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デジタルテクノロジー

アカデミアの長期視点をビジネスに組み込む挑戦 衛星データを活用した事業開発の裏側

先日、LTSから以下のようなプレスをリリースしました。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が募集する衛星を活用した状況把握システムの開発・実証の1次審査通過のお知らせ

今回、この企画に応募したLTSのマネージャー 坂内匠さんと、坂内さん入社以来上司としてサポートしてきた、LTSの取締役CSO 亀本悠さんにお話を伺いました。

これまでLTSが新しいトレンド(環境・衛星・脱炭素)に積極的に取り組んできた背景、トレンドを追うだけでなく研究活動として真摯に技術にも取り組んできたエピソード、現場主導で新しいチャレンジしていく土壌がある社風、などをお話しいただきました。
亀本 悠(LTS 取締役CSO)

戦略コンサルティング会社から2011年にLTSに移籍。デジタル活用サービスを展開する事業部門の責任者として、サービス開発および事業規模拡大をけん引。19年3月に取締役に就任。(2022年3月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

坂内 匠(LTS データ分析事業部 部長、ME-Lab Japan代表取締役社長)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。気候変動対応に向けた企業変革支援や人工衛星を用いた災害モニタリング等の気候・環境系の案件や大学と連携した研究にも従事。国際ジャーナルへの論文執筆や学会発表も経験。(2024年6月時点)   ⇒プロフィールの詳細はこちら

想像もつかない世界が見える、人工衛星データへの興味

亀本
まず今回、対談形式にしたのには2つの理由がありまして、一つは、マーケットに対してLTSのこういった新しいサービスや機能、ケイパビリティを活用しませんか?というところを伝えたいです。

もう一つは、LTSは会社として、新しい領域にチャレンジする人たちをサポートして応援しているので、採用という文脈でこういう技術や分野に興味がある人に知ってもらいたいです。このあと、話に出てくるアカデミックな世界での活動が、ビジネスのどういうところにつながっていくのか、その難しさも含めて坂内さんと語れたらと思います。

まず、人工衛星に限らず、LTSの元々のサービスにはない領域、マネタイズができていない新しい取り組みに対して、チャレンジしようと思ったきっかけは何でしたか?

坂内
もともと人口衛星とか気候変動とか、個人的には全然興味ありませんでした(笑)。
これまで企業向けにデータ分析のサービスを提供してきた中でサポートいただいていたのが、東京大学の金先生でした。気候モデルや人工衛星が専門の金先生との雑談で、いろんな話を聞いているうちに徐々にこの領域に興味を持ち始めました。勉強を始めてみると、モデルや人工衛星データによる大量のデータを使って、50年後、100年後の地球を予測する、といった今まで想像もしなかった世界があることを知り、更に興味が強くなっていきました。

これまでビジネスの世界でもビッグデータはよく使われてきましたが、そこまで”ビッグ”ではないと思っていました。もちろん、データ活用は手段なので、スモールデータでも目的を達成できれば十分なのですが、ビッグなデータを使えば、想像もつかない世界が見える、というワクワクする考え方には、いつか挑戦してみたいと思っていたんです。そんな中、まさにビッグデータである人口衛星データというものを大学との研究で使うようになり、これをビジネスに活用できないかと思うようになりました。

写真:対談中の様子(左:亀本さん、右:坂内さん)
※写真撮影時のみ、マスクを外しています

発展途上の「人口衛星データ活用サービス」、その難しさはビジネスとアカデミックの時間軸の違い

亀本
実際にビジネスに活用できるよう試行錯誤していると思いますが、その中で特に難しいと感じることは何ですか?

坂内
冒頭にもあった通り、LTSでは2019年に「衛星データ活用のコンサルティング始めます」というプレスリリースを出しました。その後、様々な商談機会や案件を経験することができましたが、正直まだまだ市場として成立しておらず、今後の発展が期待されている領域です。

難しさとしては、まず人口衛星データが何なのか、なにに役立つのか、という基本的な部分から入る必要があるので、案件化までの時間が非常にかかります。また、データ蓄積のプラットフォームやソリューションも発展途上なので、都度案件ごとにスクラッチ開発が必要で費用対効果が合わなかったりします。そんな中、何かブレークスルーがないか考えたときに、 今回一次選考通過したNEDOの企画を発見しました。

今回の企画は、実は3年くらい前に行っていた衛星データによる洪水エリアの特定に関する研究を、一部カスタマイズして提案したものです。

亀本
面白いですね。人工衛星データってキャッチーで面白くて、いわゆるアカデミックとかデータ分析をしているエンジニアサイドの感覚からすると、面白そうだと肌感でイメージがつきます。お客様の中でも大手企業だとNTTやNECは、宇宙ビジネスとして人工衛星を飛ばしたり、宇宙服の素材を作ったり、 安定した通信のために自社の技術を開発したり、 最近は色々な話を聞きますね。

私も詳しくは説明できませんが、人工衛星で取得できるデータや時間軸は、日本のビジネスにおけるデータの利活用の要件とは、キャズム(溝)があると感じています。そのキャズムが埋まらないとビジネスで利活用するのは難しいと考えますが、いかがですか?

坂内
キャズムの一つに、データの解像度があると思います。ビジネスで求められるデータの解像度は非常に細かいです。ただ、その細かい解像度に合わせて衛星データを飛ばすとなると、専用衛星をたくさん飛ばさなければいけなくなります。それだとお金がいくらあっても足りません。

現状では、衛星はある程度汎用的な目的で飛ばさなければいけないので、ビジネスの要求にすぐに答えられるようなスピード感と粒度でデータを得られるようになるには、もう少し時間がかかると思います。LTSのサービスでは、現在運用されている衛星データをビジネスの要件に合わせるためにAIを使えないかと考えています。

これからの企業経営に求められる「より長期的な視点」

亀本
昨今、ビジネスサイトではSDGsやサステナブルなど新しいキーワードが飛び変わっています。
しかし、ビジネスの分野で考える時間軸と、アカデミックでの時間軸は違うと思います。特に、アカデミアの環境の研究は数十年から数百年単位で捉えています。とは言え、ビジネス側も最近は中長期の視点の重要性が高まってきています。30~50年後という、自分が目にすることはできないかもしれない時間軸の先に対する責任や意識の高まりは、今後も高くなるんでしょうね。

坂内
はい、高まらないといけないと思います。例えば、気候変動は30~50年先を見ていますが、中期経営計画は5年先を見ています。 ビジネス側の時間軸も伸びなければならないですよね。

亀本
そういったものは事業者の責務として、今後の事業活動の評価軸の一つになると考えています。現在、監査法人がやっているような事業の透明性の監査は単年度のスパンでみられていますが、TCFD※1をはじめとするような地球環境に対する企業責任は、十数年後の環境に対しての企業の責任についての評価です。そこに対する企業経営者の責任をどう評価するかが、今後の重要な論点になると思います。コンサルティング会社として、経営や業務・ITだけで、環境に対する評価ができないと、本当の意味での経営戦略は提案が出来ないと考えています。

※1 TCFD:TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。(出典:TCFDコンソーシアム、https://tcfd-consortium.jp/about

坂内
そうですね、事業計画は今のままでも良いですが、経営計画はより長期的な目線を持つ必要があると思います。
最近は、炭素排出量をしっかり管理するという動きに加えて、大手企業だと環境負荷に対しても今まで以上に敏感になっています。例えば、メーカーだと「水ストレス」というワードがよく登場しているそうで、海外に工場を建てたとしても、その工場が地域の将来的な干ばつなどのリスクをもたらさないか、といった観点まで考慮する必要があるそうです。

これらの例からも分かる通り、今後は、工場では炭素排出量を気にしなければいけないですし、環境負荷(水ストレス)も気にしなければいけないですし、当然事業として収益が出るかどうかも気にしなければいけません。 環境や気候分野を昔から研究してナレッジが溜まっているのはアカデミア側なので、経済的にも環境的に持続可能性のある事業経営をするには、今後はビジネスとアカデミアの領域ともっと近づいて考えていかなければいけないと思います。

亀本
特に、株式市場に上場しているような企業について、 環境に配慮されていない経営計画は不十分だと言えますね。LTSも上場しているので、本来であれば検討する必要があります。しかし、検討する必要性は分かっているものの、何から始めればいいか分からない企業経営者はたくさんいると思います。そういう方たちに向けて、アカデミアで培ってきた正しい知識をもとにし、どういった経営戦略を立てられるかご支援できたらいいなと考えています。

写真:対談中の様子(左:亀本さん、右:坂内さん)
※写真撮影時のみ、マスクを外しています

1社だけでなく複数社で手を取り挑戦する中小企業の環境貢献

亀本
大手企業のお客様はTCFD対応が求められたり、昨今は積極的に企業内の排出炭素量の管理や水ストレスリスクの試算をしたり、 何かしらやりようはあると思います。 しかし、環境に直接リーチできないような会社がサステナブルを目指そうとした時に何ができるのでしょうか。SDGsには女性活躍や貧困といったテーマもありますが、特に環境を取り上げたときに、中小企業はどういったことができるのでしょうか。

坂内
確かに大企業はいろんなやり方を取れると思います。例えばマイクロソフトは、企業内で炭素排出を管理する仕組みして、予算と紐づける活動をして、従業員の出張やエネルギー消費を抑制していますよね。これは規模が大きい企業だからできるわけで、中小企業だと、世の中から期待されているにも関わらず、何をすればいいのか分からない状況かと思います。これは「経済モデル」という領域で研究が進んでいます。企業が環境に優しい行動をとった結果、経済モデルと気候モデルを組み合わせてどうなるかを研究している方もいらっしゃいます。

亀本
そうですよね。結構地道な活動かなと思っていまして、 環境問題という大きな課題に対して、一人一人の努力が何につながるのかな、という気持ちはありますよね。 これらの行動がエモーショナルの部分で地球に貢献している気がしているけれども、実際にその50年の蓄積が地球の環境にどう影響を与えるのかという…あまり想像がつきませんよね。

坂内
この辺りの議論は、最近アカデミアでもなされています。
企業の炭素抑制の行動が、気候変動にどの程度実際に影響するのかを、経済モデルと気候モデルを組み合わせてシミュレーションして検証する動きです。ただ、ここか経済学と気候科学の両分野にまたがる領域なので、専門家も少なく、研究領域的にも発展途上の印象です。分野・モデルの統合が出来上がる頃には、気候変動が結構進んでしまっているのでは…という個人的な心配もあります。

亀本
結局そのモデルも、大きい企業しか対象にならないですよね。一番困っているのは中小企業やサービス業で、どう貢献したらいいのか考えるのが大変だと思います。LTSでは、このような中小企業の一社一社が何かやると言うよりも、たくさんの中小企業が集まった時に何かできることがあるのではと考えています。

マクロなアカデミアの研究を、どのようにミクロなビジネスの世界で活用するか

亀本
ビジネスの世界はミクロなので、事業を進めて活躍すればするほど業績が気になって、マクロの話は大きすぎるので除外されがちだと思います。衛星データの活用はマクロな視点だと思っていて、そのマクロな視点をビジネスに持ち込むのは大変ですよね。

坂内
そうですね。研究では、基本的にマクロな視点で物事を捉えている印象です。 大学の先生が嘆いていましたが、 卒業して何年後かに戻ってきた学生の視野が非常にミクロになっていて、残念だとおっしゃっていました。それぐらいビジネスではミクロの視点が求められるし、そういう視点の人が多いのだと思います。

亀本
例えば、最近のウクライナ情勢をとってみても、経営や市場などはマクロな観点で見れてはいないと感じています。 ある特定の分野の方達には、調達が遅れるとか半導体を作るのに影響が出るという話はありますが、アカデミアの観点から見ることができる人は少ないと思います。LTSには 環境問題に興味をもって、学生時代に研究をした人もいますが、 研究した内容をビジネスに活用できている例はあまりないんでしょうか。

坂内
おっしゃる通り、マクロとミクロの視点の違いが、アカデミアとインダストリーの違いとしてあるので、研究内容をビジネスに活用できる例は確かに少ないと思います。

求められる人材とLTSの考える新規事業開発

亀本
最後に別の観点から質問したいのですが、この領域はどういうケイパビリティの人が求められるんでしょうか?人工衛星の技術、ビジネス上での利活用の知識、色々な要素が必要だと思いますが、どういったケイパビリティを持った人が求められますか?

坂内
大きく分けると、2つあると思っています。一つは従来型の経営コンサルティングに求められる能力である、 事業性の評価、戦略立案の観点ですね。それに加えて、環境やSDGs、気候変動が企業経営にどのように影響するのか、といった新たな観点でしょうか。衛星データの処理・解析のスキルセットは、確かに特殊性は高いのですが、勉強しつつ、経験者がサポートすれば進められないこともないので、一番重要なのは入口部分の”設計”のケイパビリティかと思います

亀本
正直、LTSの従来からのコンサルティングサービスと人工衛星データ活用は、何の関係もないんですよね(笑)。新規事業というと、既存のサービスの延長線上にあるものや、 海外展開というものが多いですが、LTSでは本当に能力があって、継続的に頑張れる人であれば、そこに対する支援は惜しみなくする会社だと思います。

坂内
コンサルタントの立場でお客様の新規事業を支援していると、既存事業とのシナジーや、なぜ自社でやる必要があるのかの議論が増えすぎて、なかなか先に進まないことが多くあります。これらの問いは大切ですが、考えすぎることは新しい挑戦の足かせにもなる気がしています。

亀本
いまの時代の新規事業戦略の考え方は、プロタクトのライフサイクルが短くなっているので、シーズをマーケットに当ててみて、反応を見ながら修正…の繰り返しだなと思っています。 またマーケットの要求要望が変わり続けるので、その変化にパーソナライズされているものが即ちマーケットインですよね。 これからは市場が何を求めているのかを取りに行くのではなく、市場とコミュニケーションを進めながらプロダクトアウトしていくことが求められるのではないでしょうか。

坂内
そうですね。新しいものをいかに早く作って、違ったら修正するのか、これは瞬発力の勝負だと思います。その瞬発力も究極は個人のモチベーションが大きいと思うので、その意味でLTSの頑張れる人を惜しみなく支援する新規事業開発のスタイルはとても時代にマッチしていると思います。

亀本
LTSの長期的なミッションの一つに、2030年までに「アジアでTop5になる」という話があります。個人的に、それは企業規模ではなく、企業ブランドでTop5になることだと考えています。リクルートやマッキンゼーのように卒業生を巻き込んで、元LTSが色々な産業で働いていて活躍している…。

LTSのCSOとして、LTSのサービスを増やすことだけではなく、LTSを卒業した人たちがそれぞれ会社を持ち、 新しいことに取り組むことを応援したいです。採用についても、優秀な学生がアカデミアの限界を感じてインダストリーの中で、アカデミアと近いビジネスを作りたいと考えている人を集めたいです。

写真:対談後の様子(左:亀本さん、右:坂内さん)
※写真撮影時のみ、マスクを外しています

ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)