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デジタルテクノロジー

データ活用組織へのDX 全社的かつ継続的なDX人材育成の必要性

DXの中でも難易度の高いAIモデルの開発やデータの利活用といった領域で成果を上げる企業がある一方で、多くの企業は活動の組成時点から課題を抱えています。データを使ったDXで多くの支援実績を持つエスタイル代表取締役の宮原氏に、DX成功に必要なデジタル人材の全社的な育成について聞きました。
宮原 智将(株式会社エスタイル 代表取締役)

慶応大義塾大学経済学部卒。新卒にて経営戦略コンサルティングのCDI(コーポレイトディレクション)にて戦略コンサルタント業に従事。病院経営、サービス、自動車など複数業界のPJを経験。2006年、株式会社エスタイルを設立。現在はデータサイエンスおよびDXコンサル事業を展開。(2023年2月時点)

AI/データ活用領域のDX市場の動向

最初に、AIモデルの開発などデータの利活用領域のDX市場動向についてお話します。2年ほど前までは各部門でPoCをメインに取り組む企業が多く存在していましたが、最近では、全社視点に発展させたDXを推進したいと考える経営者が増えてきている印象です。

エスタイル 代表取締役 宮原氏

当初のPoCは各部門が主導して部門内での予算で行うことが主流だったので、仮に効果が出ても改善できる範囲はその部門内にとどまっていました。ですが、現在は全社的な視点でプライオリティも見た上でのDX、つまり陣頭指揮をとるのが事業部長から経営陣レベルになってきていることが、現在の市場の特徴だと様々な事例を見て感じています。

特に大企業は、去年一昨年頃など周囲より早いタイミングからその取り組み始めています。500億から1000億の中規模企業も今年あたりから本格的に取り組みを始めるだろうなと考えています。その影響を受けて、ユーザー企業と支援するIT企業それぞれの課題も変化していくと思います。

ユーザー企業とIT経験者の情報非対称性が生むリスク

全社的なDXを推進するフェーズに至り、多くの企業でよく見受けられた施策が、DX推進に関して知見のある責任者を外部から採用する方法です。前提として、企業としては「その人材が採用できればDXが推進できる」と思っているし、採用される側も入社後に自分がリードすることでDXを推進できるだろう、と思っています。

ただ、外部から入った方が驚くのは、自分がかつて所属していたSIerだったりITを活用している会社と比較して、経営陣の方および部下として与えられた人材のIT・DX のリテラシーが低いことです。採用した企業側の観点では、社内のITに強いメンバーを選定し配置転換させたりしたので問題ないと考えています。しかしそれは「自社にとってのITに強い人材」であって、マーケットの基準ではありません。その結果、外部から来たDX推進担当者としては「このメンバーでは推進が難しい」という状況になるということです。
このような「知見のある責任者一人が起点となってDXを推進する」というのはかなりハードルが高く、前職でDXを推進できた人も、特に部下のITリテラシーが低いと前職と同じような活躍ができず期待に応えられないという事象が頻繁に起こってしまいます。

そのため、DX責任者は前職のSIerなどITに強い企業からDXに知見のある部下を数名連れてくるなどの対策を取ろうとしますが、体制を整えるだけでさらに半年等の時間がかかってしまいます。その結果、企業側の経営陣としては「なぜ改革が進まないんだ」ということに時間軸上で苛立ちを感じてしまいます。
もちろん、最初からその状態が見えていれば事前に体制面の提案はできたかもしれません。しかし、DXに必要な体制やITリテラシーについて、未経験のユーザー企業とIT経験者の間にある情報の非対称性が、DX推進の開始段階における大きな課題になっているように見受けられます。

このような状況で、まず何から着手すべきかと言うと、DX推進体制に必要な人材の育成から始める必要があります。AIやデータ活用などを伴うDXを推進する場合、DX推進リーダーの部下を育てる必要があるのですが、その部下にデータサイエンスやデータ分析の素養があるかというと、もちろんそうではありません。

ユーザー企業の中では多少ITに強い社員かもしれませんが、データサイエンスをやりたいと思って入社しているわけでもないので、キャリアの志向という意味でも難しいでしょう。その結果、やはり人材育成もうまく進まないという問題が起きるわけです。ユーザー企業の経営陣も待ってはくれないので、結局SIerに丸ごと依頼するという、よくある状況に陥ってしまいます。

IT導入とDXの違い DX人材を増やす必要性

企業がDXを進められるようになるには、SIerに丸投げしていては駄目で、自らの企業内に推進できる体制を構築する必要があります。従来のITシステムの導入の場合、乱暴な言い方をすると、システムの導入はSIerにお願いして、導入後は情報システム部がメンテナンスしていく前提で小さなマイナーチェンジや仕様変更はあれど、そこに事業部間の理解はあまり必要なく、情報システム部にリクエストを出せばOKという進め方でもなんとかなったと思います。

一方でDXは、たとえばAIやデータ利活用を事業部門の活動と結び付けて有機的なコミュニケーションをする中で改善が生まれていくイメージです。そのためには、継続的に改善活動を実施する必要があるので、導入して終わり、サポートして終わりというよりも、まず事業部内でDXを進められるDX人材をどんどん社内に増やしていくDX人材戦略から入る必要があると思っています。

DXを推進するということは、DX人材をどんどん社内で育てていくことに近いと思っていて、そうであれば人材育成の観点での外部からのサポートが必要だと考えています。

これらが、上記で話した通り「責任者だけ採用しても推進できない」ところ背景でもあり、継続的に社内の人材のDXリテラシーを高めていくことが必要な理由でもあります。

「DXにはDX人材戦略が必要」とエスタイル宮原氏は語る

「外部にやってもらう」から「内部にインストールする」へ

そのような観点から、DXを推進する上で重要なのは外部の人に「DXを推進してください」と丸投げすることではなく「DXを私たちにインストールしてください」という意識の改革が必要だと思います。

外部のDX人材を連れてきて、社内のDXを進めるために、運用の指示書を作成してもらい、後は指示書通りに社内で運用するというスタンスではなく、継続的に社内の方と机を隣に並べて伴走スタイルで取り組むということが重要だと思います。

専門家よりも相談しやすい存在が組織のDXを後押しする

ユーザー企業によって、DXの実装のやり方、どこにAIを活用するか、データ利活用を推進するかは全然違います。それぞれの企業で固有解があって然るべきですよね。

企業ごとに固有のDXを実現するための解の1つとして、データやテクノロジーについて相談しやすい若手DX人材を登用する事が挙げられます。例えば、すごいベテランのコンサルタントの先生のような方を「DXをサポートする人材」として登用すると、社員は気軽に聞きづらいのではないでしょうか。「私は時間単価高いけどそれでもいいの?」みたいな印象を与えかねないですよね。それよりも、隣に若くて人当たりのいいお兄ちゃんのような存在がいて、「なんでも聞いてください」「それはこうやるんですよ」「これはこうですよ」と、地に足ついた気軽なコミュニケーションを通じて、どんどん現場で継続的にDXを社内にインストールしていくようなイメージです。

まさにこれが私の考える取り組みやすいDXの進め方です。

できることを少しずつ増やして成功体験を持ってもらう

表現を変えると、「中食」のような感じですね。「外食」のSIerでもなく、自分たちで完全に自前でやるでもなく、例えばIT企業から適任の人材を数名入れて、2~3年の間在籍してDXプロジェクトに社員と共に関わる中で、社内の人材を急ピッチで育てるという感じですね。

もしくはそのようなDX推進ができる人材を数名外部から採用した上で、まずその人達に社内の仕事を理解してもらい、各業種のドメインの知識を得てもらう。その上で、それら人材を各事業部の中のいくつかの起点として配置して、その人たちから現場の方々に1年から1年半ぐらいかけてしっかりとスキルトランスファーをしていく。現場の方の分かる言葉で、そして日々ちょっとずつ教えて、やってもらうことで「意外と簡単にできるね」という感覚を持ってもらうことが、とても大事だと思いますね。

できることからトランスファーをしていって、学べたという成功体験を持ってもらい、徐々にその回転を速めていく、ということです。こうしてDXとデータサイエンスとビジネスの間を徐々に繋いでいくことでDXが格段に進みやすくなると思います。

参考までですが、今までお話しした内容を弊社では下記のような考え方で整理した上で、DXのコンサルテーションを提供する際に説明させていただいています。

ESTYLEの考えるDXコンサルテーション

経営陣がデジタルの必要性を理解し意思決定する

現場へのトランスファーを進める上で重要なポイントとして、経営陣がデジタルの必要性を理解する必要があります。経営陣から「会社にとってDXを進めることが、この先の業界での競争優位を決定づける」というメッセージを発信することが重要です。

たとえば、明治維新のときのリーダーは海外から武器を仕入れて、その扱い方について非常に高いフィーを支払ってでも教えてもらう決断をして、列強に追随することができました。外部から新しいものや考え方を取り込まないといけない、という強い危機感と変化する意志をトップが持っていた藩だけが、他をリードし貪欲に学び、次の時代のリーダーとなりました。それと同じように、DX推進の中で「自分達自身がマスターして使いこなす」という意識を持つことがやはり必要だと思います。

DXでは現場をヒーローにすること

最後の重要なポイントとして、DX推進では事業部をヒーローに仕立て上げていく事が重要ですね。全面展開を前提としたモデルケース作りを最初からやると達成が難しいため、まずは小さいテーマでDXを推進し、それによって事業部の業績を改善させ、DXの結果によるヒーローを事業部側に生み出す必要があると考えています。

外部の人材は、事業部の「黒子」としての立ち位置でうまく組織に溶け込み機能するイメージです。今までのITとビジネスは、紐と紐を結べばOKぐらいだったものが、データ利活用のようなデータサイエンスとビジネスDXのためには、もっとほどいて細かいメッシュで結び付けなければいけません。そのため外部の人材は、現場の方との信頼関係を構築できなければ全く価値を発揮することができません。

「DXを支援する外部の役割は黒子となって現場に溶け込むこと」

IT導入の時は多少事業部門に嫌われても強引に「こういうシステムに変更します」と言えましたが、データを使ったDXでは本当に現場の人たちといろんな改善点を現場レベルで議論することが必要です。いったん作った後もモデルをアップデートし続けるので、DXの取り組み自体も各現場がやっていかないと運用が続けられません。多くの場合、現場の人が運用できずに数年前のAIモデルを使い続けることになると徐々に精度が落ちていくため「AIはたいしたことないね」と思われてしまいます。

そうならないためにも、外部から支援する側は、現場の方に嫌われないようにしっかり溶け込みながら、現場を黒子として支えることが、DXを進める際に重要だと思っています。


ライター

CS Clip事務局()

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