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プロセス変革・業務改革

企業変革の進め方とは?(前編)変革が失敗する事例とその原因

LTSは2022年11月に2冊の本を出版しました。『次世代リーダーのための変革実践ガイド(プレジデント社)』と『ビジネスプロセスの教科書第2版(東洋経済新報社)』です。
 
これら2冊の本は異なるテーマでありながら、企業を変革していく上での共通の問題意識があります。それは社内のさまざまな“境界を越える”ことが変革の鍵となることです。
 
今回はそれぞれの著者が、お互いの専門分野から見た企業が変革を進める上での課題とその処方箋を、“意識の壁”、“組織の壁”、“経営の壁”という3つの壁の視点から対談形式で解説します。
島野 陽介(LTS 執行役員 Business Structure & Management Dept. 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

なぜ変革は失敗するのか?

島野
『DX白書2021』によると、財務的な指標(売上、利益、コストなど)、意思決定スピードの向上、顧客体験価値の向上、従業員価値の向上の4つの観点で成果が出ている企業は14%程度に留まっています。

DXが流行り始めてから3、4年程経過する一方で、なかなか変革を進められない企業が多い、というのが現状です。

変革の失敗事例

島野
最初に変革を進められなかった3つの企業の失敗事例をご紹介します。

変革の失敗事例

島野
事例1の『現場任せのDX号令』は、活動を立ち上げられなかった事例です。

デジタルを活用した抜本的な生産性向上を経営目標に掲げ工場横断でのプロジェクトが発足しました。各工場から課長クラスが集まり目指す姿について議論を開始しましたが、なかなか活動を進めることができませんでした。

その要因として、 “現状に問題はない”“分からない”“抜本的な変革は自分たちには無理”とあきらめているメンバーが多く、また、メンバーの経験・スキルとしては、自部門内の改善活動は得意だが、組織を越えた変革の成功体験はない、ということもあり、工場を横断した活動を立ち上げることができませんでした。

事例2の『事業部門からの反発で活動が停滞』は、活動が途中で頓挫してしまった金融グループの事例です。

M&Aを積極的に進めてきた結果、業務機能やITが重複し管理部門が肥大化していました。そこで、ホールディングス直下にデジタル推進組織を設置し、抜本的な変革活動を開始しました。しかし、各事業部門との信頼関係がないままに、またそれぞれの事業実態を考慮せずに大鉈を振るうような改革プランを打ち出したところ、事業部門からの反発を招いてしまいプロジェクト計画の大幅な見直しが発生し頓挫してしまった事例です。

そして事例3の『テクノロジー活用の限界』は、変革活動を実行したけれども思うような効果を得られなかった製薬メーカーの事例です。

売り上げの伸び悩みや事務スタッフを多く抱えていることによる販管費の増大が経営課題となっており、抜本的な生産性改革を進めようとしましたが、思うような効果が得られませんでした。

その要因として、これまでも部門ごとに業務改善活動を進めていたため、新たな効果を獲得できる業務が多くなかった点が挙げられます。加えて、効果を見込んでいたRPA導入に際して、不要業務の削減や抜本的な業務の見直しが検討されておらず、現状の業務の自動化・RPA導入の目的化が起きてしまったことが挙げられます。結果として、RPAを運用する周辺業務が必要となり、業務量が増大してしまいました。

変革を阻害する3つの壁

島野
これら3つの失敗事例にみられる、“活動そのものが立ち上がらない”“活動が途中で頓挫・停滞してしまう”“変革活動が実行されても限定的な効果に留まる”という変革の失敗の原因には、3つの壁が存在していると考えています。

変革を阻害する3つの壁

島野
1つめが変化への抵抗、不安やあきらめといった意識の壁。2つめが営業と製造、本社と支社間の対立・分断といった組織の壁。3つめが戦略と実行の乖離、経営と現場の分断といった経営の壁です。これら3つの壁が変革を阻んでいると考えています。

「変革の失敗」は氷山の一角

島野
また、3つの壁を越えられない原因として“変革力”の不足があり、さらにその要因として組織の風土・文化・習慣の問題があります。「変革の失敗」は氷山の一角であり、水面下にはこのような問題が隠れているのです。

変革の失敗の原因

島野
変革力とは、“何を”“どのように”変えれば事業インパクトにつながるのか、そして、企業で起きている問題の本質のボトルネック・課題構造を捉えることです。課題構造が捉えられないと、何を変えればよいか分からないため変革ストーリーを構築することができません。変革ストーリーを構築できなければ、組織を越えて関係者を巻き込むことができず、デジタルソリューションに頼ってしまったり、安易にベストプラクティスを自社に導入しようとしてしまったりします。その結果、3つの壁を越えられず変革の失敗に陥ってしまいます。

したがって、氷山の一角だけを見て、対処療法的に改善を進めてもなかなか効果は得られません。あるいは、外部に頼って、表面上は、大きな変革を起こすことができたとしても水面下に隠れているものが変わらなければ、元の状態に戻ってしまうといったことが起こります。

組織風土が生む経営と現場の分断

島野
氷山の底にある組織の風土・文化・習慣の問題について、変革に失敗している組織における典型的な状況を詳しく説明したいと思います。

経営と現場の分断

島野
まず、経営層のスローガンレベルの戦略や現場をサポートしないといったマネジメントスタイルはよく見られることですが、そのような進め方では成果は出ません。ですが経営層は、変革が進まないのは“思い切りが不足している”“現場が問題を上げてこない”という認識を持っています。

またミドルマネジメント(部課長層)は、経営層からの上意下達を受けてメンバーにそのまま指示として落としていきます。そして成果が出ない状況に対して“権限を与えているのに自発的に動かない”“メンバーの視座が低い”“危機感がない”といった認識を持っています。

ですがミドルマネジメントの行動は、上から言われたことをメンバーに丸投げしているだけであり、形式的なマネジメントに留まり、失敗を許容しない、サポートをしないというのが現状です。

それに対してメンバーは、“いつも方針の丸投げ”“自分たちだけでは難しい課題”“サポートもなく頑張っても報われない”“上に言っても無駄”といった認識を持っており、「言われたことだけやる。できない理由を並べる」といった行動になってしまいます。

ミドルマネジメントも実は「目標とのギャップが大きすぎると感じていつつも、上には、言えない」という気持ちで、「事なかれ主義、問題を伏せる」といった行動をとってしまいます。

このような症状のある組織では、経営層とミドルマネジメント、現場メンバーとの間で分断が起き相互不信の状態になっており、変革力が醸成されづらい状況に陥っています。ですが変革を進めるためには、ここにしっかりと目を向けて水面下にある問題を解決していく必要があります。

負のサイクルはトップ主導でも変えづらい

負のサイクル

島野
ここまでの問題を整理すると、昨今のような変化のスピードが速く常態化している環境下においては、これまでのやり方が通用しないという状況があります。いわば変革力の不足です。そのため、変革活動においては、表面的なアプローチや外部への丸投げといった対処療法的な対応により、失敗を繰り返す中でマネジメント層とメンバー層との間で分断が進み、相互不信・信頼関係の欠如が起き、変革力が育たないという負のサイクルに陥ってしまっています。

このような負のサイクルに陥っている組織の変革活動は、組織間の対立構造やマネジメントの問題を浮き彫りにすることが多く、変革を主導する個人の立場も危うくしてしまうリスクがあり、心理的安全性が低い状態となります。

こういった状況では協力し合うという意識の変容も起こりにくく、変革のコスト・リスクも高い状態のため、組織を越えた連携が不足し個別最適化が進み、組織を越えた合意形成がより困難になっていくという負のサイクルが重なるため、トップが主導しても変化を起こしづらい構造になってしまいます。

したがって、変化のスピードが早く、常態化している環境で、かつ、トップが主導しても変えづらいような状態にある企業においては、『これまでのやり方が通用しない』つまり”変革力の不足“が、ボトルネックとなっており、ここを変えない限り、この負の連鎖構造を打破することは難しいと考えています。

以前のような安定的な環境と昨今の変化の激しい環境では、リーダーシップや戦略、組織のカルチャー、人材スキルなどで重要視される考え方も変わってきており、変化の激しい環境下では、常に自らを変化し続けられる変革力が重要になってきています。

かつての“カイゼン”モデルはだけでは通用しない時代

島野
ここまで、変革の失敗の原因構造を深堀してきましたが、山本さんはこのような状況をどう見られていますか?

山本
変化の速い時代において変革が必須となり「なぜ変革が進まないのか?」という問いかけが出てきていますが、そもそも企業の基本構造は変革に向いていません。企業はこれまで、変革に適用した企業の構造をつくってきませんでした。それが昨今「なぜ変革が進まないのか?」という問いかけに代わってしまっているのです。

昔と現在の企業変革の違い

山本
これまでの企業構造は、同じビジネスモデルに基づく計画的成長を前提としていたため、現場はそれぞれの仕事をしっかりと遂行し、見える範囲内で継続的な改善を地道に積み重ねることで、生産性や品質を着実に上げていくことが可能でした。

現場はこれまでの前提に基づいて活動できるため、経営の現場への関与も限定的で問題はありませんでした。一方で経営は、お客様・株主・業界団体・行政といった外に目を向けて、自社の経営に対してリスクになる要素を排除しながら、周囲の期待をきちんと収集して内部に落とし込むという活動をしていました。これが、ビジネスモデルが変わらない世界における、ビジネスの方法です。

ですが昨今の戦略やビジネスモデルの素早い変化が求められる時代においては、個々の部門の努力で何か大きなことを成し遂げることは難しく、全体のグランドデザインが必要なビジネス環境になっています。

これまで、しっかり持ち場を守るという意味では、野球型のビジネスでしたが、これからは、それぞれの持ち場に加えその時の状況を見ながら縦横無尽にポジションを入れ替えていく “サッカー型の動きが必要になっている時代ではないかなと思います。


中編では、変革活動を進める主体はどこにあるべきかを解説します。



ライター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)