不確実性の高い時代に必要な「経営管理」を語る 第3回 フレームワークから見る、経営へのコミットメントの重要性

LTS経営・組織

このシリーズでは全4回にわたり、LTS 顧問 シニアアドバイザーと経営管理サービスリーダーが対談した内容をご紹介します。経営管理領域を取り巻く環境や、経営管理の役割、フレームワーク、求められる経営管理について、日本企業における課題を交えて議論しました。

中澤 進(LTS 顧問 シニアアドバイザー/日本CFO協会主任研究委員)
1971年日本IBM入社。経理・財務部門の業務改革、管理会計、内部統制分野でのコンサルティング及び会計システムPJの実績多数。2002年IBM取締役に就任、2007年中澤会計情報システム研究所を設立。同年ビジネスブレイン太田昭和会計システム研究所所長に就任。2016年よりエル・ティー・エスに参画。日本CFO協会主任研究委員。

髙橋 矢(LTS執行役員)
SIer 、コンサルティング会社2社を経て、LTSに入社。経営管理、ERP領域を中心に、ユーザーサイドでのPJ支援を得意とする。現在もPMとして複数の案件を担当。経営管理領域サービスリーダーとして「数字を活用した人・組織が動き出す経営管理」サービスを目指している。2020年より執行役員に就任。

予算管理のフレームワークから見る企業の実態

髙橋:
現在の企業で多く活用されている予算管理は、過去の結果を分析して次のアクションを検討する手法(PDCA)です。もちろん今でも有効ですが、変化が激しい時代においては、過去の意思決定や活動結果を詳細に分析しても、次の有効な一手に繋がりづらくなってきていると考えています。過去分析は重要ですが、先読みの重要度のほうが高まってきています。先読みをするには、常に将来事実に基づいた仮説を立て、将来の有効な一手を考えるサイクルが必要です。フィードバックからフィードフォワードへ。仮説をベースにした、先読みの出来るPDCAサイクルに変えていく必要があります。

中澤:
LTSのサービスメニューの「中長期戦略、事業投資等におけるリスク評価支援」というところで、DDP※1の考え方を取り入れるという話を聞きましたが、具体的にはどのようなものですか。

※1 DDP:Discovery Driven Planningの略で、仮説思考計画法のこと。

髙橋:
考え方としては、「戦略の仮説や前提を明確化し、それらをモニタリングしてPDCAを回していきましょう」ということです。基本的な考え方は、昔から議論されている内容です。大きく異なるのは、「仮説・前提を管理する」という点です。

髙橋:
例えば、「ある市場において、来年以降も成長を続け、3年後の市場規模が1,000億円になる」という前提に基づき売上目標を立てたとしましょう。通常のPDCAであれば、中長期の戦略を年度単位に落とし込み、今年の実績はどうだったか、それに対して次年度はどうするかという会話がなされると思います。しかし、この時に「3年後の市場規模1,000億円」という重要な仮説・前提がずれていたらどうなるでしょう。ある年までは計画通りに進捗したとしても、そのままのやり方では3年後の目標達成が困難になるはずです。

高橋:
一方で、この重要な仮説・前提が現在どういう状況にあるのかを認識できれば、アクションが変えられます。いわゆる仮説の検証ですが、仮説が最終的に正しかったかは3年後にならないと分かりませんので、この時点では「この仮説はまだ生きているか」の検証になります。長期的な戦略を管理していくところは、定量化しにくい箇所でもあります。戦略を立てるにあたり、仮説とさらに前段階の「なぜそう考えたのか」という前提をモニタリングし、それらが現在どうなっているのか、軌道修正をするべきなのかを、随時管理していく手法です。

中澤:
そのような議論のアウトプットとして、今期の目標や、3年後の目標、売上目標等数値的なものが出てくるのでしょうか。

髙橋:
そこも出てきます。軌道修正の結果、どうなるのかというところも分かります。また、仮説の置き方次第で、複数のシナリオが出来ます。シナリオ毎にシミュレーションを行い、3年後の状況を数値で捉えることで、それぞれでどのようなアクションをすべきかの検討にも繋がります。

中澤:
中期計画も年度の予算も「仮説」です。極論すると、やってみないと分からないと言うことです。そこで、その仮説をどれくらいの精度で作るかということがポイントになります。但し、精度の高い仮説を作ることは極めて重要ですが、それさえ作れれば、年度の予算管理はスムーズに回って行くという時代ではなくなっていることも事実です。常に仮説を検証し、軌道修正できる柔軟性を持っておくことも大切です。現場の企業活動はどうですか。数値目標や作るプロセス、感覚はどのようにもっておられるのでしょうか。

髙橋:
多かれ少なかれ、数値目標を作る段階で、それぞれが何かしらの仮説や前提を置いて、作成しているはずです。しかし、その仮説・前提は可視化されていないため、見えている数字に対しての議論になってしまいます。その結果、トップダウンで作る仮説とボトムアップで作られる仮説は、当然リンクしません。経営と現場のリンクができていなければ、柔軟な軌道修正力があったとしても、ここから経営と現場のベクトルを合わせることはできません。数字に対する議論も大事ですが、仮説や前提を可視化・共有し、またそれに対するギャップを調整し、会社としてオーソライズされた仮説を作っていく必要があります。しかし、そのコミュニケーションがうまくできていないので、分断されたままの仮説で、うまく機能していないのだろうと思います。

中澤:
予算管理のフレームワークで一番大切なのは、そこなのかもしれません。トップの意思と仮説を数値化する、年度の予算管理の仕組みの中に落とし込む、適切にモニタリングをする、というプロセスをどのように作るかということが重要です。

トップの意思を実現させる予算管理プロセス

髙橋:
これまでの会話の通り、予算管理を機能させるためには
①戦略仮説の可視化・数値化
② 予算編成作業を通じて、経営層と現場層のリンクを構築
③仮説・前提の検証とフィードフォワード
が必要です。しかし、①から躓いているケースが多く見られるように感じています。①の数値化の際には、KPIとして管理する手法が有効だと考えています。

中澤:
KPIの基本的な考え方は、大きく三つのレベルで表現できます。経営レベルの経営指標、ミドルマネージメントレベルの財務数値で表現された成果指標、現場レベルの活動指標です。現場の活動結果は、成果指標を通じて財務諸表数値で表現される経営指標に連携されないといけません。逆に、経営指標はブレークダウンされて、活動指標に連携される必要があります。このような仕組みで、経営層から現場層までをつなぐことは有効です。しかしながら、それぞれのマネージメント層が分断・独立した中で設定されたKPIを、何となく連携している場合が多いようです。現場カイゼン活動において改善されたリードタイムの短縮などの活動結果が、必ずしも財務的数値として経営指標に連携されていないという議論です。

髙橋:
初めのほうにお話しした通り、コミュニケーションを通じて納得感の醸成を図ることが、経営層と現場層のリンクを強化します。予算編成の作業とは、数字を積み上げて眺めるだけでなく、本質的にはそのようなコミュニケーションをしっかりとすることだと思っています。

中澤:
多くの日本企業では、精緻に時間をかけたボトムアップ偏重の計画作成が見られます。変化の激しいVUCA時代には、このような予算の作り方では対応できなくなるでしょう。トップマネージメントの意思を現場に素早く伝達し、それを実行するための行動計画の具体化を、迅速に行うことが求められています。トップマネージメントの意思を伝達できる環境がない中で、ボトムアップだけではスピード感も含めて限界があります。

髙橋:
③は、戦略が確実に実行されたかどうかを確認し、適切な修正をかけるプロセスです。結果分析型から仮説検証型へ、四半期あるいは月次・週次への多頻度化への転換が求められます。仮説や前提がまだ生きているかの確認、現場の活動指標と経営指標の関連性の確認も必要です。これらの活動の結果、経営が掲げている目標に対してインパクトがなければ、活動指標自体を見直すことも必要です。

ミドルマネージメントがオーナーシップを持って予算管理に取り組む

髙橋:
例えばLTSでは、単年度の目標達成は当然大切なこととして捉えています。しかし、中長期での目標達成をより大事にしています。毎日がむしゃらに走っていれば目標が達成できるわけではないので、限られた時間をどのように使うのかは年間だけではなく、中長期(3年間など)で検討します。その結果、ある年は投資フェーズなので、売上も利益も低めの目標とし、その代わりに投資がうまくいっているかをKPIとする。その翌年は、成長フェーズのため売上成長。さらにその翌年では、利益も含めて目標達成を実現する…という具合です。

髙橋:
各部門やサービス毎にステージが異なるので、その考えを基に各部・各サービスがボトムアップで予算を立てています。トップからは、中長期的な目指すところが示されます。そこから先は、現場が何をしたいか、必要な人的リソース(人数・ケイパビリティ)、人的リソースを満たすための採用・育成予算、サービス強化に必要な投資、販売単価まで、ミドルマネージメントが検討した結果を全社で積み上げます。もちろん大きなガイドラインはあり、そこを考慮して作成します。全社では個別の事情の勘案しながら、全社の調整を図ります。その意味では、ミドルマネージメントが意思を込めており、オーナーシップをもって予算作成を行っています。

中澤:
予算編成の手法として、トップダウンあるいはボトムアップがあります。いずれの場合も、ミドルマネージメントや現場に納得感を醸成させることが重要ですが、トップの意思を素早く伝えるのは、やはりトップダウンの方が有効ですね。トップダウンは予算編成のプロセスが上位マネージメントからの上意下達で始まり、下位マネージメントがそれに対して適切に反応していくことでこのプロセスが成立します。ところが、日本企業においてはこのプロセスがあまりうまく機能しません。要は、下位マネージメントが、適切に反論しないということです 。

中澤:
トップから言われたら、心の中ではできないと思いつつ「やりますよ」と言ってしまう。上位マネージメントも、出来ない理由を聞くよりも気合いで「やります」と言われることを好む傾向にあります。下位マネージメントも反論するのが、面倒くさいんですよね。こうなると、トップも「頑張れよ」と言ってしまう。欧米企業の場合、「やります」という部下の返答があれば、即座に「どうやってやるんだ?」と質問が飛んできます。この質問が厳しい。具体的な活動計画を説明しないと、納得してもらえない。このやりとりで、ミドルマネージメントのオーナーシップが醸成されていきます。

髙橋:
その辺りは、上位マネージメントもどう考えているのかが見えないから、突っ込めないという側面もあるかもしれませんね。上位指標と下位指標の関係性が可視化されていれば、「目標と活動がリンクしていないように見えるけど、どう考えているの?」と、上位マネージメントからの問い掛けもやりやすくなり、コミュニケーションが深まりますよね。

中澤:
そうですね。そのような仕組みやプロセスがあると、議論がやりやすくなりますね。そうなると、ミドルマネージメントも行動計画に裏付けられた数値を示さなければならなくなり、自身のオーナーシップも自然と醸成されていきますね。そのような土壌が出来ると、コミットメントという概念が組織内に浸透していくのではないでしょうか。

中澤:
予算を作る際、その数字の根拠は?達成するための活動計画は?ということを、上位マネージメントが予算編成のプロセスに則り指摘できるようになれば、その後のモニタリングもスムーズにできます。また、より有意義な議論が出来るようになるためには、ミドルマネージメントには、ある程度の経営管理関連や、会計関連の知識を習得してもらう必要もありますね。

一人一人が経営へのコミットメントを意識する

髙橋:
もう一つ、「コミットメント」という観点があります。経営者は会社のビジネス目標に対して、投資家にコミットメントしないといけません。その流れで、経営者はミドルマネージメントに、ミドルマネージメントは現場のマネージメントに、同様のコミットメントを要請することになります。ところがこのコミットメントの意識が、日本企業では弱いのではないかと感じます。予算とは上位マネージメントと下位マネージメントの「契約行為」だ、という意識があれば予算に対する意識は大きく変わっていくはずです。しかし、そのような価値観がないと、コミュニケーションがうやむやになりがちです。

中澤:
その点、欧米企業がシビアなのは、厳しい視点で経営者を見る投資家という存在があるからです。経営者として、その投資家に対するコミットメントが、良し悪しは別として四半期ごとに求められます。そのコミットメントを達成出来なかった場合、市場からの評価が低下し、経営者として不適格の烙印を押され、場合によっては退出を求められることもあります。それも四半期単位での話です。そのため、欧米上場企業の経営者は、日本企業の経営者と比べ数字へのこだわりが圧倒的に強いです。短期志向と言われる所以です。結果として、社内のマネージメント層に対して、同様の厳しさを求めていきます。カルロスゴーンが使った「コミットメント」という言葉が、日本おいて一時的にもてはやされたことがありましたが、欧米企業では常識的な言葉でした。昨今、阿吽の呼吸、以心伝心が通用しなくなってきた日本企業においても、このコミットメントという概念が当り前になるかもしれません。

髙橋:
そのようなコミットメントという概念と、それを支える予算管理の仕組みが整備されないと、上位マネージメントと下位マネージメントがコミュニケーションを行っても、本気で「本当に予算を達成できるかどうか」という議論が出てこないのではないかと思います。また、その一言が出てくるかどうかは、予算必達の強制力から来るものもあれば、モチベーションから来るものもあると思います。

中澤:
そこには「業績評価」という観点も入ってきますよね。目標数値を達成した場合、しなかった場合で、自分の評価が上下する。それがある種のプレッシャーにもなりますし、ある種のモチベーションになります。いずれにしても、何かしらの刺激がないと、数字に対する思いや達成意欲も高まらないですよね。

髙橋:
「業績評価」の観点については、その通りだと思います。LTSでは、数値を活用して人・組織が動き出す仕組み作りの支援を掲げていますが、そのための大きな要素として「評価」というツールを適切に活用することが有効だと考えています。目標にせよ、評価にせよ、関係者間の信頼関係と納得感がある状態ではないと、経営管理の仕組みがどれだけ優れていようと機能させることは難しいということですね。

…次回(人・組織が動き出す仕組み作りを目指して)に続く


執筆者

ayumi.oyama
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CLOVER編集部員。育休復帰後、CLOVERの立ち上げ・運営に携わる。
主に、記事の企画立案・執筆を担当。仕事と娘2人の育児で毎日がにぎやか。
地元である九州が恋しい。学生時代は通訳・翻訳を学ぶ。
趣味は、旅行、読書、お茶。最近、庭でハーブを育て始める。

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narumi.nonaka

Webデザイナー / イラストレーター
LTSに新卒入社しITコンサル経験後、デザイナー職へ転向。
現在は自社プロダクトのUIデザインが主業務。
バックパック旅、街歩きと食べることが大好き。

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編集者

yuya.kaseda
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CLOVERの編集・全体監修~メディア企画・運営全般。
SE、テクニカルライターを経てLTSでコンサルタントを経験、現在はLTSのマーケティングGリーダー。
スライド式QWERTY物理キーボード愛好家。

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