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プロセス変革・業務改革

意思決定とは何か(後編) 意思決定の可視化方法

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2018年1月に掲載されたものを移設したものです。

上田 和輝(LTS コンサルタント)

業務分析、システム導入などの案件に参画。The Open GroupやObject Management Group等の提供するグローバルスタンダードの方法論、モデリング手法を用いて多角的に業務を分析・評価し、ソリューションの提案、実装を支援。TOGAF9.1 Certified。(2021年6月時点)

こんにちは。LTSコンサルタントの上田和輝です。前回お話した第1回:意思決定の定義と基本構造の続編として、今回は意思決定の全体像と、その可視化方法を紹介していきたいと思います。

前回の復習

まず、前回のコラムの内容のおさらいをします。
意思決定とは「あらかじめ定められたロジックを用いて判断材料(インプット)から結論(アウトプット)を出す行為」と言えます。そして意思決定は「意思決定」「インプット」「デシジョンロジック」「ビジネスナレッジソース」の4つの要素で表現することができるとお話しました。下記が意思決定の基本構造になります。

意思決定の基本形を実際の意思決定に当てはめてみる

今回はこの意思決定の基本構造を用いてもう少し複雑な意思決定を可視化してみようと思います。例として、昼食のメニューを決めるという意思決定について考えていきます。
ある会社の社員食堂で毎日お昼ご飯を食べるとし、メニューは「ハンバーグ定食、焼き魚定食、ラーメン、そば」の4種類があり、毎日変わらないこととします。

この時の意思決定を意思決定の基本形に当てはめると下図のように表現することもできます。下図をスタートとしてより現実の意思決定に即した意思決定の全体像を表現していきます。

この図では予算をインプットにして昼食のメニューを決めています。しかし、実際にメニューを決めるときは、「急いでいるから早く食べられるものにしよう」であったり、「昨日はラーメンを食べたから今日は違うものを食べよう」等様々なことを考えたうえで決定していると思います。このように多くの意思決定は複数のインプットを用いて決定しています。これを先ほどの図に付け加えると以下のようになります。予算と、急いでいるかどうか、前日のメニューをインプット(判断材料)としてメニューを決めています。

意思決定は連鎖することができる

では、これらの昼食の予算などのインプットはどこから来ているのでしょうか ?これらは、メニューを決めるという意思決定とは別の意思決定の結果を用いていると言う事もできます。つまり、昼食の予算を決めるという意思決定を行ってからメニューを決める意思決定を行っているといえます。このようにある意思決定のアウトプットは他の意思決定のインプットになることがあります。また、それぞれの要素間の関係は必ずしも一対一になるわけではありません。それぞれの意思決定が互いに関連し合って一つの意思決定がされます。昼食のメニューを決定する意思決定の全体像を表すと以下のような図になります。

昼食の予算は、今月の出費や残りの日数をインプットとする意思決定になりますし、急いでいるかどうかも現在時刻と次の予定の時間を比べて判断しています。このように意思決定の基本構造を組み合わせることによってメニューの決定に至るまでの意思決定の全体像を表すことができます。また、意思決定の要素の関連図のことをDMNではDRD(Decision Requirement Diagram)と呼びます。

デシジョンロジックについて

意思決定の全体像は4つの要素の関連で表すことができます。では、一つ一つの意思決定はどのように下されているのでしょうか? 意思決定とは「あらかじめ定められたロジックを用いてインプットからアウトプットを導き出す行為」と説明しました。このあらかじめ定められたロジックのことをデシジョンロジックと呼んでいます。このデシジョンロジックの表現方法はデシジョンテーブルやデシジョンツリー、ステートメント形式等の表現方法があります。様々な表現方法の中でもデシジョンテーブルが一般的で、DMNではデシジョンテーブルが紹介されています。例えば上の昼食の予算を決定するという意思決定のデシジョンロジックはこのように書き表すことができます。

この表の1行目は今月の出費が20,000円以上かつ今月の残り日数が15日以上であれば昼食の予算は300円以内になると言う事が表現されています。デシジョンテーブルはこういった条件文の集合を表現することができます。表ではインプットの部分とアウトプットの部分が分けられており、DRDでの意思決定のインプットがデシジョンテーブルの表頭になります。このデシジョンロジックはDMNではビジネスナレッジモデルというノードの中に格納されています。ビジネスナレッジモデルは意思決定に対してロジックや判断軸を提供しています。

意思決定の全体像

意思決定モデリングは、業務フローのような他の業務モデリングとともに使用することができます。したがって、今までの内容を踏まえると昼食を決定するという意思決定はこのように表現することができます。

これが、業務モデリングを含めた意思決定モデリングの全体像になります。業務フロー、DRD、デシジョンロジックの3つによって構成されています。この図は業務フローの「メニューを選ぶ」というアクティビティの中に含まれる意思決定を可視化した状態です。DMNでは業務フローより参照される形で意思決定モデルが示されます。実際に業務上の意思決定を可視化していくにあたり、まずは業務フロー上で意思決定をしているポイントを特定します。次にどういった意思決定がされているのか意思決定の連鎖を書き表していきます。そしてその意思決定がどういったロジックで行われているのか整理するために、ビジネスナレッジモデルを書いていきます。一つの意思決定に対して必ず一つ以上のビジネスナレッジモデルが存在しています。さらに意思決定の根拠となる物があれば、ビジネスナレッジソースを追記していき意思決定を可視化します。


ビジネスナレッジモデルを整理しデシジョンロジックを明確にすることで意思決定を均一化させサービスの品質を安定化させることができます。また、ビジネスナレッジソースを書くことによって、業務の中で判断をしている時、何を参照しているかがわかるのでナレッジマネジメントとしても活用することができます。このような理由からDMNを作成することによって担当者間でばらついていた意思決定の基準の再現性を高めたり、意思決定をシステム化する第一歩目として活用することができます。ぜひDMNを活用して業務における意思決定を整理してみてください。

DMNの要素の凡例を掲載します。DMNを作成する際の参考にしてください。