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デジタルテクノロジー

生成AIを効果的に導入する2つのポイント~ビジネスの“清流化”と”自動化”~

ChatGPT、Genspark、Gemini―怒涛の勢いで誕生した生成AIは私たちの生活の中に入り込み、今や2025年はAI Agent元年とも言われています。しかし、生成AIがあらゆる業界で新しい価値を創造する存在として期待されている一方で、「どのように生成AIを取り入れていくとよいのか」という悩みを抱える会社も増加傾向にあります。LTS Data &Technology Consulting事業部の舟山雄太は、AIのビジネス活用のポイントを“清流化”と“自動化”とみています。

舟山 雄太(LTS コンサルタント)

テクノロジーを用いたビジネス変革支援を、幅広い企業へ推進。また、「現場で使える」AI開発を目指し、AIの開発検証を実施する以前の、AI・データ分析アセスメントPJの支援を進めている。 最近、バイクに興味を持ちだしたことから免許取得を目指している。(2021年9月時点)

生成AIとの付き合い

2030年、生成AI市場は15倍にまで

実は一時期、AI市場はシュリンクするだろうとも言われていました。しかし現在、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が算定した生成AI市場の需要額見通しによると、日本国内の生成AI市場の需要額は2023年時点で1,188億円、2030年には約15倍にまで達すると予測されています。※1なお、世界の生成AI市場規模においても大幅な拡大が予測されました。

AI×ビジネス…思っていたのと違う…

生成AI関連で誕生したさまざまな技術の中でも、日本国内のマーケットでは現在、RAG(Retrieval Augmented Generation、検索拡張生成)への関心が高まっているようです。

RAGとは、LLMに独自の情報源を組み合わせることで回答精度を向上させる技術です。ChatGPTは一般的な事柄についてはとても“博識”ですが、個別の文脈を理解しなければならない事柄や企業固有の業務でのカスタマイズは難しい面がありました。自身が勤めている企業に関する質問をしたところで、十分な回答は返ってこないでしょう。ChatGPTは個別企業の文脈や課題を学習していないからです。RAGはこうした課題を解決する技術の一つで、業務文書などの情報を混ぜた応答をしてくれます。

「なんて便利な機能だ…」と感じる方もいるでしょう。ただし、ことビジネスシーンにおいて期待されているRAGを導入した企業のうち、「開発へ投資した割に期待したまでの効果が感じられない」という話も聞きます。そして、こうした十分な費用対効果を感じられないという課題感はRAGに限ったことではなく、AIツールを導入した企業から一定数あがる声なのです。

活用のポイントは2つ

ポイント①:目指すべき姿は自動化

生成AIの導入においては、ビジネスを広く捉えた上で、システム化の対象範囲を選定していくことが重要です。

現状、生成AIの検証ゴールを「業務効率化」によるコストダウンにとどめてしまう企業が多く、業務効率化を目的とした場合、完成したシステムはただの作業代替レベルとなり、投資額に対して期待した効果を得にくくなる事象が発生しています。システム化の対象範囲を個別作業レベルではなく、業務プロセスとして広く捉え、アウトプットによる「業務自動化」を目指すことこそが、生成AIのポテンシャルをより引き出し、事業の成長や新たな事象への対応力向上に近づけられるのです。

なお、海外ではすでに自動化を前提としたアプローチ意識が高まっており、プロセス特定のコンポーネントを効率化することに活動のリソースを割くことはあまりなく、基本的には自動化をする前提で開発を進める傾向にあります。例えば、米国では自動運転のタクシー導入やコールセンターのオペレーター対応への音声ボット導入など、自動化に向けたアプローチは着実に進捗を見せています。
この部分的となっている生成AI活用の対象範囲をどう拡大していけるかが、日本のユーザーやコンサルタントの今後テーマの一つであり、競争力を生む要因の一つになるのではないでしょうか。

ポイント②:ビジネスの清流化

コロナ渦を支えたモデルナは、デジタルネイティブ企業(ITやデジタル技術を前提としたサービスや事業を展開している企業)として評価される代表的な企業です。医薬品の開発工程のほぼすべてをデジタル化しており、ツール導入前にはビジネスの清流化を行っていたと言われています。

AIによる自動化がうまくいかなかったと考える企業の共通点として、ビジネスプロセスを整えないまま、自社に生成AIを組み込んでしまうという点が挙げられます。つまり技術的な話の前段として必要な「ビジネスの清流化」を飛ばしてしまっているケースが多いのです。非効率的な業務、つまり生産性の低い業務プロセスを機械に任せても、結局生み出されるものは生産性の低いものでしかありません。だからシステムを組み込んだ後に、十分な導入効果を感じない、という事象が起きるのです。

AIを活用したプロセストランスフォーメーション(=AIX)の実現には、「AIを作ること」と同時に「“正しいプロセス”を作ること」が求められます。AI Agentによるプロセス自動化への取り組みは「非効率なプロセス」と向き合うチャンスでもあるのです。

ただし、「“正しいプロセス”を作ること」はただ「業務を整理すること」ではないという点に留意する必要があります。正しいプロセスを作るにはビジネスの粒度(全社レベル、部門レベル、業務レベルなど)それぞれの可視化や、全社最適の観点を踏まえたアプローチなどが求められます。対象範囲が大きくなるほど専門性が求められるため、慎重に対応を進めなくてはなりません。現在では、ビジネスアナリストやビジネスアーキテクトといった、全社的視点からの改革を専門とする人材も増えているため、外部の力を借りるのも一つの手です。近頃は全社的なアプローチができる、組織横断的な部門を内製する企業も増えています。

生成AIと向き合う時はいつか来る

ここまで2つのポイントを述べましたが、もちろん簡単なことではありません。対象範囲を拡大すれば業務プロセスの整理対象も増え、その分、難易度もコストも増加し、専門性も求められます。しかし、今後の企業間の競争において生成AIの活用は無視できないテーマとなるでしょう。25年1月末には、大手通信企業から米OpenAIへの巨額出資の協議がされた旨の報道もあり、すでに競争優位性の確保に向けた動きは各所で起きています。

各企業が生成AIとどのタイミングでどのように付き合っていくのかは十社十色ですが、もしも自社ビジネスへの活用を検討される際は、ぜひ一度、この2つのポイントを思い出していただき、少しでもリターンの大きい生成AI導入に繋げてください。