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コンサル×「xCausal™」で意思決定を高度化する~効果的な「改善アクション」には因果の理解がカギ~

LTSは7月、因果関係の推定を素早く専門家でなくとも行えるコーザルAI(人工知能)「xCausal™(クロス・コーザル)」を開発する株式会社ヴェルト(本社:東京都渋谷区、代表取締役 野々上仁、以下ヴェルト)とパートナーシップ契約を締結しました。「コーザル」とは「原因となる」「因果関係の」という意味。コンサルティングとコーザルAIの組み合わせはビジネスにどんなインパクトを与えるのでしょうか。東京・表参道にあるヴェルトのオフィスに野々上さんを訪ねました。
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野々上 仁(株式会社ヴェルト 代表取締役 CEO)

1968年生まれ。京都大学経済学部卒業後、1992年に三菱化成に入社。担当した光ディスクの事業開発の過程でインターネットに出会い、96年にJavaやネットワークコンピューティングで技術革新の中心にいたサン・マイクロシステムズに移る。営業部門や経営企画室長等を経て、日本人最年少で執行役員に。その後オラクルによる買収後は、買収されたサンの事業部門のトップとして執行役員・バイスプレジデントを務めた。2012年8月に自らのテーマをインターネットの普及から、ネット社会の課題解決に変え、株式会社ヴェルトを設立。 技術の革新ではなく、技術との付き合い方を革新することを追求している。

クイズ 因果と相関、疑似相関

いきなりですが因果関係、相関関係、疑似相関の違いは分かりますか? 以下A~Dの4例はどれに当てはまるでしょうか?

・A:カロリー摂取量の多い人は肥満になりやすい
・B:携帯電話の普及率が向上するにつれて肥満が増える
・C:平均気温が上昇するとアイスクリームの売上が伸びる
・D:チョコレートの消費量が多いとノーベル賞受賞者が増える

答え合わせは最後に。

「リアルワールドの課題」と因果関係

「人の知恵をシステム化して、アセット(資産)として残していきたい。そのために信頼できるAIが必要だと考えました」

野々上さんは「xCausal™」開発の目的をこう語ってくれました。大手化学メーカーで光技術に携わり、MO(光磁気ディスク)の事業開発では、透明なシェルのデザインを発案したといいます。その後、黎明期のインターネットに出会い「ディスクでのデータ流通はいずれ不要になる。インターネット・テクノロジーを普及させるのが自分のミッション」と見定めサン・マイクロシステムズに移りました。オラクルによるサンの買収後は、事業責任者と役員を務めました。しかしネットが普及すると、また新しい課題も見えてきました。そして2012年、「技術革新よりも、技術との付き合い方を革新する会社」を作るため、ヴェルトを起業しました。

ヴェルトの野々上さん

そんな野々上さんは「テクノロジーを使ってリアルワールド(現実世界)を理解し、解決できない課題を解決するサポートしたいと考えていました。課題解決のカギは因果関係の解明にあります。そのためにテクノロジーの使い方を革新する」と、「xCausal™」の開発を始めました。

「リアルワールドの課題」と因果関係とは何か、具体的に考えてみましょう。

「xCausal™」は「ドライバーの運転挙動と健康に関する研究」で活用予定の例があります。高齢化でドライバーの人手不足が社会問題となっていますが、ドライバーの健康状態に起因する事故件数は高止まりの状況です。そこで大学や大手損保会社などが中心となり、ドライバーの健康状態と事故リスクのデータから関係を推定し、アクション(改善策)の検討を進めています。

ヴェルト資料より

例えば、睡眠効率にはどんな要素が影響しているでしょうか。気温、心拍数、体脂肪率、活動量など因子は無数にありそうです。「xCausal™」では、「 Smallytics™」(スモーリティクス)というヴェルトのアルゴリズムにより、改善したい結果(睡眠効率)に関係の強いと考えられる因子が推奨されます。次に、交絡因子や中間因子など鍵となる変数を絞り込んだ上で「因果探索」という手法で計算し、因果関係の構造を素早くモデル化することができます。さらに、「因果推論」によって、原因と思われる因子を変化させ(シミュレーション)検証することが可能です。これにより、どの因子が変数、つまり採るべきアクションの対象として有効なのか理解できるのです。

ビジネス分野での因果推定が難しいわけ

もしビジネスの現場で、結果の原因を突き止めることができれば、あるいは高い精度で推定できれば、アクションも採りやすくなります。「鶏が鳴くと、陽が昇る」―これは「鶏が鳴かなくても陽は昇る」ので相関はあっても因果関係ではありません。因果と相関を理解しないと、太陽を昇らせるためには、鶏を鳴かせればよいという、おかしなアクションを取ってしまうことになりかねません。

鶏のようなアクションを採る人は現実にはいないでしょう。しかし、様々な事象や要因、変数が折り重なっている現実世界はとても複雑で、因果探索を行うことは簡単ではありません。ビジネス現場では技術発展に伴うDXが進み、業務プロセスは日々、激しく複雑化しています。複雑で膨大な相互関係をもつデータを取捨選択し分析処理するためには、高度な専門知識とスーパーコンピュータを何日も回すような計算力が必要になります。

また、既存のAIで因果推定しビジネス適用することは困難です。既存AIはデータの相関関係からパターンを認識するため、予測はできてもその理由がブラックボックス化しているからです。「なぜその予測ができたのか」が不明確で、「どのようなアクションを取れば良いのか」を打ち出せないのです。間違ったアクションにつながることもあります。さらに、原因が分からないままのアクションでは、社会への説明責任を果たすこともできません。一方、コーザルAIは「なぜそう予測したのか」を理解することが可能なのです。

ヴェルト資料より

「xCausal™」の幅広い適用分野

「xCausal™」はデータをアップロードすれば使えるSaaS型のサービスで、統計解析やAIに必要なデータのクレンジング処理に時間をかけず利用でき、UIも分かりやすく洗練されたデザインとなっています。これまで学術分野で利用され、スーパーコンピュータが必要ともなる「因果探索」と「因果推論」を、専門家でなくても行えるようになっており、早急な原因究明を行う必要のある領域で活躍します。

ヴェルト資料より

また、現実世界では実験が難しいことも仮想上で行え、アクションを導くアプローチに繋がります。大規模な臨床実験のほか戦略策定、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング=合理的根拠に基づく政策立案)などの経営分野から、ヘルスケアサービス、保険商品開発といったヘルスケア、サプライチェーン最適化、温室効果ガス排出改善、製造工程最適化、マーケティングモデルなど、幅広い産業分野や社会課題に対して有効と考えられています。

「例えば、製造業のライン長が『歩留まり、品質を安定化するためには…』『このパラメーターをチューニングすると…』とモデルをつくり仮説を立て検証する――とやってきたような暗黙知を、より高度にシステム化し知を承継していくことができる」と野々上さんは言います。

ヴェルト資料より

ヴェルトは、因果探索・因果推論をはじめ、様々なデータサイエンス分野を専門とする大学教授や研究者と独自のコミュニティを構築しており、学術分野での最先端の知見を取り入れ、随時ソリューションに反映しています。SaaSにより導入やランニングコストを抑えているのも特徴です。

LTSとパートナーになった理由

ヴェルト資料より

LTSはデータサイエンス分野でも多くのお客様を支援してきました。業務システムやIoT技術の導入で日々、より多くのデータを取り扱えるようにもなってきています。しかし、ビジネスで発生する多種多様な課題をデータ解析だけで解決することには限界があります。そのためコンサルタントの知見とお客様の知見を活用し、データ解析だけでは難しい課題解決、価値創出に取り組んでいます。今回、ヴェルトとのパートナーシップにより、コンサルタントが探索的に行ってきた解析作業をさらに高度化し、科学的知見に基づいて可視化・整理、アクションを検討することができるようになります。

LTSの坂内匠

ヴェルトとLTSは、共通のシリコンバレー人脈を通じて出会いました。野々上さんは「LTSは若くチャレンジングな社風で、新しいものへの取り組みが速い。パートナーシップを結ぶことでLTSの知見と合わせて、社会課題を解決したい」と語ります。

LTSデータ分析事業部部長、坂内匠はパートナー契約について「お客様のデータ活用をより高度なステージへ引き上げる支援を実現するため」とした上で「ビジネスを真に変革するためには、可視化や予測だけでは不十分な場面が多く、より重要なプロセスにおけるデータ活用には『因果関係』の理解が必要。「xCausal™」はビジネスの意思決定に求められる高い技術力と使いやすさ、解釈の容易さを兼ね備えたツール」とみています。

坂内 匠(LTS データ分析事業部 部長、ME-Lab Japan代表取締役社長)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。気候変動対応に向けた企業変革支援や人工衛星を用いた災害モニタリング等の気候・環境系の案件や大学と連携した研究にも従事。国際ジャーナルへの論文執筆や学会発表も経験。(2024年6月時点)   ⇒プロフィールの詳細はこちら

おまけ。冒頭のクイズの答え

さて、冒頭の問題の解答です。Aは因果関係、Cは相関関係、BとDは疑似相関です。それぞれ解説していきましょう。

A:「カロリー摂取量の多い人は肥満になりやすい」は因果関係

エネルギー摂取量が消費を上回ると、余分なエネルギーが脂肪として蓄積されていきます。身に覚えがある…という方も多いのではないでしょうか。高カロリーの食事を長期間、摂ることは肥満の主要な原因の一つであると、多くの研究で確認されており、よって、Aは因果関係であると言えます。

B:「携帯電話の普及率が向上するにつれて肥満が増える」は疑似相関

携帯電話の普及率が上がると同時に、肥満率が上昇するという関係が観察されたことがありました。携帯電話の使用そのものが肥満を引き起こすわけではなく、同時期に普及した座りがちなライフスタイルやジャンクフードの摂取増といった要因が、携帯電話の普及と肥満率の増加に共通して影響を与えている可能性があります。携帯電話の普及そのものと肥満の間に直接の因果関係はありません。

C:「平均気温が上昇するとアイスクリームの売上が伸びる」は相関関係

一般的に相関関係と言われています。気象庁が、仙台のスーパーマーケットでのファミリーアイスの販売数と気温の変化について調査を行ったところ、平均気温が15℃を超えるとファミリーアイスの販売数が伸び始め、25℃を超えると急増するという傾向が観察されました。このように、気温が変化するとアイスの売り上げも変化するこの状態は、相関関係だと言えます。ただし、アイスが売れたからと言って気温が上昇するわけではありません。

D:「チョコレートの消費量が多いとノーベル賞受賞者が増える」は疑似相関

チョコレート消費量とノーベル賞受賞数の関係
『Messerli, F. H. (2012) Chocolate Consumption, Cognitive Function, and Nobel Laureates, The New England Journal of Medicine, 367, 1562-1564』より引用

上図のように、チョコレートの消費量と、人口1000万人あたりのノーベル賞受賞者数は正の相関関係にあります。しかし、チョコレートを食べると革新的な研究や発見ができるわけではありません。チョコレートとノーベル賞には共通の原因(交絡因子)があります。GDPの高い豊かな国ではチョコレート消費が多く、また研究環境が整っているため、ノーベル賞受賞者が増える可能性があると考えられます。

▼参考資料
・気象庁:気候リスク管理技術に関する調査(スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野):販売促進策に2週間先までの気温予測を活用する
https://www.data.jma.go.jp/risk/taio_pos.html
・Messerli, F. H. (2012) Chocolate Consumption, Cognitive Function, and Nobel Laureates, The New England Journal of Medicine, 367, 1562-1564


natsuki(LTS CLOVER編集部員)

2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)