DX担当者必見! 太陽石油 基幹システム刷新は変革のスタート 使命「石油製品の安定供給」追求へ〝2025年の崖〟を乗り越えるマネジメントのサムネイル
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DX担当者必見! 太陽石油 基幹システム刷新は変革のスタート 使命「石油製品の安定供給」追求へ〝2025年の崖〟を乗り越えるマネジメント

太陽石油は会計領域の新ERPが2024年4月から本稼働し、統合基幹業務システム(ERP)刷新プロジェクトの第1フェーズが完了しました。LTSはITグランドデザインからベンダー・ソリューションの選定、要件定義から導入フェーズまでを支援しました。太陽石油システム部長の伊藤慎作さんと、LTSのプロジェクトマネージャーで、ERP & EPM事業本部の新妻優花さんに、ERP刷新の肝やプロジェクトで苦労したこと、将来展望を聞きました。

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太陽石油システム部長の伊藤慎作さん(右)と、LTSのプロジェクトマネージャーで、ERP & EPM事業本部の新妻優花

ブラックボックス化と「2025年問題」

――ERP刷新プロジェクト立ち上げの経緯をお願いします。

伊藤
会計領域はSAPで、受発注や物流といったSCM(Supply Chain Management、供給連鎖管理)領域は約20年前のスクラッチ開発のシステムを使っていました。スクラッチシステムは実業務にあわせたきめ細やかな対応が可能な仕組みとして完成していました。しかし改修を重ねて複雑化し、時代が経過したことで開発言語・環境の問題もあり、維持管理は情報システム担当内で引き継いでいくことが困難なほどブラックボックス化していました。社内では「レガシーシステム」と呼ばれていましたが、しっかり稼働していたことで、逆にタイムリミットや危機感が意識されず、検討も先送りになっていました。

そんなところ「2025年問題」(注)がクローズアップされ、さらにSAPのEoSL(End of Service Life、2025年保守期限)も浮上したことで、「2024~25年までの刷新」と期限を意識するようになりました。20年の冬ごろから、情報システム部門が主催して社内で役員を含めた勉強会を重ね、課題を共有しました。

(注)2025年の崖 経済産業省が「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(2018年)で提示。システムが複雑化、老朽化、ブラックボックス化し保守運用にコストが奪われることでDX推進が阻まれ、25年以降、最大で年12兆円の経済損失が生じる可能性を指摘した。課題が解決できない企業はデジタル競争の敗者になる可能性がある、と指摘している。https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

――LTSとの付き合いはどういう経緯で始まったのですか。

「DXが進んでも、太陽石油が社会に提供している価値や使命は変わらない」という伊藤さん

伊藤
自社開発はブラックボックス化などリスクが高いので、パッケージシステムを前提に検討していました。会計領域はSAPを使っていたので、第一候補は「SAP S/4HANA」への刷新です。とはいえ、他の選択肢を含めてどのように検討すべきか悩んでいました。SAPの保守で付き合いのあるLTSに相談したところ、導入ベンダーやパッケージをどう使うか、までを考えてくれるとのことでした。

新妻
LTSは2009年から沖縄の南西石油(2016年に太陽石油が完全子会社化)のSAPの保守支援をしており、2018年から太陽石油を含めたグループ会社全体のSAP保守をさせていただくようになった経緯で、太陽石油とのお付き合いが開始しました。SAP保守支援の窓口を通して、2020年夏ごろ、太陽石油社内レガシーシステム刷新のご相談をいただきました。SAP保守チームとは別にプロジェクトチームを組成し、まずはERPの選択肢を簡易的に診断するところからスタートしました。「基幹システムグランドデザイン構想」のプロジェクトを本格開始したのは2021年4月からです。

SAPありきがベストか?

新妻
「SAP S/4HANA」へ刷新する場合、会計領域はバージョンアップですが、販売・受発注領域にとっては新規のSAP導入になることを念頭に置いて検討すること、またイニシャル・ランニングコストも踏まえ太陽石油にとっての最適な判断をすること―が大きなテーマでした。SAPは業界を問わず多数の導入実績がありますが、同業他社の選択を参考にしつつも、各社固有の事情・状況にあわせたIT構想をすることが重要です。納得できるシステム導入を実現するため、まずは現状業務・システムの全体感と、新システムに求める要件を整理しましょうと提案しました。パッケージを精査する際に意識したこと、また太陽石油から期待されていたのは、特定のベンダーや製品をかつぐのではなくフラットに検討し、最もシステム導入目的に合致し、かつ業務にフィットする方法を提示するという点だと感じていました。そこで「SAPが候補ですが、他にも選択肢はあります」というレポートをまとめました。

オープンでフラットな議論

――どのようにプロジェクトを進めましたか。

新妻
特徴的だった点として、伊藤さんを中心にフラットな意見交換・議論をさせていただける土壌を整えていただいたことがあげられます。太陽石油の社内グループウェアに機能やアクセス範囲を限定しつつLTSのメンバーも入れさせていただいたのですが、これは社外の人間が入った初のケースとなったそうです。また、採用した「Biz∫」のパッケージベンダーやシステム担当役員の意見も踏まえて伊藤さんにプロジェクトチームのルールづくりをして頂き、呼称をお互い「様」をやめて「さん」にしてもらいました。LTSのメンバーは2024年4月現在は7人、若手が多いのですが、営業や財務部門の課長クラスを含めて約50人の方々と率直に議論をさせていただくことができました。

「(太陽石油の)部署ごとに精緻な業務フローを、全体最適を意識して見直すことを大切にした」という新妻

伊藤
LTSの方は自社のメンバーと異なり、石油業に特化した知識を持っているわけではありません。それだけに一般的な業務オペレーションと太陽石油の業務の違いについて「どうしてこんな処理をするのですか?」と、第三者の客観的な視点からのシンプルな質問が新鮮でした。素朴な疑問に明確に答えられず、「どうしてなのか」自問し業務を見直すことにもつながりました。LTSの若い人が、太陽石油のベテランに臆せず質問・意見する光景をあちこちで見かけたことも印象的です。プロジェクトは新型コロナウイルス禍の時に始まったので、最初からウェブミーティングでした。学校の授業のように、休憩なしでテーマごとのミーティングが入りました。メンバーを入れ替えながらも1 日 9 時間ぐらい打ち合わせしたことも多々ありましたね。

新妻
石油元売は、原油調達から消費者への供給まで巨大で複雑なネットワークを動かす国内の一大インフラ事業です。ですから、太陽石油はシステムだけではなく業務も部署部門ごとに専門性に特化する形で、緻密に組み立てられています。しかし、ERP刷新は部署横断の全社的テーマです。全体のベストをどうするか、部署ごとに精緻な業務フローを、全体最適を意識して見直すことを大切にしました。現状業務やシステム可視化・分析のため各部署にヒアリングし、業務一覧表や業務概観図をつくって可視化しました。

PJは予定通りに進まない。幹をぶれずに

――PJで苦労されたことはありますか。

伊藤
ERPの総入れ替えは本当に大変な作業です。事前に役員から「膨大な人と時間を割く。目的意識を持ってしっかりやってほしい。」との指示を受けました。。なにせ約20年ぶりの刷新ですから、ほとんどの社員は経験がありません。やはりQCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)は期待、予定通りには進みません、そのたびに「何のための刷新か」の幹はぶれないよう意識しました。また、石油業界ならではの独特な会計や販売、物流管理(サプライチェーン)に対応するため、パッケージの追加開発をすべき部分もあります。パッケージの標準機能で使えるところ、多少コストをかけても作りこむ部分と、色分けをしっかりしました。

新妻
ヒアリングから課題を抽出し、主要な検討課題を分析しました。ERPの対応範囲やステークホルダー、複雑化したシステム間の連携も整理し、概観図にして可視化しました。また、業務に要求されること、ERP標準に合わせる業務と自社の強みとなる業務を整理し、目指す姿を作成しました。こうしてシステムへの要件を提案依頼書としてまとめ、フィットするERPパッケージやベンダーの候補をリストアップしました。コロナ禍でしたので、リモートでもプロジェクトの進捗状況やゴールをきちんと見据え、柔軟なプロジェクト推進を意識しました。

――「Biz∫」に決定した要因は何ですか?

伊藤
パッケージの要件充足度だけではなく、提案いただいた導入ベンダーが提示する納期やコスト、稼働後の保守も含めた体制など比較検討をした結果です。パッケージはそれぞれに素晴らしく、どれかが優れているというわけではありません。何のために刷新するのか、太陽石油の場合、ブラックボックス化や属人化、レガシーシステム保守負荷からの脱却という当初の目的に合致しているかを重視しました。また長期で利用するERPですから、10 年以上お付き合いさせていただきたいという点も考慮しました。

使命を追求するためのDX

――プロジェクトを経て変化はありますか。

伊藤
刷新にあたっては、「レガシー」の仕組みが頑強だったことが、逆に困難な場面を生むこともありました。これまでの仕組みは業務にあわせてシステムがきめ細やかに改修対応をされていました。正直に言いますと社内には変革に対する反発やアレルギー反応、現状維持の意見もありました。しかし、ERP刷新で会社のカルチャーというか意識も変わり、よくも悪くも「ITはただの手段」だと認知されました。道具が変わることで、目的と手段も明確になりました。一方、刷新によりスクラッチの「かゆいところに手が届く」システムから「全体最適だが個人レベルでは不便になる」こともあります。しかし、会社の使命という大きな目標のためなら、仕事のやり方を変えればいいと思います。

――太陽石油の使命とは何ですか。

伊藤
DXが進んでも、太陽石油が社会に提供している価値や使命は変わりません。原油を調達しタンカーで日本へ、精製してタンクローリーで消費地へ、そして消費者へ届けることです。巨大なサプライチェーンがあり、膨大な物流ロジスティックスや取引を遅滞なく正確に処理する必要があります。例えば、ほとんどの製油所は京浜工業地帯や瀬戸内海、伊勢湾など太平洋側にあり、日本海側にはありません。しかし、灯油は主に北日本の寒冷地で使用され、冬の日本海は荒れます。また、石油製品の価格は為替など不確定な外的要因に影響されるため、価格変動が激しくなってしまいます。こうした需要予測や受発注、流通マネジメントは、各部署の担当者が世界情勢や天気予報を注視しながら経験や勘で行う面もあり、ある意味で職人的な世界です。

しかし今後も継続して石油製品を安定的、確実に供給するためには、データ基盤を整え分析、活用する必要があります。経営戦略のための意志決定を支援するBI(Business Intelligence=ビジネス・インテリジェンス)ツールのより一層の活用も必要です。さらに、運送業の方の働き方も社会課題になっています。こうした課題解決にはデータ活用が必須です。情報システム担当としては、システム維持に割かれていたコストをこうした業務の改善のための仕組み作りに振り向けたいと考えています。

「上でも下でもなく横にいてくれるフラットなパートナー」

――LTSの印象をお願いします。

伊藤 LTSはパッケージを選定する際、中立な立場でした。また、DXについて教えを乞う「先生」でも、仕事を依頼する「取引相手」でもなく、「上でも下でもなく横にいてくれるフラットなパートナー」という印象です。会社の情報システム担当が7人増えたというか。「伴走支援」、一緒に走ってくれる感じがしました。「2025年の崖」に惑わされるわけではありませんが、いまから崖を上るのか、あるいは半分登ったのか。いずれにせよ、自分たちだけでできなかったことが進んでいるという実感があります。現在はERP刷新ですが、LTSには今後、さまざまな案件についても相談して知識、スキルが及ばないところを相談していきたいと考えています。

新妻
ERPを刷新した後は研修や人財育成が欠かせませんし、SCM領域の刷新も控えています。在庫や流通の最適化など石油元売ならではの課題解決のため、データ基盤を整え分析、活用し、太陽石油の使命をサポートする力になれれば、とてもうれしいです

新妻 優花(LTS マネージャー)

早稲田大学先進理工学部卒業後、新卒としてエル・ティー・エス入社。複数業界へのITコンサルティングサービスと、採用・育成・オンボーディングなど各種組織運営をリードしている 。「顧客の課題解決」「自社の組織創り」の両面にアプローチすることで、人と組織の成長を支えられる人になることを目指している。(2024年3月時点)