今回の記事では、プロジェクト統合の経緯や工場の変革活動がどのように成果を生み出したのか?を解説し、変化に対応できる組織作りや、変革意欲のあるミドルマネジメントの育成の事例を紹介します。
石原産業株式会社(以下ISK)について
1920年(大正9年)創業のカガクの分野で幅広く事業を展開する大手化学メーカー。三重県四日市市の工場を主力生産拠点として100年を超える歴史を持つ。
石原産業株式会社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)
本社:大阪市西区江戸堀一丁目3番15号
四日市工場:三重県四日市市石原町1番地
URL:https://www.iskweb.co.jp/
対談者の紹介
1985年 石原産業に入社。主に、四日市工場、シンガポール工場において酸化チタン、機能材料等の無機製品の製造、製造技術に従事。その他生産構造再構築、無機事業改革に携わる。 2016年に酸化チタン生産部長に就任後、2021年より四日市工場副工場長に就任。現在、生産体制強化(業務改革)プログラムのPMを担当。(2022年5月時点)
1989年 石原産業に入社。四日市工場、シンガポール工場において酸化チタンの製造、製造技術、プラント制御システム開発に従事。 2016年より現職。2018年に発足した業務IT化PJのプロジェクトリーダーを兼任。現在、生産体制強化(業務改革)プログラムの事務局を担当。(2022年5月時点)
全社改革プロジェクトを進める中での関係者の巻き込みやミドルマネジメントの育成など、より具体的なテーマで本事例を解説します。
「工場の設備管理機能」改革にプロジェクト+工場メンバー合同チームで着手
上田:
プロジェクトで、工場の設備管理の課題がクローズアップされたのが2018年の12月頃でした。
業務アセスメントの結果をふまえて今後の方針を決める中で、課題解決に向けて4つの個別プロジェクトが立ち上がりました。それぞれのプロジェクトチームで検討を進めるスタイルです。
その中の一つが工場の設備管理で、メンバー4名が主体になって、設備管理はどうすべきか、本来必要な機能は何か?をLTSと共に検討開始しました。
上田:
その後、2019年の7月に、工場側の組織改革チームの活動と一度すり合わせするよう当時の副工場長から指示がありました。前述のとおり工場でも課題意識は持っており、目指しているゴールがずれていないことが分かったので、業務IT化プロジェクトメンバーと工場のメンバーで一緒に活動を推進することになりました。
浅野:
合同でやり始めてみると、工場のメンバーより業務IT化プロジェクトのメンバーのほうがより積極的でした。業務IT化プロジェクトのメンバーの方が変革意識・志を強く持っていたので、私もそれを後押ししたいと思いました。
上田:
私が連れて来たプロジェクトのメンバーは、もともと会社を変えたいという思いを持っていました。会社を変える改革意識が強い人を集めて交流し、その大部分の人を業務IT化プロジェクトに連れて来ました。意識の高いメンバーを連れて行ったのがよかった点です。
過去に色々なプロジェクトで失敗してきたので、どうすると失敗してしまうのか?の失敗要因を学んでいました。失敗するかは最初のメンバーで決まる、と本にも書いてあり、確かにやる気のあるメンバーを集めないと無理だと思いました。
集めた若手のメンバーに「10年後15年後、君らは役職についてバリバリのころだよ。君らが会社を作っていかないと誰が会社作っていくの」と、ある意味責任を押し付けるような言動も使いながら、彼らのモチベーションが下がらないように鼓舞しました。
主体性があったのは、元々素質のある人たちを選んでいたのが要因だったと思います。
――改革志向のある業務IT化プロジェクトのメンバーと工場の方が1つのチームになるには、苦労もあったのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
島野:
工場側の組織改革チームとの合流のところが一番大変だったと思っています。
上田さんの推進力や、浅野さんのサポートにだいぶ助けていただきました。あのフェーズで喧々諤々、白熱したコミュニケーションもありましたが、大きな変革をするときにそういった本音のやりとりは重要だと思っています。 LTSは外部なので、会社組織に対してあまりに大きなテーマだと我々だけでは動かせません。お二人の存在は大きかったと思います。この点について、お二人にも感想をお伺いしたいです。
上田:
確かに難しかったですね。やり易くもあり、やり難くもありました。
工場のメンバーはほとんどが僕より年上で部長クラスだったので、本音はぶつけやすい反面、動いていただくのは難しかったです。逆に自分よりも若手のメンバーに対しては押し付け感が出てしまうと「やらされ感」になるので、下のメンバーとのやりとりも注意が必要でした。
慎重な人もいればそうでない人もいるので、全員をやる気にさせることは難しかったです。全体の会議が終わった後には業務IT化プロジェクトのメンバーと「この先どうするか?」と毎回話していました。最終的には強引にゴールまで持って行った、という感じだったと思っています。
浅野:
上田に同じです。できる限り業務IT化プロジェクトの変革意識の強いメンバーを尊重したいと思っていた一方で、工場の設備管理に携わる人たちの苦労を知っているので、その中でどのように対応すべきか悩む部分はありました。
とはいえ、過去のやり方では成果が出せなかったということもあり、基本は変えていかないといけない。その思いがあったので、業務IT化プロジェクトのメンバーをサポートする気持ちでやっていました。
上田:
四日市工場側のメンバーも、業務IT化プロジェクトの若い人たちが頑張っていることは分かっていたようで「彼らがやっていることを応援したい」と発言してくれていました。
おそらく、進みが早すぎたのかなと思います。途中から合流すると、なかなかプロジェクトのスピード感に付いて来られません。我々はLTSの進め方に何か月もかけて何とかついて行けるようになっていきましたが、入って1か月でやりなさいというのは難しかったと思います。そういう部分での戸惑いがあったと思います。
浅野:
途中から入ってきた人は、手法※に対する十分な理解ができていないままだったので、変革のプロセスをまどろっこしいと感じた人もいたようです。
そういう意味では、手法の重要性はもう少し理解してもらった方がよかったかなと思います。時間もなかったのでやむを得ない部分もあると思いますが。
ミドルアップ、変革意識が強い中間層を中心とした組織改革
――今回のプロジェクト全体を通して、その後の成果につながる転換点はどこだったのでしょうか?
上田:
大きな転換点は、社長から「必要なら組織を変えろ」という指示があったことです。これまでは、組織の変更は許可されていませんでしたが、社長からの指示が工場側に来たので、それが大きな転換点だったと思います。
上田:
元々業務IT化プロジェクトのメンバーは、組織構成に問題があるのではなく役割・目的の明確化が明確になっていないことが問題という認識で、組織変更は必須とは思っていませんでした。
浅野:
工場側幹部には、過去に設備管理の体制を変えた2度の経験があります。
1回目は2010年で、当時は設備管理の組織がISK本体に無く、関係会社がやっていた時期でした。時代的にもそれが当たり前の体制だったのですが、外部環境の変化やトラブルが多発したこともあって、設備管理の体制が関連会社からISK本体に戻ってきました。しかし、当時は本体に設備管理の組織を戻すことが目的になっていて、組織や役割の定義に曖昧な部分があり、うまく機能しませんでした。
2回目は2017年で、設備部門、工事部門主体の組織変更が実行され、生産部門の関与が少なかったこともあり、いろいろな問題課題が顕在化しました。
こういった背景があるため工場側幹部にも、単に組織を変えるのではなく、工場の各部門の役割や機能を整理することが必要という認識がありました。
上田:
結果としては組織まで変えています。組織の在り方まで踏み込んで変えることができたことで、思った通りのところまで行けたのではないかと思います。
浅野:
一部分の人間だけで検討するのではなく、またトップダウンだけではなく、ボトムアップやミドルアップというところが重要だったと思います。ミドル、中間層に変革意識の高い人間が揃っていますので、そういったことが奏功してうまくかみ合ったのかなと。
上田:
一方で、うまくいかなかったこともありました。
現場を巻き込む段階が難しく、一部の人間は変えなくちゃという認識でいるが、一方では、何で変えるのか、手間がかかるだけでは、という人も出てきて、全員をうまく巻き込むことができなかった。
例えば、こういう活動ではよくあることですが、会議では意見を言わないので、合意できていると思っていたのに、実際は合意できていなかった。このあたりは注意していたつもりでしたが、上手くフォローできていませんでした。
そうようなことが起きるのは予想していたが、もう少しうまく巻き込めると思っていました。が、そこまでたどり着かなかったです。
一番の成果は、変革人材の育成ができたこと
――まだ成果を出すには途中の状況と思いますが、現時点での社内からの見え方や評価をお伺いしたいです。
浅野:
新たな組織でISK内での自走体制に入ったのが2021年の1月で、LTSが設備管理機能の自走支援から離れたのが9月です。
上田:
9月末までに大きく変えたことの1つとして、新予算サイクルへの切り替えがあります。適切な予算配分をするため、生産・設備管理双方の当事者が参加して客観的なリスク評価結果に基づき予算検討ができるよう、設備工事予算計画~実行計画策定の組織の役割分担を変更し、予算計画策定時期を従来から大幅に早めました。この変更は現段階でかなりうまく進んでいるため、プロジェクトの1つの成果だと思っています。予算サイクルの兼ね合いから本格的な効果が表れるのは来年度以降となりますが、年々予算が増加傾向にある中で、それなりの予算削減・抑止効果を見込んでいます。
他部門に比べ、新設備管理体制下の担当者の業務改革意識は高くなっており、特に新予算サイクル、ロスリスクの低減に向け、設備管理が主体的に取り組む姿勢が明確に表れていると思います。
――今回の一番の成果・今後の意気込みがあればお伺いしたいです。
上田:
このプロジェクトも同じですが、当面は将来自社内で業務改革をリードできる人間を育てるのが目標です。
今回、設備管理機能の改革以外でも、業務IT化プロジェクトに参画したメンバーは皆やる気・意欲があり、LTSの手法も理解して自分のものにするなど、自分の業務に対する改革意識が芽生えていると感じます。私はこの状況だけでも十分満足です。次の世代の業務改革リーダーが何人いるかで、会社の将来が決まると思っているので、そういう人がたくさん育てばいいなと思います。
うちの会社では、プロジェクトを開始してもいつの間にか終わっている・なくなっているパターンがありました。今回は、プロジェクトで業務や組織の改革をやって、その後も継続的に活動をフォローしていくという意識ができました。そういう改革プロジェクトの経験ができたのも、一つの成果だと思っています。
浅野:
新しい設備管理体制になって、体制はできてスタートしましたが、継続できるのかが非常に大きなポイントになります。私としてはしっかりと継続できるように見守っていくとともに、尻を叩かないといけない場面もあろうかと思いますので、そこが私の役割かなと思っています。
せっかくこのチャンスを逃さないように見守って、あるべき姿に到達できるようにしていきたいなと思っています。
上田からもありましたが変革人材の育成について、上田が新しい育成プログラムを立ち上げて工場から12,3人を選抜して、新たな取り組みをスタートしました。人材がしっかり育っていかないと、この活動も継続が難しいと認識しています。また、活動が継続することで、これからのDXにもつながっていくので、そういったところもサポートしながらやっていきたと思っています。
――LTSの支援の中で「人」が成長した、というエピソードをお伺いできることは非常にうれしいです。LTS側からは何かありますか?
島野:
プロジェクト活動における効果について検討する際には、プロジェクトメンバーが主体となり定量・定性効果を試算しています。保守的な目標値を設定しがちなんですが、積み上げの試算をしつつも、この目標設定だと足りない、ここまでは達成したい、といったような将来を見据えた逆算のスタンスで検討されていたのが印象的です。それから、なによりも、最終報告の場で若手の方から「変えられる・自信を持った」という発言を聞きました。もともと当初から変化に対応できる組織体制・自走を目指していたので、3年間という長い期間ご支援してきた意味があったと感じ、個人的にはとてもうれしかったですね。
今後さらに大きな活動を立ち上げようとされていると伺っています。持続的な変革においては、最初の一周から次の一周につなげていくことがとても重要になると言われています。プロジェクトの成功を祈念しております。
ライター
SE・テクニカルライターを経て、LTS入社。ERP導入や業務改革におけるユーザー向け広報・教育企画および業務文書改善など組織コミュニケーションに関連するコンサルティングに従事。2017年よりLTSコンサルティング事業のマーケティングを担当。2021年より本サイト「CLOVER Light」の立ち上げ~運営・編集長を務める。(2024年1月時点)