なぜ人的資本経営が注目されるのか
人的資本経営とは、設計から開発に時間のかかる製品やサービス、オペレーションによる差別化よりも、柔軟かつ俊敏に変化を受容できる「人」を「企業の競争優位の源泉」として重視し、事業の基盤とする経営手法を指します。「人的資本」に明確な定義はありませんがOECD(経済協力開発機構)は、
個人の持って生まれた才能や能力と、教育や訓練を通じて身につける技能や知識を合わせたもの
としています。「Human Capital : How what you know shapes your life」
近年、人的資本経営が注目される理由について経済産業省は2022年5月、「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめた際、以下のように指摘しています。
デジタル化や脱炭素化、コロナ禍における人々の意識の変化など、経営戦略と人材戦略の連動を難しくする経営環境の変化が顕在化するにつれ、非財務情報の中核に位置する「人的資本」が、実際の経営でも課題としての重みを増してきています。
企業の変革活動が失敗する理由
さて、企業変革の必要性が指摘されつつ、変革が失敗してしまうケースは多々あります。失敗は大きく以下の3つに分類されます。
①活動の立ち上げ失敗 | オーナー、役員の承認を得られず実行に至らなかった、関係部署を巻き込んだ活動が進められなかった。 |
②活動の頓挫 | 変革活動を開始できたものの、検討がまとまらず頓挫してしまった、活動に想定以上の時間を要しチームの活動や工数が維持できず立ち消えてしまった。 |
③インパクト不足 | システム導入(DX)などの施策は完了したが、当初見込んでいた効果が出ない、費用に対する効果が見込めないなど、インパクトが不足した。 |
なぜこうした失敗が起こるのでしょうか ? こんなケースがありました。
DX先進と言われる製造業で「生産性向上」のため、工場ごとにばらばらになっている生産管理プロセスや業務システムなどの統合を目指すプロジェクトが発足しました。各工場から課長級を集め議論・検討を進めましたが、工場ごとに解決したい問題や目指す姿が異なっていました。また、参加メンバーには「組織を越えた変革」の成功体験が乏しく、全社で解決を目指すような共通の課題設定はできませんでした。
変革効果を出すには組織横断の活動をする必要があります。しかし、特に日系企業は機能別の縦割り構造が特徴となっており、各組織が組織内に閉じた変革活動を推進することが往々に見られます。上記のような現場に丸投げの活動だと、変革自体の検討がまとまらず頓挫してしまったり、変革が現状の延長線上に留まってしまったりするのです。
かといってトップダウンの活動では、リーダー次第でスピードは担保されますが、強いトップマネジメントがなくなれば変革推進は難しくなります。逆にボトムアップの活動では意思決定に時間がかかります。加えて、どちらもスーパーマンに頼りがちとなり、その人財が異動や退職してしまうと、活動が継続・再現できなくなってしまいます。
では、変革を成功させるためにはどうすればいいのか。人的資本経営との関係を整理します。
人的資本経営とマネジメント転換
人的資本については2023年3月31日以降に終了する事業年度にかかる有価証券報告書から、大手企業約4000社を対象に「流動性」など7分野、「離職率」など19項目について情報開示が義務化されています。
ここで問題となるのは、人的資本経営の施策が「スローガンで終わる」「効果が限定的・見えない」「持続性がない」など、表層的取組みに留まることです。具体的には、情報開示義務に備えたものの独自性がなく没個性になった。情報開示や数値の達成、認定マークの取得、単なる資格取得が目的化した…という状態です。
施策を表層的で終わらせず、冒頭に紹介した<「人」を「企業の競争優位の源泉」として重視し、事業の基盤とする>人的資本経営の実践には、環境変化に迅速に対応するビジネスアジリティの醸成が鍵となります。また、上意下達あるいは丸投げのマネジメントから、「人財が価値実現のための適切な課題を設定し、自律的に自らを変革していく」「経営は現場活動を支援する」といったマネジメントへの転換が必要となります。
LTSのアプローチ
実際、このような変革を一朝一夕に進めることは困難です。そこでLTSは「Think big, start small」のアプローチ、地に足のついた活動で変革プログラムを策定し実行を支援しています。小さく始めて徐々に活動の範囲を広げていくことで、大きな変革につなげることが出来るのです。
LTSは人的資本経営の実践として、「ミドルアップの変革」を推進しています。ミドル層で関係者の合意形成を済ませ、経営はそれを追認だけする形で変革を進めることで、意思決定やスピードが担保されます。また、ミドル層の合意形成の元で、現場の各組織が競合するのではなく協調、組織横断の変革活動を経験することで組織を超えた変革能力を身に付けることが可能になります。
そうすることで組織は、人財が変わっても継続して業務変革を推進することができるようになります。人的資本経営を実践し組織的な変革能力を獲得できれば、継続性・再現性・連続性を持った中長期の変革活動を行っていくことも可能となるのです。