ビジネスイノベーションを加速させる エフェクチュエーションとは 第1回 経験豊富な起業家たちから学ぶ思考プロセス

LTS経営・組織

このコラムでは、エフェクチュエーションの考え方や原則を解説し、熟達した起業家たちの持つ、共通の思考プロセスについて紹介します。エフェクチュエーションは個人起業家だけでなく、企業内の組織活動やビジネスパーソンにも応用できる内容です。

「エフェクチュエーション」とは、熟達した起業家たちから導き出された思考プロセスのことです。この論理を提唱したのは、バージニア大学のサラス・サラスバシー(Saras D. Sarasvathy)教授です。サラスバシー教授の著書『Effectuation: Elements of Entrepreneurial Expertise』(2008)は、『エフェクチュエーション―市場創造の実効理論』として、2015年に日本語訳されたものが出版されました。以降、ビジネスにおける新しい考え方として注目を集めています。

LTSでは、このエフェクチュエーションの考え方を応用した、「エフェクチュエーションブートキャンプ」というサービスを提供しています。この論理を応用した研修を、「新しいビジネスを生み出したい」「ビジネス変革を進めたいが能力が足りない」「新ビジネスと中期経営計画がかみ合っていない」「社内の新ビジネス創出プロセスを定着させたい」などの問題を抱えるお客様へ、それぞれに合わせた形で提案しています。

エフェクチュエーションは熟達した起業家たちから学ぶ思考プロセス

エフェクチュエーションは、アメリカのバージニア大学ビジネススクール教授である、サラス・サラスバシー教授(以下、サラスバシー教授)によって提唱された論理※1です。サラスバシー教授は、カーネギーメロン大学のノーベル経済学賞受賞者である、ハーバート・サイモン教授の最晩年の弟子で、起業家研究へ認知科学や熟達研究の知見を適用し、起業家がどのような意思決定をしているかを研究しています。

図1  What is effectuation?
(出典:SOCIETY FOR EFFECTUATION、https://www.effectuation.org/?page_id=18、2021年9月30日閲覧)

※1 サラスバシー教授は、エフェクチュエーションを「理論」とするか「論理」とするかについて以下の通り明記した上で、エフェクチュエーションは「論理」であるとしています。

論理(logic)とは、世界における行為に関する明確な基礎を形成する内的に一貫した考え(ideas)を意味しており、一方、理論(theory)は、真実もしくは世界における現象についての、命題を意味しているとしている。

サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.78

この研究では、起業する際の典型的な10の意思決定について17の質問を準備し、27名の起業家に思い浮かんだことを断続的に言葉にしながら※2その問題を解いてもらうことで、必要なデータが集められました。

※2 この方法は、シンクアラウド法と呼ばれています。「シンクアラウド法」は、もともとは人間の思考の過程をシミュレートする、コンピュータープログラムを作るために用いられた方法です。これまで、様々な問題解決・意思決定において、人間が用いる認知プロセスを明確化する研究に用いられてきました(プロトコル分析とも言う)。
サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.26, 449

分析の対象になった「27名の起業家」は、厳しい条件のもとで選ばれました。まず、ベンチャーキャピタリストのDavid Silver(1985a)によって編集された、1960年から1985年で最も成功した起業家100人のリスト、および、Ernst & Young社による「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(Ernst & Young Entrepreneur of the Year awards)」の受賞者リストから、245名の候補者が挙がりました。そしてその中から、さらに以下のような条件のもとで、最終的に27名の起業家が選ばれました※3

1.個人・チームを問わず、1つ以上の企業を創立した人物
2.創業者・起業家としてフルタイムで10年以上働いた人物
3.最低でも1社を株式公開した人物

※3 サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.27-28

こうして選ばれた27名の起業家から集められたデータをもとに研究を進めると、熟達した起業家たちには共通する思考プロセスがあることが導き出されました。そして、それらは6つの要素※4にまとめられました。

要素1:目的ではなく、手段からスタートする
要素2:期待利益ではなく、許容可能な損失
要素3:最初の顧客がパートナーになり、パートナーが最初の顧客になる
要素4:競争を無視し、パートナーシップを強調する
要素5:市場は、見つけるものではなくつむぎだすものである
要素6:事前に選んだ目的ではなく、予想もしなかった結果

※4 サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.42-48

これらの要素を見ると、27名の熟達した起業家たちは、従来起業家に多いと考えられていた「目的」ありきの思考プロセス(goal-driven)ではなく、「手段」ありきの思考プロセス(means-driven)で課題に取り組んでいたことが明らかになりました。

「目的」ありきの思考プロセスと、「手段」ありきの思考プロセスとは、具体的にどのようなものか、わたしたちの日常の中の「料理」をする場面で例えてみましょう。有名な料理店のレシピをもとにカレーを作るために、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、牛肉…といった材料を集めよう!と考えるのは、「目的」ありきの思考だと考えられます。一方で、冷蔵庫の中をのぞいた時に、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、牛肉などの食材がある場合。その食材で作ることができる、カレーという選択肢が頭に浮かび、実際にある食材を活用してオリジナルカレーを作ろう!と考えるのは、「手段」ありきの思考プロセスだと考えられます。

そして、上記の6つの要素は「5つの行動原則」として整理されます。これまでの研究では、起業家精神は生まれつきの性格や能力に依存するところが多いと考えられており、起業家は発掘されるべきもので育成されるべきものではない※5と言われていました。しかし、このエフェクチュエーションの「5つの行動原則」は、起業家を育てることができるプログラムになりうるとして、大きな注目を浴びています。この論理は、わたしたちビジネスパーソンにとっても、日々の業務の改善や、アイデアを生むための新しい考え方として、大いに活用できるものだと思います。

※5 サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.450

5つの行動原則

ここからは、エフェクチュエーションの「5つの行動原則」を、一つずつ解説します。

図2 5つの行動原則(出典:SOCIETY FOR EFFECTUATION、https://www.effectuation.org/?page_id=18、2021年9月30日閲覧、を基に筆者作成)

手中の鳥(Bird-in-Hand)の原則

これは、「新しい方法を発見するのではなく、手持ちの手段で何か新しいものを作る」という原則です。自分が何を持っているかを知り、自分の持っているものから始めようという考え方です。いきなり理想の目的を追求するのではなく、すでに手に持っているもの(能力、専門性、人脈など…)・身近にあるものを活用して始めます。普段は、資源だと認識しないものであっても、優れた起業家はそれさえも資源と捉え、活用することができると言います。

サラスバシー教授は、誰もが使える手中の鳥の考え方として「Who I am」「What I know」「Who I know」の3つを挙げ※6、それらで自分自身の持つ資源を洗い出すことができるとしています。

  1. Who I am – 私は誰か
    これは、自身の性格、好み、能力などのことです。自分自身のユニークなところはどこかを明らかにし活用しましょう。
  2. What I know – 私は何を知っているか
    これは、自身の学歴、専門知識、経験などのことです。自分自身が持つ知識は何かを明らかにし活用しましょう。
  3. Who I know – 私は誰を知っているか
    これは、自身のソーシャルネットワークやプロフェッショナルネットワークなどのことです。自分自身が持っているネットワーク、またその人たちが持つ手段を明らかにし活用しましょう。

※6 SOCIETY FOR EFFECTUATION、https://www.effectuation.org/?page_id=4055&principle=bird-in-hand、2021年9月30日閲覧、筆者翻訳

このように「自分が持っている資源」を改めて考えることで、エフェクチュエーションを身に着ける第一歩になるかもしれません。

許容可能な損失(Affordable Loss)の原則

これは、その人が「いくらまでなら損しても良いか」を決めるところから始め、その後、限られた手段を梯子として創造的に活用することで、新たな目標と新たな手段を創り出すことを重視するという原則です。この「許容可能な損失」の範囲は個人によって異なり、ライフステージなどの取り巻く環境が影響します。持続的な実践を遂行するための、最低限のコストを見極めることが、許容可能な損失を考える上で必要です。

組織活動に置き換えて考えてみましょう。企業や団体で新しいことをやろうとすると、どれくらいメリットを得ることができるだろう、と期待や利益を計算してしまいがちです。しかし、そうではなく「どれだけなら失っても良いか?」を検討しておき、そこに到達するまでに方向転換をしたり、柔軟に変化対応したり、撤退したりすることを、戦略視点で判断するということだと考えられます。

わたしたちの生活の中にも、この考え方を応用した場面があります。例えば、みなさんがスーパーでヨーグルトを買うとき。現在、ヨーグルトにも様々な機能性をもたせたものがあります。通常ヨーグルトは120円くらいですが、腸内を活性化させるものが180円、果実を多く使っているものが200円、有名な牧場監修のものが300円…など様々です。そして個人がどこに付加価値を求めるか、その価値にいくらまで支払うことができるか、また、お金だけでなく、購入するための距離と時間(労力)をどれだけ掛けることができるか、掛ける値打ちがあると考えるかも、十人十色です。この十人十色の許容範囲の問題についてはみなさん自身、あるいはビジネスにおいては、自組織の立脚点を見切ってから動き出しましょう、というのが「許容可能な損失」の考え方です。

クレイジーキルト(Patchwork Quilt)の原則

これは、Co-creation Partnershipとも表され※7、「目的のため関与者を集めるのではなく、すでに周りにいる関与者と共に新しいものを作っていこう」という原則です。

※7  SOCIETY FOR EFFECTUATION、https://www.effectuation.org/?page_id=4055&principle=crazy-quilts、2021年9月30日閲覧

通常「クレイジーキルト」とは、不規則に布を縫い合わせて一枚の大きな布を作ることを言います。一方で、パズルは完成形という目標に向かって、何枚ものピースをつないでいきますが、エフェクチュエーションの考え方ではそうではありません。このクレイジーキルトとパズルの違いは、クレイジーキルトは手元にある様々な布を用いて、完成図の無い1枚の新しいもの(コースターやランチョンマットなど)を作りますが、パズルは完成図(絵)が決まっているという点です。これは「手中の鳥の原則」と重なる部分がありますね。

組織活動に置き換えて考えてみましょう。事業を立ち上げ進めていく中で、競合する企業や経営者がいるかもしれません。その場合に、どのようにして優位に立つか、どのように差別化するか、という考え方ではなく、彼らをどのように巻き込んでパートナーシップを持ち「共に」事業を進めようか、という考え方です。エフェクチュエーションの論理では、競合をもパートナーとみなし、共に新しいもの・ことや、市場を作っていくことが重要だとされています。

サラスバシー教授は自身の著書の中で、以下のように※8解説しています。

精微な競合分析を行ったりすることではなく、コミットする意思を持つすべての関与者と交渉していくことがこの原則の考え方である。さらに、経営に参画するメンバーが企業の目的を決めるのであって、企業の目的のために参画するメンバーが集まるのではない。

※8 サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.20

レモネード(Lemonade)の原則

これは「予期せぬ事態を梯子として、不確実な状況を認めて対応する」という原則です。アメリカのことわざに、When life gives you lemons, make lemonade.というものがあります。これは「人生がレモンを与えたときには、レモネードを作りなさい。」という意味です。アメリカでは、レモンは使えないものの例えとして出てきますが、そのようなものでも新たな価値を生み出すものとして使っていこうということです。使えないレモンであれば、レモネードにして美味しくいただこう!というように、失敗などの予期せぬ事態に対して、それを利用してより良い状況に変えていこうということです。

例えば、朝ごはんで有名なコーンフレーク。

1898年、ケロッグ社の創設者W.K. ケロッグと J.H.ケロッグ博士の兄弟は、グラノラを作ろうとして失敗し、手違いで小麦の生地をフレークにしてしまいました。この幸運な失敗により、世界の朝食に運命の転機が訪れたのです。ケロッグ兄弟はとうもろこしがフレークになるまで実験を続け、おいしいケロッグのコーンフレークのレシピを作り上げることに成功しました。※9

※9 ケロッグの歴史、https://www.kelloggs.jp/ja_JP/who-we-are/our-history.html、2021年9月30日閲覧

失敗したものや使えないと思われているものでも、考え方や発想の転換次第で新しいアイデアになることがあります。起業家たちはそのような考え方ができることから、この原則が生まれました。これも、日々の生活や業務に活用できそうですね。

飛行機の中のパイロット (Pilot-in-the-plane)の原則

これは「不確実な状況に対して、その時々で柔軟に対応する」という原則です。エフェクチュエーションでは、未来は発見されたり予測されたりするものではなく、その人の行動によって構築されると考えられています。先のことを予測してあれこれ準備するのではなく、その状況に応じて臨機応変に対応することに集中しましょうということです。

現在、飛行機の操縦はほぼ自動化されているそうですが、それでもパイロットは搭乗します。なぜでしょうか。そのひとつの理由は、予期せぬことが起こることを完全には排除できないからです。自動化できるのは、あくまでも予測が可能な範囲に対してです。パイロットの役割は、空の上で起こる予測できないことに対して、臨機応変に対応することです。この「変化に対して柔軟に対応する」人間は、新しいビジネスを生み出したり、ビジネス変革を進めたりする際にも欠かせません。日々のビジネスのなかで求められている臨機応変な対応に、みなさんはどれだけ応えられているでしょうか。

先行き不透明な時代に応用できるエフェクチュエーションの考え方

エフェクチュエーションの5つの行動原則は、未来を予測して行動を起こすのではなく、今あるもので行動を起こし未来を作っていく、という考え方のもと整理されています。エフェクチュエーションは新しいものを「構築する」ことを助ける論理です。そしてこの論理は、未来が予測不可能で、目的が不明瞭で、環境が人間の行為によって変化する世界や、ビジネスシーンにおいて有効性を増します。そのため、先行き不透明なこの時代に、エフェクチュエーションの考え方は、企業にとっても、働くビジネスパーソンにとっても、大いに役立つのではないかと考えています。

エフェクチュエーションと対で語られるものの中に、コーゼーションという言葉があります。次回は、そのコーゼーションについて、エフェクチュエーションと比較する形で解説する予定です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


<筆者のエフェクチュエーション「こぼれ話」>

エフェクチュエーションの考え方を学ぶと、その論理と対比する「エフェクチュエーションではないものは何か?」を考えることがあるかもしれません。筆者も実際に「エフェクチュエーションは成功への指針なのか。」「逆に、エフェクチュエーションを体現できていないのは、どういう場合なのか。」と考えたことがあります。このような問いに対し、サラスバシー教授は“エフェクチュエーションではないものをきちんと押さえておくことで、エフェクチュエーションは何かについて議論の混乱を防ぐことができる”として、以下の通りエフェクチュエーションではないもの※10を挙げています。ぜひ、参考にしてみてください。

・エフェクチュエーションは、「なんでもあり」の別名ではない
・エフェクチュエーションは楽な方法ではない
・エフェクチュエーションは非合理的でも直感的でもない
・エフェクチュエーションはカリスマ的リーダーシップではない
・エフェクチュエーションは、「情熱は全て先立つ」ではない
・エフェクチュエーションは、「恐れないこと」ではない
・エフェクチュエーションは、資質の寄せ集めではない
・エフェクチュエーションは成功のレシピではない

※10 サラス・サラスバシー著、加護野忠男ら訳、『エフェクチュエーション―市場創造の実効論理』碩学舎、2015、p.310-314

筆者は育児休業から復職した際に、この「エフェクチュエーション」と出会いました。自分の将来やキャリアを考えて不安になることが多々ありましたが、「今持っているものから始めよう」「周りにいる人を大切に(筆者解釈)」というエフェクチュエーションの考え方に背中を押されました。この考え方は、企業やビジネスパーソンにはもちろん、みなさんの普段の生活の中にも当てはめて考えることができると考えています。みなさんに、新しい気づきや学びがありましたら幸いです。


執筆者

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)
グローバルで統一された品質管理の仕組み定着化を支援。その後、RPAを活用したコンサルティングに従事。産休・育休を経て、マーケティンググループに異動。「CLOVER Light」の立ち上げに携わり、記事の企画・執筆を務める。ライターのたまご。

エフェクチュエーションブートキャンプサービスリーダー

鈴木 稔(LTSマネージャー)
外資系の国際物流企業を経て、コンサルティング会社でイノベーションや改善の支援に従事。現在は、京都大学の高瀬進特定助教と「エフェクチュエーション」理論を大企業へ適用するモデルづくりを行っている。大企業の変革、新規ビジネス創出、社会課題解決を目指すPJへの適用実践中。

記事助言者

栗木 契(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。岡山大学経済学部助教授などを経て、現職。戦略的マーケティング、バリュー・イノベーションなどを研究。『日本経済新聞』『プレジデント』などの各紙誌で連載を担当してきた。主要著作に『デジタル・ワークシフト』(産学社)『明日は、ビジョンで拓かれる』(碩学舎)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』(有斐閣)などがある。

編集者

忰田 雄也(LTS ビジネスマネジメント本部・マーケティンググループ長)
SE・テクニカルライターを経て、LTS入社。ERP等システム導入や業務改革におけるユーザー企業向け社内広報・教育展開のコンサルティングに従事。2017年よりLTSコンサルティングサービスのマーケティングを担当。2021年より本サイト「CLOVER Light」の立ち上げ~運営・編集を務める。