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プロセス変革・業務改革

経営管理の高度化に向けてやるべきこと 今求められる経営管理とは

LTSの経営管理サービスのリーダーを務める髙橋です。これまでこのCLOVERでは、「経営管理」をテーマに対談や、記事作成の監修をしてきました。

今回は企業にとっての経営管理について、実際にプロジェクトの現場を通して見えてきた、ここ数年の動向やニーズの変化、業務の改革や仕組み化にあたって重要なポイントなどをご紹介します。

ライター

髙橋 矢(LTS 執行役員)

SIer 、コンサルティング会社2社を経て、LTSに入社。経営管理、ERP領域を中心に、ユーザーサイドでのPJ支援を得意とする。現在もPMとして複数の案件を担当。経営管理領域サービスリーダーとして「数字を活用した人・組織が動き出す経営管理」サービスを目指している。2020年より執行役員に就任。(2021年9月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

先行き不透明な時代に見直される、企業の基盤「経営管理」

経営管理は、経営層の想い(戦略目標)を定量化して現場に伝達し、人・組織を動かしていく仕組みです。

以前、対談の場でも話をしましたが、経営管理自体は四半世紀以上も前から議論・研究されている内容ではあるものの、データや数値を基に物事を判断していく・動かしていくという欧米型の管理手法は、日本企業ではあまり機能しきれていない実態があります。

なぜかというと、「阿吽の呼吸」「以心伝心」といった言葉にもあるように、日本ならではの行間を読んだり相手の気持ちをおもんばかったりする文化が影響しているからです。そのほかにも、トップダウンというよりも現場主導のボトムアップで日本企業が成長してきた背景もあると考えています。

例えば、「カイゼン」による現場主導の管理手法は、現場の創意工夫による徹底した効率化で業績を作るアプローチです。現場力が高まるのはいいことですが、マネジメント層が現場に丸投げ状態であっても業績を伸ばせていたとも言えます。

ところが昨今、これまでの時代と比べるとビジネス環境の変化が急速に進むようになりました。そして、これまでのような現場力だけで、言い換えれば自律性だけで仕事をする、ボトムアップ型の経営管理だけでは通用しなくなってきています。

先行きが不透明なVUCA時代、データを基にした企業活動の基盤となる経営管理が見直され、CFOを中心とした予算管理や管理会計の重要性が再認識されています。すなわち、現場力、自律性という日本企業の強みを生かしつつ、経営の意思を現場へ明示的に伝達できるトップダウン型の要素の注入が急務となっています。

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活発になってきた経営管理領域のデジタル化

経営管理領域の引き合いをいただく際、経営管理・予算管理単体でお話をいただくよりも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「ビジネスアジリティ(ビジネスにおける機敏性)」という文脈で、社内の基幹システムを整備する機会にあわせて予算管理も見直したい(デジタル化したい)というお声の方が多くあります。

この点は裏を返せば、経営層が経営管理・予算管理領域に対するデジタル化への関心が低いとも受け取れます。経営層には分かり易く費用対効果が高いところに投資をしたいという心理が働くので、売上増やコスト削減への期待効果が高いテーマに対する投資が優先されます。

トップダウン型の経営管理においては、経営管理システムは限られた経営資源の適切な配置による売上増、コスト削減を実現するための武器となるため関心度が高まるはずです。しかし、ボトムアップ型の経営管理では現場の創意工夫が主体となります。そのため、経営層が経営管理システムへの価値を認識しきれず、必然的に経営管理システムへの投資意欲が下がってしまいます。その結果、未だにExcelで時間をかけて集計・分析をされている企業が多くある状況が続いているのだと考えています。

ただそれでもここ数年は、経営管理領域のデジタル化の取り組みも活発になってきたと認識しています。先程も述べた通り、不確実性の高まりと共に従来のボトムアップ型の経営管理が通用しなくなる中で、将来予測やシミュレーション業務を実施するトップダウンでの経営管理の重要性が高まってきました。FP&Aの議論が熱を帯びだしているのもその流れだと思います。

DXや働き方改革は、経営管理のしくみを見直す「きっかけ」

経営管理のDXは、経営管理業務のシステム化ではありません。

DXやアジリティ(迅速性)の本質は、「人・組織が継続的に変革を起こしていく力」です。迅速かつ継続的な変革を実現するためには「経営層の適時的確な意思決定(およびそれを支える仕組み)と、その決定を現場に素早くかつ確実に浸透させていく」ことが必要であると考えています。そのためには、BIツールなどを活用することで解決される問題もありますが、ツールを導入するだけでは本質的な問題の解決には至りません。

システムの導入に加えて、人・組織の再設計が重要な経営管理改革

経営管理改革のプロジェクトでは、企業の成長や環境に合わせて経営管理制度を再設計する制度改革支援、そしてそれを支えるシステム構築支援のプロジェクトがあります。LTSでは、このような取り組みの支援に加えて、真に活用される経営管理を実現するため、以下のような取り組みも広義の経営管理改革と捉えて重要だと考えています。

①信頼される数値を提供するための業務整備

経営管理で取り扱う”数字”は、各現場でのビジネス活動の結果として生まれます。そして、その数字の精度は現場業務の精度に依存します。日々の業務から意思決定に資するデータを生み出すためには、ビジネスプロセスマネジメントを活用した現場業務の整備が必要となります。

②組織や人を動かすための制度設計

提供されたデータを活用し、意思決定支援に繋げたとしても、最後は現場である人や組織が正しく動き出さないと機能しているとは言えません。人・組織はその時に設定した適切な目標値と正当な評価によって、志気が維持され業務での成果につながります。そのため、人事評価制度との連携も必要です。

③会社・事業の目指す姿の定義

個人の志気を促進して繋げたい成果が定まっていない、ミッション・ビジョンや中期の目標が陳腐化・風化しており、現状における会社の目指す姿が定まり切っていない…そんな状態の会社も少なくありません。個々人の志気のベクトルを合わせるためにも、会社・事業の目指す姿を見直すことも必要です。特にここ数年の外部環境変化や技術革新により、目指すべき姿を再設定することは不可欠であると感じています。

上述の通り、あるべき経営管理を実現するためには経営管理制度の設計・それを支えるITシステムの見直しや、信頼されるデータを作り出すための業務プロセス・ルールの整備および、数字というツールを活用した人・組織が動きやすい制度・仕組みへの見直しも必要である、ということを知っていただけたらと思います。

資料1:経営管理の高度化のためにやるべきこと(筆者作成)

人を動かす力のある数字を正しく使い、より良い企業づくりを

私は「数字は人を動かす力を持っている」と考えています。

例えば、親から子に「次のテストで80点を取れたらご褒美(インセンティブ)をあげる」という話があったとしましょう。親は、次のテストの科目が何で、子どもが今どこの部分の学習しているのか(外部環境)、その子の最新のレベル(内部環境)を捉えていない状態で、「何となく80点」という提示をしていることが多いと思います。

その子は、次のテストが苦手な科目か得意な科目かで80点という数字に対するハードルは変わるはずですが、「よし!80点を取ろう!」と“目標ラインを80点に置いて”動き出します。これが、70点とか90点とかであれば、目標への向き合い方とアクションが変わります。また、100点と言われたら「それは無理だからご褒美は諦めよう」となってしまうかもしれません。実際にはこのような単純なやり取りではないと思いますが、根拠のない「80点」という数字(設定された目標値)であったとしても、定量的な数字を示されると多かれ少なかれ人の心理と行動に影響を与えるのです。

ビジネスの世界においても、これと同じことが言えます。例えば、売上目標・利益目標がトップから提示され、その背景や根拠を現場が把握せずとも、それは達成しなければならない目標(ノルマ)として現場が動き出してしまうことがあります。あまりに現状とかけ離れた目標の場合、現場の志気を奪うことになり、目標に対するプレッシャーが強すぎると、時に「数字」という目標ラインに到達させるために人を不正に走らせることさえあります。

そのような力を持つ数字というツールを正しく使いこなすことにより、企業をもっと良い方向に導くことが出来るはず、適切な目標値が心地よいプレッシャーとなり、活き活きとした組織づくり(組織形成・企業活動・個々人のモチベーション)にも繋がっていくと考えています。

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先ほどのテストの例で言うと、親が次のテストの範囲と子のレベルを正確に把握したうえでの目標点数を示すことが、適切な目標設定と子のレベルの引上げに繋がります。もし出題範囲が認識とずれていたり、我が子のレベル認識に誤りがあったり、前提が変化したのであれば、一度立てた目標点数にとらわれず、その状況に合わせた新しい目標点数に変えていくこともやる気を維持する手法です。

このように、ビジネス環境の変化に応じて「柔軟に企業をコントロールするための経営管理改革」が重要であると考えています。

まずは足元の業務をデジタル化し、経営管理の高度化を目指す

しかしながら、本来このようなことを考えるべき経営企画部の方々は、現場業務に忙殺され改革に手を付けられていないのが現状です。実際、2020年にCFO協会で「経営・事業管理機能の強化に向けた実務面の課題」に関するアンケート※1が実施されると、本来は分析や先行きの計画を立てるべきポジションの人が、一番多く時間を費やしている業務は「データ・情報の収集と編集」であることが分かりました。そして、その理由の多くが「データ収集の仕組みが無く手作業で回収しているため」という回答だったようです。まだこのような課題レベルで止まってしまっている企業が多くあります。

※1 「FP&A(経営・事業の企画管理)機能の強化に向けた実務面の課題を考える」をテーマに、FP&Aが果たすべき「ビジネスパートナーとしての役割」と「マネジメントコントロールシステムの設計者および運営者としての役割」の2つの役割に関して、どのような実務面の課題があるかを検討するサーベイ。参考:https://forum.cfo.jp/cfoforum/?p=16695/

経営企画部のあるべき役割を果たせるよう、まずは現場業務のデジタル化を進めるべきです。一昔前と比べて、安価で使いやすいSaaSの仕組みが多く出てきています。要件次第ではありますが導入期間もかなり短くなり、メンテナンスもお客様自身でできるユーザーフレンドリ―なソリューションも増えてきており、これを活用しない手はありません。

LTSでは、その先にある経営管理高度化の課題にアプローチをし、お客様企業の改革を実現していきたいと考えています。実際に私たちのお客様でも、目の前のデジタル化を進めてみることによって、新しいツールや仕組みを活用するイメージが膨らむケースが多くあります。例えば「本来はこういうデータで経営したい」、「収集・集計・レポート機能は整ったが、収集しているデータの精度を上げなければレポートする意味がない」ということに気が付き、次はそこの問題を対応したいと、新たな課題設定をされるお客様も出てきています。この例はエクセルで運用しているときからの潜在的な問題ですが、ルーチンワークの中で、なかなかその問題に気が付くことができなかったようです。

デジタル化の取り組みを通して潜在的な問題を発掘することは、本来目指すべき姿を検討するきっかけになります。そして、その取り組みの中でお客様自身が問題を認識し、様々な問題への対応を加速させることにも繋がります。本質的なDXとは異なりますが、デジタル化の機運が高いうちに、不確実な時代を乗り切るための第一歩を踏み出していただけたらと考えています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


エディター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)