企業変革の進め方とは?(後編)3つの壁を越え企業変革を実現するのサムネイル
プロセス変革・業務改革

企業変革の進め方とは?(後編)3つの壁を越え企業変革を実現する

中編では、変革活動を推進するにあたって、社内のだれが主体となってどのように推進すべきか、また変革を阻害する3つの壁のうち、ひとつめの「意識の壁」の越え方について解説しました。
今回は、残りの2つの壁の越え方について解説します。
島野 陽介(LTS 執行役員 Business Structure & Management Dept. 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

3つの壁を乗り越える方法

組織の壁を越える

島野
次は組織の壁です。組織の壁とは、フロントとバックオフィス、本社と支社、経営と現場といった組織の分断や対立、また組織や機能の細分化が進み事業部の中でも隣の部門が何をしているか分からない、などの組織間の無関心や対立です。そして、細分化した各組織が自らのミッションや専門性を追求するほどに、組織間の連携が難しくなるジレンマも抱えています。

例えば、サプライチェーンの変革でいうと、その検討対象が広いがゆえに、関係者の目線が合わず総論賛成・各論反対となり合意形成できないことがあります。最終的には、各組織に忖度した最大公約数的な施策で意思決定されてしまうこともあります。

組織の壁を越えるためには、価値を起点とした構造化や意思決定を引き出す仲間づくり、中長期・短期視点の変革ストーリーの構築、組織の倫理に勝つマネジメント構築などの点が重要になってくると考えています。

最初の一歩となる価値起点の構造化と、変革ストーリーの構築にあたっての観点について説明したいと思います。

価値を起点に構造化する

顧客への提供価値とプロセス

島野
上図は、自社のビジネスが提供している顧客価値と、価値を生み出す段階を分解したものです。矢羽根になっているものはバリューストリームといわれており、顧客価値はいきなり生まれるものではなく、企業の中の様々なプロセスを経て価値が積み上がった結果生まれるものです。

矢羽根の下に記載されているものは、価値を創出するバリューストリームに関係するプロセスを表しています。

このように構造化をしてみると、顧客への提供価値を積み上げていく段階の中で、どこで不足が発生しているのか、どこのプロセスで問題が発生しているのか、といった価値創出のボトルネックを把握することができます。

機能に閉じた視点ではなかなか顧客価値につながっていきませんが、一組織、一機能に閉じていた視点を一つ上げることで、共通の目標を見ながら何を変えなければならないのか、という視点で関係者と議論を進めることができるようになります。 次に、実際の変革に進めるために必要となってくる要素と要素間のつながりを俯瞰し、変革のストーリーを構築します。

変革ストーリーの構築

島野
現状と目指す状態のギャップが大きすぎて活動が立ち上がらないケースも多いため、目指す状態は何か、それに対して現状の問題構造はどうなっているか、本質のボトルネックは何か、などを現実解に落とし込んでいく必要があります。

この中で特に重要な要素は、本質のボトルネックを捉えられているかどうかです。例えば、表面的な問題に対してソリューションを当てはめているようなケースでは、全体のストーリーとして整合は取れているように見えますが、誰が変えられるのか、という点で検討が不足しているため活動が頓挫してしまうケースがあります。

変革のストーリーの構築にあたっては、実効性が担保されているか、という観点でチェックできるとよいです。検討が不足している箇所や、根拠としてのつながりが弱い部分を特定できると、何を整理しなければならないのか、いま何をやるべきかと、という点で関係者と目線を合わせることができると考えています。

プロセスをつなげ、事実とゴールを理解して皆で議論をする

島野
組織の壁についても、山本さんの視点でご意見いただければと思います。

山本
全員で同じ事実を見て議論する、というところに尽きると考えています。

例えば業務可視化において、普段自分が知っている範囲の業務を可視化し、その中から問題を見つけて改善するというアプローチでは、新たなことを得られるケースは少ないです。大切なのはその次の、見える化したものをつなげて見て皆の理解を同じものにする、というステップです。

見える化したものを皆で見て理解をする

山本
とある製造業の事例ですが、会議室の壁一面に可視化した業務フローを貼り、経営から現場まであらゆる立場の人が一体となって、組織の壁、組織階層の壁を越えて、皆で可視化した事実に基づいて、どこに業務の問題があるのか、不明点がどこにあるのかを議論する場をつくりました。

「変革をどう進めるのか?」というと問いかけはとても大事ですが、その根底にあるのは、変革が進むような場や関係性をどのようにつくるのか、というのをご理解いただいて初めて変革への取り組みが動くのではないかと思います。

経営の壁を越える

島野
最後に経営の壁についてです。昨今の事業環境の変化により自社のケイパビリティだけでは競争優位性を担保できなくなってきている企業は、組織の壁を越えただけでは変革を実現するのに限界があり、事業や会社を越えた変革が必要になってきます。そこで直面するのが経営の壁です。

経営の壁とは、事業横断的な変革を進める横断組織と事業部門間にある溝や、戦略と実行の乖離、そして上意下達なマネジメントスタイルです。信頼関係の不足から生じる事業部門への抵抗や、曖昧なスローガンレベルの戦略が掲げられたDXプロジェクト、現場主義という名の丸投げなどが、経営の壁として変革を阻害しています。

このような壁を乗り越えるために重要になってくるのは、“経営からのサポートを得る”こと、“現実的な変革活動の拡張”、“トップの役割変更”となりますが、経営からのサポートをもらわないことには始まりません。

ここでの“経営からのサポート”というのは、投資の承認だけではなく経営層自身が何かの調整や交渉、現場活動の実効性を上げるために評価指標の変更を主導して実行することです。このようなサポートを経営から得るためには、それなりの労力が必要になってくるため、予め覚悟を持っておく必要があります。

意思決定のステップ

経営からのサポートを得るための意思決定のステップ

島野
上図では、経営からのサポートを得るために必要になってくる意思決定のステップを分解しています。第1段階は変革のストーリーが揃っていることです。変革のストーリーはあるけれども、現場に任せて経営は動かないというような状況の企業では、第2段階のステップでの対応が必要になってきます。

第2段階は、まず経営の役割をタスクレベルでまで落とすことです。例えば、会社を越えたデータの統合が必要な場合、「このデータがあればこういう効果が出ます」「活動期間や投資金額はこれくらいです」「リスクはあるけれど対処は可能」「こういったデータが必要なのである会社に対してのコミュニケーションのつなぎをいつまでにお願いしたい」、と具体的なタスクに落とし込んでいきます。このレベルまで具体化することで、経営からのサポートは得られやすくなると思います。

ですが、この段階まで整理をしても経営の腰が重い場合は、第3段階に進みます。第3段階までくると現場で進める必要が出てきますので地道な活動になりますが、小さくてもよいので事業インパクトに資する成果をつくり、その先にある効果の可能性を明示することで経営からのサポートを得られるようにします。経営のサポートがないと変革のスピードが落ち、変革リーダーの精神的な負担も大きくなるため、確実にサポートを得られるようにしましょう。

目標とする状態に向けた道筋と乗り越えるべき壁がはっきりとしていれば、理解・共有できるストーリーができているため仲間づくりが可能になります。このような活動を地道に進める事で成果を上げることは十分に可能と考えています。

壁を越えて戦略をマネジメントする

島野
経営の壁を見てきましたが、山本さんからの目線でご意見いただければと思います。

山本
どのように経営を巻き込んでいくのかに関しては、島野さんがお話ししたような様々なテクニックを駆使していくしかないと思っています。ですが、そもそも経営と現場の間に壁を置いている時代ではない、という認識を持ってもらえるといいかなと思います。

昔と現在の事業戦略のマネジメントの違い

山本
過去にあったような計画成長の時代は、戦略を考える人と実行する人が比較的分離されていた世界観でしたが、昨今の変化が速く事業が複雑になっている世界観では、誰かが中央集権的に戦略を考えて指示をしていたのでは成り立たちません。状況は常に変わっているため、現場に近い小さなチームで粗い戦略を立てて取り組んでみて、上手くいかなければ辞め、良ければそれを事業展開していくという進め方がポイントになってきます。現在は、実行も含めた戦略のマネジメントサイクルをいかに素早く回していくか、という世界観になっています。

そのような意味で、一言でいえば経営と現場に壁をつくっている場合ではなく、お互いにもっと近づき一体となってビジネスをしていく時代なんだという認識を持っていただきたいです。

島野
昨今、人的資本経営の論点も大きなテーマとしてありますが、その中でも個人の可能性を最大化するために、キャリアの可能性をしっかりと個人に対して明示していく必要性が重要になってくると考えています。ビジネスプロセスマネジメントの観点から、この人的資本経営をどのように見られていますか?

山本
これまでの組織における人の役割は、実行側の人材育成や実行する担当者を管理することが主体でした。これらの人材は、業績をしっかりと維持するために必要な業績人材といわれるポジションです。一方で、変革を推進する変革人材といわれる人たちも必要になってきていますが、このような人材を育て会社の中で処遇していくような制度が、多くの会社では整っていません。

組織に置ける人の役割の変化

山本
私がビジネスプロセスマネジメントの活動をする中でよく聞く悩みが、改善活動をいくら頑張ったところで会社の評価にはつながらない、という点です。なぜなら評価指標自体が、売り上げのような分かりやすい業績指標や、メンバーを何人見ているのかという部門を抱えている管理職、どれだけ現場維持をしているのか、という点に寄っている現状があるからです。

今後は、キャリアの複線化、様々な思考と役割に応えられるようなキャリアモデルをつくっていくことが、経営としてもとても大事なるのではないかと思います。

まとめ(変革の重要成功要因)

島野
ここまでなぜ変革は失敗するのか、そしてミドルアップで壁を越えるアプローチについて見てきました。

変革の重要成功要因として、まずは構造を捉え、捉える視点を一つ上げていくこと、経営からのサポートを得るために必要な現実解のストーリー構築と仲間づくりをすること、そして何よりも重要なのがリーダーシップです。ミドル層の想いが全ての活動の起点になると考えています。

3つの壁を越える中で、変革力は獲得することができます。まだまだ語り切れないポイントがありますので、あわせて書籍を読んでいただければ幸いです。


あなたの会社では、以下のような「変革の失敗」が起きていないでしょうか。
・変革を実行したが、効果が限定的。
・変革が途中で頓挫したり、停滞したりしている。
・そもそも、変革活動を立ち上げられない……。

変革が失敗する企業には「意識の壁」「組織の壁」「経営の壁」の3つの壁が存在します。これら3つの壁を突破する際のキーパーソンが「ミドル」層です。企業を変革させ、新たなステージに導くうえで、ミドルはどうふるまえばいいのか。どのように意識や行動を変革したらいいのか。本書ではそのためのアプローチ方法を、豊富な事例とともに解説します。巻末には多くの企業組織で応用できるフレームワークを多数掲載しています。

出版社:プレジデント社(2022年11月15日)


ビジネスプロセスマネジメント(BPM)は、ビジネスパーソンの必須スキルとして重要視されているものの、いまだ正確なイメージを持てずにいる人・組織は少なくありません。
本書は、BPMの考えや仕組みをわかりやすく解説し、業務理解の入門書として好評を博した前著『ビジネスプロセスの教科書』(2015年7月刊行)をもとに、業務のデジタル化や経営環境の変化など最新の潮流に伴う変化を反映しました。
さらに、数多くの事例を通してビジネスプロセスにおける課題を浮き彫りにし、全体の構造を見抜く視点や考え方、人・組織のあり方、効果的に変革していくための方法を解説し、全体の7割をアップデートした大改訂版です。経営者や現場に携わる業務担当者の疑問に答える、BPM書籍となっています。

出版社:東洋経済新報社(2022年11月18日)



ライター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)