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デジタルテクノロジー

お客様とサービスを共創するということ システム開発は接客業⑬

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年2月から連載を開始した記事を移設したものです。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

書籍「 サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス 」について、12回にわたりコラムで内容をご紹介してきました。サービスとは、顧客満足とは何なのかという改めて基本に立ち返る部分から、システム開発に係るお客様の期待を分類し、その期待に応えるための手法という詳細な部分もありました。最終回の今日は、ITビジネスにおいて、お客様とサービスと共創するとはどういうことなのかについてお伝えします。

ITビジネスでお客様と長期的な関係を築くために

システム開発サービスは、システムの稼働後特に大きな問題が無ければプロジェクト完了となり、メンバーリリースと共にお客様との繋がりも終了となってしまいます。せっかく時間をかけてお客様と関係構築をしてきたのに、関係が切れてしまうのはあまりにもったいですよね。

開発プロジェクトでのお客様からのフィードバックを活かして、より価値のあるサービスを創り上げ、長期的なお客様とのパートナーシップを作り上げるのが共創型サービスモデルです。システム開発サービスに限らずすべてのサービス業に当てはまりますが、お客様の評価をもとにサービス提供者がサービスの質を高めていくサイクルを繰り返すことで、サービス提供者はより競争力のあるサービスを開発でき、お客様はより品質の高いサービスを享受できるというWin-Winの関係を構築します。

開発プロジェクトで関係を深めたお客様と更に中長期的なお付き合いをするためには、運用/保守の受託提案をすることが第一歩です。これまでも安定的な収益のために運用/保守受託を提案することは多かったと思いますが、目的はあくまでも中長期的なお客様との関係構築です。たとえ一人でも、ベンダー側の人間がお客様の近くにいることでお客様の理解を深めることができます。そして、お客様の依頼に応えるという受け身ではなく、お客様と共にITのありかたについて考えるという姿勢も重要です。

ユーザーとベンダーが競争し、成長することが共創となる

日本では過去、ベンダー主導でシステム開発をするモデルが主流でした。ユーザーには「IT導入を専門家であるベンダーに任せ、本業に集中したい」という思いもあり、この役割分担でうまくいっているように見えた時期もありました。しかし最近はこのモデルに弊害がでています。企業活動におけるITの重要性が確実に高まっているなか、ITの専門家が自社からいなくなってしまい、自社の情報システムの現状すら適切に把握できていないことに危機感を抱く企業が増えてきたのです。そのため、自社内にITの専門家を育成し、ベンダーへの依存度を下げようとするユーザーの動きが注目されるようになりました。

家庭教師が生徒に勉強を教えるのはよいのですが、宿題を代わりにやってはいけません。それでは生徒が自力で問題を解けるようにはならないので、本来の学力が伸びません。先生が宿題を代わりにしてくれると、楽になった生徒から感謝されることはあるかもしれませんが、それは目的に合ったサービスとは言えません。システム開発サービスにも同じことが言えます。情報システム開発に求められる真の共創型サービスモデルとはどのようなものでしょうか。これまでのようにユーザー企業が一方的にベンダーに頼るやり方では、両社の成長に寄与しないことは明白です。ですから、お互いが自らの役割をしっかり定義し、それを果たすことが大前提です。

ベンダーは最新技術や他社での事例、自社の価値あるノウハウをユーザー企業向けにアレンジして提案します。一方、ユーザー企業は、自社のビジネスモデルやプロセスは自社でしっかり管理し、ベンダーからもたらされた情報を活用しながら自社のあるべき姿を考えます。そして、両者の想いが一致したときに、共にユーザー企業のビジネスを構築するのです。このような役割分担に移行するためには、ベンダーの努力だけではどうにもなりません。ユーザー企業もベンダーにまかせきりにしていたことを反省して、自社のビジネスを立案するに必要な能力、特にITに関する専門性を身につける必要があります。

共創型サービスモデルが実現された状態は、双方にとって決して楽な状態ではありません。お互いがしっかり自らの役割を果たしつつ、お互いを意識しているわけですから、ある意味では相手との“競争”でもあります。しかし、緊張感のある関係こそがお互いの能力を高める、本当の意味で共創型サービスだと言えます。

システム開発サービスに携わる人に誇りを

かつて日本の情報システム産業を担ったベテランSEの方々と話をすると、お客様と対等なパートナーシップのもと、大きなプロジェクトを苦労しつつも成功させてきた経験を本当に楽しそうに語ってくれます。そこには、人と人との濃いつながりがありました。情報システム開発サービスの本質とは接客業です。しかも、高い技術力と人間力の双方を駆使する究極の接客業なのです。

情報システム開発サービスこそ、人が好きで誰かに尽くしたいという人が活躍できる職業ですし、誰かに喜んでもらうことの楽しさを知ることができる職業です。

ところがここ数年、日本ではシステムエンジニアは、必ずしも人気の職業とは言えません。業界別就職ランキングでの順位も低く、最近は「きつい、厳しい、帰れない(新3K)」と言ったIT産業のマイナスイメージを誇張する表現が目立ちます。

すべてのサービス事業者がお客様から感謝され、プロとして尊敬される仕事ができたら、この業界で働く人たちの社会的地位は自然に向上していくことでしょう。

いかがでしたでしょうか。この 書籍「 サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス 」 がITビジネスやその他サービス業全体の品質向上に役立て頂けることを願っています。