ミドルアップで始める変革活動(後編) 組織・人の変革を通じた企業価値の向上のサムネイル
プロセス変革・業務改革

ミドルアップで始める変革活動(後編) 組織・人の変革を通じた企業価値の向上

前編では、ビジネスプロセス変革の失敗事例とその要因と、 トップダウンもしくはボトムアップで進める変革活動のメリット・デメリットについて触れた上で、新たな解決の方向性としてミドルアップ主導による活動が有効であるとお伝えしました。後編では、ミドルアップの活動による具体的な変革活動の成功に向けたステップをご紹介します。
桑原 啓太(LTS マネージャー)

東京大学法学部卒業。LTS入社後は、全社BPRやDXの企画・プログラム立ち上げプロジェクトに複数参画。ビジネス課題の抽出・構造化から施策としてのシステム導入・業務運用支援まで、幅広い領域を経験している。製造業を主要な領域としつつも、不動産・小売・ITなどの業界のクライアントに対してもご支援経験あり。(2022年2月時点 )

経営・事業・組織変革領域のサービスリーダー

島野 陽介(LTS 執行役員 Business Development & Insights 事業部 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2024年7月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

変革活動成功に向けたステップ

では、具体的なミドルアップ起点の変革活動の成功に向けたステップを紹介していきます。ステップは大きく分けると2つです。

ステップ1:ビジネス・業務構造の把握
課題の前提となる、現状のビジネス・業務を客観的に把握し、関係者と目線を合わせます。
このステップが抜けてしまうと正確な課題構造を捉えられず、どういったことが背景となって課題が起きているかの議論が頓挫してしまうことがあります。また、正確な課題構造を捉えていないと、課題解決の方向性を誤ってしまいインパクトの出ない活動となってしまいます。

ステップ2:課題構造の把握
課題構造を把握することで、解決しなければならない課題(ボトルネック)が明確になり、意思決定者や関係部門と目線を合わせることができるようになります。
このステップができていないと課題解決における効果やインパクトが分からず、オーナーの承認や関係部門の協力が得られないといったことが起きてしまいます。また、インパクトやボトルネックが押さえられていないと、変革活動の効果も期待できません。

ステップ1:ビジネス・業務構造整理

ステップ1は「価値」を起点にしてビジネスの構造を捉え、ビジネスに何が必要かを特定するというステップです。

①価値起点でのビジネス構造整理
顧客にどのような価値を提供しているのか、ということを起点にビジネスを構造化します。

画像1:小売業のビジネスを構造化したもの

小売業を例に考えてみます。お客様にとって①製品が何であるかを認知でき、②それがインターネットなどで検索でき、③検索した製品を選別/評価して④購入をし、⑤製品を手元に置けるといった、①~⑤それぞれの価値が連鎖してお客様にとっての価値をトータルに実現できる連鎖構造があります。

この連鎖講構造を実現するために必要なのが、製品認知のためのチャネルの宣伝、製品検索のための製品の展示、製品を選別/評価するための選択肢の提示、購入にあたっての支払処理、お客様に製品を届けるための配達、といったビジネス機能です。

②機能の配置状況の整理
お客様にどういう価値を提供するのか、そのためにはどういった機能が必要なのか、といった機能の洗い出しがファーストステップになります。その際に活用するのが画像2のファンクションマップです。

画像2:製造業のビジネス機能を表したファンクションマップ例
MP:マネジメントプロセス=経営プロセス
OP:オペレーションプロセス=お客様に製品を届けるプロセス
SP:サポートプロセス=会社運営に必要なプロセス

ファンクションマップでは、お客様に価値を届けるためにどういった機能が必要かを一覧で洗い出し、現在、企業の中でその機能を誰が担っているかのコミュニケーションを整理することが可能です。

また、課題解決に向けて現行の業務がどうなっているのかについて、機能をもう少しブレイクダウンして業務・課題を整理するには、業務フローが有効になります。

画像3:製造業の業務フロー例

業務フローは、登場人物を洗い出し、各登場人物が何をやっているかのつながりを示したものです。このように業務を可視化していくことで、誰が何をやっているのか、何が問題になっているのかといった整理が可能になります。

業務フローを作成するポイント
一言に業務フローといっても、やみくもに可視化していくのではなく、問題や課題仮説を持って作成することが重要です。
とりあえず業務フローを書いてみたがあまり示唆が得られなかった、何も課題が分からなかったという声を聞くことがありますが、課題の仮説を持って業務フローを書くことでそれを浮き彫りにするのがポイントになります。

画像4:製造業の業務フロー例(起きている問題)

画像4は製造業における販売計画から実際のお客様に商品を届ける入荷・検品のフローを網羅したものですが、現状の問題として「物流部に業務が集中しており調整の負荷がかかっている」ことが分かります。

業務のリードタイムが長くなってしまう、お客様に対して納期が延びてしまうという構造的な課題を浮き彫りにしており、本来であれば本社がやる業務を販売会社がやっているなどのねじれが生じている問題を業務フローで明確にすることができます。

ステップ2:課題構造の把握

ステップ1では、ビジネスがどういう形で行われているかを浮き彫りにしましたが、その中で、課題が何なのか、どういう構造をしているかを確認していくのがステップ2です。

①問題ツリー
課題構造を整理するときに活用できる問題ツリーという手法があります。問題ツリーは、企業活動の中で何が起きているのかといった部分と、それによってどのような財務的なインパクトを与えているのかを把握するためのものです。

例えば、付加価値が下がっている、在庫量が減っている、固定費が増えているなど、どういう問題が起きているかを示しつつ、そのような現場オペレーションがなぜ発生してしまっているかのボトルネックを特定することができます。

画像5:問題ツリー

ボトルネックによって生じる経営へのインパクトを捉えないと、これをなぜ解決しなければいけないかといった経営陣とのコミュニケーションができません。

問題ツリーを活用し、本質的なボトルネックが特定できれば、何を変えればよいかが分かり、定量・定性でのインパクトを整理し、変化による「経営へのインパクト」、変えなければならない「制約」といった影響箇所が説明できる状態になります。

問題ツリーを作成するポイント
問題ツリーは、現場の困りごとベースで作成するとストーリーとして弱くなってしまいます。例えば工数削減のテーマでは、それによって人件費の削減につながるという話はありますが、工数削減によるコスト削減はインパクトが小さいので経営に訴求するにあたってはストーリーとして弱いです。

別の例では、ある情報がシステムに入力ができない、何かがシステム化されない、二重入力してしまっているというような、画像6の①を起点に問題を整理すると、その解決によって手間が発生し結果的にコストは増加しているのでは?という整理になり、課題解決のインパクトが見えづらいという問題があります。

画像6:ボトム起点の問題ツリー
画像7:インパクト起点の問題ツリー

問題ツリーの作成ポイントは、インパクト起点で何が問題なのかを示す逆のアプローチが有効です。経営のインパクト起点で、「売り上げの機会損失が発生している」のはなぜかを整理すると、それは「単位時間当たりの業務量が目標を下回っている」となります。では、さらにそれはなぜかを整理すると、画像7の③のような「現場の困りごとがあるから」となります。このように、ストーリーを構築するためにはインパクト起点で問題を整理していくことが重要です。


問題ツリーについてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。よろしければご覧ください↓


②施策ドリブンではなく、課題ドリブン
また、課題構造の把握では、施策ドリブンではなく課題ドリブンで実行することも重要だと考えています。

ある製造業様の事例で、ERP刷新を進めようとしていたもののERP刷新には多額のコストがかかるため、経営陣に対して投資対効果を示す必要がありました。しかし、変革チームとして、それをなかなか説明できないといった課題がありました。

画像8:製造業様の販売管理システム刷新にあたって、課題の原因構造を分析した結果

現状の課題を整理し、問題ツリーをベースに画像8のような課題を整理しました。このような整理をしたところ、施策としてのERP刷新によって解決できる課題は全体の数パーセントに過ぎず、他にも部署間連携の強化や製造能力の向上など、システム刷新以外にもやるべきことを実施しないとインパクトが生まれない、課題解決ができないという整理になりました。

システム刷新をやろうという「施策」が先行し、システム刷新によって解決したい課題設定が甘かったりすると、その課題を引き起こしているボトルネックを見落としてしまいます。

そうすると、メインの施策のシステム刷新で思ったより効果が出なかった、生産性向上が実現しなかったと、インパクトにつながらない結果となってしまいます。施策ドリブンの取り組みは、そういったリスクがあるということを認識しておく必要があります。

単なる改善を超えた変革に向けて

課題ドリブンの変革活動

現場主導の変革活動を実現・継続していくためには、活動が経営・事業に資することが大前提となります。課題ドリブンで組織横断の活動を推進していくことが重要です。

また、小さな組織に閉じた活動は経営視点でのインパクトが乏しく、活動として定着しづらいです。インパクトを生んでいくためには、課題対応に適した横断的な組織を組成し組織横断で取り組んでいくことが重要になります。

規模が小さな活動でも、組織横断での活動で成功体験を得ることには十分な意義があると思います。

変革のボトルネックを捉えること

変革活動成功に向けたステップでは、いかにビジネスの構造を捉えるか、業務の構造を捉えるかといったところを説明しましたが、そこを推進していくにあたっては、以下のような変革のボトルネックを捉える事も重要なポイントです。

変革のボトルネック

  • 組織を超える権限はあるか?
  • 活動において権威はあるか?
  • 評価制度、人事制度がマッチしているか?
  • マネジメント(意思決定者)の関与はあるか?
  • 現場へ展開(実行)できるか?

変革活動が思うように進まないときには、問題は権限なのか、権威なのか、制度やマネジメントなのか、何がボトルネックになるのかを適切にとらえ解消していくことが重要です。。

はずみ車の法則

変革活動において、インパクトのある課題を捉えること、変革活動推進にあたってのボトルネックを捉えることは重要ではありますが、それだけですぐに効果を得られるものではありません。

変革活動を一過性のもので終わらせず持続的に行っていくには、変革を続けていく組織能力が必要不可欠です。組織能力は一朝一夕に身に付けていけるものではなく、時間をかけて少しずつ培っていくものです。

最初は、外部リソースの活用からのスタートになると思いますが、それを継続的に行っていくことで、自社の組織能力は育っていきます。時間はかかるかもしれませんが、大きな変革活動・継続的な変革活動を自社内で完結できる組織に成長するためには、小さくても変革活動を1回実施してみることが大切になります。

現在地を把握し、将来を描く

変革活動を成功に導くためには、自社の現状を把握し将来に向けた着実な変革ステップを段階的に描くことが重要です。

画像9:変革活動によって競争優位を獲得している状態のレベルを表現

画像9にある通り、初期フェーズでは変革活動のための組織能力を獲得していく段階です。組織能力が培われていくにつれ事業活動が創出されていくというステップを整理しています。

自社で変革活動を推進する自走体制の実現に向け、ステップを踏みながら組織能力を獲得していくために、自社がどれくらいの立ち位置にいるか、どこを目指しているか・目指していかなければならないかの参考にしていただけると幸いです。

まとめ

今回の記事では、変革活動のよくある失敗事例とその原因から、ミドルアップ/中間管理職主導による変革活動の進め方についてご紹介してきました。最後に、今回の記事を4つのポイントに整理してこのコラムは終わりとさせていただきます。

  1. 日系企業の多くは、機能別の縦割り構造となっており、各組織がそれぞれの組織内に閉じた活動を推進しており、多くの活動が現状の延長線上の改善に留まっている
  2. このような企業においては、ミドルアップの活動が有効。現場の各組織が競合するのではなく、協調することで、ドラスティックな変革を起こすことができる
  3. ミドルアップの活動を推進するうえで、ビジネス・業務構造の把握と課題構造について関係者と目線合わせをすることが重要
  4. 企業変革の重要成功要因は、「課題ドリブンであること」「変革のボトルネックを捉えること」「弾み車の法則」。小さいところからでも組織横断の活動を遂行し、中長期的に組織能力を育てていくことが大切

ぜひこの4つのポイントに注目して、自社での変革活動を進めてみてください。


当サービスに関するお客様へのインタビュー記事がございます。よろしければこちらもご一読ください。


エディター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)