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温暖化と企業活動のリスク~迫られる制度対応と社会貢献~「気候危機と地球のデジタルツインテクノロジー」メディア懇談会レポート

LTSと子会社のME-Lab Japanは5月、東京都港区の本社でメディア懇談会「気候危機と地球のデジタルツインテクノロジー」を開催しました。⾦炯俊(Kim Hyungjun)韓国科学技術院教授と、ME-Lab Japan社⻑の坂内匠(LTS、CO事業本部・データ分析事業部部⻑)が、地球温暖化と今そこにある気候危機、気候変動が企業に迫る〝変革〟について説明し、メディア関係者と意見交換しました。当日の講演を再構成してお伝えします。
⾦炯俊 KIM Hyungjun(韓国科学技術院教授、ME-Lab Japan 取締役CTO、MetaEarth Lab 代表取締役CEO)

東京大学大学院社会基盤専攻、博士(工学)。主な研究テーマは、気候・水・エネルギー・食料・経済ネクサス。地球温暖化と台風や前線など気象システムによる前線性豪雨の強度の関係を初めて証明したほか、衛星観測値から地上の降水量を推定する機械学習手法を開発するなど、グローバル水文気候分野の第一人者。気候変動に関するデータ分析、シミュレーションなどを専門とする。MetaEarth Lab, Inc.はKAIST発のスタートアップで、気候変動に関する優れた専門性と⾼品質なデータやモデルを保有している。https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000070635218/ https://www.titech.ac.jp/news/2023/067968

坂内 匠(LTS データ分析事業部 部長、ME-Lab Japan代表取締役社長)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。気候変動対応に向けた企業変革支援や人工衛星を用いた災害モニタリング等の気候・環境系の案件や大学と連携した研究にも従事。国際ジャーナルへの論文執筆や学会発表も経験。(2024年6月時点)   ⇒プロフィールの詳細はこちら

気候変動が企業に迫る〝変革〟について説明する坂内匠

ME-Lab Japanのプレスリリース
「気候ハイブリッドリスク」指標開発へ共同研究 AIを用いたGX経営支援を加速します 
株式会社ME-Lab JapanとMetaEarth Lab, Inc.との業務提携のお知らせ 

「温暖化の原因は人間活動」は明白

システム変化の速度と衝撃


映画『ジュラシック・パーク』をご覧になった方も多いと思います。草木が生い茂り湿度が高そうな光景が描かれています。実際、恐竜がいた時代の平均気温は、現在より15℃くらい高かったことが分かっています。大気と海洋に大量のCO2があったためです。

NOAA(アメリカ海洋大気庁): 80万年前から2016年1月までの大気中のCO₂

恐竜の時代から現代まで、こうした地球の温度変化は、数千年から数万年かけて起きてきました。私が授業でよく使う例えがあります。生卵を床に落とすと割れますが、マットレスに落としても割れません。衝撃とはシステムの変化がどれくらい速いかによって変わります。マットレスは変化の速度を吸収します。現在の温暖化、気候システムの急激な変化は、地球の生態系、人間社会に衝撃的な影響を及ぼすスピードです。

2023年に出た気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、第6次報告書の最大のメッセージは「気候変動は存在していて、その原因が人間活動にあることは明白であると、科学者は証明することできた」ということです。

東アジアで頻発する線状降水帯による豪雨

温暖化の原因が人間活動にある根拠のひとつは、全球気候モデル、地球システムモデルで明らかにできます。こうした技術は急速に発達していて、現在では地球の気候を再現できるようになっています。

私は仮想世界に地球を再現し―これをデジタルツインと言います―、人間がいる世界、いない世界を比較する研究をしています。「神様のサイコロ実験」と呼びますが、サイコロを振るように、さまざまな条件を設定して何度も何度も地球環境をシミュレーションします。すると、人間のいない地球では温暖化は存在しないことが分かります。また、例えば東アジアで近年、頻発している豪雨は、人間活動がなければ起こりえないことも明らかです。

海水面気圧の変化(1991年~2015年と1958年~1982年の比較)と前線性降雨(線状降水帯)の変化(同)。日本の九州地方、朝鮮半島南部、中国大陸沿岸部で前線性降雨が増加し、北太平洋高気圧の強化により太平洋の海水面気圧が上昇、沿岸部の気圧が減少している

前線性豪雨(線状降水帯)はこの60年間、激しくなっています。そして、シミュレーションすると今後、より激しくなるであろうことが分かります。

CO2削減プラス戦略的適応策が必要

1998年から2017年の間に、地球上の130万人が自然災害で亡くなり、その91%が極端な気象現象によるものです。経済的損失は2908億ドルで、気候関連災害が77%、2245億ドルを占めています。これは1978年から1997年と比べて251%も増加しています。

では、温暖化をどう解決するべきでしょうか。CO2を排出しないことに加えて、災害被害を防ぐために最適化した戦略、適応策が必要になります。気候変動への対応は、あと5年くらいしか猶予がありません。人類が求めてきた社会や経済を発展させる活動が地球を暖めているのです。

経済的活動の戦略策定に降水や山火事、干ばつなど気象変動を考慮することは絶対に必要な手法となります。アカデミアの知見を経済・企業活動に生かすかことは、非常に有効な方法なのです。

経済界「最大のリスクは気候変動」

坂内
経済界では世界的に「気候変動は最も大きなリスク」と認識され、世界経済フォーラムの調査では2017年以降、常に1位となっています。また気候変動課題、例えば鉄鋼産業のグリーン化、再生エネルギー関連、人工衛星による地球モニタリング技術などへの投資は2022年、過去最高額となっています。

地球温暖化や投資額の増加といった傾向は、企業にどのような影響を及ぼすでしょうか。

企業の「責任と貢献」が拡大

シンプルに言うと、企業の責任と貢献の範囲が大幅に拡大します。具体的には説明責任・非財務情報開示が求められます。実際、業績だけではなく環境、気候変動対策への貢献、リスク情報を開示するよう法整備が進んでいます。これまで非財務情報の開示基準は乱立していましたが、昨今はグローバル全体でISSB(「国際サステナビリティ基準審査会、International Sustainability Standards Board)基準への統合の流れにあります。日本もその例外ではなく、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ=Standards Foundation, Sustainability Standards Board of Japan=日本のサステナビリティ開示基準を開発するため2022 年 7 月に設立)は、ISSBをベースにした基準を2024年3月末に公表しています。さらにEUでは生物多様性、人的資本についても開示を求める動きが先行しており、欧州でビジネスを行うグローバル企業は対応を迫られています。

日本でこうした企業への要求が始まるのは「まだ数年先なので様子見」か、と言うとそうではなく、大手企業はすでに動き始めています。また、上場企業だけではなく、中小企業でも対応が始まっています。

目的と手段を明確にする

私は2024年4月、ドイツでの製造業の展示会「Hannova messe」の視察に行きました。電気メーカーのシーメンスなど現地の大手製造業にとって「デジタルツイン」「生成AI」「サステナブル」が重要なキーワードになっています。デジタルツインや生成AIはあくまで手段、アウトカムはサステナブル、というコメントが印象的でした。そして、「環境貢献」が新規事業開発の主要な観点となっています。

企業にとっての4つのリスク

企業にとってこの「環境貢献」は義務ではありませんが、貢献しないことは経営リスクとなります。大きく「資本調達コストの増加」「資産損失リスクの拡大」「訴訟リスクの増加」「ブランド力の低下」の4点です。

信用格付け会社では、気候変動の影響を重視する取り組みが加速し、格付けが下がると資本調達に支障をきたす恐れがあります。工場など資産が災害で損失する恐れもあります。日本ではまだそれほど聞かれませんが、欧米では企業に対する気候関連訴訟が増加しています。また、環境問題に関心の高い若い世代へのブランド力の低下、ひいては採用や新規取引への間接的な影響もあるでしょう。

企業には、非財務情報の開示や法律・制度に対応するだけでなく、さらに一歩進んだ対応が求められるのです。

LTSが得意とするデジタル・トランスフォーメーション(DX)も、ME-Lab Japanが手掛けるグリーン・トランスフォーメーション(GX)も本質は同じです。変革の実現に必要なことは「企業全体へのアプローチ」と「自走を見据えた支援」です。LTSとME-Lab Japan、韓国MetaEarth Lab, Inc.はそのための解決策、ソリューションを提供するだけでなく、「プロフェッショナルサービス」として、お客様がGXへ自走することができるようなサービスを設計し提供します。すでに、いくつかの依頼案件があり、企業と社会のGX、環境課題の解決に貢献していきます。