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デジタルテクノロジー

ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル技術を企業導入するポイント 

昨今、ChatGPTを代表する大規模言語モデル(LLM)が注目を集めており、多くの企業で導入に向けた情報収集や技術検証を開始しています。LTSではいち早く本技術の可能性に注目し、先行研究調査から社内での技術検証、社内外の専門家との議論を通じてサービス開発を行ってきました。 

LLMサービス開発をリードしてきたAIコンサルタントとLLMエンジニアが、それぞれの視点で企業導入のポイントを解説します。今回の記事は、コンサルタントパートです。 
舟山 雄太(LTS コンサルタント)

テクノロジーを用いたビジネス変革支援を、幅広い企業へ推進。また、「現場で使える」AI開発を目指し、AIの開発検証を実施する以前の、AI・データ分析アセスメントPJの支援を進めている。 最近、バイクに興味を持ちだしたことから免許取得を目指している。(2021年9月時点)

大規模言語モデル(LLM)とは 

大規模言語モデル(以下、LLM)とは、自然言語処理の一分野です。大量のテキストデータを学習させることで、新しいテキストを生成したり、質問に回答する言語モデルです。従来の言語モデルと比較すると、生成される文章の質が著しく改善され、近年注目を集めています。 

LLMは、高精度な文章の生成や要約、抽象的な表現の質問に対してある程度意図を汲んだ回答が可能で、従来のチャットボットと比較しても、より人間のような対応に近づいているのが特徴です。

ビジネスにおけるトレンド観

LLMの動向

LLMの技術的変化とともに、ビジネスのトレンドにも大きな変化がみられています。まず、2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開しました。これが、LLMの大きな転換期になった要因といえると思います。テック系に感度の高い方が周辺サービスを使い始め、その利便性が高いゆえに大きく盛り上がりを見せました。そして、このようにChatGPTをマーケットが評価した状況を鑑みて、Googleがコードレッド宣言※1を出しています。

※1 Googleのコードレッド宣言
OpenAIのChatGPTの進歩によって事業に対する深刻な脅威への警戒を示す宣言。

その後、MicrosoftがAzure OpenAIの公開や大規模な投資を決定し、LLMを使った自社サービスの展開に踏み切りました。このような各社の取り組みにより、2022年12~2023年2月にかけてユーザーのLLMの利用環境が整い始めました。

その後3~4月の時期には、さらに性能の強化されたChatGPT4※2が公開されました。加えてプラグインが提供されたことで、多くのITソリューションやアプリケーションサービスを提供している企業での利用が促進されました。

※2 ChatGPT4
2022年11月に公開されたChatGPTは「GPT3.5」と呼ばれるもの。この「GPT3.5」の学習量を急激に増やし精度を強化したのが「GPT4」。

この時期には、多くのアプリケーションサービスを持つ企業が自社のサービスにプラグイン経由で入出力できる機能の開発・追加をされていたため、ユーザビリティの向上にも寄与しました。

その後の5~7月は、海外の企業で機能拡張やアルゴリズムの高度化が進み、さらに利便性の高いサービスが開発される状況に至っています。

国内企業のLLM活用の動向

そして国内の企業では、大きく3つの動向があると感じています。一つめが、自社のアプリケーションに対してLLMを活用してサービスを開発・提供していくもの、二つめが社内での利用環境を整える取り組み、そして三つめが日本語版LLMを開発する取り組みです。

社内での利用環境構築の事例として、NTTデータでは、実際のシステム開発の工程で使えるLLM環境を構築し、プログラミングやテストなどの特定の工程で7割程の工数削減が見込めるという成果も出てきています。

またメルカリにおいては、自社の業務情報の検索・生成ができるような環境を整えています。

LLM活用のご相談

先進的な企業では、すでに上記のような取り組みが進められていますが、LTSではさまざまなお客様からLLM活用のご相談をいただいており、現状は社内でLLMの利用環境を構築する動きが主流だと感じています。

加えて、LLMに関連する研究開発や、LLMを長期的に活用するために必要な性能を維持・向上していくための継続的なデータの確保現行の業務環境からデータを収集する仕組みデータのアーキテクチャの設計といったご相談をいただいている状況です。

LLMはまだ新しい技術ですので、現在は幅広いユースケースを作っていく時期です。直近はさまざまなアイデアを用いながら、業務アプリケーションの開発に取り組んでいくことになると思います。

技術革新に乗り遅れる=ビジネスの機会損失

このような新技術が市場に出てきたとき、念頭に置いておくべき点が、一度起きた技術革新が元に戻ることはあまりない、ということです。劇的に利便性が上がってしまうと、ビジネス環境やインフラは、その利便性を前提に構築されます。よって、そのような環境に追いついていくことができない場合、気がついた時にはお客様に提供する価値に他社と大きく差がついてしまい、顧客獲得の機会を逃してしまうことにつながりかねません。

今回のLLMに関しても例外ではなく、LLMは入力されたテキストに対して柔軟に回答を出力する性能を持っているため、これまでのRPAやAIのような深層学習や機械学習の技術に比べると自由度が高く、多くの産業でその技術を適用しやすいという性質を持っています。実際に多くの企業が感度高く取り組みを行っている状況ですので、より一層収益性や生産性に目を向けながら、LLMの導入を進めていく必要があるでしょう。

LLM導入で重視すべきポイント

LLM導入に向けた活用手順

ここからは、LLMを導入する際に求められる活動手順を解説します。LLMに限らず、基本的なデジタルテクノロジーを検討する際と同じ進め方ですが、最初に企画・設計をし、開発、そして運用という手順です。

企画・設計については、まずはLLMの活用対象を検討し、その上で業務分析・問題導出を行います。ビジネスプロセスを可視化し、問題のある業務が明らかになったら、あるべきプロセスの設計を踏まえて、問題解決の方針を検討します(「業務分析・問題導出」と、「解決策とあるべきプロセスを設計」は、手順が前後する場合もあります)。その後、企画・設計で洗い出した要求事項を踏まえて、開発、そして業務運用・改善に進んでいきます。

イシュードリブンにLLM導入が進められるか

LLMに限らず、デジタルテクノロジーを活用するプロジェクト全般に言えることですが、企画段階の業務分析や自社のビジネスへの理解に甘い部分があると、活動を進めていく過程でプロジェクト間の整合性が取れなくなってしまうことや、非効率なプロジェクトの進め方、またプロジェクト自体が破綻してしまう可能性があります。そのため、ビジネスプロセスや業務プロセスをしっかりと理解して活動を進めていく必要があります。

導入の際は“イシュー”ドリブンで企画・設計を進めていくことがポイントです。これは当たり前のように感じますが、新しい技術が出てくると、どうしても技術ありきになってしまい、取り組みの目的が分からなくなってしまうケースが非常に多いです。

イシュードリブンの目的の設定方法では、業務分析によりプロセスを分解し、フローの流れを明確にしてから課題を分解します。そして、分解されたそれぞれの課題に対して技術的解決策を当てはめて進めていきます。

このような進め方であれば、どのような課題に対して、どういった技術的解決策が適切なのかが明確になるため、目的がブレにくいです。また、活用しようとした技術が課題解決に有効ではないことが途中で明らかになった場合でも、立ち回りがしやすくプロジェクトも破綻しにくいです。

一方でソリューションドリブンの場合は、技術的な解決策から入るため、解決策に一部対応しているような課題が当てはまるとこともありますが、ビジネスの実態を踏まえていないため本質的な課題解決とはなりません。また、プロセスの状態や他の課題との関係性も押さえられていないため、ある解決策が有効でなかった場合、他の解決策が有効かどうかを判断することも難しくなります。

ゼロベースで業務をデザインする

また、ゼロベースでプロセスのデザインができるかどうかもポイントです。LLMの活用を進める際、現行業務に対して部分的な代替を目指すと、LLMの効果が極小的になってしまうことが起こり得ます。

一方で、インプットとアウトプット、さらにプロセスを処理する際に求められる制約条件の3つを固定し、業務プロセスを大幅に書き換えるようなゼロベースでプロセスを設計することで、大半の業務をLLMに置き換えることが可能な場合もあります。そして、できあがったプロセスに対して必要な業務を新設することで、全体を抜本的に変化させ、業務を効率化させることが可能です。

LLMの適用検討で考慮すべき視点

現状はまだ、LLM導入のサクセスケースやユースケースが多くありませんので、導入を検討される場合、活用用途については頭を柔らかくしてアイデアを出していくことが必要です。そのアイデアを考える際に、条件として考慮しておくべき点を以下の図でGood、Better、Nice to haveとしてまとめました。

これらの3つの観点でアイデアを整理することで、より現実的な活用方法が見えてきます。

テキストデータ収集の重要度が高まる

またLLMを活用する際に、テキストデータの量や品質が担保されているかも非常に重要です。さらに、今後、LLMの活用が進んだ場合、テキストデータを持続的にデータベースで管理していく重要度が急激に高まると考えています。

その際、テキストデータに社内用語が多かったり文脈の省略が多い場合、LLMの出力の性能を落とすことにつながりますので、投入するデータの品質には注意が必要です。加えて、データが収集できていない業務プロセスに対してLLMは回答ができないため、漏れのないようにデータを収集する仕組みを設計する必要があります。

事業横断なデータ収集

この時に重視すべきポイントは、事業横断的なデータを収集することです。LLMは、複数の情報や知見・知識を考慮して情報を出力できる性質を持っています。分断されている情報もしっかりと学習させれば、それらを統合してデータを出力してくれるため、業務効率化に寄与します。そのため、統合的にデータを収集する仕組みを設計することが重要です。

技術の急激な変化に耐えられる開発環境

また、急激な技術変化に耐えられる開発環境を用意する点も、今後、必要になってくるポイントだと感じています。

LLMのアルゴリズムは、今後、急激に性能改善が行われていく可能性が極めて高いため、現行で使用しているモデルとの置き換えができない環境の場合、技術的進化の恩恵を受けることが難しくなります。

加えてデータの視点では、再学習・検証ができるように、学習に使ったデータを構造的に管理する仕組みを構築しデータアクセシビリティを向上させることで、再学習時の効率がよくなります。

システムの観点では、今後、LLMの性能が上がり、LLMが出力できるタスクがマルチモーダルになっていくと考えられます。その際、追加での開発や更新も必要になるため、比較的アジャイルに開発できる環境が求められます。

クイック&アジャイルな開発

これまでのAI開発では、アルゴリズムの開発や検証に重点が置かれていましたが、LLMでは、運用を始めてからの性能維持・向上や、課題解決実践知の獲得が重要です。とにかく、早く取り組みを開始し、ナレッジを蓄積しながらプロジェクトを進めていくのがよいでしょう。

今後も提供できるツールや機能が増えていくと考えられますので、いち早く活動を進められるよう、社内にLLMチームを組成して活動を進めていくのも選択肢の一つです。

まとめ

企業におけるLLM導入のポイントは、イシュードリブンで進めて解決できる問題を見つけていきながら目的を明らかにしていくことと、ゼロベースで業務プロセスを再設計することによってLLMの効果を最大化していくことです。その際のプロセス再設計では、Input/Output/制約条件の3つをしっかりと見極めることが重要です。

そしてLLMの活用アイデアを出す観点として、Good、Better、Nice to haveの3つをお伝えました。まずは、アイデアをラフに出していきながら検討されるとよいと思います。

加えてLLMの出力性能を向上させるためには、LLMに学習させる“テキストデータ”の量や質がこれまで以上に重要ですので、テキストデータを構造的に管理する仕組みを構築する点もポイントです。さらに、データを事業横断で収集できると、より出力できる情報の価値を高めることにつながります。

またLLMは技術変化のスピードが速いので、技術的な構成要素を置き換えられるような形で、環境をブラッシュアップしていくとよいでしょう。

LLMの導入を検討されている方は、早めに運用を開始してクイック&アジャイルに開発を進めていただくと、LLMにおける実践知をしっかりと企業の中に取りためてスモールサクセス・クイックウィンを実現することができるのではないかと思います。


ライター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)