コンサルティング会社で「なぜ特許?」と不思議に思われるかもしれませんが、特許について知ることで、どんな業態の会社であっても企業のリスク回避や新たなビジネスチャンスの糸口を見つけることができるかもしれません。コンサルティング会社の特許取得事例や特許を含む知財の利活用、そして知財人材の必要性をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
LTSグループは年に1回、グループ内のナレッジ還流を目的としたグループカンファレンスを開催しています。
LTS入社後、総合的なデータ分析支援プロジェクトに従事し、データ分析研修設計、データ分析サービス開発、在庫・発注予測アルゴリズムの構築、オープンデータ自動取得プログラムの作成を経験。近年は、商品配置の最適化AI開発プロジェクトに従事し、データ分析技術と数理最適化技術を活用した研究開発に取り組んでいる。(2023年11月時点)
LTSの発明を利活用できる方法を探して
LTSでは2022年頃から特許に関する取り組みを進めています。私がもともと特許に興味を持っていたことが、そのきっかけにもなっています。私は前職で公務員として働いていたため、公務員になるために法律の勉強もしていました。その勉強が楽しく、仕事で法律の知識を活かしたいと考えていました。加えて、社員が作った研究内容を利活用できる道を探していたという点があります。
データ分析チームでは、アルゴリズムなどを開発してお客様に提供するご支援が多いですが、現状のお客様との契約内容では、開発した技術は全てお客様に納品するため、技術の横展開ができません。そこで、発明した技術を活用していく方法がないか模索していたところ、特許にたどり着きました。特許には発明者を守る制度があるため、LTSグループで開発した技術を活かしていくことができます。
特許ってなに?
では、特許とは何を目的とした制度なのでしょうか。特許は一般的に「発明者を守る制度」と言われますが、それは二次的な効果で、本質的な目的は「企業が発明を使って商品を生産し、それにより国全体の産業が発達していくことを国として推進する」制度です。
また特許権とは、発明者が自身の発明を特許庁に対して公開を許可する代わりに、発明を保護してもらう権利です。
発明者から公開の許可を得た国のメリットは、発明を世間に対して公開することができるようになるため、各企業は自社で同じ発明をしなくても、その公開された発明を利用※2して商品を生産できるようになります。
また公開された発明から、別の発明の示唆を獲得し新たな発明が出てくるなど、良いループが生まれるため、産業が発達し国として発展していくというメリットがあります。
実は勘違いしているもしれない「特許のシール」
ここまで特許について簡単に説明してきましたが、みなさんは「特許出願中」や「特許取得」と記載されたシールが貼られている商品を見たことはありませんか。この2つは似ているようで、実は大きく内情が異なります。
この2つの大きな違いは審査方法です。特許出願は誰でも簡単にできますが、特許取得は様々な要件を満たしている必要があり難易度が高いです。「特許出願中」のシールが貼ってあるからといって、その商品が「すごい!」というわけではありません。
特許で流行が分かる?ビジネスチャンスをつかめるかも
また特許の出願状況を見ることで、市場で流行している技術などもわかります。
上図は、国内のAIチャット関連の特許出願推移です。直近はAIチャットが流行していますが、連動するように特許出願数が2020年からうなぎ登りに増加しています。このように、流行りの技術は特許の出願状況を観察すれば分かりますので、ここからビジネスチャンスを見つけることもできます。
このトレンドは、日本に限らず世界に関しても連動しています。AIチャットは日本だと2020年が盛り上がっていましたが、世界では2019年に流行しています。このように「世界で流行ったものが1年後に日本に来るのではなないか」という推測を、特許の出願状況を見ることで分析することも可能だと考えています。
本当にあった特許の怖い話
特許から新しいビジネスチャンスがつかめる可能性がある一方で、特許を知らないと会社を倒産させてしまうリスクもあります。
実際にあった事例をご紹介します。とある美顔ローラーを製造する企業が、既に同じ製品で特許取得済みの同業の企業から訴訟を起こされた事件があります。
この企業には、特許侵害により当時の手元現預金の約2倍にも及ぶ約4億4000万円もの賠償金の支払いを命じる判決が下され、民事再生法の適用による再生の道を選択しました。
中小企業や大手になりたての企業では、特許侵害の賠償金の支払いで会社が倒産するリスクもあるため「知らなかった」では済まされません。この企業の場合、他社権利を侵害していることを把握していなかったため、民事再生法による倒産で済みましたが、特許を侵害していることを認識した上で特許侵害を行った場合は、刑事罰が科されます。
特許取得事例
コンサルティング会社の特許取得事例
コンサルティング会社にはあまり馴染みのないように感じられる特許ですが、他社では特許を取得している事例もあります。
マッキンゼーでは「機械学習と人工知能モデリングを使用した自動クラウドデータおよびテクノロジーソリューションの提供」という、現在流行しているAIに関する技術で自社開発をして特許を取得しています。
また、ボストンコンサルティングでは「商品の代替品の特定のためのシステムと方法」という、IT技術を使用したシステム及び装置の特許を取得しています。
LTSの特許取得取り組み事例
そして、LTSでも特許に関する取り組みを実施しています。
ひとつめは、LTSがご支援するお客様と共同で開発・実装した技術の特許取得の取り組みです。開発・実装した技術がとても高度な内容だったため、特許取得の話が出てきました。そこで私がLTS側の担当として、特許取得に向けての進め方をお客様の知財部にご相談させていただく対応をしました。
ふたつめは、昨年データ分析チームメンバーが参加した、経済産業省とNEDOが主催したビジネスコンテスト「NEDO Supply Chane Datta Challenge」で2位を受賞した、「洪水ハザードマップと人工衛星データ・AI技術を用いたサプライチェーンの影響可視化技術」の特許取得を進める取り組みです。こちらも私の方で、どのように資料を作成し弁理士※3に提出したらよいか等を対応しました。
法律で規定された知的財産の専門家。発明した人が損をしないように、特許や意匠、商標などを特許庁に出願して登録するのが主な仕事。
このように、LTSでも特許の取り組みを進めていますので、コンサル会社と親和性の高い特許や、注意すべき点などもご紹介したいと思います。
コンサル会社で特許を取得するメリット
特許を事業で活用するメリットとしてよく注目されるのが、以下の7つです。
上記の中でも、コンサルティング会社では「マーケティングとブランディング」と「パートナーシップ」の2つで、より特許を有効活用できると考えています。
「マーケティングとブランディング」では、自社で特許を取得している会社はメーカーに限らず技術力の高い会社として見られることが多いです。特に競合他社を調べる際に、その会社が持っている技術を特許取得数や出願数で具体的に比較することもあるため、技術開発に積極的だという点をアピールする意味でも、各社、出願を競い合っています。
実際に特許を取得していることは、技術力ブランディングになるはずですので、このマーケティング効果はコンサルティング会社でも活用できると考えています。
「パートナーシップ」に関しては、他社と協業をするにあたって、協業先に特許技術があるかという点は、選定ポイントの一つになると思います。
協業はお互いのソリューションをクロスさせて、一緒に何かを作っていくためにするものですので、自社に特許があると有利になりますし、先方にも特許がある場合、それらをクロスライセンスさせて一緒に使っていくこともできます。
LTSならどんな特許がとれるの?
特許の中にはビジネスモデル特許というジャンルがあり、LTSグループと親和性が高い特許だと考えています。
ただしビジネスモデル特許は、「発明」である必要があるため、ビジネスモデルそのものを特許化することはできません。特許法で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定されています。
ビジネスモデルは人為的取り決めで自然法則を利用していないため、それを解決する手法として、システムにより具体的に実装することで、自然法則を利用した技術的創作になり、ビジネスモデルの特許取得が可能となります。
LTSグループでは、お客様の業務課題を解決するための戦略をITシステムとして導入し支援する取り組みが多いので、この一連の流れを開発することで、特許化できると考えています。
ビジネスモデル特許の流行
実はこのビジネスモデル特許は2000年に出願ブームが到来しています。その後徐々に落ち着いてきましたが「デジタル技術でビジネスモデルを実装することで特許を取得できる」ことが周知され、2010年から再度盛り上がりを見せています。
加えて、スマートフォンの普及やAI、ICT技術の成長により出願数も増加しているため、マーケットにおけるビジネスモデル特許の注目度もあると考えています。
また、「特許シール」について説明した際に、特許の出願は簡単だが取得は難しいとお伝えしましたが、ビジネスモデル特許に関して実際の特許査定率を確認すると、2000年の流行時は査定率が低く特許取得率は全体の10%程度だったのに対して、2017年時点で取得率は74%まで上がっています。
取得率が上がった背景には、どのような内容の発明なら特許化できるのかという知見が、弁理士や技術者にも溜まってきたので、比較的高い確率でビジネスモデル特許を取得できるようになったのではないかと考えていています。
特許の意識が必要なコンサルティング案件
LTSの特許取得取り組みの経験を通して、特に次のような案件の場合は、コンサル会社でも特許を意識したご支援が必要だと実感しています。これらを見落としてしまうと、他社権利を侵害してしまう可能性も否定できないため、案件の開始タイミングで確認できるとよいかもしれません。
研究開発色が強い案件
まず対象となるのは、研究・開発色が強い案件です。
何かを研究・開発する際、それが他社の権利を侵害しないことが重要です。そのため、研究・開発色の強い案件では、最初に先行技術調査※4を行うようにしましょう。
出願を予定している技術案について、出願前に、その技術案に類似する技術案がないかを、すでに公開されている特許文献や非特許文献から探すことをいいます。
またその際に加えてほしい観点として、既に取得済みの特許だけではなく、現在出願中の類似技術案についても調査することをおすすめします。出願中の特許は、直ちに権利を侵害するものではありませんが、いずれかのタイミングでその申請が通った場合、権利侵害となるためです。
さらに、この先行技術調査を案件開始前に実施することで、研究・開発中に他社権利を侵害している可能性が出てくることを排除することができ、技術開発の出戻りリスク等を回避することができます。
第三者が閲覧・利用可能なシステムの開発案件
ふたつめが、第三者が利用予定のシステム開発の場合です。
他社の権利を侵害しているかどうかは、周囲から指摘されるかどうかという点も関わってきます。仮に社内だけで使うシステムの場合、他社の権利を侵害しているかどうかは、もちろん確認した方がよいですが、第三者が使うことはないので、多方面から指摘をされることはあまりありません。
一方で、第三者に公開するようなシステムの場合は、様々なところから指摘される可能性があるため、他社権利を侵害しないためにも、しっかりと先行技術調査をする必要があります。
特許取得文化のあるクライアントの案件
みっつめは、クライアント全社的に特許取得の文化がある場合です。
外部からではなく内部から指摘されるケースもあります。特許取得の文化がある企業と取り組みを進める場合、先方企業の知財関連部署とのやりとりが発生します。実際に私が担当したお客様との取り組みにおいても、先方企業では全社的に特許取得の文化があり知見もあったため、こちらの知識不足によって生じた課題に関して、先方担当者からご指摘をいただく点が多かったです。
企業に必要な知財人材
上記の3つに該当する案件かどうかの識別ができたとしても、関連する特許の内容を読み解くこと自体が簡単ではありません。そのため、特許を意識してコンサルティング案件を進めることは現実的には難しいのが実態です。このような背景から、私は社内に知財人材が必要だと考えています。
特許の文献を読み解くには、技術だけでなく法律の知識もないと、どのようなものが特許を取れるのか、また他社の権利侵害が起きていないかなどの判断ができません。私も知財人間になるために日々特許と法律について勉強を重ねています。
知財人材のような高い専門性のある人材が社内に一人いるだけでも、業務に活かせる点がたくさんあると感じています。LTSとしても、この知財人材を社内に配置するような取り組みを進めていく必要があると思いますし、私自身もそのような人材になれるよう専門性を高めていきたいなと思います。
ライター
CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)