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日本企業は最低水準〝従業員エンゲージメント〟―能力を最大限に引き出す調査と施策のポイントのサムネイル
リーダーシップ

日本企業は最低水準〝従業員エンゲージメント〟―能力を最大限に引き出す調査と施策のポイント

日本企業の従業員エンゲージメントは長年、低水準に留まっています。世界125カ国を対象とした調査レポート「2023年版ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状 リーダーのための5つの洞察」(米ギャラップ社)では、イタリアと並ぶ最低水準となっています。「エンゲージしている従業員」はわずか5%で4 年連続で過去最低です。このコラムでは、LTSでの従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みをもとに、サーベイ(調査)と向上策を実施する際のポイントを紹介します。
石田 尚紀(LTS コンサルタント)

入社から主に基幹システムの導入プロジェクトに従事し、システム導入のための企画・構想フェーズに長く携わる。所属部門内では組織開発を担当し、部門が成長するための施策や非公式なイベントの開催を行っている。(2024年7月時点)

岡田 暁彦(LTSコンサルタント)

入社から主に基幹システムの導入プロジェクトに従事し、企画/構想・導入・運用など様々なフェーズに携わる。組織開発として新卒・中途採用、新入社員のオンボーディングなどの担当も実施。(2024年7月時点)

「会社の評判を落とす」ことも

会社・仕事内容と社員との結びつきの深さ

冒頭のギャラップ社のレポートは、仕事に熱意を持って働いている従業員や職場への愛着が強い従業員、いわゆる〝エンゲージしている社員〟の割合を調査しています。日本企業の「エンゲージしていない従業員」の割合は72%、「全くエンゲージしていない従業員」は23%で、前者は「ただ職場にいて、時計をみつめて終業時間が来るのを待って」いる、後者にいたっては「会社の評判を落とすようなふるまいをしています」とまで評されています。

そもそも、エンゲージメントとは何でしょうか、またサーベイによって何が明らかになるのでしょうか。

エンゲージメントの文字通りの意味は、「約束」「誓約」「婚約」です。派生して人事領域で使われる場合には「会社・仕事内容と社員との結びつきの深さ」を意味します。エンゲージメントが高い社員・組織とは、社員が目の前の仕事に意欲的に取り組み、会社の掲げるミッション・ビジョンやその組織風土に社員が共感し、同僚や会社に対して深い思い入れを持てている組織、ということになります。

利益率や離職率に大きく影響

エンゲージメントが低下している企業では、業務の生産性低下や社員の離職リスクが増加する傾向にあります。逆にエンゲージメントが高い企業では「営業利益率が高い傾向にあり」(モチベーションエンジニアリング研究所調査)、「新入社員の定着率が高く離職率も低く」なります(厚生労働省「2019版労働経済の分析」)。昨今は人材(人財)を資本と捉え企業価値向上につなげる経営手法「人的資本経営」が唱えられており、流動性が高まった労働市場で人財を獲得し、中・長期的に維持・育成していくことが企業のパフォーマンスを高める重要な課題と指摘されています。エンゲージメントは、人的資本活用の成否を図る指標として重要性が高まっているのです。

そこで、サーベイによって「会社・仕事内容と社員との結びつきの深さ」を調査し、「社員が生き生きと仕事に取り組めているか?」「会社(組織や上司・部下)と良好な関係を築けているか?」を明らかにし、課題解決に向けた施策を実施するわけです。

施策のプロセスは、大きく①「企画・設計」②「実装・調査」③「フィードバックセッションの実施」④「課題解決に向けたアクションの策定・実行」の4段階に分けられます。「企画・設計」「実装・調査」の前半と、「フィードバックセッション」「アクションの策定・実行」の後半に分けて説明します。

サーベイ導入と実施のポイント LTSのケース

コンサルファームの課題とは

LTSでは年に1回程度、グループ会社のLTSリンクを含めてエンゲージメントサーベイを実施しています。ここ数年、従業員数の増加やリモートワークを含めたハイブリッドワークの定着、M&Aによるグループ拡大など、会社・グループ内で大きな変化が起きており、エンゲージメントがどう変化しているのか、もしくは変化をしていないのかを確認するためです。

一般的に、コンサルティングファームはプロジェクト(PJ)型の組織・チームを組成して日々の仕事に従事しているため、以下のような課題を抱えているケースが多くあります。

  • PJ単位で業務を実施することによる、会社・組織に対する愛着(ロイヤリティ)の低下
  • 単一PJへの長期アサインによる成長実感・成長意欲の低下
  • PJを超えたコミュニケーションの頻度が少なく、社員の状況を把握しきれないこと

LTSも常にこれら課題と隣り合わせでビジネス活動を行っています。そのため、グループ規模でのサーベイを毎年度実施し、組織ごとのエンゲージメントを可視化する取り組みを行ってきました。さらに2022年度はサーベイを内製化しました。

オーダーメイド型のメリット

サーベイ導入で何よりも大切なことは、企画プロセスで「目的」と「検証したい課題仮説」を設定することです。これが明確ではない場合、従業員から取得したいデータの定義が曖昧になり、データが何を示しているのか分からない、という事態が起こってしまうことが起こり得ます。

前述したようにLTSでは2022年度 、自社の課題に合わせたオーダーメイド型サーベイを導入しました。一般的な質問項目をベースに設計されたパッケージ型では、得られたアセスメント結果の抽象度が高く解釈に幅があったため、具体的な改善施策に落とし込めるだけのインサイトを得られませんでした。​そのためアセスメント結果の分析ができず、具体的かつ効果の見込めそうな改善施策の立案や実行に至らず、「ただ調査をしただけ」に留まってしまっていたという反省がありました。​

オーダーメイド型を導入する最大のメリットは、自社で設定した目的や検証対象となる課題仮説をもとに質問項目を設計できるため、欲している示唆を的確に炙り出し、十分な仮説検証を行えることにあります。

未来志向・能動型、二項対立・択一型

さて、サーベイの目的と検証したい課題仮説が明確になったら、質問項目の設計に移ります。これを間違うと回答がありきたりになったり、抽象的過ぎて解釈の幅が生まれてしまったりします。LTSでは、的確に仮説検証を行える示唆を抽出するため、質問項目を設計する際に①未来志向・能動型の設問を増やす②二項対立・択一型回答の設問を設定する―の2点をコンセプトに設計しました。

意図として①は、設問の時制を未来にすることで、未知の事柄について回答する必要があり、想定しない回答が得られやすくなる、また能動型(「私は~」を主語にした選択肢を設ける)にすることで、回答に主体性・個性が反映されやすくなり、その組織特有の課題・示唆を得られやすくなることが期待されます。②は、対立軸を設定することで回答者の思考を刺激し、議論喚起につながる結果が得られやすくなり、また択一式にすることで中心化傾向を防ぎ、結果を極端化することで特徴的な示唆を得ることができるようになります。

下記は調査で得られる数値データのイメージです。

「能動的に示唆を出す」ことが大切

フィードバックセッションの実施で最も大切なのは、「誰をセッションに呼ぶか?」を考えることです。目的に応じて、以下2つのパターンが考えられます。

  • 各事業部門の部門長・マネージャー
  • 各事業部門のメンバー層(若手)

部門長やマネージャーなど管理層にフィードバックを行い、彼・彼女らが日々感じしている組織の課題と実際のデータとのすり合わせを行います。組織の課題を抽出し、解決に向けたアクションを実行していく場合、部門長やマネージャーを巻き込み、取り組みを促進していく必要があります。取得したデータ自体が課題を示すわけではない、つまり第三者から見るとただの数字の羅列にしか見えないため、データについて丁寧にすり合わせを行い、能動的に示唆を出すことが大切です。

例えば、全社的に見るとある部門の成長実感は高く出ているが、部門長から見ると「もう少し高いと思っていた」といった意見が出ることもあります。こういう場合には、当事者と第三者の間でのすり合わせが大切になります。

LTSでは、部門長やマネージャー層とセッションを実施した際に、「サーベイから感じた率直な感想を教えてください」「サーベイ設計者側が抽出した各組織の課題感・論点についての意見を教えてください」などの問いを投げかけました。こうした問いかけにより、部門長やマネージャーがデータから読み取った課題や第三者から見た課題を擦り合わせ、その場でアクションプランを検討していくことができました。

アクションプランの策定と期待される効果

成長実感を醸成し、ロールモデルの発見を促す

ここまでのセッションを経て、ある部門では「仕事の充実度」と「成長実感」が他部門と比較して低い数値が出ていることが分かりました。背景には「単一PJへの長期アサインによる成長実感・成長意欲の低下」というコンサルティングファーム特有の課題があると考えられます。若手のうちは、目の前の業務ができるようになることで成長実感が湧きやすいですが、徐々に仕事に慣れが出てくると、業務がマンネリ化してくる傾向があります。

こうした課題を踏まえて、LTSでは以下のアクションプランを策定し、実行しています。

中堅社員から部門長・マネージャークラスがこれまでのキャリアの中でどのようなPJにアサインされ、その時に何を考え(マインドセット・情熱)、そこから何を得たのか(スキル・知識・経験)を書いてもらいました。この取り組みには大きく二つの効果が期待されます。

一つは「これまでのPJ経験を振り返ってもらうことで、作成した社員本人に成長実感を持ってもらう」こと。二つ目は「若手社員が上司や先輩の経験棚卸シートを見ることで、キャリアのロールモデルを見つけてもらう」ことです。特に二つ目は、若手が悩んでいるポイントは、上司や先輩たちもかつて通ってきている道であることが多く、上司が悩みへの共感・親近感を持ち、相談しやすい関係をつくることにも繋がります。

専門スキルの獲得を奨励し促進させる

また、成長実感を高めてもらい、やりがいといった充実感を感じてもらうために、業務に関連したスキルセット獲得の奨励を加速させています。上司・部下とのコミュニケーションを円滑に行い、悩みをタイムリーに引き出すことを狙った1on1(ワンオンワン、1対1で行う面談)研修の必修化や、コンサルタントとして必要なスキル充実を目指すPJマネジメントやビジネスアナリシスの資格取得を目指すようにしています。

こうしたアクションは、効果がすぐに反映されるケースもあれば、長期的な取り組みが必要なケースもあります。定期的なサーベイを実施してその影響を測っていくことはもちろんですが、1on1などの日々のコミュニケーションを通して「社員が今、何に悩んでいるのか」「順調なのか」といった状態を把握し続けることも大切なアクションの一つです。

入念な設計とアクション 形骸化を防ぐために

サーベイ導入・活用のポイントは「組織の課題仮説をもとに設計・選択して確認したいデータを的確に取得することによって、効果を最大化する」ことです。ツール先行でのサーベイでは、後続のフェーズで示唆を得ることが難しくなるため、目的・課題仮説の検討が重要です。

また、得られたデータから自社特有の示唆を抽出するためには、キーマンを巻き込んだ課題のすり合わせが必要になります。取得したデータが「普段感じている組織の課題と嚙み合っているか」丁寧に確認をしながら取り組んでいくべき課題・テーマを検討しなければなりません。

取り組むべき課題が決まったら、解決に向けたアクションプランを策定・実行し、サーベイや普段の1on1などコミュニケーションといった定期的なモニタリングを通じて効果を測っていきます。

サーベイは、ただ実施するだけでその効果を得られるものではないため、形骸化を防ぐためにも、事前の入念な設計と実施後のアクションをセットで考えることが重要なのです。