プレスリリース 改正人事労務関連法と連動、人的資本経営ソリューションの提供を開始します

デジタル活用を含む企業変革、人的資本経営、組織開発、変革人財育成のコンサルティング案件に従事。20年を超える様々なコンサル経験を活かし、製造業や卸売業、サービス業等のお客様に対して支援を行っている。 対話型組織開発、キャリア開発、リスクマネジメント、サービス品質マネジメントの知見・スキルも有する。(2025年2月時点)
〝人事〟ではなく〝経営課題〟
―――多くの企業が人的資本経営に取り組んでいますが、実態をどうとらえていますか。
島野:
LTSは、人財は企業の資本ではなく社会の資本、公共財であると捉えており、人的資本経営は「持続的な価値創造の源泉である『人財』の可能性を最大化すること」だと定義しています。人的資本経営は、組織が社会や顧客に価値を提供し続けるための永続的な活動であり、狭義の〝人事〟の問題ではなく〝経営課題〟に位置付けるべきと考えています。現在、経営トップが人的資本経営に前向きな姿勢を外部に示すケースが増えていますが、実際には情報開示に偏重し、取り組みが形骸化していることも多いのが現状ではないでしょうか。
―――人的資本の取り組みはなぜ形骸化してしまうのでしょうか。

島野:
効率性や生産性を向上させる施策への投資には積極的な経営者も多いのですが、人的資本経営は息の長い取り組みを要するため、後回しにされがちです。また、経営と人事、事業の足並みが揃わず、「マネジメントの転換」といった抜本的な改革に手がつけられていない企業も少なくありません。マネジメントの転換とは、単に管理手法を変えることではなく、組織の意思決定、リーダーシップの在り方、評価の仕組み、組織の運営スタイル等を根本から見直し、従来の硬直的なマネジメントからビジネスアジリティのある組織へと進化させることを指します。
青地:
取り組みに積極的な企業でも、人的資本投資が福利厚生的な施策に留まってしまい、事業戦略と連動していないケースが散見されます。企業としては、社員のスキルアップやキャリア開発を支援するために、研修やリスキリングプログラムに多額の投資を行います。しかし、そうした施策が単発の教育機会の提供に留まり、業務への適用プロセスが設計されていなければ、事業成長にはつながらないどころか、社員のモチベーションを低下させる要因になり得ます。
価値創出プロセスを明確化する
―――社員の離職対策も企業課題になっています。
青地:
社員が自由に受講科目を選択できるアラカルト式研修ツールを導入した場合、個々の関心に基づく学習は促進されます。しかし、それを現場で活かす仕組みがなければ、学んだことが業務と結びつかず、結果的に実務に活かされない学習に終わってしまいます。 さらに、受講した社員に対する適切なフィードバックや、学びを実践できるプロジェクトが用意されていなければ、せっかく学習意欲を持った社員が「学びを活かせない環境」に不満を感じ、成長実感を得られずに離職するという逆効果を生んでしまいます。
―――解決にはどんなアプローチが必要でしょうか。

島野:
戦略を実現するための人財要件と人的投資が結びついていないことが、これらの問題の根本原因です。企業としての成長ストーリーが描かれ、どの事業をどのように成長させるのか、そのために必要なスキルを持つ人財が何人必要なのかを明確にし、それに基づいて人的投資の計画が策定されるべきです。人的資本投資を単なる教育施策として捉えるのではなく、事業戦略と整合性を持った「人財ポートフォリオの設計」と「スキル・能力開発のロードマップ策定」をセットで進めることが不可欠です。その基点となるのが、価値創出プロセスの明確化です。
―――価値創出プロセスの明確化とは何ですか。
島野:
企業として社会にどのような価値を提供するのか、価値の源泉となる自社のケイパビリティ(組織能力)は何なのか、それを目の前の仕事とどう結びつけて具体的な価値を創出していくのか、これらを明確にし、言語化し、全社員に浸透させることです。これが経営の役割です。
―――経営が役割を果たせないと、どのような問題が生じるのでしょうか。

島野:
経営がこの役割を果たさず、人事部門や事業部門に丸投げしてしまうと、人的資本経営が迷走します。その結果、成長に寄与しない人的投資や、部門ごとにばらばらの施策が生まれます。デジタルツールの導入だけが先行し、組織の変革や成長事業が一向に生まれないというDXにおける迷走と同じことが、人的資本経営でも起こっているのです。
持続的価値創出とウェルビーイングの両立
―――人的資本経営では、ウェルビーイングの視点も重要とされています。その理由は。
青地:
人財の可能性を最大化するには、多様な属性、感性や価値観、能力・経験を持つ人財がそれぞれの強みや個性を発揮し、メンバー同士の相互作用によって新たなアイデアが共創される状態を目指すことが肝要だからです。ですからLTSは、ポジティブ心理学や心理的ウェルビーイングの考え方を基に、ウェルビーイングを高めるためのプロセスや要因に着目しています。また、ウェルビーイングは、「『働きがい』と『働きやすさ』が調和した状態である」と定義されており、個人だけでなく組織としてのウェルビーイングを維持・向上することが極めて重要だと考えています。

―――「働きがい」と「働きやすさ」について、詳しく教えてください。
青地:
「働きがい」には、仕事を通じた自己成長や創造力 の発揮、納得性の高い評価などが影響します。一方、「働きやすさ」には、ワークライフバランス、上司や同僚のサポート、職場の一体感、さらにはDEI&B(多様性、公平性、包摂性、帰属意識)が寄与します。
―――特に課題となる点はどこでしょうか?
青地:
企業によって課題は様々であり、個別に分析していく必要がありますが、ウェルビーイングの低下がミドルマネジメント層の負担の増大によって引き起こされるケースが多く見られます。ミドルマネジメント層は、業績目標の達成といった上からの要求と、キャリア支援やワークライフバランスの確保といった下からの期待の板挟みになりやすく、組織全体としてその負担を適切に管理できていないことが課題となります。誠実に対応しようとするほど業務負荷が増加し、結果として燃え尽き症候群に陥るケースも少なくありません。 そのため「管理職になりたくない」という意識が広がり、次世代リーダーが育ちにくくなるという悪循環を生み出してしまいます。
エンゲージメントサーベイで十分か
―――悪循環を断ち切るため、どのようなアプローチが必要ですか。
島野:
ミドルマネジメント層の負担を個人の努力に依存させず、組織全体として適切にマネジメントすることが不可欠です。 そのためには、まず階層間や部門間での意識・認識のずれを可視化し、組織としての課題を構造的に把握することが重要です。例えば、経営層は「現場が自律的に動ける組織」を求めている一方で、ミドルマネジメントは「現場の意見が経営に反映されない」と感じていることが少なくありません。こうしたギャップを放置すると、負担がミドル層に集中し、変革が停滞する要因となります。
―――エンゲージメントサーベイを行う企業も増えています。

島野:
これを解消するために、エンゲージメントサーベイなどを活用し、組織のウェルビーイングの状態を定量・定性の両面から分析し、実態に基づいた対策を講じることが不可欠です。ただし、サーベイ結果を単に数値として捉えるのではなく、現場の声を深く掘り下げ、具体的な改善アクションにつなげることが重要です。
青地:
エンゲージメントサーベイを実施する企業は増加していますが、そのデータをどのように解釈し、組織の変革に活かすかという視点が不足しているケースも多く見られます。何が「働きがい」や「働きやすさ」につながり、逆に何が阻害要因になるのかは、組織の文化や職種、階層によって異なるため、一律の指標では実態を十分に把握できません。そのため、調査設計の段階から、組織の実情に即した設問設計や分析の視点を組み込むことが不可欠です。また、サーベイの結果を「共有するだけ」で終わらせるのではなく、経営・人事・現場が共通の課題意識を持ち、組織横断で対話と施策の実行につなげるプロセスが必要です。
「Think big, start small」
―――サーベイを上手く活用したケースはありますか。
青地:
ある企業では、サーベイ結果をもとに「何を維持し、何を改善すべきか」を議論するワークショップを実施しました。現場のリーダーだけでなく、経営層や人事も参加し、「どの課題に優先的に取り組むか」を意思決定するプロセスを組み込むことで、施策の実効性が向上しました。サーベイ結果を各部署に丸投げするだけでは、根本的な課題解決にはつながりません。経営・人事・事業部門が問題認識を共有し、組織全体でPDCAを回す仕組みが不可欠です。エンゲージメントサーベイは単なる調査ではなく、組織変革のための「戦略ツール」として活用するべきです。
―――LTSの人的資本経営支援のアプローチで特徴的なことは。

島野:
これまで述べたように 、LTSでは持続的な価値創出とウェルビーイングの向上を両輪とする人的資本経営を支援しています。そのために、中長期のロードマップを策定し、段階的に経営戦略との連動性を高めていくという「Think big, start small」のアプローチを採用しています。この方法により、実効性のある変革プログラムの策定と実行を地に足のついた形でサポートできるようになります。
―――具体的なケースを紹介してください。
島野:
ある企業では、工場長から現場オペレーターまで、各階層にインタビューを行い、人財マネジメントの根本的な課題を明らかにしました。その上で、工場全体としての価値創出プロセスを基点に、マネジメント転換プログラムを策定しました。最初のステップとして、中核人財の輩出プロセスを見直し、経営陣、人事部門、生産部門が組織横断で取り組みました。このプログラムを変革モデルとして全体に展開することで、次世代リーダーを中心に変革の歯車を回すことができました。このケースでは、特にミドルマネジメント層が強い危機意識を持ち、次世代リーダーとして積極的に変革を推進していました。LTSは、こうしたリーダーを力強く後押しすることで、組織全体の変革を成功に導いています。