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プロセス変革・業務改革

欧米発 FP&Aのアプローチ 今求められる経営管理とは

LTSの経営管理サービスのリーダーを務める髙橋です。今回は、近年注目が高まっているFP&Aについてご紹介したいと思います。

ライター

髙橋 矢(LTS 執行役員)

SIer 、コンサルティング会社2社を経て、LTSに入社。経営管理、ERP領域を中心に、ユーザーサイドでのPJ支援を得意とする。現在もPMとして複数の案件を担当。経営管理領域サービスリーダーとして「数字を活用した人・組織が動き出す経営管理」サービスを目指している。2020年より執行役員に就任。(2021年9月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

経営管理・事業管理の役割を担うFP&A

みなさんは、FP&Aという言葉をご存知でしょうか。

FP&Aとは、Financial Planning & Analysisの略称で、経営管理・事業管理の役割を担う機能あるいは職種のことをいいます。FP&A部門はグローバル企業においては、CFO組織の配下に経理・財務部門と並列してFP&A部門が配置されています。日本企業では経営企画部などがこの役割を担っています。

FP&Aの主な役割は「分析、予測、計画の策定、業績報告といった業務を通じて、経営や事業の意思決定プロセスに貢献する」ことです。“管理会計”、“企業財務(コーポレート・ファイナンス)”や“事業戦略”すべての知識をベースに持つ専門家が将来の戦略を数字でマネジメントし、実践しているところにその強みがあります。ただ、分析を中心とするテクニカルスキルの面では、グローバル企業のFP&Aと日本企業の経営企画部とでは大きな差は無いと考えています。では、何が異なるのか。それは、次項以降で解説したいと思います。

FP&Aに関して、私が注目している点は二つあります。一つ目はFP&Aのマインド、二つ目は「マネジメントコントロールシステム」という仕組みです。

当事者意識を持って意思決定に関わる、FP&A部門のマインド

FP&Aの機能は本社FP&Aと事業部FP&A(事業部制の場合)の2つに分かれます。事業部FP&Aは事業部長のビジネスパートナーとして事業経営を支え、本社FP&Aは各事業部FP&Aを支える役割として機能します。事業部FP&Aは、事業部長の「支援者」ではなく、事業部長と共に経営を推進する「当事者」という意識で、事業経営の意思決定にもリーダーシップを持って関わると言われています。

第2回の中澤氏のコラムの中で、「マクロな管理会計とミクロな管理会計の調和が求められている」というお話がありました。ミクロな管理会計においては、第1回でも触れたように、これまでの日本企業では事業部任せ(現場任せ)という状況が多くあるのですが、そこを事業部任せにするのではなく、数字と分析に強いFP&Aが事業部長の真のパートナーとして事業経営に関わることにより、ミクロな管理会計を確実に回すための強化策に繋がるものと考えています。

さらに、グローバル企業における事業部FP&Aは本社FP&Aとレポートラインが直接繋がっていることにより、本社機能で実施するマクロな管理会計ともしっかりと連携が取れる構造になっています。これはまさしく、「マクロな管理会計とミクロな管理会計の調和」を実現する体制ではないでしょうか。

一方で、日本企業では事業部長がすべての意思決定権を持っています。事業部内に事業企画部のような部署があったとしても、あくまでも事業部長の支援機能という位置づけとなります。そのため、本社との繋がりは事業部長のみとなり、マクロとミクロの管理会計の連携力はFP&A組織がある場合と比較すると脆弱です。

では、単純に日本企業で欧米企業のようなFP&Aの組織構造を作ればよいのかと言うと、それだけでは機能できないだろうと考えています。なによりも、FP&Aの役割を担う一人ひとりが「事業部FP&Aとして、事業部長にとっての真のパートナーになる」という高いマインドを持っているからこそ機能するものだと考えています。そのため、テクニカルスキルだけでなくこのようなマインド醸成も必要になってきます。

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組織構成員に「働きかける」システム、マネジメントコントロールシステム

二つ目は「マネジメントコントロールシステム」です。

FP&Aのミッションは「組織目標の達成」にあります。マネジメントコントロールシステムとは、組織目標を達成するために組織構成員に「働きかける」システムのことを指しています。そして、FP&Aはこのマネジメントコントロールシステムの設計者・運営者となります。設計者の役割を果たすためには組織(ここでは事業部門)の価値観、文化、状態、などをしっかりと把握する必要があります。そのうえで組織構員のモチベーションを引き出し、組織目標の達成に導いていきます。事業部FP&Aがそれらしいことを外野から発言・意見だけをするような体制ではなく、組織の価値観や文化まで把握しようする動きは事業部の中に入り込み、その事業部で機能するマネジメントコントロールの仕組みを設計しようとする姿勢が伺えます。(ここでもマインド面が出ていると思います。)

「組織構成員に働きかけるシステム」とは、いわゆる動機づけのことです。個人の利益と組織の利益が合致するインセンティブ設計をし、評価指標と報酬とを紐づけることを重視します。その目標は、財務的な指標だけではなく非財務的な指標も組み入れることが重要である事、またその人が担える責任の範囲内の目標であることが重要とされています。

これだけを見ると、「そんなことは既にやっている」と感じられる企業担当者も多くいらっしゃるのではないかと思います。しかしながら、個人の利益と組織の利益の合致という点にしっかりとフォーカスしたインセンティブ設計がどこまでできているでしょうか。目標設定時に、組織構成員のモチベーションを適切に引き出すための評価指標を設定できているでしょうか。そのための対話、組織の価値観、文化、状態を把握するための動きを取っているでしょうか。

意識はしているものの、「組織目標の達成ため」という目的との繋がりが薄いように感じます。また、目標を一度設定し、その後その目標を評価まで寝かせてはいないでしょうか。業績目標と連動した評価指標であれば、それをクリアすることによって組織目標の達成に近づくことになるはずです。変化の激しい状況においては、当初の計画通りに事が運ぶことはほぼないため、期中での柔軟な軌道修正が重要となります。これは、マネジメントコントロールシステムの運営にあたる部分になります。

例えば、定期的な1on1の中で目標に対しての対話を行い、組織構成員の目標達成へのアドバイスやモチベーションの促進、ひいてはキャリア作りまでをサポートすることで、目標達成に向けた志気を維持します。数字と向き合うだけでなく人にも向き合いながら、組織目標を達成していくことは、FP&Aに求められる役割の一つなのです。

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FP&Aに求められる人財育成の視点を持った経営コントロール

昨今、「人的資本経営」という言葉もよく耳にするようになりました。人材を資本と捉え、その資本を最大活用することで、企業価値向上や企業目標の達成につなげていく考え方です。

例えば、花王では「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」としてOKR(Objectives & Key Results)を導入し、社員が自ら掲げる大きな目標への挑戦を通じて、一人一人の成長と自己実現、結果的に会社の成長や社会に貢献するという仕組み作りを行っています。そして、丸井グループでは「心の資本」と称して、社員の幸福が財務数値である営業利益率に繋がっていることを示し、社員の幸福度を高めるための施策やカルチャーづくりを行っています。

人事・評価・ウェルビーイングといった文脈で課題提起をされている方々は、従業員の幸福や今後のキャリアの充実を目指して活動されています。そして、従業員の幸せやキャリアの充実の先には、企業のミッション・ビジョンの実現や中期経営計画の実現があると考えられています。

このようなテーマは、基本的には人事サイド(CHRO※1)の役割とされています。しかし、FP&Aが本気で事業部の意思決定をリードし、当事者として事業目標の達成にコミットするには、ここまで解説してきたように「人・組織をどう動かすか」というところまで踏み込む必要があると考えています。

例えば、半導体素子メーカーのインテルでは、「目標設定」、「継続的な1on1」、「年次業績評価」、「報酬」の関連を意識してマネジメントコントロールシステムを機能させていたそうです。※2

※1 CHRO:Chief Human Recource Officerの略で、最高人事責任者のこと。
※2 石橋 善一郎著、『経理・財務・経営企画部門のためのFP&A 入門』2021

数年前に、「中期経営計画を開示している企業の3年後の目標に対してどれくらいの企業が達成できているのか」という調査が行われました。結果、達成企業比率は、売上高、営業利益、経常利益、3項目とも2割を下回っていました。※3 これは、日本企業では経営管理が果たすべき役割が機能しているとは言い難い結果です。

※3 淺田一成、山本零、『企業の中期経営計画に関する特性及び株主価値とその関連性について-中期経営計画データを用いた実証分析-』2016、p.71、https://www.saa.or.jp/journal/prize/pdf/2016_asada.pdf

私たちは、「経営管理とは人・組織を動かす仕組み」であると捉えています。管理会計制度や体制を整えることは当然重要ではありますが、それだけでは組織目標は達成できません。それは上記の調査結果が物語っています。

これまで経営管理は、予算管理などの財務戦略の側面から議論・課題提起されることが多かったのですが、「個人のキャリア形成」というCHROの観点と、「事業目標の達成」というCFOの観点を融合させ、事業現場で仕組みを回し、結果を出していくことがFP&Aに求められる重要なミッションなのかもしれません。

「プロセス改革」と「マネジメント改革」の2つで経営管理の強化を

上記の議論について、「可能性を解き放つ」というミッションを掲げるLTSとしても、人にフォーカスした経営管理の高度化は非常に重要だと考えています。

企業の真の変革を実現するためには、現場の「プロセス改革」と、経営管理レベルを向上するための「マネジメント改革」をセットで実行することが重要であると考えています。基幹システム刷新などの「プロセス改革」を進めることにより、業務の標準化、業務ルールなどが整備され、現場で生まれるデータの精度や信頼性が向上します。信頼されるデータが提供されることではじめて、データを活用した「マネジメント改革」を前進させることができます。信頼できるデータが無い状態ではFP&Aの分析力の真価を発揮することはできないというのは、容易に想像が出来ると思います。

下図の通り、プロセス改革とマネジメント改革は両輪です。どちらが欠けても、経営管理を正しく機能させることはできません。プロセス改革は業務の効率化、最適化を目的に実施されることが多いですが、それだけではなく、同時に情報を正確且つ的確なタイミングで収集し分析することを目指すことも多くあります。そしてこれらを実現するためにはプロセス整備/データ整備が必要となることから、プロセス改革の領域にもFP&Aは積極的に関与・リードしていくことが必要ではないかと考えています。

資料:経営管理(マネジメント改革)改革(筆者作成)

例えば、スリーエムジャパンのCFO組織の配下には、経理部、財務部と並列して情報システム部が存在しています。プロセス改革・マネジメント改革を支える柱となる情報システム部門をCFO組織の責任配下に配置しているのは、FP&Aを含むCFO組織が数字だけではなくプロセスも含めて企業全体を支えるのだという意思をあらわした組織ではないかと考えています。

人・組織が動き出すための企業文化づくり

経営管理は、企業の中の誰か一人が担うものではありません。経営層を筆頭に、ミドル層などの現場で日々業務をしている人全員で進めていくものです。

インセンティブ設計や、経営層とミドル層の交渉なども確かに重要ですが、一番根底にあるものは組織に所属する人たちの間に「自分の意見を言える環境がある」「自分の意見を言っても否定されない」という空気があることです。この目標で頑張れ!と経営層から一方的に目標を掲げたり、言っても聞く耳を立ててもらえないだろう…という現場の空気があったりすると、インセンティブ設計や事業計画に関する交渉の場も成り立ちません。組織の中で自分の考えや気持ちを誰かに対して発言できる状態である「心理的安全性」をつくることも、経営管理の仕組み作りの一つだと考えています。

しかしながら、ある意味で企業の文化づくりに近い部分でもあり、仕組みを作ればすぐに変えられるものではありません。例えば、経営会議でFP&Aが会議設計・運営をする中で、上司部下関係なく自由闊達なコミュニケーションが可能な雰囲気を作りながら、企業全体の文化として定着化させていく、といった地道な活動も必要になってきます。

これは「対話型コントロールシステム」の設計においても不可欠となります。第2回のコラムで、日本企業は現場の高い自律性に支えられているという話がありました。そしてVUCA時代においては、この現場力を最大に発揮できる仕組み作りが必要であると指摘されています。現場力の最大化とは、すなわち“人・組織の可能性を解き放つ”ことであると考えています。現場層が経営層とも目標達成に向けて自由で開放的なコミュニケーションができるという心理的安全性の確保は、日本企業の現場の可能性を解き放つ重要な要素になるのではないでしょうか。地道な活動にはなりますが、そのような企業文化づくりもFP&Aのミッションの一つとなります。

FP&Aに適した人材とは

ここまで見てきたように、様々な役割を担うFP&A人材は経理や財務の知識やスキルが必須となるものの、個人的には経理財務部門・経営企画部からしか生まれない…ということではないと考えています。たとえある時点で経理財務のスキルが無かったとしても、それ以上に高い変革マインドを持った人材であればFP&A人材に向いているのではないでしょうか。

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余談ですが、DXにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。デジタル技術を得意とする人材はデジタル人材にはなれますが、そのままトランスフォーメーション人材(=高い変革マインドを持った人材)にはなりません。日本企業でDXが進まないのは、どちらかといえばトランスフォーメーション人材の不足によるものだと考えています。しかしながら、世間の関心はデジタル人材の育成であり、デジタル教育に重点が置かれてしまっている印象があります。

環境変化の激しい中で、求められる経営管理を実現するうえでは経営管理の制度や仕組みを整えるだけにとどまらず、確実な目標達成のために人や事業カルチャーの面にもアプローチをすることが大切です。そのためにも、高いマインドレベルの人材が求められます。このような人材は一朝一夕では育たないため、今から計画的に進めていくことが将来的な経営管理のレベルアップに繋がっていくものと考えています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


エディター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)