よつば彩園の歩み
以前は、この場(本社オフィス)で聴覚障がい者の方に働いていただいたこともあります。そのために同じグループメンバーもみんなで手話を習って、全ての会議を筆談形式にして業務を設計したのですが、ご本人にとってもやはり負荷はありましたし、高いレベルでのチームワークはできませんでした。
そこから、いろいろな葛藤もありつつ、ファーム型障がい者雇用の企画を立ち上げ、野菜を育てる準備をし、栽培して、ようやく今年の4月に初めて社員の手元に野菜が届いた、という流れです。
立ち上げ
2022年3月は、農園はまだ更地で何もありませんでしたが、数か月でトレーラーハウスやビニールハウスができ、2022年8月に会社説明会を実施して、LTSの理念やDE&Iの方針に共感いただいた方にご応募いただきました。
そして、9月に樺島さん(LTS代表)にも来ていただいて、入社式を実施しました。
整備
農園というと緑のイメージですが、最初は茶色です。マスクも茶色になりますし、ほこりまみれでものすごく大変でした。
何もないところから自分たちで作っていくわけですが、まず溝を掘って、そこから出た土を振るって3種類の砂の大きさに分けて、それを作った通路に敷き詰めていきます。1レーン30m以上のものを作るのに1カ月以上かかりました。
これだけ土の作業が続くと、メンバーのみなさんとしても野菜を作りにきているので、野菜作りとのイメージが違うことに疑問を感じたり、先が見えず不安が付きまとったりなどもありましたが、何とか不安を乗り越えて、今年の3月にようやく先が見えるところまできました。
半年かけてようやく準備が完了しました。
栽培
晴れて、3月17日に種まきの日が来ました。この日はお祝いということで、親御さんや個々のメンバーを担当されている支援員※1の方をお招きして種まき会を開催しました。
障がい者が地域で自立して生活を行えるよう、地域の福祉サービス事業所・医療機関・公的機関との連携や連絡・調整やマネジメント業務を行う方。
このタイミングで、自分たちの場所やこの取り組みを分かりやすく表現したいなと思い、LTS社内のデザインチームにロゴを作ってもらい、トレーナーやTシャツ、タオルにプリントして、メンバーにお渡ししました。
種まきから1週間くらいで芽が出てきて、ちょっとずつ間引きをしたりしました。
まずはできた野菜を社員へ届とけるということで、ただ届けるだけではなくレシピを考えたり、野菜の特徴を伝えるために図鑑で調べたりなどもしました。
そして、4月17日に初収穫をし、一つひとつきれいに洗って、袋詰めをして、メッセージを入れて赤坂オフィスに送っていただきました。
はじめて収穫して社内に野菜を届けた日、社内のSNSにこんな投稿をしたのですが、過去の投稿の中でもトップレベルのリアクションがあったのではないかなと。それだけ、社員のみんなも喜んでくれたのではないかなと思います。
それを受け取った社員もみんな嬉しそうで、最近は社内での頒布会に人が集まってきて、そこでコミュニケーションが生まれています。野菜を通してみんながつながるというのは嬉しいなと思いました。
みなさんが工夫して作った料理を社内SNSに投稿してくださったりもしています。
その後も、水菜や小松菜などを収穫したり、新しく育てたい野菜リストを作って、小さく実験をしながら栽培して、いけそうであれば大きく育てる、アジリティ※2ある栽培を行っています。
機敏さ、素早さ、敏しょう性といった意味があり、LTSでは「ビジネスアジリティ」を、事業構造を外部の環境変化に対して素早く適応させると同時に、自ら変化を生み出すことを可能にする組織能力と表現しています。
今後の取り組み
先日も3週連続で収穫した野菜をオフィスにお届けしましたが、今後は、社員の個人宅へ定期便として野菜を届けたり、地元(浦和・赤坂)の子ども食堂等、野菜を必要としているところに提供していったりしていきたいと思います。また、農園で働いているよつば彩園のメンバーが、菜園を通じて成長し、仕事の幅が広がり、別の仕事にチャレンジできるといいな、ということを考えています。
ですが、まだ栽培から収穫の1巡目が終わってもいないくらいですので、皆さんそれぞれいろいろなアイディアがあると思いますが、一つひとつの取り組みにそれなりに時間もかかるため、歩みとしてはゆっくりとしたペースで進めていけたらといいなと思っています。
ここからは、(健常者の方で)普段農園の現場で(障がい者の方を)リードしていただいている農場長のお二人にお話を伺っていきたと思います。
農場長2名のパネルディスカッション
―――これまで、このような仕事をされていなかったので、農場長という仕事、そしてLTSの印象について個人の想いを教えてください。
小室:
私は農園の近くに住んでいて、ここが更地の状態から、何ができるんだろうなと思って見ていました。トレーラ―ハウスが来たな、ハウスが建ったな、と、その時からすごく気になっていました。たまたま求人を見た時に、ここで働くためにずっと気になっていたのかなと感じました。
自分の子供たちが日々いろんなことにチャレンジしていく姿を見て、私も何か新しいこと、新しい世界に飛び込んでみたいなという想いがずっとあり、この仕事に応募しました。
いままで全く経験したことのないような農園での作業や、このお仕事をしていなかったら出会わなかったような方々と一から一緒に仕事を作っていくということに、本当に毎日ワクワク・ドキドキしていて、不安や緊張もありましたが、楽しいことの方が多く、本当に今の仕事ができて良かったなと思っています。
飯塚:
私も福祉の仕事に興味がありちょうど勉強していたタイミングで、ご縁があり求人を見ました。ただ、ボランティアで福祉の経験はあったのですが、仕事としてやるのは初めてでしたので、また、福祉施設や就労支援とも違う形の仕事だったので不安も大きかったのです。
ですが、会社説明会に参加したときに、LTSの会社理念に魅力を感じて、ぜひここでやってみたいと思い応募しました。
―――仕事する中で楽しいこともあれば苦しいこともあると思います。こういったことが嬉しい、この辺がやりがいだ、などがあれば教えてください。
飯塚:
メンバーのみなさんが、以前できなかったことができるようになったり、一つひとつのみなさんの成長を間近で感じられるのは、やはり嬉しいことです。お野菜が採れて、社員の皆さんに喜んでもらえるというのも嬉しいことです。
小室:
もちろん、メンバーが野菜を上手に育てられたことも嬉しいですが、メンバーのみなさんの働く意欲が最初とは全く比べものにならないくらい高まっていて、日々成長している様子を見ることができ、やりがいを感じています。
みなさん、人前で自分のことを話すのが苦手な印象があります。最初のころは気持ちを聞いたり、質問してもなかなか言葉が出てこないことが多かったのですが、今はしっかりと自分の言葉で伝えていただいています。また、私たち以外の人前でも発言できるようになったので、とても成長したなと思っております。
―――人と人との関係なのでたいへんなことや難しさもあると思います。どういった時に、たいへんさや難しさを感じるか教えてください。
飯塚:
話をする際の表現の仕方がとても難しいなと感じています。例えば「あそこの、アレ取って」だけでは全然伝わらないので、具体的に「白いテーブルの上の〇〇」という感じで、細かく伝える必要があります。表現の仕方の難しさを感じつつも、自身も勉強しなければならないなと感じています。
また、悲観的に物事を捉える方もいらっしゃるので、なかなか想いが伝わらない、くみ取ってもらえない、というのは日常的に起きます。そのため、自分の想いを伝えるのも難しいですし、私が想いっていること・感じていること・話していることをどこまで理解してもらえているのだろうか、というのも分からないので、そういった点をもう少しクリアにしていければいいなと考えています。
小室:
この人にはこのように接しましょうといったようなマニュアルは全くなくて、必要な配慮は人それぞれです。作業の説明においても、他の説明に関しても、理解のスピードや言葉の表現を捉える形も人それぞれで、それが本当に難しいなと感じました。
話す順番や言葉の選び方、視覚で見せるか動作で見せるか、最初のころはすごく悩んでいましたが、対話を通してその人の感覚を掴んでいくまでがすごく大変だなと思いました。
―――今後こうしたいなと思うことがあれば、教えてください。
飯塚:
私は人と話をしたり、顔を見て想いを伝えることが好きなので、お野菜を通じて出会いの場を広げられたら、メンバーの視野もすごい拡がるし、世界も広がるし、そこから得るものもたくさんあると思うので、そういう場が増えていったらいいなと考えています。
小室:
社会参加というところで、もう少し外との関係を持てたらいいなというのは当初から思っていました。私は現在ボランティア活動として、子ども食堂に野菜を配ったりしているので、そういう場所への参加もしてみたいなという気持ちも持っています。
ですが以前、メンバーにこういう活動どう?と聞いてみた時に「そういう場所に出ていくのが怖い」と話していたので、なかなか理想と現実のバランスが難しいところです。もう少し入りやすいところから社会参加していけたらいいなと思います。
最後に、彩園のメンバーからそれぞれ自己紹介をしてプレゼンが終了しました。
ファーム型障がい者雇用の本格的な取り組みを開始して1年ちょっとと、まだまだDE&Iの実現に向けて歩み始めたばかりです。
よつば彩園グループ長の山本は、月に数回の頻度で農園に行きメンバーとのコミュニケーションを重ね、それぞれのメンバーがよりよい仕事をできるよう、しっかりと向き合いこの事業を推進しています。
2022年9月に6名の障がい者の方を採用してから今日まで、一人も欠けることなくLTSに在籍しています。もちろん、「辞めたい」といった話がこれまで上がってこなかったわけではありません。その度に、メンバーとの対話を重ね、相互理解を進め、メンバーが納得した上で業務に取り組んでいただいて、今日に至っています。
メンバーそれぞれの特性を考慮しながら、着実に進めるペースでこれまで活動を進めてきました。これからもゆっくりとしたペースではありますが、着実にDE&Iの実現に向けて活動を進めていきますので、長い目で見守っていただけますと幸いです。
また、何か新しい取り組みなどが実施されましたら、このCLOVERを通じてご紹介できればと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
ライター
CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)