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プロセス変革・業務改革

2025年はビジネスアナリスト元年 「変革人材は野生にいる」 LTS×SAPジャパン共催 COO養成塾勉強会レポート

ビジネスアナリストは自社の企業変革のドライバーとなるか?―。LTSは5月、東京都内でSAPジャパンとCOO養成塾勉強会を共催しました。ビジネスアナリストの普及啓発に取り組んでいるLTS常務執行役員CSOの山本政樹が「ビジネス変革人材の現在地~日本と世界の比較から~」と題して講演し、参加者と意見交換しました。参加したLTS経営企画本部・マーケティング&セールス部長の飯島正純は「2025年は日本のビジネスアナリスト元年になる」と言います。その理由と勉強会の模様を飯島が報告します。

飯島 正純(LTS執行役員 マーケティング&セールス部長)

1993年にオリックスに入社。主に法人金融分野において、東京・秋田・広島・栃木のマーケットで金融サービス・事業再生・再生可能エネルギー・M&Aの実務を幅広く経験。2015年から2018年まで業務改革室長としてBPR・IT・セキュリティ等を統括。2018年から2020年までオリックスグループのホテル・旅館の運営事業を統括。2022年にLTSに移籍し、ビジネスプロデューサーとして法人開拓や新規ビジネスの創出を担う。(2025年6月時点)

日本企業に欠けているピース

「日本企業に欠けているピースはビジネスアナリストではないか?」

勉強会のテーマ「ビジネスアナリストは企業変革のドライバーとなるか?」は、現在話題となっている『ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか―日本型BPR2.0』(プレジデント社)の著者、SAPジャパン コーポレート・トランスフォーメーション ディレクターの村田聡一郎さんのこんな問題意識から企画されました。

『ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか―日本型BPR2.0』(プレジデント社)

村田さんは、「『ホワイトカラーの生産性は―』も、(日本企業の変革が進まない)根本原因の切り分けとしては大いに賛同いただいているが、『ではどうしたらよいのか?』の具体的なネクストステップが描けていない。各方面と話す中で、日本企業に欠けているピースはビジネスアナリストだという気付きは、今では半ば確信に至っている」と言います。

村田さんと山本は過去、セミナー登壇の場で議論したことがあります。この縁をきっかけに、SAPからビジネスアナリストに関する国内第一人者として山本にオファーをいただき、LTSと勉強会を共催することになりました。

SAPのCOO養成塾は13期目を迎え参加64社、卒業生95人となっています。今回は大手の自動車メーカー、大手化学、メーカーなどプライム上場企業に加え経済産業省、中小企業庁などの職員が参加しました。

変革人材が育たなかった理由

講演する山本

ビジネスアナリストとは現場とシステム部門の間に立って業務プロセスを分析、課題解決のための戦略を立案・推進し、企業変革を牽引する専門家です。山本によると、欧米では職能として確立していて、コミュニティも活発に活動。コミュニティは、参加者間のつながりから他社を知る一種の“転職市場”としても機能しています。ただ「欧米のビジネスアナリスト・カンファレンスにしばしば参加しているが、現地で日本企業の人に会うことはほとんどなく、いても日本のコミュニティの関係者ばかり」とも指摘しました。

一口にビジネスアナリストと言っても、ITBA(BSA:ビジネスシステムアナリスト)、プロセスアナリスト、プロダクトアナリストなど種類はさまざまあり、その役割を広げています。また、女性の活躍が目覚ましく、欧米のビジネスアナリスト・チームはメンバーの大半が女性であることも珍しくありません。

なぜ日本でビジネスアナリストやビジネス変革人材(変革機能)が育ってこなかったか、山本は以下の3点を指摘しました。

  • “失われた20年間”の投資余力不足
    IT導入をベンダーに頼り、自社でIT導入を推進する体制を整えてこなかった。
  • “強い現場”の神話
    現場で“カイゼン”する文化(これはこれで素晴らしい)。しかし、このようなやり方では変革が現場の通常業務の延長線上の副次的な活動とされてしまう。デジタル化が進んだ現在の業務の構造理解は経験だけでは通用せず、現場のみの改善でできることは限られる。また改善手法が体系化されておらず、ほとんどが“マインドセット”にとどまっている(根性論)。
  • 専門性認知の考え方の違い
    ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用であり“総合職”文化。“コミュニケーション”を専門性として認知しない傾向にあり、専門職として認めてこなかった。

山本は「ビジネスアナリストは現場変革を繰り返すことで育つ。コンサルティング会社に高いフィーを払うのではなく、自社内で人財を育成してほしい」と述べ、変革は自走しなければ成功しないということを強調しました。

講演には質問も活発にあり、1時間半の持ち時間を超えるほど。「私自身、やっている仕事は何だろうかと思っていたらビジネスアナリストでした。ビジネスアナリストという職能を認知し、研鑽を積み始めました」「LTSのような会社に支援に入ってもらい、ビジネスアナリストの仕事を体感し増やし自走するようになりたい」など、企業変革の中核を担うビジネスアナリストに対する参加者の熱量が感じられました。

また講演に続き、参加者はグループに分かれて1時間半を超えるワークショップを行いました。どうすれば自社内にビジネスアナリストを導入できるか、社内ビジネスアナリストが活躍する会社となるために何が必要か意見を交わし、組織の課題などについて議論しました。「社内で“野生”のビジネスアナリストを探そう。文句を言うやつにこそやってもらおう」「そういう人が社内に必ずいるはず」といった感想や意見が印象的でした。

ワークショップの様子

国の育成対象として認識へ

山本は、経産省の「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会」のワーキンググループ「デジタル人材のスキル・学習の在り方」委員を務めています。検討会は5月、報告書を公表しています

※「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会」報告書
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/dxjinzaireport_summary_202505.pdf
※同概要版
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/dxjinzaireport_summary_202505.pdf

経産省は、生成AIなど急速な技術進展に伴い、DXを推進する人材の役割と必要なスキルをデジタルスキル標準(DSS)として定義しています。今後、DSSで定義されている役割である「ビジネスアーキテクト」をさらに「ビジネスアーキテクト」「ビジネスアナリスト」「プロダクトマネージャー」の三つの役割の構成に変更する方向で見直される見通しです。

「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会」報告書(概要版、p24)

山本は「ビジネスアナリストが明確に国の育成対象のロールとして認識される」と言います。その際にはビジネスアナリストもDX、企業変革の牽引者として位置づけられることになります。欧米に比べ遅れていますが、山本とLTSが種をまいてきたビジネスアナリストの重要性はいま、実を結んできているのです。

変革への情熱は知ることから

私は前職オリックス勤務時代の2015年前後、30人ほどのメンバーをまとめる業務改革室長を務めていました。振り返ると、業務改革室はビジネスアナリスト集団だったのだと感じます。当時ビジネスアナリストという概念を知っていたら指向していたと思うだけに、前職時代に知らなかったことが残念です。

日本は人口減に伴う市場縮小で生産性向上が求められ、企業も抜本的な変革時期を迎えています。上述したように経産省もビジネスアナリストの重要性を認知しており、制度整備などを急いでいます。セミナー終了後さっそく、参加企業から山本に育成の相談が寄せられており、期待と関心は大きいと実感しています。

村田さんは「日本でビジネスアナリストが当たり前になれば、『カイゼン2.0』が回り始めるのではないか。ビジネスアナリストそのものは非競争領域であるから、コミュニティ化してビジネスアナリスト同士の切磋琢磨ができる。その育成はボトムアップだけでは絶対に不可能で、トップダウンが必須。COO養成塾の卒業生に担っていただきたい」と言います。その上で、日本SAPユーザー会に「ビジネスアナリスト部会」を設置し、10年以内に、『ビジネスアナリストは当たり前』『ビジネスアナリストこそが会社、社会を変えるエンジン的な存在にする』」ことを目指すと言います。

今回の勉強会で、ビジネスアナリストが日本企業の変革ドライバーとなる人材であることが認識されたと感じています。LTSとして育成にコミットし、顧客企業の変革と成長を担いたい。2025年は育成が加速する元年になる、いや元年としなければならないと強く決意させられた勉強会でした。