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プロセス変革・業務改革

書籍紹介『カモメになったペンギン』~変革はなぜ、これほど難しいのだろうか? 

豊かで安定した生活を支える氷の大地。永遠に続くかのように見えますが、コロニーの若いペンギンは気づいてしまいます。氷山の中が溶け始めていること、いずれ崩壊するかもしれないことに。しかし、危機を訴える若者に周囲は耳を貸してくれようともしません。生き残るために、どうすればコロニーを〝変革〟できるのでしょうか―。リーダーシップ論の第一人者、ハーバード・ビジネススクールのジョン・コッター教授による『リーダーシップ論/組織変革の8段階のプロセス』を基に、ペンギンのコロニーがいかに危機を乗り超えたかを描いたビジネス寓話です。

「きみは、自分のデータと結論が100パーセント正しいと保証できるのかね?」

作中、危機を訴える若手ペンギンに〝抵抗勢力〟の長老ペンギンはこう言い放ちます。危機から目を背け安定と変化しないことを求めるペンギンたちを説き伏せるにはどうすればよいのか。それぞれに豊かな個性――
・「経験豊富で賢明、寛容。尊敬を集める」リーダーと
・「好奇心と創造力のある沈着冷静な」
・「社交的ではないが博学で論理的な」
・「野心がなく抜群の信用と好感度の高い」
・「実践的で積極派、タフな実行力を備えた」
を持つ5羽によるチームがお互いをサポートしあいながら個性と能力を発揮し、コロニーを危機に立ち向かう挑戦的な集団に生まれ変わらせていきます。

チームは失敗や挫折、失望から学びながら、コッター教授の「変革を成功させる8つプロセス」に沿って行動していきます。
①危機意識を高め
②変革チームをつくり
③ビジョンを立て
④ビジョンを周知徹底し
⑤行動しやすい環境を整え
⑥短期的な成果を生み
⑦成果を活かしてさらに変革を進め
⑧新しい文化を築く
―こうしてまとめると平易ですが、これを実現することはいかに困難でしょうか。

2024年10月、ちょうどNHKの映像の世紀「バブル ふたりのカリスマ経営者」が放送されていました。高度成長期からバブル期、それぞれ価格破壊と文化戦略で流通・小売にイノベーションを起こしたダイエーの中内功氏、セゾングループの堤清二氏を描いたドキュメントです。堤氏の言葉が印象的でした。「どこで見誤ったか」と問われ、こう返答していました。

「非常に難しい。まだ(危機が)本物じゃないぞという意識が強いから」

カリスマ経営者であっても見誤ることがあります。ペンギンは、飛んでいるカモメを見て自分たちの定住型(安定)からカモメのような移住型(俊敏)への転換に気付きます。「たったひとつのやり方の中で長い間暮らしていると、まったく新しい生き方を考えることが、なぜこれほど難しいのだろうか?」とは作中、リーダーペンギンのつぶやきです。

ペンギンのコロニーに住んでいるかと錯覚するほど引っ込まれつつ、中学生でも1時間ほどあれば読める平易な内容です。しかし、企業や組織・団体に属していれば、あるいは個人であっても、変革がいかに困難か、そしてそんな困難に挑戦し成功するためのヒントを示唆してくれるようです。

LTSは10月、ホワイトペーパー「Strategy & Insights Vol.1 破壊と創造 デジタル技術が書き換える産業の境界線」を創刊しました。「むすびに代えて――変革のためのリーダーシップとは」では、「拡張版『カモメになったペンギン』」として、経営者の環境変化への姿勢と企業規模によって企業をカモメ型、ペンギン型、シャチ型、アザラシ型の4種に置き換えて特徴と懸念点、処方箋をまとめています。


「Strategy & Insights」はパートナー企業の戦略的な意思決定に寄与することを目的に、年1回発行の予定です。パートナー企業さま、メディア関係者さまにお配りしています。ご関心のある方は、lts_prmarketing@lt-s.jp へお問い合わせください。

ライター

Tetsu(LTS マーケティング&セールス部 マネージャー)

新聞記者、月刊誌編集者を経て2024年1月にLTS入社。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットを修了し、同大でサイエンス・ライティング講師を経験。著書、共著、編著に「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)など。SF好き。お勧めは「星を継ぐもの」「宇宙の戦士」「ハーモニー」など。(2024年1月時点)