみたいです。他にも、釣りやキャンプが好きで、このあたりに住みたいという人もいました。
漆畑:
そうですね。みなさんいろんな理由で、特定の地域に住みたいと考えていらっしゃるので、そこから通える範囲で、ということで就職・転職活動をされています。少し遠くて、通勤に時間がかかる方もいました…。
中島:
通勤片道2時間くらいかかる人もいましたね。
漆畑:
はい。結構心配しましたよ、本当に大丈夫?って。何回も聞きましたけど、割り切っているんだと思います。住むエリアを重要視しているということは固い人が多いですね。今は、リモートで働ける環境も整ってきましたので、住む場所を変えないということが条件になることも、今後の採用の中であるかもしれないですね。
中島:
人気のエリアとしては、熱海が上位にありますね。三島なども東京に近いですし、駅前の再開発もありました。
漆畑:
そのような例もあるので、求人に応募してくださる方が大切にしているのは生活環境なんです。今までのキャリアと、転職後のキャリアが若干違っていても、働ける場所と条件次第でなんとか…、みたいな。
最近、若いメンバーも入ってきていますけど、そういう人たちは考えが違うかもしれないですね。システム運用の業務自体が、3~6か月で急にキャリアが変わるものではなく、安定的にオペレーションをやるのがメインとなるので、伸びていた時に入ってきた中核メンバーは特に、生活に重きを置いている人が多いですね。
中島:
あとは、コンサルタントの求人の場合、静岡では目立つんですよ。静岡県内で、コンサルタントの求人があること自体が珍しいんです。事業の立ち上げをやるメンバーも静岡で募集してるんですが、結構応募はありますよ。それ自体が面白いと感じている人や、県内でSEをやっているけれどもう少し上流をやりたい、と応募する人など。東京にしか求人がないと思っていたけれど、静岡にあった!みたいな。なので、そのような方々の転職の受け皿になれている感じはあります。
…後半へ続く
ライター
自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)