超上流工程とは? 第1回 IT企画・構想策定でやること

DXLTS

ERPなど基幹システム等の導入プロジェクトには、上流と呼ばれる予算やスケジュール・システムの機能や仕様などを設計する工程と、その後のコーディングやテスト・データ移行・ロールアウトをしていく下流の工程があります。

そんなシステム導入のプロジェクトが開始する前、そもそもITをどのように活用して事業のどんな課題を解決するのか?システム導入をする企業の将来像を描き、これから開始するプロジェクトの道筋を立てるフェーズが存在します。それが、今回紹介するIT企画・構想策定のフェーズ、俗に「超上流」と呼ばれる工程です。

今回のコラムでは「超上流工程では一体何をするのか?」について、実際にこの領域を専門とするLTSの経験豊富なコンサルタントへのヒアリングを基に説明します。

執筆者

忰田 雄也(LTS ビジネスマネジメント本部・マーケティンググループ長)
SE・テクニカルライターを経て、LTS入社。ERP等システム導入や業務改革におけるユーザー企業向け社内広報・教育展開のコンサルティングに従事。2017年よりLTSコンサルティングサービスのマーケティングを担当。2021年より本サイト「CLOVER Light」の立ち上げ~運営・編集を務める。

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超上流でやること その1 現状把握と課題の裏付け

超上流とは、システム導入プロジェクトの上流工程より前に実施する、プロジェクト開始前のフェーズです。

図1 上流構成より前に存在する超上流

「システムを導入する」というプロジェクトの前に何をやるのか?について、順を追って説明します。

まずは、現状把握と課題の裏付けです。

LTSのようなコンサルティング企業に超上流のフェーズに関する相談が来るケースでは「今後基幹システムを刷新したいと考えているので、その前段階の検討に付き合ってほしい」という要望がスタートになります。

システム導入が検討される背景は様々ですが、少なくとも何かしら現状のIT基盤や基幹システムについて課題を認識しているものの、どこから手を付けたらよいか分からない、という状態がほとんどです。そういったスタートラインの場合は、まず現状と課題の裏付け・明確化から開始します。

ITの現状と課題を明確化する

まずはIT導入検討企業の経営陣やIT部門の責任者、現行システムの運用担当者などがすでに感じている課題をヒアリングします。経営陣は数値を見ているので報告される数字やその背景から課題感を持ちます。管理職は人員組織の動きから課題を感じ取り、IT担当者は実際のシステム運用から課題を感じています。

この各階層で感じている課題感がまさに「モヤモヤ」しています。ヒアリングしてみても「この部門は月初に残業が多いから何か問題があると思う」「複数の部署からシステムへの二重入力が面倒という意見が出ている」「取り扱う製品やサービスが複雑化してシステムにうまく入力ができないという声が出ている」といったそれぞれの角度から見た限定的な課題の断片、そして報告される数値や個人の意見からの推測が元になっていることが多いです。ヒアリングでは「事実として発生している問題」と「何らかの目指している状態の実現に向けて障壁と感じている課題」、この両者が混同して語られるため、課題の要因になっている問題がどこにあるか、どうすれば解消できるか、をひとつひとつ整理していきます。

さらに、ヒアリングして集めた意見を元に実際に業務でシステムに入力をする場面などに立ち会い、本当にその問題が発生しているのか?発生しているならどんな頻度で、どの程度業務に影響があるのか?を一つずつ裏を取り明確にしていきます。

このようにヒアリングや現状発生している問題の場を押さえることで、課題感を生み出している場面や状況を明確にしていきます。個々で発生している問題の整理を通して業務やITに関して存在する真の課題が何なのか?本当にやるべきことは何か?を分析していきます。

業務とITの全体を俯瞰する

現状業務の分析と課題の明確化を進めるのと並行して、業務一覧や業務全体を俯瞰できるマップ、企業内で稼働しているシステム構成、それらシステムのデータの紐づき表すモデルを作成し、議論のスタートラインとなる共通認識を形成することも超上流フェーズの最初にやることです。

ここまでの工程が、対象となる企業の規模にもよりますがおおよそ2~3ヵ月かかります。

超上流でやること その2 あるべき業務とITアーキテクチャ像を描く

議論のベースができたところで、ではどうあるべきか?今後どうしていきたいか?を検討していきます。この部分も、IT導入をする企業の経営から中間管理職~現場まででそれぞれ要望や言葉の使い方・見ている範囲がバラつくため、あるべき姿を何度も検討し具体化することが大事になってきます。

ほぼ全員が言う「効率化」でもその内容はバラバラ

業務をどうしたいか?という問いに対する答えでほぼ100%返される答えが「効率化したい」です。しかし効率化したいという言葉だけでは、効率化することでどんな状態になることをイメージしているのか?が分かりません。また、一部を効率化することが全体の非効率を発生させることもあります。さらに効率化の先で、会社としてどういう状態になりたいのか?どのような方向性が目指すべき姿なのか?など、意見を具体化し集約していかないと「あるべき姿」が描けません。

現状の把握、課題の明確化、効率化など目指す状態の具体化、これらそれぞれを意見や要望のレベルから、経営を巻き込んだ議論のできる事実ベースかつ現実的な対策を踏まえた状態に持って行くのが、超上流フェーズのコンサルティングで提供する重要な支援内容になります。

超上流でやること その3 最初のプロジェクトのスコープを定める

この3つ目が「超上流フェーズ」としては1つのゴールになります。IT導入プロジェクトの上流フェーズを始める前に実施するのが「超上流」、ということは超上流のアウトプットとして必要なのは「IT導入プロジェクトを開始できる状態」です。

現状と課題と目指すべき将来像が分かったところで「ではこれから始めるプロジェクトではどこからどこまでをターゲットにしますか?」を決めなければなりません。

このタイミングでやるか?やらないか?境界線を引く

あるべき姿はこれだ!と決めたとして「現実にそれが実現できるか?」を考えてみます。自社の現状を見ると、データベースは分散していてコードが統一できていない・システムは業務によって複数に分かれている・実は正確な売上数値はシステムから出力したデータを加工しないと把握できない、など多くの企業で課題は複雑に絡み合った状態です。そして、それらすべてを一気に解決するには大規模なITへの投資や組織・業務の大改革が必要になるかもしれません。

現行業務を回しながら、そういった活動が進められるか?と考えると、現実に立ち戻って「今回は何をどこまでやりましょうか?」を考えることになります。そこで投資できる予算を見積り、優先順位を決めて「今回のプロジェクトでやること」の境界線を引くのです。関係者全員を巻き込んだ議論と合意形成の場となります。

図2 超上流でやること

プロジェクトスコープの線引きを助ける業務の分析や外部の視点

プロジェクトのスコープ・境界線を引くことが非常に難しい判断になることは想像に難くないと思いますが「なぜ難しいのか?」にもう少し踏み込んでみましょう。

基幹システムのように会社全体の業務に関わる場合の難しさは「業務プロセスのスタートからエンド・全体像を全て把握している人がいない」ことが要因の一つです。仮に自ら事業を立ち上げた創業経営者であっても、基幹システムの検討が必要になる規模の企業の場合は全体を一人で把握し判断することは困難です。

そしてもう一つの困難の原因は、検討に参加するそれぞれのメンバーは「自部署の業務は分かっても他の部署の業務が分からない」ことです。分からないことに対して優先順位を付けることはできません。この結果「社内の誰も線引きの確信が持てないこと」が超上流フェーズの難しさではないかと思います。

ここで、これまでに作成したアウトプットが役に立ちます。

  • 各業務の課題を抽出し明確化しておいたことで比較ができる
  • 業務全体のマップを作っていることで課題と解決の影響範囲が議論できる
  • あるべき姿が示されていることで意思決定の論拠ができる

といったように、業務を第三者的に分析して作られた資料を活用します。これらの業務分析は、外部のコンサルタントや、社内の「ビジネスアナリスト」のような業務分析と改善の専門職が担います。社内に独立した権限を持つ課題分析チームを立ち上げてトップダウンで実施するというケースもあるようです(この場合トップの強い関与が必要になります)。

そして、システム導入プロジェクトへ

上流フェーズの先には、プロジェクトの立ち上げやRFPの作成など具体的なシステム導入検討に向けた次の工程が待っています。多くの場合、導入するシステムの選定まではコンサルティングとして支援しますが、この先でコンサルティングの役割が「IT企画・構想策定の支援」から「IT導入プロジェクトの推進支援」に変わります。

この先のフェーズを紹介するコラムもいずれ書いてみたいと思いますが、今回は「超上流フェーズ」にフォーカスした内容ですので、ここで解説を終えたいと思います。

次回は、超上流工程がなぜ必要になっているのか?について解説します。